不足するデジタル人材をどう確保する? 育成と採用のメリットを比較
2024年12月03日 07:00
この記事に書いてあること
今、世界や日本のビジネスでDX推進が必要とされている一方で、デジタル化を担う人材が不足しています。特に従業員数の少ない中小企業にとっては、デジタル人材の確保は大きな課題のひとつです。そこでこのコラムでは、デジタル人材確保の手段として「社内でデジタル人材を育成する」「外部から専門職を採用する」というふたつの方法に着目。それぞれの方法のメリットと、成功させるポイントや注意点を解説します。
デジタル人材とは?
今、多くの企業で、DXやデジタル化を担うデジタル人材の確保が重視されています。経済産業省が発表した「デジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)」によると、日本企業に求められるDXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こと。企業が競争力を強化するために、今、こうしたデジタル分野の変革を担う人材が求められています。
デジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)
デジタル人材とは、具体的には次のような職種のスペシャリストを指します。
- ・プロダクトマネージャー:DXやデジタルビジネスを推進するプロデューサー
- ・ビジネスデザイナー:DXやデジタルビジネスの企画や立案、推進を担う人材
- ・エンジニア、プログラマー:システムの開発や実装、インフラの構築などを行う専門職
- ・データサイエンティスト:業務に関するデータ分析を担う人材
- ・UI/UXデザイナー:ユーザーにとって使いやすいシステムのデザインを担う人材
不足が進むデジタル人材
経済産業省の「デジタルガバナンス・コード2.0」は、企業経営者に今、求められるものとして、DXを含むデジタル戦略の推進と、それを担うデジタル人材の育成・確保に向けた取り組みを挙げています。
その一方、経済産業省は、2016年に公表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」で、IT人材の需要と供給の差の拡大、つまりデジタル人材の不足を指摘。2030年には、IT人材が最大で約79万人不足する可能性があると試算しています。また、IPA(情報処理推進機構)が取りまとめた「DX白書2023」によると、2022年度、49.6%の日本企業が、DXを推進する人材が「大幅に不足している」と回答。2021年度調査の30.6%という割合からの増加を見ても、デジタル人材不足が年々、進んでいることがわかります。
DX白書2023
デジタル人材を確保するふたつの方法
では、デジタル人材不足という課題解決のために、企業はどのような取り組みを進めれば良いのでしょうか。ひとつめの方法は、社内でのデジタル人材の育成です。社員の中からデジタル人材に適した人材を選んで育成したり、リスキリング等によって全社員のデジタルリテラシーを向上したりといった施策で、デジタル化やデジタルビジネスを担う人材を確保する方法です。
もうひとつは、専門職の新規採用です。中途社員募集やリファラル採用などの手段でデジタル人材を雇用して活用することで、DXやデジタル化を進めます。雇用契約を結ぶだけでなく、フリーランス人材に業務の一部を委託したり、専門企業にデジタル関連業務をアウトソースしたりする方法もあります。
デジタル人材を社内で育成するメリットは?
では、ひとつめの方法であるデジタル人材の育成には、採用と比較して、どのようなメリットがあるのでしょうか。
社内の実情を知る人材に委ねられる
社内でデジタル人材を育成することで、自社に合ったDXやデジタル化を推進しやすくなります。社員は、自社のビジネスや業務現場の状況、解決すべきデジタルの課題を理解しています。また、自社システムを使い慣れているため新規システムとの連携も進めやすく、状況の変化や現場の声にもスピーディーに対応できます。実情を知る社員が自社に最適なデジタル化を、効率的に実施できるのがメリットです。
社内のデジタルスキルへの意識が高まる
社内でデジタル人材の育成を進めることで、デジタルスキルに対する全社的な意識改革が見込めます。DX推進という方針を掲げて社内で教育を進めることは、社内の意識向上や、デジタルリテラシーの底上げにもつながります。外部から来た新しい人材ではなく、信頼されている自社の人員が主導することで、社内の協力を得やすく、デジタル化がスムーズに進められるのもメリットです。
採用コストを抑えられる
人材育成によって、採用コストをかけずにデジタル人材を確保できます。今、全国的にデジタル人材が不足しているため、優秀な人材を採用することは困難です。採用にコストや時間がかかったり、求められる給与も高くなったりする可能性があります。採用コストや、採用のために割かれる人的リソースを抑えられるのも、社内育成のメリットです。
デジタル人材育成を成功させるポイント
効率的なDXやデジタル化推進に有効なデジタル人材育成。では、育成を成功させ、人材に早期に活躍してもらうためには、どのような点に注意すべきなのでしょうか。主なポイントは次のとおりです。
社員の適性を見極めて教育を行う
まずは、自社のデジタル化の課題に応じて、求めるデジタル人材像を明確にしましょう。プログラミングやシステム設計などのテクノロジーに関するスキル、ビジネス構築、データ分析能力など、必要なスキルを整理します。その上で、社員のデジタル分野に関する適性や強みを把握。エンジニアなどすでに一定のスキルを持っている人材、またプロジェクトマネジメントの経験を有する人材など、経歴や能力に応じた教育を行うことで、社員の成長を促すことができます。
育成プログラムを含む体制を確立する
デジタル人材を育成するためのプログラム設計にも工夫が必要です。社員のスキルの状況や必要な人材の数に応じて、知識を学ぶ研修や体験型学習、実践につながるOJTなどを含めたプログラムを作り、育成体制を確立します。教育が社内のリソースだけで難しい場合は、外部企業の教育サービスや、経済産業省が提供しているデジタル人材育成教材を活用しましょう。
人材育成に関する補助金を活用する
デジタル人材を育成したい中小企業は、厚生労働省の助成金も活用しましょう。「人材開発支援助成金」の「事業展開等リスキリング支援コース」は、デジタル化や新商品開発、新事業など、新しい分野で必要となる知識や技能を習得させるための訓練を実施した際に、費用や訓練期間中の賃金の一部を助成します。また、デジタル人材・高度人材を育成する訓練や、社員が自発的に行う訓練、eラーニングなどのサブスクリプション型の教育を実施した場合に、費用や訓練期間中の賃金の一部が助成される「人への投資促進コース」も活用できます。詳しくは、厚生労働省の「人材開発支援助成金」のサイトをご覧ください。
人材開発支援助成金 | 厚生労働省
デジタル人材を新たに採用するメリットは?
既存社員を育成する方法に加えて、専門職を新たに採用するという方法もあります。外部からデジタル人材を登用することで、どのような効果が見込めるのでしょうか。
即戦力を確保できる
デジタル人材育成に比べて、専門職の採用は、即戦力を確保できるというメリットがあります。既存社員をデジタル分野で活躍できるまでに育てるには、研修や知識習得、また業務に慣れるまでのOJTなどに一定の時間がかかります。一方で、すでにスキルや経験を持つデジタル人材を雇用してプロジェクトに参画させれば、デジタル化を早期に進めることができます。
派遣社員や契約社員などで柔軟に人材を活用できる
デジタル関連業務に従事する人材として、正社員だけでなく、派遣社員や契約社員を活用する方法もあります。派遣社員や契約社員は、人材獲得のハードルが高い正社員と比べて確保がしやすく、採用コストや人件費を抑えることもできます。ひとつのプロジェクトなど決まった期間内に働いてもらいたい場合や、デジタル化推進体制を一時的に強化したい場合は、派遣社員や契約社員を活用することで、効率よく人材を確保できます。柔軟にスタッフを補填できるのも、デジタル人材採用のメリットです。
新しい人材が社内の改革を促す
社内のイノベーションや改革が促進されるのも、デジタル人材採用の利点です。外部から専門人材が加わることで、社内に、デジタルスキルだけでなく、ビジネスや社内体制に関する新しい視点がもたらされます。既存社員だけでは難しかった組織の変革や、デジタル化に関するアイディアの活性化につながることが期待できます。
デジタル人材採用を成功させるポイント
スピーディーなデジタル化推進につながる、専門職の採用。では、失敗しないデジタル人材確保のためには、どのように採用を進めればいいのでしょうか。主なポイントをお伝えします。
デジタル化のゴールと求める人材像を明確化
デジタル人材採用を進める上では、採用ターゲットを明確にすることが重要です。自社が目指したいDXのあり方や、解決すべきデジタル分野の課題を整理して、問題解決や目的達成に必要な人材像を定めましょう。必要なデジタルスキルや能力、またどのような立場でデジタル化に関わってほしいかといった要件を整理し、募集に着手することが大切です。
複数の採用方法を使い分ける
デジタル人材の売り手市場が続く中、即戦力につながる人材を確保するためには、複数の採用方法を組み合わせたり、使い分けたりすることも重要です。採用サイトや自社サイトで募集をかける方法だけでなく、社員に自社で活躍が見込める人材を紹介してもらうリファラル採用や、スカウトによる採用なども視野に入れましょう。採用ターゲットや、求める人材のキャリアに応じて手法を変えることで、優秀な人材に効率的にアプローチすることができます。
人材の定着につながる職場環境の整備
優秀なデジタル人材に長く活躍してもらえるよう、労働環境を整えることもポイントです。リモートワークやフレックスタイム制など、自分に合った働き方を選べる制度や、入社後のスキルアップを支援する制度など、働きやすい環境を整備することで人材が定着します。長時間労働の見直しや、福利厚生制度の充実など、ワークライフバランス向上につながる取り組みも有効です。
会社の成長につながるデジタル人材を確保しよう
グローバル化やニーズ多様化への対応、生産性向上といったビジネスの課題解決のためには、DXやデジタル化は欠かせません。強い企業になるための変革を支えるデジタル人材は、今後、さらに求められていくでしょう。デジタル人材の育成と採用は、どちらもメリットがあるものの、会社の特性や状況によって最適な人材確保の方法は異なります。メリットや注意点を比較して自社に合った取り組みを選び、デジタル人材の確保を進めましょう。
記事執筆
バックオフィスラボ編集部(リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
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