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皆さんは「ユーザー体験」とか「ユーザーエクスペリエンス」という言葉をお聞きになったことはおありでしょうか?文字通りユーザーが何かの製品やサービスを利用した時に経験した内容のことを指しており、ここ数年ユーザビリティー研究の世界で注目されている概念です。従来ユーザビリティー分野の研究では、いかに道具の使い方を、シンプルでわかりやすいものにするか。操作を間違えにくくし、間違えた時にも大事に至らない配慮をするか。疲労を募らせたり健康を損ねないように負担を軽くするか、といった面の改善に邁進してきました。しかし近年、それらは製品の価値の一端でしかなく、より広い視点でユーザーがいかに製品に満足を感じるかを重要視する動きが活発になってきました。ただただ目的が無難に遂行できるだけではなく、使って「楽しかった」、「気持ちよかった」といった感覚を引き起こすユーザーインターフェースを追求しよう、という訳です。
例えば車を例に考えてみます。従来的な狭義のユーザビリティーの視点で見れば、メーターの視認性が確保されているか?カーナビやカーステレオの操作方法は直感的にわかるか?座席は疲労しにくいか、といった点で優れた製品が価値があることになります。しかし実際にユーザーはそれだけを指標に車は買わないでしょう。所有するだけで気分が良くなるデザインだったり、走っていて楽しいと思わせる運転フィーリングといった感性面の価値をひっくるめて車という製品の価値が決まるのです。
今多くのメーカーの中で、従来ユーザビリティーを担当していた部門が、次々と部署名をユーザーエクスペリエンス(UX)を冠したものに改名されはじめています。組織としての軸足の置き所が移りつつあることの現れだと思います。
ここでちょっぴりトリビア。皆さんご存じのWindows XPの「XP」はエクスペリエンスの意味が込められていることは割と有名で、現在でもMicrosoft社はことあるごとにユーザー体験を強調して使っていますが、実はこの言葉を使ったのはApple Computer社の方が先だったりします。手元の記録では遅くとも1997年には使っていたようです(Windows XPの発売は2001年)。私の師匠のそのまた師匠であり、当時Appleの上級研究員だったDonald A. Normanは、もう“コンピュータ”を売る会社から脱却する意味で社名から「Computer」を取ろうと主張をしていたのを思い出します。結局社名は今も"Apple Computer Inc."ですが、iPodなど優れたユーザー体験込みの製品を提供する会社になっているのは皆さんご承知のところだと思います。ちなみにNormanは現在、Microsoftの次期Windowsの開発に携わっているということなので世の中わからないものです。
本連載では、使いやすい製品を選ぶための考え方やコツをご紹介してきました。しかし、なにも他の要素を犠牲にしてまで使いやすさ至上主義になれと言う気は毛頭ありません。ただ後でがっかりしないだけの操作性が確保されているかどうかを吟味しましょうということです。機能や安さに釣られて買ってみたものの、操作が難しくてやりたかったことが結局できず終い、ではユーザー体験としては最低なものになってしまいます。また、優れたユーザー体験を提供することで、学習効率や操作効率も向上するということもわかってきています。銀行のATMを題材にした研究で、画面デザインが素っ気ないものよりも綺麗に作られたものの方が、ユーザーの操作成績が向上するという研究結果もあります。見た目の綺麗さ、楽しげな演出が目的の遂行率まで高めてしまうんですね。
皆さんも、見た目、性能、価格といった要素を見比べる中で、プラスワンの視点として、「使いやすさ」にも目を向けていただければ、購入後のトータルなユーザー体験向上につながるのではないかと思います。もし今度なにかを買われる時には是非少し気にかけてみて下さい。
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