外国人材が働きやすい職場とは? 新設された「育成就労制度」も解説
2024年10月31日 06:00
この記事に書いてあること
人材不足が進み必要性が高まっているのが、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境作りです。そんな中で、外国出身の人材を積極的に採用する企業も増えています。では、企業が新たに外国人材を雇用するためには、どのような準備が必要なのでしょうか。このコラムでは、外国人材を活用する上で整えるべき制度や、多様な文化を受け入れる風土作りのポイントを解説。2024年6月に成立した改正入管法の内容や新設された「育成就労制度」など、採用担当者が知っておくべき法律の情報もお伝えします。
受け入れが広がる外国人材の採用を進めるには?
日本で働く外国人の数は年々、増加しています。厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、2023年10月末時点で外国人労働者の数は2,048,675人。初めて200万人を超え、届出が義務化されてから過去最高を更新しました。2013年には約70万人だった数が、10年で約3倍に増えています。
外国人を雇用する事業所の数も、前年の298,790から19,985増加し、318,775を記録しました。少子高齢化による人材不足のため企業が外国人労働者の受け入れを進めていることや、法改正による在留資格の創設等がこの増加に寄与しています。
一方で、外国人材の採用に関心はあるものの、活用の方法がわからない等の理由で実施に至っていない企業もあります。また、採用をしても、文化や言語の違いから外国人材が定着しづらいといった課題があるのも現状です。その活躍には、外国人材が働くことを想定した環境作りや制度の整備といった新しい取り組みが求められるのです。
外国人材受け入れのメリット
企業側に丁寧な準備が必要な外国人材の受け入れ。とはいえ、外国人材の雇用にはさまざまなメリットがあります。
最大のメリットは、労働力の確保です。特に人材不足や少子高齢化が進む都市部以外のエリアでも、外国人材に対して募集の幅を広げることで、若手の人材を採用できます。日本で働くという高い意欲を持った外国人材の活躍が、社内のモチベーションにも良い影響を与えるでしょう。
助成金を受けられることもメリットです。外国人材の雇用や育成には、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)や、社員のスキルアップのための人材開発支援助成金などを活用できます。
また、外国語能力や、他国の文化や習慣に関する外国人材の知識を、世界でのビジネスに活用できます。自社のグローバル進出を推進できるのも、外国人材と働くメリットです。外国人材を雇用することで、自社内や日本人の社員だけでは見つけられなかった、新しい発想も得られます。多様な視点によってイノベーションが生まれ、新しい事業や、社内の改革に着手できるという効果も期待できます。
2024年の改正入管法で新設された「育成就労制度」とは?
外国人材を受け入れる企業の人事担当者が知っておくべき法律が、出入国管理及び難民認定法(入管法)です。そして2024年6月14日、「育成就労制度」について定めた改正入管法が成立しました。人材不足が進み、国際的な人材獲得競争も激化する中で、外国人が働きたいと思える魅力的な環境を作るため、以下のような法改正が行われました。
①「育成就労制度」を新設
これまでの「技能実習制度」に代わり、「育成就労制度」が新設されます。育成就労制度は、途上国への技能継承を目指す技能実習制度とは異なり、日本で働く人材を育てることが目的です。技能実習制度の問題点を解消し、育成就労制度と特定技能制度に連続性を持たせることで、外国人材が働きながらキャリアアップし、長期にわたって日本で活躍する人材になることを目指します。
②外国人本人の意向による転籍を認める
技能実習制度では原則的に認められていなかった、本人の意向に基づく転籍ができるようになります。やむをえない事情がある場合や、転籍先の業務が元の業務と同一業務区分内であること、技能及び日本語能力が一定水準以上であること、転籍先の育成就労実施者が適切と認められる一定の要件に適合していることなどの要件を満たせば、本人の意向による転籍が認められます。
③監理団体の要件を厳格化した「監理支援機関」
技能実習制度において、技能実習生と企業のマッチングなどのサポートを行ってきた「監理団体」が、「監理支援機関」に変わります。不法就労や人権侵害などを防ぎ、外国人材の支援や保護、機関への監理といった機能をより適切に果たせるよう、認可要件などが厳格化されます。
現時点だけでなく、将来的な外国人材確保を目指すのが、改正入管法です。改正法は、公布日の2024年6月から3年以内に施行される予定です。
外国人材受け入れに必要な制度・仕組みとは
では、実際に企業が外国人材を受け入れるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。整えるべき主な制度や仕組みは、次のとおりです。
雇用契約書、雇用条件通知書の作成
外国人材の採用に向けて、雇用契約書や雇用条件通知書を準備します。雇用後のトラブルを防ぎ、期待する役割や業務にスムーズに就いてもらえるよう、業務内容や雇用条件を明記した書類を交わしましょう。言語能力の違いから、日本語の書面や、口頭の確認だけでは、外国人材が内容を正しく確認できないこともあります。そのため、英語や外国人材の母国語で、契約書や通知書を作成しましょう。
生活面のサポート
外国人材が日本での生活や仕事に慣れ、早期に活躍してもらうために、生活面のサポートも必要です。新しい土地での生活を始める外国人材にとって難しい住宅の契約や、銀行口座の開設、ライフライン、自治体の手続きなどをフォローできる体制を整えましょう。体調面でも安心して働いてもらうため、法定健康診断の受診も必須です。
オリエンテーションの実施
入社時に、業務内容や就業規則、職場ルールなどを説明するオリエンテーションを行います。評価制度や社内の安全衛生の考え方も必ず伝えましょう。初めて来日した外国人材には、業務や会社に関する情報だけでなく、日本の生活ルールを伝えることも大切です。健康保険など、外国人に馴染みのない日本の社会保険制度についても詳しく説明しましょう。
メンター制度
スムーズな受け入れのため、外国人材向けのメンター制度も効果的です。これは、社内制度や仕事の進め方など、気になったことを何でも相談できる担当メンターをつける方法です。社内の誰にでも頼っていいという状況は、特定の社員の負担増や、外国人材をフォローしたことへの評価が正しく受けられないという、トラブルや社内の不満を招きます。外国人材の定着と、受け入れる同僚たちの安心感のため、1対1で丁寧なフォローができるメンター制度の導入を検討しましょう。
外国人材向け日本語研修
外国人材活躍の壁となる課題のひとつが、日本語能力の問題です。入社前、そして雇用してからも、同僚とのスムーズなコミュニケーションと人材の定着のため、日本語や、日本文化を教える研修を積極的に実施しましょう。自社内での実施が難しい場合は、外国人労働者向けの日本語研修を実施する外部機関に委託するなどして、外国人材の生活面、仕事面の自立を促しましょう。
外国人材が働きやすい環境作りのポイント
外国人材が活躍できる環境作りのためには、制度の整備に加えて、留意しなければならないポイントがあります。その主な点な注意点は、次のとおりです。
在留資格に注意
外国人材の雇用時には、外国人が日本に在留するための「在留資格」の確認が必要です。雇用対象者の在留期間や就労の可否を確認しましょう。就労可能な在留資格には、「永住者」や「日本人の配偶者等」などの就労制限のない身分系の4種の在留資格と、就労内容に制限のある19種の在留資格があります。依頼したい仕事が在留資格で認められている範囲内かどうかを、必ず確認しましょう。
同一労働同一賃金の原則を守る
外国人材の就労については、日本人同様に、同一労働同一賃金と最低賃金のルールを守る必要があります。同一労働同一賃金とは、雇用形態や国籍等に関わらず、同じ企業内で同じ仕事をしている人には、同じ賃金を支給すべきというルールです。この原則のもとで、賃金や業務内容などの労働条件について労使側で合意し、雇用契約書や労働条件通知書を交わしましょう。
文化や価値観の違いを受け入れる
外国人材との間の文化や価値観の違いを認めることも重要です。出身国が違えば、働くことへの考え方や、生活スタイルも異なります。また、宗教的な理由で必要な習慣や、制限される行動もあります。人材の習慣や行動が業務に支障をきたす場合は、相手を単に否定するのではなく、お互いの文化を認めた上で、双方が納得する形で調整ができるよう、コミュニケーションをとりましょう。
外国人材に、日本や自社の価値観を押し付けないことも大切です。残業を前提とした働き方を強いるなどの行動は、トラブルや離職を招くためやめましょう。
差別的な言動は禁止
待遇面に加えて、外国人材への差別的な言動も禁止です。選考の際にも、国籍を採用基準にしたり、募集に国籍の条件を設けたりといった差別的措置はできません。また、仕事中の差別やハラスメントは、外国人材に向けたものに限らず、法律で禁止されています。外国人材の活用にあたって、差別禁止という原則を、改めて全社に共有しましょう。
評価基準を明文化して周知
外国人材を受け入れる際には、人事評価制度をより明確にする必要があります。「ジョブディスクリプション」に従った就労など、日本とは異なるスタイルで働く国も多く、多様な仕事をする日本の総合職という考え方や、コミュニケーションや協調性を評価する制度に馴染みがないケースもあります。そのため、評価基準を、さまざまな背景を持つ人が理解できる、具体的で明確な内容にして周知しましょう。曖昧な制度をクリアにすることで、外国人材が、自分の職務内容や今後のキャリアをイメージしやすくなります。
多様な人材が活躍できる職場作りを進めよう!
ここまでお伝えしたとおり、外国人材を受け入れるための制度作りによって、多様性への理解拡大や、社内ルールの再編成が進みます。これらの取り組みは企業の労働環境の見直しにつながり、人材の確保だけでなく、既存の社員たちの働きやすさの向上や、会社のイノベーション創出といった価値も生み出します。会社の未来のために、今、多様な人材が活躍できる環境の整備を始めてみてはいかがでしょうか?
記事執筆
バックオフィスラボ編集部(リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
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