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障害者差別解消法で義務化された「合理的配慮」とは?

From: バックオフィスラボ

2024年11月08日 06:00

この記事に書いてあること

2024年4月1日に改正障害者差別解消法が施行され、これまで事業者に対しては努力義務とされていた、障害を持つ人への「合理的配慮」が義務化されました。そこでこのコラムでは、障害者差別解消法の概要と、法改正の内容を解説。さらに、「合理的配慮」とは何なのかイメージがつきにくい方のために、具体的なシーンと注意すべきポイントを交えて、企業に求められる対応をお伝えします。

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障害者差別解消法とは

障害者差別解消法とは「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のこと。2016年4月1日、障害の有無に関わらず、すべての人が互いに人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指し、制定されました。その目的は、障害を理由とした差別を解消することです。

なお、この法律で言う障害者とは、障害者手帳を持っている人だけを指すのではありません。身体障害のある人、知的障害のある人、精神障害のある人、またその他、心や体のはたらきに障害があり、障害や社会の中にあるバリアによって日常生活や社会生活に制限を受けている人が、この法律の対象です。

障害者差別解消法の主な内容は、次のふたつです。

不当な差別的取り扱いの禁止

国や都道府県、市町村などの役所や、事業者が運営する店舗などで、障害のある人を正当な理由なく差別することを禁じます。サービス提供の拒否や、サービス提供の場所や時間帯などを制限すること、障害のない人にはつけない条件をつけることは禁止です。また、正当な理由がある場合は、障害のある人にその理由を説明し、理解を得るよう努力する必要があります。

具体的には、受付対応の拒否や、学校の受験や入学の拒否、保護者や介護者なしでお店に入ることを拒否することなどが、不当な差別的取り扱いにあたります。

合理的配慮の提供

国や都道府県、市町村などの役所や事業者は、障害のある人から「サービスを受ける上での社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応しなければいけません。これが「合理的配慮の提供」です。

また、対応の負担が重い際には、障害のある人にその理由を説明し、別の方法の提案も含めて話し合いを行い、理解を求める努力をする必要があります。

2024年4月の法改正の内容は?

2021年に障害者差別解消法が改正され、2024年4月に施行。これまで、行政機関等には、障害のある人への合理的配慮の提供が義務付けられていましたが、事業者に対しては努力義務とされていました。今回の改正で、事業者に対しても合理的配慮の提供が義務化されました。

義務化された「合理的配慮」のポイント

2024年の法改正で、事業者にも障害者への提供が義務化された「合理的配慮」。これを理解するための主なポイントを、以下にまとめました。

建設的対話の中で共に対応を検討する

障害がある人にとっての社会的バリアを解消する対応を行うためには「建設的対話」が求められます。一方的な要求や拒否をするだけでなく、障害のある人と事業者が建設的な話し合いを重ねて、共に解決策を検討していくことが大切です。

障害のある人からの依頼を満たす対応が難しい場合も、双方の事情や持っている情報、意見を伝え合うことで相互理解を深め、代替手段を見つけることができます。

事業の目的や内容に照らし合わせて提供する

事業者が合理的配慮を提供する場合は、事業の目的や内容、機能をふまえて、次の3つを満たす対応を行うことが求められます。

  • ①本来の業務に付随するものに限られること
  • ②障害者でない者との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること
  • ③事務や事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと

たとえば、飲食店での障害者への食事介助は、お店の事業の範囲を超えているため断ることができます。また、障害のある人から、抽選販売の商品に対して「抽選申し込みが難しいため商品を確保してほしい」という依頼を受けた場合、対応すると、障害者ではない人と同等以上の機会を与えることになるため、断っても合理的配慮の提供義務に反しません。ただ、実際の事案では状況が異なることがあるため、当事者間で話し合い、個別に判断していく必要があります。

過重な負担について客観的に判断する

合理的配慮は、対応に伴う負担が過重でない範囲で、提供が必要です。では「過重な負担」とは具体的にどの程度の負担を指すのでしょうか。

事業者にとって合理的配慮の提供で過重な負担が発生するかどうかは、以下の要素などをふまえて検討しましょう。

  • ①事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
  • ②実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
  • ③費用・負担の程度
  • ④事務・事業規模
  • ⑤財政・財務状況

過重な負担の有無については、これらについて考慮した上で、場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する必要があります。

「前例がない」は断る理由にならない

障害のない人と異なる取り扱いをする場合の理由についても、理解が必要です。客観的に見て正当な目的のもとに行われたものであり、その目的に照らし合わせてやむをえないと言える場合は、「不当な差別的取り扱い」には当たりません。たとえば、実習を伴う講座で、その作業が障害のある人にとっての危険が発生すると見込まれるため別の実習を提供するという対応は、障害者本人の安全確保の観点から、正当な理由と言えます。

通常と異なる対応を拒否する際に使われることの多い「前例がない」は、合理的配慮を断る正当な理由にあたりません。前例がなかったとしても、個別の状況に応じて柔軟に対応を検討する必要があります。「何かあったらいけない」という、漠然としたリスクの可能性を示す言葉も、断る理由になりません。具体的にどのようなリスクが生じるのか伝え、そのリスク軽減のためどのような対応ができるのか、検討しなければいけません。

「障害のある人を特別扱いできない」という理由や考え方も避ける必要があります。障害のある人が、ない人と同じようにサービスを受けられる状況を整えることは「特別扱い」にはあたらないためです。「過去に同じようなことがあったから」などの理由で一律に断るのではなく、個別の事案ごとに判断をしていく必要があります。

「合理的配慮」の内容を具体例で解説

では、合理的配慮とは、具体的にどのような配慮を指すのでしょうか。事業者にとって必要な対応を理解する上で参考にできる具体例をご紹介します。

飲食店で車椅子のまま着席できるように配慮

肢体不自由のため車椅子を使う人が、飲食店に入り「車椅子のまま着席したい」という要望があった場合に、店内の環境を整えることは合理的配慮です。具体的には、テーブルに備え付けの椅子を片付けたり、テーブルを移動したりして、テーブルの周辺に、車椅子のまま着席できるスペースを確保するなどの対応です。

聴覚過敏の子どもが通う習い事教室での対応

次の事例のような、聴覚過敏を持つ子どもの学習環境の整備に関しても、対話を重ねながら配慮を検討する必要があります。

騒音が苦手な聴覚過敏の子の保護者から、習い事教室の担当者に対して、「子どもが、飛行機の音が聞こえると興奮して集中できなくなってしまうので、防音の窓をつけてほしい」との要望がありました。工事が必要な防音窓の設置はすぐには難しいため、習い事教室は、「今、工事の対応をするのが難しいため、子どもが習い事の集中できる他の方法を話し合いたい」と回答。保護者からの「家ではイヤーマフを着けている」との情報から、教師の声かけやサポートのもとで、教室でもイヤーマフを使うという方法に決まりました。

過重な負担を考慮した代案の提示

小売店でも、店側の過重な負担について検討しながら、合理的配慮を提供することができます。たとえば、スーパーで店員が視覚障害のある人から「店内を付き添って買い物を補助してほしい」との依頼を受けたとします。その時点で店が混雑していたため、店員は付き添いはできないと回答した上で、視覚障害がある人の買いたいものをリストに書き留めて、商品を準備すると提案。このように、人的負担や体制上の制約を考慮しながら、障害がある人のニーズを満たす対応をすることが可能です。

内閣府から具体例のデータ集が公開されている

内閣府は、合理的配慮などの具体例を紹介する「合理的配慮等具体例データ集」を公開しています。
合理的配慮等具体例データ集「合理的配慮サーチ」

このサイトでは、合理的配慮の事例を、障害の種類や、「公共交通」「サービス」「教育」などの生活の場面から絞り込んで検索ができるので、自社に近い事業の事例からヒントを得ることができます。

自社ならどうするかを想定して対策を進めよう

自社が手がける事業で障害のある方から合理的配慮の対応を求められた際、対応に迷うことがあるかもしれません。そのため、事前に想定されるケースをいくつかリストアップし、対応のパターンを明確にしておくことが重要です。また、現場での対応の責任範囲や判断基準を事前に設定することで、スムーズに配慮を提供できる環境を整えることが可能です。

ただし、あらかじめ決めた対応方法がすべてに当てはまるわけではなく、個々の事案ごとに柔軟な対応が求められます。状況に応じて必要な支援を行いながら、適切な対応を検討する姿勢が大切です。

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記事執筆

バックオフィスラボ編集部(リコージャパン株式会社運営

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