自治体DXはなぜ必要?地方の業務を変えた事例も紹介
2025年07月17日 07:00
この記事に書いてあること
地方行政を担う自治体の中には、人口減少や少子高齢化といった課題を抱える組織も多いのではないでしょうか。自治体ならではの問題や業務の多様化に対応しながら、限られた人的リソースで質の高い行政サービスを提供していくためには、住民視点に基づいた構造改革や、業務効率化が欠かせません。こうした背景から、今、企業だけではなく、地方を含む自治体でもDXに対するニーズが高まっています。そこでこのコラムでは、自治体にもDXが求められている理由・背景や推進するメリット、そして自治体がDXを成功させるためのポイントを解説。さらに、DXに積極的に取り組む自治体の成功事例をご紹介します。
自治体DXとは?
DXとは、デジタルトランスフォーションの略で、デジタル技術を活用して新しい価値を創出することや、生活やビジネスの仕組みを変革していくことを指します。
自治体DXは、地方DXとも呼ばれ、地方政府の業務や行政サービスを、デジタル技術の力で改善することを意味します。ただツールの導入やIT化を進めるのではなく、デジタルの活用によって業務を仕組みから変革し、地域の課題を解決していくことが、自治体DXの目的です。
自治体DXの具体的な取り組みや、導入の際に参考になるセキュリティ対策などの情報は、総務省の地域DXポータルサイトに幅広く記載されています。
参考:地域DXポータルサイト|総務省
なぜ今、自治体DXが求められているのか?
では、なぜ今、自治体にもDXが必要とされているのでしょうか。その背景のひとつが、地方自治体で進む少子高齢化や人口の減少です。経済活動や人々の動きが縮小する中でも、自治体は、福祉や公共交通などの生活を支えるインフラを維持する必要があり、よりいっそう効率的な地方行政の運営が求められています。
また、人々の生活スタイルや人口構造の変化に伴って、住民の行政サービスに対するニーズも多様化。新型コロナウイルスの影響による生活様式変更への対応や、非対面サービスの整備も急がれています。また、社会的な人出不足の影響で、行政の業務を担う職員も不足。ベテラン職員の知識や経験に依存する業務の属人化が生む非効率や、業務フローの問題にも対処する必要があります。
2020年、政府は「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を決定。「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」というビジョンを掲げ、人々の幸福な生活の実現や、多様なサービス・就業機会の創出、国際競争力の確保などを実現すべく、デジタル技術の活用を推進してきました。
参考:デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針の概要|総務省
こうしたデジタル社会を実現する上でも、住民の身近で行政を担う自治体の役割が重要です。デジタル化によって人々の生活の利便性を向上するとともに、業務効率化を行い、限られた自治体の人的資本を、行政サービス改善に活用していくことが求められます。
自治体DXを進めるメリット
自治体DXの推進には、地方政府側、そして住民側にもさまざまなメリットがあります。その主な内容は、次のとおりです。
自治体側のメリット
- ・行政業務の効率化
- ・人的リソースの有効活用
- ・ペーパーレス化によるムダの削減
- ・業務の正確性が向上する
- ・住民とのコミュニケーションが活性化
- ・住民の声や地域の課題を行政に反映しやすくなる
- ・行政サービスの質向上による住民の満足度向上、人口増加
住民側のメリット
- ・行政サービスの質が上がり生活の利便性が向上
- ・自治体の給付や支援をスムーズに受けられるようになる
- ・事業者が自治体と連携によりビジネスを活性化できる
- ・人口増加や企業の流入が進み、地域経済が活性化する
自治体DXを成功させるポイント
自治体側にも住民にとってもメリットが大きい自治体DX。ただ、その必要性は理解していても、実際に着手する上では、職員数や予算の都合からハードルの高さを感じている方は多いのではないでしょうか。また、自治体DXに踏み出したくても、何から始めればいいのかわからない方や、過去にデジタル化にトライしたものの成果が出なかったため、進め方に迷っているという方もいるでしょう。そんな困りごとを解消しながら、自治体DXを成功させるためのポイントを以下にお伝えします。
DXの目的やビジョンを確立する
自治体DXに取り組む上でまず重要なのが、目的やビジョンの確立です。DXによって達成したいことや、解決すべき行政課題などのビジョンを明確にして、組織内に共有します。その上で、スケジュールやステップごとの具体的な手段を含む、DX推進計画を定めましょう。
DX推進の組織体制を確保
ビジョンと計画を策定したら、組織内にDX推進体制を確立します。自治体DXの推進にあたっては、首長が変革に対する責任と強い意識を持って、主導していくことが重要です。DXのプロジェクトチームを立ち上げ、推進責任者、情報担当部門、法令・財務担当部門、人事担当部門、窓口をはじめとした業務担当部門を含む、全庁的かつ横断的な推進体制を築きましょう。
デジタル人材の確保
ICTの知見を持ち、自治体現場の実務に即した技術の導入や判断を行ってDXを推進するデジタル人材を確保します。自治体内に適した人材がいない場合は、任期付職員や非常勤職員として人材を任用することも検討しましょう。また、自治体内でのデジタル人材育成も不可欠です。デジタル知識・技能を取得する機会を提供したり、窓口・業務部門での経験を積ませたりすることで、技術者と現場を橋渡しして変革を主導できるデジタル人材を育てましょう。
住民の声をふまえた企画や改善
自治体DXの推進には、市民からのフィードバックを受けた新規企画の立ち上げや、改善や続けることも不可欠です。また、デジタル技術は進歩のスピードが速く、新しい技術も常にリリースされます。住民の意見や社会の変化、デジタル技術の変化をふまえながらPCDAをまわし、業務の状況や行政サービスをチェックして、改善していくことが大切です。
組織内で取り組みをスモールスタート
以上の自治体DX導入のポイントをふまえて、自分の組織内で可能なことから着手していきましょう。まずは、予算や人的リソースを抑えた取り組みを進めることで、リスクを抑えながら効果を実感していくことができます。組織内で成果が上がった施策について、横展開や規模の拡大を進めていきましょう。
たとえば、転出・転入届などの窓口手続きや、給付金申請など、特に非効率や手続きの漏れが多い業務をひとつだけ洗い出してデジタル化を進めることも有効です。また、DX人材の不足や、紙業務の多さなど、組織内で特にDX化を妨げている要因に注目して、最初に着手する施策を決めても良いでしょう。他の自治体の成功事例を、導入コストや住民の負担軽減などのキーワードで比較して、自組織の課題に類似した取り組みを参考にしながら、計画の予算化を進める方法もあります。
DXを進める先進的な自治体の成功事例
首長主導の推進体制のもと、現場業務の実態に合ったデジタル活用を進めることで高い効果を発揮する自治体DX。では、実際に自治体DXは、各地でどのような形で実現しているのでしょうか。DXにおいて先進的な自治体の成功事例をご紹介します。
「書かないワンストップ窓口」を実現
北海道北見市では、来庁者と職員双方の窓口手続きにかかる負担・時間を軽減するため、窓口からバックヤードまでをトータルデザインしたデジタル化を進めています。
窓口の確認のみで必要なステップが自動判断され、サインのみで手続きが完了する、「書かない、回さない、漏れがない」ワンストップ窓口のシステムを独自開発。ワンストップ対応は年間8,500件にのぼり、住民の利便性向上と業務効率化が実現しました。2024年4月時点で36の自治体もこのシステムを導入するなど、横展開も進んでいます。
LINEの確認のみで手続きができる「スマホ市役所」
岡山県総社市では、対象となる全住民が行政サービスを確実に受け取れる仕組みを作るため、給付金の支給手続きのデジタル化に着手。住民が、市のLINE公式アカウントから受け取ったプッシュ通知をオンライン上で確認するだけで行政手続きが完結するサービスを構築しました。
事前登録手続きを早期に完了させた住民に、全国最速で物価高騰重点支援給付金を給付できた等の効果があがったほか、利用者の99%が「他の手続きにも広げてほしい」と要望。他の申請業務への活用や、銀行ATMで給付金を受け取れる仕組みの導入についても検討が進んでいます。
DXを担う「DX推進チャレンジャー」を育成
滋賀県は、業務をよく知る担当者による自律的なDX推進体制を作るため、デジタル技術を主体的に活用できる職員「DX推進チャレンジャー」の育成に注力。外部専門人材による伴走型支援の取り組みもあわせて、庁内のDXを進めています。
計画に基づいて、階層別マインドセット研修や、実習形式中心の研修、情報担当職員向け外部専門研修などを実施。2022年から2024年までの3年間で、一般行政部門等の職員の10~15%にあたる450人のDX推進チャレンジャーの育成と100件のシステム内製化を目指し、研修やツール活用環境の整備を進めています。
県・市町一体のデジタル化推進体制の構築
山口県は、県と市町村が一体となり県全体のデジタル化を推進しています。コロナ禍での住民への対応を通じて行政分野のデジタル化の遅れが明らかになったことをきっかけに、「山口県デジタル・ガバメント構築連携会議」を設置。人材が不足する小規模市町のために専門的な人材を確保するなどの取り組みを進めています。
また、「情報システムの標準化・共通化」「行政手続きのオンライン化」などの個別のテーマに取り組むワーキンググループを設置して、課題に対応。今後も市町と意見交換をしながら、県全体のデジタル・ガバメント構築を進めていく方針です。
全市町村へのアドバイザー派遣でDXを推進
福島県は、2021年より「福島県デジタル革命(DX)推進基本方針」に基づき、県庁のDXだけでなく、市町村への支援にも注力することを決定しました。市町村それぞれが抱える課題やニーズに合ったアドバイザーを派遣する「ICTアドバイザー市町村派遣事業」を実施。さらに、市町村へのアンケート調査の結果を受けて、支援メニューの改善や拡充を行っています。
市町村のDX推進に対する意識を底上げする目的で、DX推進の基礎知識や、トップマネジメントの方法などを伝える「市町村DX推進トップセミナー」も開催。デジタル技術を生かした効率的な行政運営や、行政サービスの質向上、行政手続きのオンライン利用率のアップといった効果につながりました。
地方の仕事と暮らしを変える自治体DX
世界のデジタル化の潮流や人材不足への対応という観点からも、自治体においてもニーズが高まっているDX。組織内の旧システムや業務フローのルールといった制限から改革の難しさを感じる方も多いかもしれませんが、自治体DXの観点で行う業務の見直しは、職員の働きやすさも、住民の暮らしの利便性も高める大切な取り組みです。まずは自組織にできる取り組みから、自治体DXへの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
記事執筆
バックオフィスラボ編集部 (リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、 法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
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