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小畑さんの「ひとり言」

第11回 :
携帯電話のキーロック事件

掲載日:2004年11月17日


 2004年の初夏、私は北東北を旅行した。東京駅から新幹線で盛岡へ、盛岡からはバスで秋田へ。初夏、山々の緑がまぶしいくらいに若々しい。なだらかな丘陵の斜面に沿ってりんご畑が続く。袋をかけてあるりんごがほどよくあって今年の実りが確かなことを教えてくれる。このときから1か月半の後、このりんごたちが、数個の台風から連続攻撃を受けることになるとは誰にもわからなかった。澄んだ空気、山々の緑がとてもきれいだ。まるで空気中にあったはずの薄い膜が剥がれたように鮮明に、透明感のある景色が広がっている。秋田から弘前方面へ日本海に近い内陸を北に走る途中、「ここの空気はこんなにも無色透明なんだなぁ」と実感したのである。
 この旅行に私が持っていったカメラは、ビデオカメラ1台とカメラ付きケータイだけである。カメラ付きケータイといって馬鹿にしてはいけない。私の機種はメガピクセルでデジカメのように横に構えて撮れるいっぱしの代物である。画面はきれいだし画質もそこそこ鮮明で私は気に入った写真をコンピュータの壁紙にして楽しんでいる。私は仕事で出かける機会が多い。その機会を利用して2日に1回くらいは、メモ代わりに何かを撮っている。だからといって、デジカメを使わないわけではない。むしろきちんと使い分けている。Wordの文書に貼り付ける、ホームページに貼り付けるなど目的を持った写真はできるだけデジカメで撮るし、近接撮影しないと鮮明な画像が得られないなど技術的な理由でデジカメを使うことが多い。

 話を戻そう。白神山地に着く前に私たちは大きな沼地でバスを降り、草花を見ながら池の周りを散策した。同行の妻にこの花を撮って欲しいと言われたり、自分でこの景色はいいなと感じたものを例のカメラ付きケータイで撮っていた。池の淵の小道を前方から歩いて来る人々とすれ違うためにスペースのある場所で待っていたとき、私は何気なくケータイのあるボタンを押していた。

キーロック前の状態
写真1 キーロック前の状態
キーロックがかかっている状態  
写真2 キーロックがかかっている状態

 写真1の右上にある鍵の絵のついたボタンである。私は、このケータイを使い始めて1年になるが、まだ一度もその鍵ボタンは押したことがなかった。押してみてハッと私の心の中で小さな緊張が走った。画面は一気に写真2(カレンダーの画面)のように変化した。でも、「もう一度、鍵ボタンを押せばもとに戻せる。」私はそう思っていた。10年くらい前、ケータイを使い始めたころキーロックボタンはよく使っていた。これを押しておけば、カバンの中やポケットの中で他のものとぶつかっても作動する心配はなく、取り出してもう一度「鍵ボタン」を押せばすぐにもとに戻ったのである。ところが、「鍵ボタン」を押しても、長押ししてみても、全然もとに戻らないのである。写真2はそのときの画面である。左下に「解除」と表示される場合があるが、そのボタンを押しても長押ししてもまったく変化が無い。私は「しまったぁっ」と思ったがすでに遅かった。それから当分の間、何をしても私のケータイはもとに戻ることはなかったのである。ケータイのバッテリーチャージャーは旅に持参したが、取扱説明書までは持参するわけがない。このままでは旅行の写真は撮れないし、平日なのでオフィスにいる人たちから緊急連絡が入るかもしれないのに何もできない。当然ながら助けを求めるために電話もできない。
 妻のケータイを使って千葉の家族にSOSのメールを送った。待つこと30分余。幸運にも妻のケータイにメールが返ってきた。Webサイトをいろいろと調べてやっとわかったということ。メールの文章に「暗証番号4桁、購入時は××××」を押して「解除」ボタンを押すと書いてあった。このメールのお陰で私のカメラ付きケータイはよみがえりその後も旅行の写真を撮ることができた。そのうちの1枚はいまもオフィスで毎日、私のコンピュータの顔になっている。
 宿に着いて、さっそく千葉の家族に、調べてくれてありがとう。ちゃんと使えているよとメールを出した。ところで、どうしてこんな事態になってしまったのかだろうか。鍵キーはかなり使いやすい位置に配置されている。簡単に押せて簡単に元に戻せるに違いない。こう思う人がいても当然だろう。考えてみるとキーロックはケータイが折りたたみ式になる前、キーが何かの拍子に押されて余計なことを勝手にやらないように、電源を無駄に消費しないようにするための機能であった。しかし、私がいま使っている機種は折りたたみ式である。ポケットやカバンの中でキーが勝手に押される可能性はまずない。それでもキーロックが役立つのは、うっかりどこかに置き忘れたときや、気づかずに落すなどで他人の手に渡ってしまったときのためだろう。私がそのためにキーロックしようと思うのはどんなときだろうか。しばらくは電話もメールも受けない、写真も撮らない、調べものもしない。思い当たるのはそんなときであるが、私の場合そんなときはめったにない。したがって私には手軽に操作できる必要はまったくないのである。そして、私には「ロックを解除するときは暗唱番号が必要」なことを知らせた上で、キーロック操作を可能にして欲しい。どうぞどうぞと2階に上げておいてこっそり梯子を外されるのは親しい友人から突然、騙し討ちされた気分である。

別の機種のキーロックに入るとき画面
写真3 別の機種のキーロックに入るとき画面

 後日、私はオフィスの若い社員にこの話をした。僕の機種は違いますよ、と言って彼は自分のケータイを見せてくれた。写真3の通り、メニューの中からキーロックをえらぶと暗証番号を要求され、暗証番号を入力できた人だけがキーロックできるようになっている。最近、ケータイに指紋センサーが付いている機種も売られて入る。私の北東北でのキーロック事件は遠い昔話になって欲しいものである。

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