運輸

物流形態の変化により、港湾事業から建設業、運送業へと業容拡大 ICTによる経営改革も加速する 函港作業(北海道)港湾荷役

From: 中小企業応援サイト

2025年12月22日 06:00

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かつては国内の主力貿易港として重要な物流拠点だった函館港で、荷役業務に携わってきた函港作業(かんこうさぎょう)株式会社は、外国貿易の減少や海運から陸運への転換など、物流形態の変遷とともに事業分野を多角化してきた。新体制への移行を機に、時代の変化を捉え、ICTを積極的に活用して業務を見直し、経営改革を推進。2025年6月に就任した工藤光雄代表取締役社長は、新たな港湾事業者としての将来ビジョンを描く。(写真 函館港の物流拠点としての役割の変化とともに、港湾荷役の需要は減少している)

4者合併で1961年に発足 高度経済成長期と歩調を合わせて業容拡大も荷役事業は次第に減少 自動車運送、建築、倉庫と相次ぎ事業展開

船内荷役  かつて主力だった荷役事業は、冷凍品を主として積み下ろししていた

船内荷役  かつて主力だった荷役事業は、冷凍品を主として積み下ろししていた

函港作業は高度経済成長期の1961年、函館港で荷役事業などを行う企業や組合など、4事業者が合併して設立された。池田勇人内閣の所得倍増計画がスタートした年でもあり、市街地でビルの建設ラッシュが始まるなど、函館港は北海道の玄関口として発展しつつあった。その後も函港作業は、地元の事業者を合併・吸収して事業規模を拡大し、港湾事業以外にも、倉庫や土木・建築業、運送業と幅広く事業展開してきた。

当初の主力事業は船の荷物を積み下ろす荷役業務で、扱う物資は冷凍品を主としていた。しかし、コンテナ船の増加により荷役業務は次第に減少し、現在は建築資材や工業材料の積み下ろし作業が中心だ。1996年には陸送の需要拡大に対応して、大型トラックやクレーン搭載車などによる、一般貨物自動車運送事業を開始。1997年には建設業(防水)の事業免許も取得、2000年には建築、土木、防水、大工、とび土工まで事業範囲を拡大し、主に建設現場などで、重量物や内装材などの搬出入作業に従事した。

2005年から北海道新幹線工事の恩恵受けて100人以上の臨時従業員雇い業績急伸 海から陸へうまく事業転換し新たな収入源開拓

「物流の変化に対応して海から陸へうまく切り替えられた」と話す池田幹常務取締役

「物流の変化に対応して海から陸へうまく切り替えられた」と話す池田幹常務取締役

2005年から始まった北海道新幹線工事では、高架橋建設の資材搬入や土木工事など、多岐にわたる業務を受託。函港作業は特需の恩恵を受けて100人以上の臨時従業員を雇い、業績は急伸した。

北海道新幹線工事は2016年の開業まで約12年かかり、函館経済は一時的に活気を取り戻した。しかし、青函トンネル開通や空港の整備などもあり、物流拠点としての函館港の役割は低下する一方だった。

池田幹常務取締役は「特需を除いても、当社は海から陸へ事業をうまく切り替えられた」と振り返る。港湾作業に固執せず、運送業や倉庫業などに経営資源をシフトしたため、新たな収益を維持することができたという。実際、物流形態の変化に対応できず撤退する同業者も少なくなかった。

荷役や自動車搬送などに代わり付随業務が収益の柱に 子会社と管理分門を統合し倉庫事業の強化を図り、社屋と倉庫の新設も検討

倉庫事業はまだ収益貢献度は低いが、子会社の管理部門統合など経営効率化により成長を目指す

倉庫事業はまだ収益貢献度は低いが、子会社の管理部門統合など経営効率化により成長を目指す

函港作業の現在の事業は港湾荷役、自動車運送、倉庫、建設、その他一般作業の5業務だが、収益の8割以上を占めるのは、その他一般作業だ。港湾作業や建設などに付随する業務も多いが、除雪や草刈りなど、さまざまな顧客のニーズに対応した業務請負も増えて、今は稼ぎ頭になっている。

工藤社長は事業環境の変化への対応力を高めるため、グループ経営の効率化と、新たな事業の柱を育成するための事業再構築に取り組む方針だ。現在検討しているのが、完全子会社の函館倉庫株式会社と函港作業の管理部門の統合だ。

目的は、現在は昆布製品の保管などが中心で、売上比率が1割程の倉庫事業を、主力事業の一つに成長させていくためだ。函港作業は1998年に倉庫事業に参入。2013年には函館港で1918(大正7)年から倉庫事業を手掛けてきた函館倉庫株式会社を買収し、完全子会社化した。「実は2年ほど前にも管理部門の統合は浮上したが、経営判断で立ち消えた」(池田常務)ことがあった。

工藤社長は改めて懸案だった両社の管理部門の一体化を図り、点在する倉庫を一括集約する計画を策定した。そのために、社屋兼倉庫の新設も検討している。

販売管理システムはクラウド化 要員配置の効率化に活躍する対話型電子黒板を増設して使い勝手のさらなる向上めざす

インタラクティブホワイトボード(電子黒板)により、度々変更される要員配置を確認しやすくなった

インタラクティブホワイトボード(電子黒板)により、度々変更される要員配置を確認しやすくなった

函港作業では2016年に倉庫管理システムを導入し、手書きだった製品管理台帳の記入をデジタル化したほか、販売管理システムによる業務効率化に取り組んできた。「昆布製品は保管中に所有者の名義が変更されることがよくあり、当時の、ノートに手書きで書き込み管理する作業は煩雑で、毎日午後10時、11時までかかっていた」(池田常務)が、現在は、残業はほとんどなくなったという。

販売管理システムは、当初は函港作業と函館倉庫で別々のパッケージを使っていたが、2024年6月にクラウド化して統一したことで管理業務は格段に効率化された。管理部管理課の木村雅美さんは「クラウド化したことで2社の情報連携ができて、簡単に作業ができるようになった」と導入効果を実感している。

函館倉庫までは徒歩数分の距離だが、両方の事務所を頻繁に往復していた池田常務も「何度も行き来しなくてよくなり、『また遊びに行くのかい』と冷やかされることもなくなった」と笑う。
2016年に導入した「インタラクティブホワイトボード」と呼ばれる電子黒板は、度々変更される要員配置を、パソコンでも変更できるが、全体を見渡せる大画面のボードで確認し、直接書き込んで変更、保存する。更新された要員配置はデータとして社内共有される。「大画面でスムーズに操作できるので、配置図作りや書き込みが以前に比べてすごく楽になった」(木村さん)という。

インタラクティブホワイトボードは、アンドロイドOSを搭載した電子黒板で、ボードに直接手書きした内容を保管・送信できる。そのほか、画面を分割してパソコン画面を投影したりアプリケーションを起動させるなど、タブレット端末のようにデジタル機能を併用して操作できるのが特徴だ。

現在は事務所に1台設置しているが、皆が同時にのぞき込むと見にくいこともあり、「今後は従業員が待機する詰所に設置したり、事務所の廊下にはめ込むなど、より見やすく改善したい」(池田常務)と増設を検討している。

複合機のスキャン機能を徹底活用しペーパーレス化と文書データ保管 週休2日制導入に向けて日払い業務の効率化も模索

複合機活用で業務効率化実現 日払い業務の機械化が次の課題だ

複合機活用で業務効率化実現 日払い業務の機械化が次の課題だ

ICT活用では、複合機によるペーパーレス化も成果を上げている。2025年6月に導入した複合機で、外部からの紙による情報はすべてスキャンし、デジタル保管しているほか、領収書などは、A3サイズ以下ならどんなサイズで、どの向きでスキャンしても自動で上下調整され、きれいに保管できるようになり、処理時間は大幅に短縮。管理部門は「係長クラスも定時に帰るほど残業時間は減った」(池田常務)という。

ICT活用で業務効率は上がってきているが、まだ人員が不足していること、また、仕事の性質上の問題もあり、週休2日制は導入されていない。現在、検討しているが難しい問題がある。同社の強みでもある常時50~60人のアルバイト従業員への日払い賃金が、週休2日制の足かせになっている。「土日でも賃金を支払う人がいないと、日払いが成り立たない」(池田常務)ためだ。

休日作業の場合は前日に支払うとか、機械読み取りで支払うとか、スマホで支払うなど、さまざまな検討を続けているが、時間外手当の問題や、スマートフォンを持っていない従業員もおり、模索が続いている。池田常務は「日払いは、アルバイト従業員にとって、それが大きな働く理由なので、やめることはない」という。しかし、日払いの出金や精算処理は、土日も含め、毎日2時間はかかっている。以前は専門の女性従業員もいたのだが退職したため、管理部門の負担は増えている。日払い処理のデジタル化が喫緊の検討課題でもある。

経営理念は「非同族会社」と「事業を継ぐ」 円滑なバトンタッチめざしてグループ経営再構築とICT活用による業務効率化を推進し次代へ

本社:物流拠点としての函館港の変遷を見てきた函港作業は、新たな経営体制を模索する

本社:物流拠点としての函館港の変遷を見てきた函港作業は、新たな経営体制を模索する

国内の中小企業の9割以上が同族経営を続ける中で、函港作業は設立の経緯もあり「非同族会社を貫く」というのが経営理念の一つとなっている。「雇われ経営者であるからこそ、株主への利益還元を目的として、やる気のある者を経営陣に登用できるし、上意下達にならない」(工藤社長)ことが非同族経営の優位性だとしている。

もう一つの経営理念は「継ぐ」ということだ。工藤社長は「9代目の社長を仰せつかったが、まだ役職の自覚はない」と話す。しかし、64年間で8人の社長がつないできた事業を次代に「円滑にバトンタッチすること」を最大の役割と考えている。

事業環境の変化に合わせたグループ経営の再構築と、ICTソリューションによる生産性向上の両輪で「円滑」な事業承継に向けた経営体制が整いそうだ。

企業概要

会社名

函港作業株式会社

本社

北海道函館市万代町19番32号

HP

(URLは移行作業中)

電話

0138-41-7128

設立

1961年11月

従業員数

15人(2025年3月末現在)

事業内容

港湾荷役事業、一般貨物自動車運送事業、倉庫業、建設業、その他一般作業

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