発生主義・現金主義・実現主義の違いと使い分け方をわかりやすく解説
2020年08月24日 08:00
この記事に書いてあること
【2025年8月29日更新】
会計に関する用語として「発生主義」「現金主義」のほか、「実現主義」という考え方にふれたことがある方は多いでしょう。それぞれどう違うのか疑問に感じていた方も多いのではないでしょうか。
今回は、会計における発生主義・現金主義・実現主義についてわかりやすく解説します。それぞれの違いや使い分け方のほか、仕訳方法についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
発生主義とは

はじめに、会計において特によく耳にする「発生主義」について解説します。発生主義の考え方や適用する場面、メリット・注意点を順に見ていきましょう。
発生主義の考え方
発生主義とは、費用や収益が発生した時点で計上する考え方のことです。実際にお金が動いたタイミングではなく、費用や収益が発生したことをもって会計帳簿に記録します。
たとえば1万円の資材を仕入れた場合、この時点で取引が発生しているため「仕入高」として費用を計上します。実際に代金を支払ったのが翌月であれば、翌月に買掛金を消し込む仕訳をするという流れです。このように、実際には金銭のやり取りがなされていなかったとしても、取引が発生した時点で費用や収益を計上するのが発生主義の基本的な考え方です。
発生主義を適用する場面
発生主義は、日本における企業会計の基本原則です。日本の会計制度は、1949年に定められた「企業会計原則」に則っています。企業会計原則は「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」の3部構成です。このうち損益計算原則には「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない」とあります。企業会計の基本が発生主義とされているのはこのためです。
参考:会計基準詳細 | 企業会計基準員会
発生主義のメリット
発生主義のメリットとして、財務状況を正確に把握しやすい点が挙げられます。企業では掛取引による仕入や販売が行われるケースが多いことから、金銭のやり取りと実際の取引状況が一致しているとは限りません。発生主義にもとづいて記帳することで、帳簿から取引の実態を把握しやすくなります。
また、取引の実態を把握することにより、納税額の予測を立てやすくなるというメリットもあります。想定外に多くの納税をすることになり、キャッシュフローが悪化するといった事態を避けるためにも、実際の取引状況を把握しておくことは重要なポイントです。
発生主義の注意点
発生主義にもとづく帳簿付けでは、勘定科目が複雑になりがちです。会計処理が煩雑になりやすく、記帳の抜け漏れが発生するリスクがあります。また、金銭のやり取りをベースに記帳するのではなく、取引の実態に合わせて記帳することから、キャッシュフローの実態を把握できない場合があります。発生主義による会計処理では、実際に金銭がどう動いているのかも気にかけておくことが重要です。
現金主義とは

次に、現金主義について見ていきましょう。発生主義との考え方の違いを明確にしておくことが大切です。
現金主義の考え方
現金主義とは、実際に金銭のやり取りがあった際に計上する考え方のことです。売上についても仕入についても、金銭を授受したタイミングで記帳するため、帳簿付けが簡素化します。
たとえば1万円の資材を仕入れた場合、注文が完了し品物が納品されたとしても、支払いが済んでいなければ記帳する必要はありません。支払いが翌月の場合には、実際に代金を支払った時点で記帳します。発生主義では仕入れた時点と支払った時点でそれぞれ仕訳が必要になることを踏まえると、現金主義は記帳がより簡便であることは明らかです。
現金主義を適用する場面
現金主義にもとづく記帳は、一般的な企業会計では認められていません。青色申告(複式簿記による正確な税申告を行うことを条件に、税制優遇制度の対象となる申告方法)をする個人事業主や小規模事業者には現金主義が認められるケースもあるものの、原則として企業会計では用いない考え方です。
ただし、重要性の原則にもとづき、継続的に現金主義を採用しているようなケースでは、法人にも例外的に現金主義が認められることもあります。一例として、会社が扱う金額が限られており、発生主義と現金主義で決算数値にほとんど違いが見られないような場合です。現金主義を採用するにあたって届出は不要ですが、税務調査の際に現金主義を採用している明確な理由を説明できるようにしておく必要があります。
現金主義のメリット
現金主義のメリットとして、キャッシュフローがわかりやすい点が挙げられます。金銭授受の実態が帳簿にそのまま記録されることになるため、お金の流れが明確で不正をしにくい記帳方法ともいえるでしょう。
また、取引の管理にかかる手間が少ないことも現金主義のメリットの1つです。入出金が行われた時点でのみ記帳すればよく、取引の発生時点と実際の支払い・収益の発生時点の二回にわたって仕訳をする必要がありません。会計に関する知識がない方でも記帳しやすい考え方といえます。
現金主義の注意点
現金主義では金銭のやり取りが発生していない取引を帳簿上で確認できないため、正確な損益を把握しにくい面があります。たとえば、実際には収益が確保されているにもかかわらず帳簿上は赤字になっていたり、未払金が現状いくら残っているのか把握できなかったりする事態に陥りかねません。
また、会計期をまたぐと期間損益計算を正確に行えない点にも注意する必要があります。金銭のやり取りが行われるまで記帳されないことから、実際には費用が発生していても支払いが済んでいなければ費用として計上されないからです。
実現主義とは
会計には発生主義や現金主義に加え、「実現主義」という考え方もあります。実現主義の基本的な考え方や適用する場面を押さえておきましょう。
実現主義の考え方
実現主義とは、収益や費用が実現した際に計上する考え方のことです。実現主義においては、未実現収益は原則として当期の損益計算に計上してはならないとされています。
実際、企業の取引においては、どの時点で将来の収益が約束されたといえるのか曖昧なケースが多々あります。注文を受けた時点、商品を出荷した時点、商品が検収された時点など、いずれの時点を収益発生と見なして記帳するのかが不明確になりかねません。実現主義にもとづいて記帳することにより、収益が実現した時点で記帳するという原則を徹底しやすくなります。
実現主義を適用する場面
実現主義は、当期に行われた取引のうち収益に関するものに適用されます。発生主義を適用した場合、客観性・確実性に欠ける恐れがあることから、発生主義の弱点を補うのが実現主義の考え方と捉えてよいでしょう。一般的に、収益が実現したと見なす基準には下記のいずれかを用います。
- ・出荷基準:商品を出荷した時点で収益発生と見なす
- ・納品基準:商品が取引先に到着した時点で収益発生と見なす
- ・検収基準:取引先が商品を確認し、問題ないことを通知した時点で収益発生と見なす
どの基準を採用するかは各企業が選択できます。ただし、選択する基準は商品の特性や販売形態に照らし合わせた際に合理性が認められなければなりません。また、一度決めた基準は継続して採用する必要があります。
実現主義のメリット
実現主義を用いるメリットとして、未実現収益を明確にできる点が挙げられます。当期の売掛金が未回収の取引を例に、具体的なケースを見ていきましょう。
期末間際に注文を受け付けた商品が未出荷の状態になっている場合、発生主義の原則に従えば「収益が約束されている」ことになります。しかし、後日注文がキャンセルとなる可能性はゼロではありません。実現主義に則って出荷基準を採用していれば、この注文は収益が実現しておらず、売上として計上できないことになります。このように、未実現収益を明確にできることが実現主義のメリットです。
実現主義の注意点
実現主義はあくまでも発生主義に制限をかけるための考え方です。発生主義とは根本的に異なる考え方として実現主義が存在するわけではない点に注意しましょう。日本の会計基準は発生主義が原則ですが、収益に関しては必ずしも取引の実態を把握できるとは限らない面があります。そこで、実現主義による制限をかけることで帳簿の客観性・確実性を担保しているのです。
発生主義・現金主義・実現主義の関係
発生主義・現金主義・実現主義の関係を整理しておきましょう。それぞれの考え方をどのような場面で用いるのか、実際の取引と関連付けて押さえておくことが大切です。
費用に関しては原則として発生主義
損益計算原則にもとづき、費用に関しては発生主義を採用するのが一般的です。金銭のやり取りが行われたかどうかに関わらず、取引が発生した時点で計上する必要があります。費用に関する会計処理の基本的な流れは下記のとおりです。
- 1.購入日に費用を計上
- 2.引き落とし日に出金を記録
同様に、引当金の計上や減価償却においても発生主義が用いられます。引当金については、将来的に発生する費用または損失を合理的な基準に則って見積もった上で、当期の費用・損失として計上しましょう。減価償却に関しては固定資産を取得した時点ではなく、実際に使用した期間を元に費用配分します。
収益に関しては原則として実現主義
収益を計上する際には、原則として実現主義が用いられます。掛取引においては月またぎや期またぎが発生するケースが少なくありません。よって、収益が実現した時点を基準に収益を計上するのが合理的です。
なお、取引によっては仕入れた物品が収益獲得に寄与することも想定されます。このようなケースでは、費用を発生主義、収益を実現主義によって計上するとタイムラグが発生しかねません。そこで、両者を対応させるために「費用収益対応の原則」が適用されます。費用収益対応の原則とは、会計期間中に発生した費用のうち、同じ会計期間中に収益獲得に寄与した分を費用として計上する考え方のことです。その際、会計期間中に計上されない費用については資産として計上する必要があります。
小規模事業者は特例として現金主義が認められる場合も
法人の会計業務においては、現金主義は用いないのが基本です。現金主義は発生主義とは対照的な考え方であり、両者が混在することはありません。
ただし小規模事業者のうち、その年の前々年分の不動産所得の金額および事業所得の合計額が300万円以下の法人に関しては、届出により現金主義による会計処理が認められる場合があります。あくまでも小規模事業者を対象とした特例のため、届出をすることなく現金主義による会計処理を独自の判断で行うことはできません。
発生主義と現金主義の仕訳方法

発生主義と現金主義では仕訳の方法も異なります。具体例を用いてそれぞれの考え方にもとづく仕訳を確認しておきましょう。
発生主義の仕訳方法
| 《例》 ・3月に掛けで100万円の商品を仕入れた ・4月に商品の代金を現金で支払った ・4月中に掛取引で商品を150万円で売却した ・5月に代金を振り込みで受け取った |
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 1,000,000 | 買掛金 | 1,000,000 |
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 1,000,000 | 現金 | 1,000,000 |
| 売掛金 | 1,500,000 | 売上 | 1,500,000 |
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,500,000 | 売掛金 | 1,500,000 |
上記のとおり、商品を仕入れた時点で費用を仕入高として計上します。後日、代金を支払った際に買掛金として仕訳をする消込を行うという流れです。同様に、商品を売却した際にも売却の時点で売掛金を計上し、代金が入金された際に売掛金の消込を行います。
現金主義の仕訳方法
前に挙げた例と同様の取引を現金主義にもとづいて仕訳をした場合、下記のようになります。
【3月】
(仕訳なし)
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 1,000,000 | 現金 | 1,000,000 |
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,500,000 | 売上 | 1,500,000 |
入出金と同時に記帳している点が、発生主義による仕訳との大きな違いです。実際には3月中に仕入が行われているものの、帳簿上は4月にやり取りされた現金の動きしか記帳されていません。仮にこの企業の決算期が3月だった場合、支払いが期をまたぐことになるため、期中の正しい費用が計上されないことになります。また、4月の時点で売上が発生しているものの、帳簿上で売上が立ったことが確認できるのは5月のみです。4月時点での売上を過小評価してしまう恐れがあります。
発生主義と現金主義で利益が変わる点に注意
発生主義と現金主義では、利益に対する考え方や帳簿上の数字が異なります。商品を運搬するための車両を購入した場合を例に、両者の違いを考えてみましょう。
|
売上
200 万円
|
仕入:120 万円 減価償却費:10 万円 |
| 利益:70 万円 |
|
売上
200 万円
|
仕入:120 万円 車両運搬具:50 万円 |
| 利益:30 万円 |
車両を商品の運搬に使用するのであれば、会計期間中の利益に貢献するものと見なすのが妥当です。よって、減価償却によって複数の会計期間に費用を分配することになります。以上の考え方にもとづいて仕訳をした場合、会計期間中の利益は70万円です。
一方、現金主義による仕訳では車両の購入代金全額を利益から差し引いています。実際には車両が利益に貢献している部分もあったにもかかわらず、単純に費用として処理されている点が発生主義による仕訳との大きな相違点です。したがって、現金主義で記帳した場合には利益を過小に評価してしまう恐れがあります。企業活動の実態をより正確に把握するという点において、発生主義のほうが適しているといえるでしょう。
発生主義・現金主義・実現主義を適切に使い分けよう
会計業務を適切に進めるには、発生主義・現金主義・実現主義の違いを正確に理解しておく必要があります。どのような場合にそれぞれの考え方を用いるのかを把握した上で、適切に使い分けていくことが大切です。今回紹介した3つの考え方の違いや適用する場面を参考に、会計業務への理解を深めていきましょう。
記事執筆
バックオフィスラボ編集部 (リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
記事タイトルとURLをコピーしました!