人件費とは? 内訳や分析方法、現実的な人件費削減策について解説
公開日:2024年09月24日
この記事に書いてあること
2026年2月20日更新
本記事は、一般的な会計・人事の考え方をもとに情報提供を目的として作成しています。法令の解釈や具体的な会計処理は、企業の状況や適用される制度によって異なる場合があります。実際の判断にあたっては、税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家へご相談ください。
近年は最低賃金が引き上げられるなど、人件費をいかに捻出するかがいっそう重要な経営課題の1つとなっています。一方で人件費は従業員を確保するための不可欠な支出でもあることから、人件費削減には慎重に対処しなければなりません。
本記事では人件費の定義と内訳、分析に用いられる主な指標についてわかりやすく解説しています。現実的な人件費削減策と、おすすめできないリスクの高い人件費削減策もあわせて紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
人件費とは
そもそも人件費とはどのような費用を指すのでしょうか。雇用形態ごとの対象範囲や労務費との違いを確認しておきましょう。
労働に対して支払われる給与や各種手当のこと
人件費とは、従業員の労働に対して支払われる給与および各種手当のことを指します。下記は主な人件費の一覧です。
【主な人件費】
- ・給与
- ・賞与
- ・退職一時金
- ・社会保険料(事業者負担分)
- ・福利厚生費
- ・各種手当(通勤手当・住宅手当など)
このように、労働に対して支払われる費用は給与以外も基本的に人件費に含まれます。
雇用形態と人件費の対象範囲
人件費は、従業員の雇用形態や役職の有無によって計上できるかどうかが異なります。
正社員・契約社員の場合
正社員、契約社員、パートやアルバイトに支払った給与等は「人件費」として計上できます。
派遣社員の場合
派遣社員は、企業と直接雇用関係にあるわけではなく、派遣会社との契約にもとづいて業務に従事します。そのため、派遣社員に関する費用は、原則として「人件費」ではなく、「外注費」や「業務委託費」として処理されます。
たとえ長期間にわたり常勤的に勤務している場合であっても、派遣契約である以上、会計上は人件費には含めないのが一般的です。
役員の場合
役員は、正社員・契約社員とは契約が異なり、会社との関係が雇用契約ではなく委任契約となります。そのため、役員に支払う報酬・賞与は、従業員給与とは区別して『役員報酬』『役員賞与』などの勘定科目で処理するのが一般的です。人件費分析の目的によっては、役員報酬を広義の人件費に含めて扱う場合もあるため、集計範囲をあらかじめ明確にしておきましょう。
人件費と労務費の違い
人件費と似ている言葉に「労務費」があります。両者の違いは次のとおりです。
- ・労務費:製品の製造に直接関わった従業員に支払った費用
- ・人件費:すべての従業員に支払った費用
労務費は工業簿記にて用いられる勘定科目です。商業簿記では人件費は販売費及び一般管理費(費用)として扱われ、仕訳上は費用の増加として借方に計上されます。一方、工業簿記では労務費を原価計算に含めて仕掛品などに配賦するため、製造原価として扱われる点が特徴です。
人件費の内訳

人件費は「現物給与総額」と「現物給与以外」に大きく分けられます。それぞれの内訳は次のとおりです。
現物給与総額
現物給与総額とは、賃金や一時金を合計した金額のことです。具体的な要素として、次のものが挙げられます。
所定内賃金
月々支払われる基本給や各種手当などを指します。役職手当や住宅手当といった、毎月決まって支給される手当を含む支給額のことです。基準内賃金と呼ばれることもあります。
所定外賃金
残業手当や休日出勤手当といった割増賃金を指します。所定労働時間を超過した分の労働時間に対して支払われる賃金です。基準内賃金に対して「基準外賃金」と呼ばれることもあります。
賞与/一時金
上記以外に支払われるボーナスなどを指します。
所定外賃金や賞与/一時金は、所定内賃金と連動しているケースが少なくありません。たとえば、残業手当が基本給をベースに算出されていたり、賞与が「基本給×〇カ月分」のように計算されていたりする場合があるからです。
現物給与以外
現物給与以外の人件費として、次のものが挙げられます。
退職給付引当金・退職金掛金
従業員が退職する際に支払われる費用です。支給の条件は各社が定めている就業規則や退職金規定にもとづきます。退職金の支給は制度としては法的義務ではなく、支給の有無や支給額は事業者の判断に委ねられています。ただし、就業規則や労働契約等で退職金の支給条件が定められている場合は、その定めに基づいて支給義務が生じます。
法定福利費
社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)や労働保険料(雇用保険料など)のうち、事業者負担分を指します。労働者を雇用する事業者には負担が義務づけられていることが、「法定」という呼称の由来です。
法定外福利費
事業者が独自に定めている福利厚生制度にかかる費用です。一例として、社員食堂や社宅、財形貯蓄補助金、慰安旅行費、資格取得などを支援するための費用などが挙げられます。
その他
人材採用や従業員の教育・研修などにかかる費用です。会計処理上は人件費として計上しないケースもありますが、「人」に関わる費用という意味では広義の人件費といえます。
人件費の分析に用いられる主な指標

自社の人件費が適正な水準であるかどうか、改善の余地があるのかを知るには、人件費をさまざまな角度から分析する必要があります。人件費の分析に用いられる主な指標は次の4点です。
人件費率
人件費率とは、売上に対する人件費の割合のことです。下記の計算式を用いて算出します。
人件費率(%)=(人件費÷売上高)×100
人件費率が低いほど、人的リソースを効率良く活用して売上を確保できていると判断できます。ただし、適正な人件費率の基準は企業規模や業種によって異なる点に注意が必要です。下記は業種別の平均人件費率を示しています。
【業種別平均人件費率】
- ・宿泊/飲食サービス業:28.4%
- ・情報通信業:17.3%
- ・製造業:7.4%
- ・建設業:8.9%
- ・小売業:11.5%
- ・卸売業:5.8%
このように、各社が取り扱っている商品の特性や何に重きを置いているのか(商品なのか、サービスなのか)によって、人件費率には差が生じます。自社が展開する事業の指標を調査した上で、適正な人件費率を判断しましょう。
労働生産性
労働生産性とは、従業員1人あたり、もしくは時間あたりの生産性を表す指標です。次の計算式を用いて算出します。
- ・1人あたりの労働生産性=生産量 ÷ 労働者数
- ・1時間あたりの労働生産性=生産量 ÷(労働者数 × 労働時間)
労働生産性の数値が高いほど、従業員がパフォーマンスを発揮できていることを表します。
【例】年間20万個の製品を従業員40名、1人あたり1,600時間で製造している場合
- ・1人あたりの労働生産性:20万個÷40名=5,000個
- ・1時間あたりの労働生産性:20万個÷(40名×1,600時間)=3.125個
労働生産性が想定よりも低い場合は、業務効率化や製造方法の見直しなどを検討する必要があるでしょう。
労働分配率
労働分配率とは、企業が生み出した付加価値に対する人件費の割合のことです。付加価値とは、売上から人件費などの諸経費を引いて算出される粗利のことを指します。労働分配率の計算式は次のとおりです。
労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100
労働分配率が高すぎる場合、付加価値に対して人件費の割合が大きい可能性があります。反対に低すぎるようなら、給与や賞与への還元余地を検討する材料となる場合もあります。
このように、労働分配率を参照することで人員配置の最適化や、適切な賃金の水準を検討するのに役立ちます。
人時生産性
人時生産性とは、労働者が1時間あたりにもたらす粗利のことを指します。算出方法は次のとおりです。
人時生産性= 粗利 ÷ 総労働時間
人時生産性の数値が高いほど、効率良く利益を上げられていると判断できます。売上高が目標を達成していたとしても、人時生産性が低ければ利益を圧迫しかねません。部門や店舗ごとのパフォーマンスを、利益面から比較したい場合に役立つでしょう。また、人時生産性は従業員の雇用形態によっても上下することから、必要に応じてパート・アルバイトや派遣社員の登用を検討するなど、人員構成を検討する際にも活用できます。
【おすすめ】現実的な人件費削減策5選

ここからは、人件費の削減に寄与する施策例を紹介していきます。人件費は企業にとって負担となりかねない出費ですが、同時に人材を確保するための重要な費用でもあるため、安易に削るのは避けなければなりません。現実的な人件費の削減策を見ていきましょう。
業務効率を高め残業時間を削減する
残業手当の削減は、人件費の抑制に直結する有効な手立てです。長時間労働は従業員を疲弊させ、心身の健康状態を悪化させたり、離職などの長期的な経営リスクをもたらしたりするおそれがあります。仕事とプライベートのメリハリをつけた働き方は、ワークライフバランスを実現する意味においても重要なポイントといえるでしょう。
ただし、単に「残業時間を減らしましょう」とアナウンスするだけでは根本的な解決につながりません。業務量や作業内容を見直し、平常時はできるだけノー残業で仕事を終えられる環境を整えていく必要があります。すでに残業を良しとする組織文化が見られるようなら、労働時間ではなく生産性を重視する方針を経営者が自ら打ち出すなど、トップダウンで是正を進めていくのが得策です。
業務フローと人員配置を見直す
業務フローと人員配置の見直しも、取り組んでおきたい方策の1つです。業務の流れに無理・無駄・ムラが生じていないか、適材適所が実現できているか、といった視点で既存の業務フローや人員配置を点検してみましょう。
見直しに際して、現場の意見を取り入れるのも重要なポイントです。一見すると無駄が多いように映る作業工程であっても、過去に改善を繰り返してきた経緯があったのかもしれません。業務改善プロジェクトを立ち上げて現場の従業員に改善策を提案してもらうなど、ボトムアップで進めていくのも1つの方法です。
自動化・省力化を推進する
業務の自動化・省力化を推進し、業務効率化を図るのも有効な対策です。クラウドツール等を導入し、自動化できる業務は積極的に自動化を推進しましょう。人力で処理するべき業務かどうかを工程ごとに点検し、必要に応じてAIやRPAの活用も検討することをおすすめします。
たとえば、請求業務管理クラウドサービスを活用することで、場所を問わず請求書などの帳票作成を進められたり、承認をPCやスマホなどのデバイス上で完結させたりすることが可能です。さらに、口座連携機能を活用して入金消込を半自動化することも可能です。
請求業務管理クラウドサービスの一例としては、「MakeLeaps(メイクリープス)」などがあり、業務効率化を検討する際の選択肢の1つとして活用されています。
従業員のスキルアップを促進する
従業員一人ひとりがこなせる業務の幅を広げていくことも大切なポイントです。リスキリングを通じて既存のスキル+αの新たな知識や技術を身に付けてもらうことで、より広範囲の業務を担当できるようになるでしょう。学んだだけで終わるのではなく、ITツールやAIサービスに関する知見を実務で活かしてもらえば、業務改善が促進されやすくなるといった相乗効果も期待できます。
自社の既存業務を把握している従業員のスキルアップを図ることは、経験に裏打ちされたDX推進を実現する意味でも効果的です。専門スキルを備えた人材を採用する難度が高まっているからこそ、今いる従業員のスキルアップを促進することには大きな意味があります。
アウトソーシングを活用する
アウトソーシングの適切な活用も、人件費削減につながる有効な方策です。外部事業者を適宜活用できる体制にしておくことで、繁忙期など人手が必要な時期にマンパワーを柔軟に調整できます。さらに、専門的な業務知識やスキルを活用できるため、人材教育にかかるコストや時間の節約にもつながるでしょう。
なお、アウトソーシングを活用する際には、定期的に対応状況や進捗状況を委託先から報告してもらうことをおすすめします。任せきりにするのではなく、学べるノウハウや知識を吸収し、将来的な内製化も見越して活用していくことが大切です。
リスクの高い人件費削減策3選
人件費の削減は、講じる方策によってはリスクを伴う可能性があります。とくにリスクの高い人件費削減策の例を見ていきましょう。
根拠が希薄な給与額や賞与額の変更
特段の根拠なく給与額や賞与額を変更すると、従業員のモチベーションダウンにつながりかねません。さらに、労働契約法第9条では、労働者と合意することなく就業規則を変更し、労働者に不利益となる労働条件へ変更することは原則としてできないと定められています。賃金の見直しを行う際は、変更の必要性や手続きの妥当性を含め、慎重に判断することが重要です。
無理な人員削減
現場の状況を考慮しない無理な人員削減に踏み切らないように注意しましょう。実態に合わない人員配置は従業員1人あたりの業務量を増加させ、負担感を高めることになります。結果として残業時間が膨れ上がったり、離職率の上昇を招いたりするなど、本末転倒な事態に陥りかねません。人員削減に踏み切るのであれば、業務効率化につながる方策をセットで講じ、浮いた人員をより重要な業務に充てるなど、従業員が納得できる形で進める必要があります。
計画的な採用活動の停止
これまで計画的に進めてきた新卒・中途採用を停止するのもリスクが高い方策です。短期的には採用・教育コストの抑制につながるかもしれませんが、中長期的に見ると社内の人的リソースが頭打ちになるおそれがあります。近い将来、「中堅の人材が著しく不足している」「次の世代を担える人材が足りない」といった事態に陥りかねません。人材の採用・教育は未来への投資である点を念頭に置き、コスト削減とのバランスを慎重に見極めながら判断する必要があるでしょう。
人件費の的確な分析と無理のない削減策が経営改善のポイント
人件費は企業にとって欠かせない費用である反面、恒常的にかかり続ける費用でもあるため、有効活用と削減の両面から判断するバランス感覚が求められます。まずは自社の現状の人件費をさまざまな指標にもとづいて分析し、改善すべき点を洗い出しましょう。その上で、現実的な人件費削減策を講じていくことが経営改善へとつながります。本記事を参考に、人件費の最適化と持続可能な組織体制を実現してみてはいかがでしょうか。
記事執筆
バックオフィスラボ編集部 (リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
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