障害者法定雇用率はどう変わる?活用できる支援や助成金も解説
2025年02月19日 07:00
この記事に書いてあること
障害者雇用促進法で定められている「障害者雇用率制度」。この法定雇用率が、2024年から段階的に引き上げられています。このコラムでは、引き上げの具体的な内容や計算方法、また、企業に求められる準備を解説。さらに、障害者雇用を進めたい企業が利用できる助成金や、受けられる支援についてもお伝えします。
障害者雇用率制度とは?
障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)とは、障害者の職業生活における自立を促進することで、障害者の職業の安定を実現するため生まれた法律です。
障害者雇用率制度は、障害者雇用促進法が定めるルールのひとつ。障害の有無に関係なく、誰もが希望や能力に応じた職業を通じて社会参加ができる「共生社会」を作るため、事業主は、法定雇用率以上の割合で、障害者を雇用する義務があります。
法定障害者雇用率の段階的引き上げとは?
従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を、法定雇用率以上にすることが義務付けられています。その法定雇用率は、2025年1月時点で、事業主区分によって、下記のとおり定められています。
民間企業…2.5%
国、地方公共団体など…2.8%
都道府県などの教育委員会…2.7%
2.5%は、40人中1人という割合です。従業員40人以上の企業は、40人あたり障害者を1人以上雇用する必要があります。
なお、2023年4月から民間企業の障害者雇用率は2.7%と設定されていますが、雇入れの計画的な対応ができるよう、2023年度は2.3%に据え置かれ、2024年度から2.5%、2026年7月から2.7%と、段階的に引き上げられています。
また、2024年4月、民間企業の法定雇用率が上記の2.5%に引き上げられたのと同時に、義務化の対象企業の範囲が、労働者43.5人以上の事業主から、40人以上の事業主に拡大されました。
雇用すべき障害者数の計算方法
雇用が義務付けられる障害者の数は、以下のように、従業員数に法定雇用率を掛けて計算します。計算方法の一例は、以下のとおりです。
- ・常時雇用している労働者が150人の企業の場合
150人×2.5%(法定雇用率)=3.75人
→3人(小数点以下切り捨て)以上の障害者の雇用が必要。
※短時間労働者や重度身体障害者、重度知的障害者などは計算方法が異なります。
2026年7月からの引き上げ内容
そして、2026年7月からは、対象となる民間企業の範囲と法定雇用率が、下記のように引き上げられます。
対象事業主の範囲…40人以上→37.5人以上
法定雇用率…2.5%→2.7%
2025年4月から除外率が引き下げ
また、2025年4月からは、業種ごとの除外率が引き下げられます。除外率とは、障害者の就業が困難であると認められる業種について、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度です。除外率設定業種ごとにそれぞれ10ポイント引き下げられ、下記のように変わります。
- ・非鉄金属第一次製錬・精製業、貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く)…5%
- ・建設業、鉄鋼業、道路貨物運送業、郵便業(信書便事業を含む)…10%
- ・港湾運送業、警備業…15%
- ・鉄道業、医療業、高等教育機関、介護老人保健施設、介護医療院…20%
- ・林業(狩猟業を除く)…25%
- ・金属鉱業、児童福祉事業…30%
- ・特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く)…35%
- ・石炭・亜炭鉱業…40%
- ・道路旅客運送業、小学校…45%
- ・幼稚園、幼保連携型認定こども園…50%
- ・船員等による船舶運航等の事業…70%
対象企業に必要な届出等
対象事業主は、毎年6月1日時点での障害者雇用状況を、ハローワークへ報告する必要があります。また、障害者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」を選任することも努力義務として定められています。
なお、企業が障害者雇用に関する社会的責任を果たす目的で、「障害者雇用納付金制度」が設けられています。法定雇用率を満たしていない事業主からは、毎年度、納付金が徴収されます(納付金の徴収は常用雇用する労働者100人超の事業主のみ)。また、障害者を多く雇用している事業主は、申請に基づき調整金を受け取ることができます。
障害者雇用のために必要な準備・取り組み
では、障害者雇用を進める上で、企業はどのような準備や環境整備を進めればよいのでしょうか。主な取り組みは、以下のとおりです。
情報収集で障害者雇用への理解を深める
初めて障害者雇用を進める際は、まずは情報収集や相談を通じて障害者雇用に関する理解を深めましょう。
ハローワークや地域障害者職業センターでは、障害者雇用の方法や雇用率達成について相談をすることができます。また、都道府県労働局とハローワークが開催する障害者雇用に関するセミナーや、特別支援学校の実習見学会に参加することで、障害者の活用をイメージすることも可能です。
また、「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、障害者雇用に積極的に取り組んでいる事業所の好事例を閲覧できます。高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のホームページも、障害者雇用に関するノウハウや事例を、業種別・障害別にまとめたマニュアルや動画を配信しています。これらの資料を活用して、障害者雇用に関する疑問や不安を解消しましょう。
障害者雇用事例リファレンスサービス
高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) | ハンドブック・マニュアル・DVD等
従事する職務を選定
活用事例やマニュアルを通じて、障害者が活躍できる職種や環境整備のポイントを理解したら、採用後に実際に従事する職務を決定します。職種の検討に関しても、地域障害者雇用センターによる提案や助言を受けることが可能です。障害特性に応じてどのような仕事に従事してもらえるか、イメージできます。
専門家のサポートを活用しながら社内で検討を行い、障害者を配置する部署や、担当業務を選定しましょう。
労働条件決定や受け入れ体制の準備
障害者を活用する職務を選定したら、労働条件の決定と、受け入れ体制の整備を進めましょう。障害の特性に応じた施設の改修や、雇用後の指導担当者の選任も行います。募集人数や採用時期、採用部署などに関する採用計画も策定しましょう。
なお、障害者を雇用する企業は、障害者の仕事をサポートする「就労支援機器」を一定期間無料で借りることができます。下記の、高齢・障害・求職者雇用支援機構の「就労支援機器のページ」では、障害の種類に合った就労支援機器の検索や、貸出の申請が可能です。障害者にとって働きやすい職場環境の整備に活用しましょう。
就労支援機器のページ
採用活動
ハローワークへの求人申し込みや面接会への参加などを通じて、採用活動を進めます。企業が求職中の障害者と出会える障害者就職面接会や、就職面接会よりも小規模で、条件にマッチした障害者を対象にした面接会も、人材の選考に活用しましょう。
ハローワークなどの紹介で、障害者を試行的、段階的に雇い入れることができる「トライアル雇用」の制度もあります。トライアル雇用を実施する企業は、1人あたり最大月額4万円の「トライアル雇用助成金」を受け取ることも可能です。
利用できる障害者雇用支援制度
障害者雇用を進める上では、以下のような国の支援制度も活用しましょう。
ジョブコーチ支援
ジョブコーチとは、障害者の職場適応のためにアドバイスを行う支援スタッフです。障害者に対しては、職場の従業員との関わり方や、効率の良い作業の進め方などを助言し、企業に対しては、障害者が活躍しやすい作業や、障害特性をふまえた教育方法などに関して提言を行います。
ジョブコーチには、地域障害者職業センターに所属するジョブコーチが事業所に出向いて支援を行う「配置型」、就労支援を行っている社会福祉法人などに所属するジョブコーチが事業所に出向いて支援する「訪問型」、自社の従業員がジョブコーチ養成研修を受けて障害者の支援を行う「企業在籍型」の3つの方法があります。
セミナー・見学会
都道府県労働局とハローワークは、障害者雇用に関する情報を得る機会を定期的に提供しています。障害者雇用制度の内容、障害者の雇用管理に関する情報、支援策などを伝えるセミナーのほか、障害者雇用に積極的に取り組む企業での見学会も行われています。障害者の仕事ぶりの見学や、障害者採用に関する質問もできるため、自社での障害者活用を具体化するステップにおいて活用しましょう。
障害者を雇用する企業を支援する助成金
障害者を雇い入れる企業を支援する助成金も各種、用意されています。障害者を試用的に雇用する事業主を支援する「トライアル雇用助成金」、障害者などの就職困難者を継続的に雇用する企業に助成される「特定求職者雇用開発助成金」などを活用しましょう。
雇い入れ時だけでなく、障害者を雇用した後、継続して活用するための措置を行った場合に受け取れる助成金もあります。キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)、障害者作業施設設置等助成金、障害者介助等助成金、職場適応援助者助成金、重度障害者等通勤対策助成金など、取り組み内容に応じて、申請を検討しましょう。
さまざまな人材が活躍できる職場を作ろう!
障害者の雇用は、共生社会の実現だけでなく、企業にも得られるメリットがあります。働く人の特性を生かした活躍を促し労働力を確保できるほか、職場環境の改善が進む、社内のコミュニケーション活性化といった効果も期待できます。
法律への対応を進めることが、すべての人にとって働きやすい職場作りにつながります。障害者雇用率引き上げを機に、助成金や支援制度を活用しながら、多様な人材の活躍を広げる取り組みを進めてみてはいかがでしょうか?
記事執筆
バックオフィスラボ編集部(リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
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