経営のために知っておきたい「人件費」|指標や削減方法などを解説
2024年09月24日 06:00
この記事に書いてあること
最低賃金の引き上げなど、人件費の捻出に頭を悩ませる経営層も多いのではないでしょうか。しかし、ただ人件費を削減しようとしても離職につながる可能性が考えられるため、慎重に検討しなければなりません。
そこでこの記事では、経営のために知っておきたい「人件費」について、基礎から解説。そもそも人件費にはどのようなものがあるのか、適正な指標はあるのかなどを知ることで、経営に活かすことができます。
人件費とは|対象範囲も解説
はじめに、人件費について、定義や対象を解説していきます。
人件費とは
人件費とは、従業員の労働に対して支払われる給与はもちろんのこと、住宅手当や通勤手当など各種手当などの費用も含めたものをいいます。
人件費というと給与を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、法定福利費(健康保険料や厚生年金保険料など法律で企業側の負担が義務付けられている制度にかかる費用)や福利厚生費なども人件費として計上するので気をつけましょう。
人件費の対象範囲とは?
人件費は、従業員の雇用形態や役職の有無によって計上できるかどうかが異なります。
正社員・契約社員の場合
正社員と契約社員に支払った給与等は「人件費」として計上できます。契約社員にはアルバイトやパートも含まれることに留意しましょう。
派遣社員の場合
派遣社員は、「常勤」か「臨時」かどうかで人件費として計上できるかが異なります。常勤の派遣社員の場合は人件費として処理する一方で、臨時の場合は「雑費」として処理することがあります。
役員の場合
役員は、正社員・契約社員とは契約が異なり、委任契約となります。そのため、役員に支払う報酬や賞与は「人件費」には含まれません。
人件費に含まれる費用はおもに6つ

人件費に含まれる費用について詳しく解説します。
1.給与手当
2.賞与
3.各種手当(通勤手当、時間外労働手当、休日出勤手当、扶養手当、役職手当、住宅手当など)
4.法定福利費
5.福利厚生費
6.退職金
1. 給与手当
まず、人件費の中心となる「給与手当」です。給与手当は、従業員に支払われる給料が基本です。ただ会社には給料以外にも、各種手当や通勤交通費も存在し、これもこの給与手当てに含まれています。
「給料」はいわゆる基本給であり、企業が支払う「給与」から時間外労働手当などを引いたものをいうので、違いを押さえておきましょう。
2. 賞与
賞与は、おもに年に数回従業員に支払われるボーナスのことをいいます。給与と異なり、賞与は企業の業績や従業員の評価によって額が変わる点が特徴です。賞与は給与手当として計上することも可能です。
3. 各種手当
先述したように、各種手当は、「給与」のなかに含まれ、「給料」とともに振り込まれる科目です。どのような手当を設けているのかは企業によって異なるため、この章では、企業で設けられていることが多い費目について解説していきます。
通勤手当
通勤手当は、従業員が通勤するにあたってかかった費用のことをあらわします。アルバイト・パートなどの場合は、出勤日数に応じて支給することが一般的です。ただし、常勤職員の場合は、半年に一回、通勤定期代を支給することもあります。
時間外労働手当
時間外労働手当は、いわゆる「残業手当」のことだと勘違いする人もいるかもしれませんが、厳密には異なります。
「残業手当」には、法定時間内(1日8時間/1週40時間)に行われた残業と、法定時間外残業の両方が含まれています。そのうち法定時間外残業の部分に対する支払いが「時間外労働手当」と呼ばれています。
休日出勤手当
休日出勤手当とは、企業がとらせなければならない「法定休日」に、やむを得ずに出勤させた場合に支払う手当のことです。原則としては、35%の割増賃金を支払わなければなりません。
扶養手当
扶養手当とは、従業員が世帯主であり、配偶者や子どもが扶養に入っている場合に支払う福利厚生費のことをいいます。企業側に支払いが義務付けられているものではありませんが、設けている企業が多い手当です。
役職手当
役職手当とは、従業員の役職(課長、部長等)に支払う手当のことをいいます。従業員のモチベーションアップや、責任に対する対価として支払う企業が多くあります。
住宅手当
住宅手当は、企業が従業員に対して家賃の一部を支給する手当のことをいいます。企業は、金額や支給年齢の上限を決めることができます。一般的には、月1〜2万円支払う企業が多いとされています。
4. 法定福利費
法定福利費とは、法律で定められている福利厚生に関する保険料費用のうち、会社負担分の費用のことを意味します。
福利厚生に関する保険料費用とは、社会保険料や労働保険料などのことをいいます。人を雇う際には必ず必要な費用なので、これも人件費に含まれることになります。厚生年金保険や健康保険などは、まず従業員分を個人の給料から引く形で預かり、会社負担分と合わせて納める流れが一般的です。
5. 福利厚生費
「福利厚生費」は、社員が快適に働ける環境を作るための費用のことをいいます。先述した「法定福利費」との違いは、「法律で規定されているかどうか」です。「福利厚生費」は企業の裁量に任せられており、具体例としては下記項目が挙げられます。
・社員旅行費
・会社負担の忘年会費用
・健康診断の費用
・従業員へのご祝儀
・会社のクラブ活動の補助金
6. 退職金
退職金とは、従業員が企業から退職する際に支払うものをいいます。退職金を支払うかどうかは企業の裁量に任せられており、退職時にまとめて支払う「退職一時金」や、退職後に定期的に支払う「企業年金」、または「退職一時金」と「企業年金」の併用など、支払い方も異なります。
経営にあたって知っておきたい「人件費率」「労働分配率」とは?

最低賃金は上昇傾向にあり、人件費を削減したいと考える企業もあるでしょう。そんなときに知っておきたい指標が、「人件費率」「労働分配率」です。
この章では、「人件費率」「労働分配率」の定義や、適正な基準について解説します。
人件費率とは
まず、「人件費率」です。「人件費率」とは、企業の売り上げに対する人件費の割合を意味します。人件費率は、下記のように計算できます。
人件費率=(人件費÷企業の売上高)×100
適正な人件費率の基準
適正な人件費率の基準は、企業規模や業種によって異なる点に注意が必要です。取り扱っている商品や何に重きを置いているか(サービスなのか、商品なのか)によって大きく差が出るので、自社の展開する事業の指標を調べることをおすすめします。
労働分配率とは
続いて、労働分配率について解説していきます。「労働分配率」とは、企業が生んだ付加価値に対する人件費の割合のことをいいます。付加価値とは、売上から人件費などの諸経費を引いた粗利を意味します。諸経費のうち、人件費に付加価値がどのくらい分配されているかを示す指標が「労働分配率」です。
労働分配率は、下記の式で算出できます。
労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100
労働分配率が高いと、従業員の労働に対する満足度向上につながるといわれています。
適正な労働分配率とは
2022 年に経済産業省が発表した、企業活動基本調査確報(2021 年度実績)の結果によると、主要な産業の平均労働分配率は48.0%でした。なかでも小売業は49.2%と平均値を上回っており、製造業は46.0%、卸売業は46.6%と平均値を下回っていました。
企業が価値を生み出すためには、従業員の力が必要です。人件費に圧迫されないよう、適正な数値を保つことは必要ですが、付加価値を出せた部分に関しては従業員に還元するなどの働きが求められます。
人件費を削減するための2つの方法

最後に、人件費を削減するための方法を2つ解説していきます。
1.業務効率化を図り、一人あたりの人件費を下げる
1つ目が、業務効率化を図り、労働時間を削減することで一人あたりの人件費を下げることです。具体的にはITシステムの活用などが挙げられます。
たとえば、勤怠管理システムを導入することで、人事・労務まわりの従業員がタイムカードを確認する手間が省けたり、経理事務システムを導入することで精算漏れ等のリスクを減らせたりします。
システムの導入によって業務が効率化され、本来取り組むべき業務に集中できるため、従業員数を見直せたり、従業員の残業時間を減らせたりすることが考えられます。
2.外注先を増やす
2つ目が、外注先を増やすことです。
社員の人件費のなかには残業代や賞与などの手当が含まれますが、業務委託契約であれば、休日や深夜の割増手当を支払う必要がないため、経済的な負担を減らすことができます。単純作業や機密性が低い業務に関しては外注に切り替えていく工夫をすることで、人件費の削減が期待できます。
まとめ
今回は、「人件費」について、その内容や指標などを基礎から解説しました。人件費は、経営にとって欠かせない経費です。しかし、圧迫されすぎてしまうと企業の存続にも大きく関わります。そうした問題を解決するためには、業務効率化や外注などの手段を用いることもひとつの手です。この記事を参考に、適切な業務に適正な人件費を割けるように考えてみてはいかがでしょうか。
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