2028年10月の雇用保険適用拡大に向けて必要な準備を解説!
2025年03月31日 06:00
この記事に書いてあること
2024年5月、「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立し、雇用保険の適用範囲の拡大が決定。この改正は2028年10月1日に施行され、企業内での雇用保険被保険者が増加する見込みです。
今回の法改正を受けて、企業ではどのような対応が必要なのでしょうか。このコラムでは、そんな「雇用保険適用拡大」の具体的な内容と、被保険者の増加に向けて企業に必要な準備についても解説します。
2028年10月1日からの雇用保険適用拡大の概要
2024年5月に、「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立。給付金に関する変更や、職業訓練やリスキリング支援策の強化など、雇用保険に関わる制度の見直しが行われました。
令和6年雇用保険制度の改正内容について(雇用保険法等の一部を改正する法律) |厚生労働省
そのひとつが、2028年10月1日から施行される、雇用保険の適用拡大です。雇用保険の被保険者になるための要件のうち、週所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に変更。それに伴って、雇用保険加入の対象者の範囲が拡大されます。
今回の雇用保険適用拡大の背景には、企業に勤める人々の働き方の多様化があります。さまざまな形式や時間数で働く人々に対して幅広く、雇用のセーフティネットを確保することがこの改正の目的です。
これまで、雇用保険に加入できる要件は「所定労働時間が週20時間以上であること」「31日以上雇用される見込みがあること」と定められていました。今回の改正で、要件のひとつである1週間の所定労働時間が、10時間以上に変更。より短い時間で働く人も雇用保険に入れるようになるため、企業内で雇用保険の被保険者が増加する見込みです。新たな被保険者は、現行制度での被保険者と同様に、失業時の給付や、育児休業給付、教育訓練給付などを受け取ることができます。
また、要件のうち週所定労働時間が半分になることに伴って、現在は週所定労働時間20時間を基準に設定されている、被保険者期間の算定基準や、失業認定基準、法定の賃金日額の下限額、最低賃金日額の基準も、現行の1/2に改正されます。
雇用保険適用拡大が企業に与える影響は?
では、雇用保険の適用拡大は、企業や働く人にどのような影響を与えるのでしょうか。
総務省が行った「労働力調査」によると、2023年時点で、1週間の労働時間が10~19時間の雇用者の数は506万人に上っています。この程度の人数の雇用者が、今回、新たに雇用保険の適用対象に加わる見込みです。アルバイトやパートなどの短時間労働者が多く活躍する職場では、雇用保険に加入する人が大きく増えるでしょう。
労働力調査 | 総務省統計局
企業の業務上の変化としては、雇用保険の要件が緩和され適用対象者が増えることで、新たな人事労務の事務処理作業が発生します。雇用保険加入の手続きや、保険料の算出、給与支給額への反映など、雇用保険に関する業務が増える点に、注意が必要です。また、企業が負担する保険料も、加入者の拡大に伴って増額します。
雇用保険適用拡大で生まれるメリットは?
業務や保険料負担についての企業への影響がある一方で、雇用保険適用拡大には、働く人や企業にとってのメリットもあります。
新たに雇用保険に加入する短時間労働者も、失業時の手当てや、教育訓練給付、育児休業給付などを受け取ることができるようになります。働く人が、安心感や満足度、モチベーションを持って仕事に従事できると同時に、仕事と育児の両立や、学び直しにも積極的に取り組むことができるでしょう。
短時間勤務を選択する労働者にとっても働きやすい職場を作ることは、従業員の定着につながります。人材面の安定も、雇用保険適用拡大によって生まれる企業側のメリットです。
雇用保険適用拡大に向けて必要な対策
では、2028年10月1日に施行される雇用保険適用拡大に向けて、企業にはどのような対応が必要なのでしょうか。下記の通り、従業員に関する現状の確認や社内周知、準備を進めましょう。
新たな対象者と現状の確認
雇用保険適用拡大に向けて、アルバイトやパートとして働く従業員や契約社員などの中から、新たに雇用保険加入の対象となる社員数を把握しましょう。今回、変更になる週所定労働時間の要件のほか、被保険者期間や失業認定基準に関する改正点もふまえて、対象者や、被保険者期間等を確認します。
また、新ルールへのスムーズな切り替えのため、現在の給与計算システムが法改正に対応しているかどうか、確認しておくことも大切です。
社内周知と対象者への説明
雇用保険の対象者が増えることについて、社内の従業員に周知しましょう。また、新たな対象者には、雇用保険の目的や、受けられる給付等について伝える必要があります。
被保険者になることで得られるメリットのほか、保険料の負担が発生することについても丁寧に説明をして理解を促しましょう。これから採用する従業員に対しても同様に、雇用保険加入についての説明や対応が適切に行えるよう、準備を進めます。
システムの見直しや機能の確認
法改正後の新ルールへのスムーズな移行のため、労務管理システムや給与計算システムが、法改正に対応しているか確認しましょう。
システムを新たに導入する必要がある場合は、早めにサービスの比較・検討を進めることが重要です。社内での使い勝手や、自社で使っている他のシステムとの連携可否などを確認して、業務の実態に合ったサービスを選びましょう。
電子申請の対応準備
雇用保険の適用対象となる従業員の入社時にハローワークへの提出が必要なのが、雇用保険被保険者資格取得届です。2028年10月の雇用保険適用拡大によって加入対象者が増えると、人事などの担当部署の手続きや申請業務も増加すると見込まれます。
雇用保険被保険者資格取得届は、ハローワークの窓口への持参や郵送での提出が可能ですが、対象者増加に備え、また業務効率化を進めるためにも、電子申請の導入を検討しましょう。行政手続きサイト「e-Gov」を活用すれば、都合の良い時間に申請ができるほか、移動時間や紙の書類作成の手間を削減できます。2028年10月の法改正に向けて、e-Govのアカウント取得などの準備を進めましょう。
注意点をおさえて法改正への対応を早めに進めよう!
企業で働く人たちを支えると同時に、スキルアップ支援や、いざという時の手当も提供する雇用保険。その適用範囲の拡大は、従業員の仕事に対する安心感だけでなく、人材の定着という企業側のメリットにもつながります。
法改正に対応しながら労働環境を整え、多様なスタイルで働く人たちの活躍を促すためには、新ルールに沿う体制作りや、従業員への丁寧な説明が欠かせません。2028年の施行に向けて、早めの準備や対応を進めましょう。
※本記事で掲載している情報は2025年2月現在のもので、今後、変更される可能性があります。最新情報や詳細については、厚生労働省など、制度を管轄する省庁のサイトをご確認ください。
記事執筆
バックオフィスラボ編集部(リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
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