シニア人材活用に必要な準備とは? 法律への対応も解説
2024年11月26日 07:00
この記事に書いてあること
60歳を超える人材の活躍を推進する法整備が進み、企業側にも、シニア人材にとって働きやすい環境の整備が求められています。では、これから積極的にシニア人材を活用したい企業は、具体的にどのような取り組みを進めればいいのでしょうか。そこでこのコラムでは、シニア人材活用のため必要な取り組みや制度について解説。法律の観点から企業に求められる対応もお伝えします。
進むシニア人材の活躍
人材不足が深刻化する中、企業では、多様な人材を戦力として活用する施策が求められています。その戦力のひとつが、60歳を超えるシニア人材です。経験やスキルが豊富なシニアの活躍を促すことは、労働力を維持するだけでなく、企業活動を活性化できる取り組みとして注目されています。
高齢化や労働人口の減少を受けて、国は、働く意欲がある高齢者が能力を活かして活躍できる環境を整える目的で、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」を整備。65歳までの雇用確保義務と、70歳までの就業確保措置が、事業主の努力義務として定められています。
また、60歳以上の雇用者数は、過去10年で1.5倍になるなど、年々増加しています。総務省の労働力調査によると、2023年の雇用者全体のうち60歳以上が占める割合は18.7%。今後、さらにその割合は増える見込みで、シニア人材が働きやすい環境作りが、企業によりいっそう求められていくでしょう。
シニア人材にとって働きやすい会社とは?
健康寿命が上がり、元気に働ける高齢者が増えてはいるものの、シニア人材の雇用には課題もあります。
そのひとつが、高齢者の労働災害です。「労働者死傷病報告」をまとめたデータによると、2023年、労働災害による60歳以上の死傷者数は、39,702人。全年齢に占める、60歳以上の労災による死傷者数の割合は年々増加しており、2023年には29.3%にのぼっています。特に、高齢者は「墜落・転落」や「転倒による骨折等」の発生数が多く、「墜落・転落」は、男性の場合、60歳以上の発生率は20代平均の約3.6倍。「転倒による骨折等」は、女性の場合、60歳以上の発生率は20代の約15.1倍と、若年層と大きな差があります。
高齢者は他の年代よりも敏捷性や持久性、筋力などが弱いため、労災発生率が高い上に、休業が長期化しやすい傾向があります。高齢者が安心して能力を発揮できる環境を作るためには、こうしたリスクを低減するための取り組みが求められるのです。
シニア人材活用のために企業がやるべきこと
では、シニア人材を積極活用したい企業は、どのような取り組みを進めれば良いのでしょうか。制度作りや施設面で求められる主な施策は、次のとおりです。
高年齢者雇用安定法への対応
シニアが活躍できる環境整備を目的とした高年齢者雇用安定法では、以下のことが定められています。以下の法律に対応した上で、シニア人材の活用を進める必要があります。
60歳未満の定年禁止
事業主が定年を定める場合、その定年年齢は60歳以上としなければいけない。
65歳までの雇用確保措置
定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じる必要がある。
①65歳までの定年引き上げ
②定年制の廃止
③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
70歳までの就業機会の確保(努力義務)
65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下のいずれかの措置を講ずる努力が義務付けられる。
①70歳までの定年の引上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度の導入
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
A事業主が自ら実施する社会貢献事業
B事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業
この法律に従って、定年や雇用確保措置、就業確保措置の変更や新設を行う場合は、就業規則の変更も行いましょう。なお、10人以上の労働者を使用する事業主は、就業規則を変更して所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。
シニア人材が安全に働ける環境の整備
法律への対応に加えて、シニア人材が安全に働くための設備面の整備も進めましょう。視力や体力、筋力などの身体機能低下を補うために、以下のような設備や装備の導入が必要です。
- ・通路や作業場所の照度確保、掲示物や文字サイズの拡大などの視覚面の配慮
- ・無理な作業姿勢をなくすために、作業台の高さや設備の配置を改善する
- ・片足立ちや背伸び、体をねじるなどの不安定な姿勢を継続する作業は行わない
- ・階段の手すりの設置や通路、業務スペースの段差の解消
シニア人材の記憶力や判断能力に関する配慮も必要です。ゆとりのある業務計画や習得時間を設ける、職務と責任の範囲を明確化するなど、シニア人材が身体的、精神的に安心して働けるように、職場の仕組みを改善しましょう。
怪我や熱中症の防止策
怪我や熱中症などの傷病を予防する取り組みも不可欠です。適切な照明の設置や、滑りやすい通路をなくす、防滑靴を着用する、注意喚起のための標識を設けるなど、事故のリスクや身体的負担を減らす取り組みを進めましょう。
また、暑熱環境下で作業を行う場合は、通気性の良い服装、涼しい休憩スペース、作業休止時間や休息時間の確保といった熱中症対策も必要です。気温が低い環境においても、保温性が高い防寒着や採暖室を準備し、合計作業時間に制限を設けるなどして、寒冷ストレスの低減に努めましょう。
健康や体力の状況の把握
シニア人材に長く活躍してもらうためには、社員の健康や体力の把握と、心身の健康増進のための取り組みも必要です。定期的に健康診断を実施して、シニア人材の疾病の予防・管理に努めましょう。また、体力チェックや、加齢による心身の衰えを調べるフレイルチェックを通してシニア人材の身体能力を把握して、体調や体力に合った業務に従事させましょう。
基礎疾患の罹患も含む、シニア人材の健康状態に応じた配慮も必要です。持病や治療中の病気がある中でも無理なく働けるように、仕事内容や勤務形態、労働時間などの調整を行いましょう。
高年齢労働者安全衛生対策推進費(エイジフレンドリー補助金)の活用
エイジフレンドリー補助金には内容ごとにコースが設定されています。
令和6年度以下の3コースがありました。
- ・「高年齢労働者の労働災害防止コース」…転倒・墜落や腰痛、熱中症防止策など、高齢者の労働災害防止対策を補助する
- ・「転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース」…労働者の身体機能維持改善のための運動プログラムに基づいた身体機能のチェックや、運動指導等にかかる費用を補助する
- ・「コラボヘルスコース」…医療保険者と事業者が連携して労働者の健康づくりを進める「コラボヘルス」等の取り組みに対して補助を行う
令和6年は当初10月末日までが申請期間とされていましたが、締め切り前に予算上限に達しそうになったため、申請受付が10月1日までと前倒しになりました。
令和7年度は、更に内容が拡充され、以下の4つのコースとなる予定です。
- ・エイジフレンドリー総合対策コース【新設】…専門家によるリスクアセスメントに要した経費、リスクアセスメント結果を踏まえた、優先順位の高い対策に要した経費(機器等の導入・工事の施工等)
補助率:4/5、上限額:100万円 - ・転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース【既存】…労働者の転倒防止や腰痛予防のため、専門家等による運動プログラムに基づいた身体機能のチェック及び運動指導等に要した経費
補助率:3/4、上限額:100万円 - ・職場環境改善コース【既存】…1年以上事業を実施している事業場において、高年齢労働者にとって危険な場所や負担の大きい作業を解消する取組に要した経費(機器等の購入・工事の施工等)
補助率:1/2、上限額:100万円 - ・コラボヘルスコース【既存】…• 事業所カルテや健康スコアリングレポートを活用したコラボヘルス等の労働者の健康保持増進のための取組に要した経費
補助率:3/4、上限額:30万円
令和7年の申請はまだ開始されていませんので、厚生労働省のホームページを随時ご確認ください。
多様な働き方の提供
シニア人材が、自身の健康状態や私生活の事情に適した形で働けるよう、多様な働き方の選択肢を設けることも重要です。シニア人材が無理なく働ける勤務時間や日数を設定するだけでなく、働く曜日や時間を柔軟に選べる制度や在宅勤務制度の導入など、多様な働き方を認めることで、シニア人材が高い意欲を持って仕事に取り組むことができます。
学び直しの支援
シニア人材に長く活躍してもらう上では、学び直しの機会を提供することも大切です。社内外のセミナーや研修の機会を設けるなどしてスキルアップを支援することで、シニア人材が能力を高めながら、やりがいを持って働くことができます。シニア人材の活躍の幅が広がるだけでなく、他の人材への知識の伝達が進み、全体の能力の底上げにつながるというメリットもあります。
また、シニア人材との面談を通して、希望する働き方や、仕事に活かせる強みや経験を話し合うことで、シニア人材が今後のキャリアをイメージしながら働くことができます。50歳頃から、定年後の働き方に関する説明会や面談を設けることも、シニア人材の活躍推進に効果的です。強みや経験を活かせる部署への異動や登用も、シニア人材のモチベーション向上につながります。
シニアが活躍する仕組みが職場環境改善を実現
労働災害や熱中症予防策や柔軟な働き方の推進など、シニア人材活躍に向けた取り組みは、育児・介護等と仕事を両立したい人や心身に不安を抱える人など、多様な人材が働きやすい職場を実現します。
また、さまざまな年代が働きにくい時間帯や弱点をお互いに補い合うことができ、優秀な人材が離職せず、定着するというメリットもあります。全社的な業務効率向上のためにも、シニア人材活躍という視点で、職場環境の整備を進めてみてはいかがでしょうか?
記事執筆
バックオフィスラボ編集部(リコージャパン株式会社運営)
バックオフィスラボは、バックオフィス業務を「総務」「経理」「人事労務」「営業事務」「法務」「経営企画」の6つに分類し、法令解説や最新トレンド紹介など、バックオフィス業務の改善に役立つヒントを発信しています。
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