成功事例から学ぶCRM|効果的な導入・活用のポイントを徹底解説
2025年05月30日 07:00
この記事に書いてあること
顧客のニーズに対応し、長期的に良好な関係を築いていく上で欠かせないツールとして「CRM」が挙げられます。CRMツールを効果的に活用するには、導入目的や期待する効果、必要とする機能などを明確にした上で、運用体制を整えておくことが重要です。
この記事では、CRMの基本から事例を踏まえたツールの導入・活用方法まで、わかりやすく解説しています。CRMを効果的に導入・運用するためのポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
CRMとは
はじめに、CRMの基本を整理しておきましょう。CRMの定義やツールによって収集・管理される情報、CRMツールを活用するメリットや注意点を押さえておくことが大切です。
CRM:Customer Relationship Management
CRMは「Customer Relationship Management」の略で、「顧客関係管理」や「顧客管理」と訳されます。顧客ごとの情報を蓄積・管理・分析し、個々に合ったサービスを提供することにより、顧客満足度やブランドロイヤルティの向上を目指すマーケティング戦略や仕組みのことです。
近年では、こうした戦略や仕組みを実現するツールそのものが「CRM」と呼ばれているケースが多く見られます。CRMツールを活用する主な目的は、長期的な視点から顧客と良好な関係を築き上げ、顧客生涯価値を最大化するとともに、収益アップを目指すことです。このように、CRMの根底には顧客中心の考え方があります。
CRMで収集・管理される情報
CRMで収集・管理される情報は、定量データと定性データに分けられます。具体的なデータの例は下記のとおりです。
定量データ
- ・名前や性別、年齢、職業などの属性情報
- ・メールアドレス、住所、電話番号などの連絡先情報
- ・商品やサービスの購買履歴
定性データ
- ・アンケート情報
- ・カスタマーセンターなどで蓄積したお客様の声やクレーム、問い合わせの履歴
CRMをベースとしたマーケティングにおいては、まず上記のような顧客データを収集し、顧客のニーズや購買行動の分析に役立てます。ついで同じ属性や類似する行動パターンが見られる顧客ごとに分類し、顧客セグメントに応じたマーケティング施策や営業活動を展開していくのが基本的な流れです。
こうして講じられた施策の結果についても蓄積することでPDCAを回すとともに、顧客セグメントの見直しや次の分析・戦略・施策へと活かしていきます。
CRMを活用するメリット
CRMの活用イメージ

CRMシステムを活用して、顧客ごとに最適なサービスやコンテンツを提供できる
- ・顧客情報を一元管理できる
- ・データがリアルタイムで更新・共有される
- ・顧客満足度の向上につながる
- ・データにもとづくプロセスや戦略の改善が可能になる
CRMシステムの最大のメリットは、顧客情報を一元管理できる点です。社内全体で顧客情報を共有することにより、部署や部門の垣根にとらわれず、相互連携しながら適切な顧客対応ができます。データはリアルタイムで更新・共有されるため、対応漏れやダブりをなくすだけでなく、タイムリーなアプローチが可能となり、顧客満足度向上にもつながる点も大きなメリットです。
また前述したように、CRMシステムに蓄積された過去のデータを活用、繰り返しPDCAサイクルを回していくことで、プロセスや戦略の改善、より精緻なマーケティング活動を展開できるでしょう。
CRMを活用する際の注意点
- ・システムの導入・管理・運用にコストがかかる
- ・導入効果を数値で把握するのは容易ではない
- ・成果が出るまでに時間がかかる場合がある
CRMシステムの導入にあたり、避けられないデメリットの1つはコストの問題です。システムを導入するための初期費用のほか、管理や運用に必要なランニングコストもかかります。
さらに、CRMの効果は顧客満足度など数値化が難しく、成果が出るまでに時間がかかることもデメリットの1つです。CRM本来の目的や狙いを達成するためには、たとえ顕著な効果が実感できなかったとしても改善を繰り返し、ツールの活用が定着するまでじっくりと取り組むことが大切です。
事例から学ぶCRM導入:活用方法5選

顧客情報の管理と活用と聞いても、どこかピンとこないという方もいるでしょう。実際によく見られるCRMの用途を踏まえて、主な活用方法を紹介します。
実店舗でポイントカード情報を活用する
活用方法
実店舗でCRMが活用されている事例として、ポイントカードが挙げられます。ポイントカードには、発行時に顧客が入力・記入する情報だけでなく、発行後も「いつ・どこで・誰が・どのような商品を購入したか」といった購買行動データが蓄積されていくからです。こうしたデータを活用することで、顧客のニーズに合わせたDMの送付や、ポイントに応じて店舗で利用できる割引クーポンの発行など、再来店を促す施策を展開できます。
CRMの活用効果
ポイントが貯まっていくメリットを顧客が実感することで、「さらにポイントを貯めよう」「またこの店で買い物しよう」といった再来店の動機を醸成できます。また、ポイントカードが提示されるごとに「いつもありがとうございます」といったコミュニケーションがとれることも重要な点です。気持ちの良い接客を受けることで、顧客は自身が大切に扱われているという特別感を抱くでしょう。このように、ポイントカードの有効活用は顧客ロイヤルティを高める上でも有効な施策といえます。
LINE公式アカウントとひも付けて活用する
活用方法
LINEアカウントとCRMをAPIなどで連携すれば、自社内に蓄積された年齢や性別などの属性情報や、Webサイトの閲覧といった顧客行動をもとにセグメントを設定し、メッセージを送り分けられます。また、購買データやメールの開封履歴に応じて、LINEを通じてユーザーにタイムリーにプッシュ通知を送ることも可能です。
CRMの活用効果
顧客ごとにパーソナライズされた情報を提供することにより、顧客の興味や関心、顧客の行動に合わせて最適なアプローチができます。こうした施策を通じて、顧客満足度の向上に寄与する点が大きなメリットです。
DMP(データマネジメントプラットフォーム)と連携させる
活用方法
インターネット上で広告を配信するのであれば、CRMのデータをDMPに反映させるという方法があります。DMPとはデータマネジメントプラットフォームの略称で、自社サイトに訪れた顧客の行動や属性情報など、別々で管理されているデータをまとめた上で分析し、顧客とのコミュニケーションを最適化するためのプラットフォームの総称です。
DMPには「プライベートDMP」と「パブリックDMP」があります。プライベートDMPとは企業が蓄積した独自のデータ(たとえば顧客の購買情報や各種プロモーション施策のデータなどと外部データ)を組みあわせて活用するためのDMPです。一方、パブリックDMPとは第三者が提供する自社以外のサイトやメディアで収集されたデータを活用するためのDMPのことを指します。CRMと連携することで効果を発揮するのは、プライベートDMPです。
CRMの活用効果
CRMに蓄積されたデータを活用することで、顧客ごとの興味関心に沿った広告を配信可能です。これにより、広告のクリック率やコンバージョン率を高める効果が期待できます。
アドレサブル広告のターゲット設定に活用する
活用方法
アドレサブルは「アドレスを特定できる」という意味で、企業が保有する顧客データ(CRMデータ)をもとに、ユーザーを特定して広告を配信する手法がアドレサブル広告です。自社の保有する顧客データをベースにターゲットを設定できることが、アドレサブル広告の強みといえます。
CRMの活用効果
自社の優良顧客を分析し、似たような傾向のユーザーに特化して広告を配信することで購入率を高めたり、長期間製品やサービスを購入していない休眠顧客に対して、キャンペーンなどの告知を行い再度の購入を促進したりすることが可能です。
既存顧客との継続的な関係構築はもちろん、精度の高い自社データを広告に活用することで、新規顧客獲得における費用対効果の改善も見込めるでしょう。
メールマーケティングに活用する
活用方法
CRMはメールマケーティングにも活用できます。メールマーケティングとは、メールマガジンを通して顧客へ情報提供を行い、顧客と継続的な関係につなげていくマーケティング手法のことです。CRMのデータを活用することで、年齢や在住地などの属性ごとに顧客を細分化し、一人ひとりに適したメールを送信するシステムを構築できます。
CRMの活用効果
メールマガジン登録者に対して一律に同じ情報を届けるのではなく、顧客ごとに興味をひく情報を的確に提供できます。これにより、メール開封率の向上や自社サイトへの効果的な誘導につなげられる点が大きなメリットです。
事例から学ぶCRM導入:成功事例

CRMシステムやツールを効果的に運用するには、導入に成功した事例を参考にするのも有効な方法です。ここでは5社の成功事例を紹介します。
クラウド & タブレットによる情報共有|株式会社プロントコーポレーション
株式会社プロントコーポレーションは、直営店とフランチャイズをあわせて、全国に約300店舗の飲食店を展開する企業です。同社では、店舗のサービス品質の維持・向上を目的として、担当のスーパーバイザーが各店舗を毎月3回訪問し、経営面のサポートや接客指導を行っています。
一人あたり平均して10店舗を担当しているスーパーバイザーの業務は多忙を極めます。かつては月次のデータ集計に2週間、課題検討までには1カ月もかかるというタイムロスが発生していました。
CRM活用方法
各スーパーバイザーが円滑に業務を進められるよう、CRMシステムを導入。さらにスーパーバイザー全員にタブレットを貸与し、クラウド上の店舗情報をいつでも、どこからでも閲覧・編集できる環境を提供しました。
得られた成果
従来は2週間かかっていたデータ集計がリアルタイムに行えるようになり、タイムロスを大幅に減少させることに成功しました。
ファンサイト開設による来店促進|株式会社はなまる
株式会社はなまるは、セルフ式うどん店として知られる「はなまるうどん」を運営する企業です。かつては約3万人のメルマガ会員に向けて、キャンペーンの情報やクーポンなどを定期的に配信していましたが、SNSやスマートフォンの普及とともに、メルマガだけでは顧客とのコミュニケーションに限界を覚えるようになりました。
CRM活用方法
従来のメルマガ施策に代わるWebコミュニケーションの"基盤"として、SNSマーケティングプラットフォームを活用した顧客向けコミュニティサイト「はなまるうどん ファンサイト」を開設しました。XやInstagramといった公式SNSもファンサイトに集約し、新たなCRM施策を2015年から開始しました。
また、登録時には顧客の属性情報のほか「店舗の利用頻度」や「商品を選ぶ際に重視するポイント」といった定性的な情報もアンケートで取得し、顧客のニーズや嗜好を把握することで、マーケティングの精度向上につなげています。
得られた成果
店内ポスターやPOP、FacebookなどのSNSアカウント、自社サイトをはじめとしたオウンドメディアを通じて顧客に再登録を促しました。この施策により、従来会員の推定アクティブ率を上回る約3割の利用者が新たにコミュニティサイトへ登録、約1年で2万人以上の顧客ネットワークを確立できました。さらに、店舗で利用できるクーポンの利用率が従来のメルマガ経由と比較して3倍に上昇するなど、CRMの基盤を変えたことで、大きな成果を上げています。
デジタル改革で店舗とECの顧客情報を一元管理|ロクシタンジャポン株式会社
ロクシタンジャポン株式会社は、南仏発祥の化粧品メーカー「ロクシタン」を国内で展開する企業です。同社は日本進出直後から、個性的なDMによりブランドのファンを増やした歴史があります。
しかし、ECサイトやSNSといった顧客接点の多様化により、Webとリアル(実店舗)両方の顧客データを活用したマーケティング施策が求められていました。
CRM活用方法
はじめに着手したのが実店舗とECの顧客データの一元化です。両方の会員IDを統合することで、一人の会員が「いつ」「どこで」「何を」「いくらで」「何回」購入したかが把握できるようになりました。それらのデータを分析した結果、実店舗とEC両方で購入する「オムニチャネル顧客」の存在と、それらのお客様は単一チャネルで購入する顧客に比べ、2〜3倍近く購入頻度が高いことが明らかになりました。
さらに、ECと店舗の「垣根」を取り払うため、ECの売り上げを店舗の評価にも反映する仕組みを導入しました。CRMチームのKPI(中間目標)は、オムニチャネル顧客からの収益に設定しています。
得られた成果
ロイヤルティの高い顧客の購買行動のパターンを特定し、メルマガやDM、LINE、ECサイトのレコメンド機能など、顧客の属性に応じた最適なコミュニケーションを行った結果、オムニチャネル顧客の数を前年比で27%増加させることに成功しました。
顧客とのコミュニケーションの深化を実現|レバレジーズ株式会社
人材紹介サービスを手がけるレバレジーズ株式会社では、事業部間で顧客情報を共有できていないことによるコミュニケーションミスが課題となっていました。また、事業拡大に伴い業務管理工数が増加。社内でのコミュニケーションミスの抑制と社内業務の管理工数削減を両立させる必要がありました。
CRM活用方法
同社はCRMツールを活用し、各事業部が蓄積してきた情報を統合しました。複数事業部で顧客ごとの状況を共有し、どの顧客に対してどういったアプローチをしているのかを営業メンバー全員が把握できるようにしました。
得られた成果
営業メンバー全員が顧客へのアプローチ状況を随時確認できるようになったことで、顧客との間ですれ違いや行き違いが生じるケースが大幅に減りました。また、顧客の状況が可視化されたことにより、それぞれの顧客に対して講じるべきアプローチが明確になったことも大きな成果の1つです。さらに、CRMツールですべての情報を一元管理できるようになり、顧客情報の確認作業が大幅に効率化されました。
メールマーケティングのパーソナライズに成功|アルペンローゼ株式会社
オーガニック素材を使ったナチュラル化粧品の製造・販売を手がけるアルペンローゼ株式会社では、ECサイトと直営店にて製品を販売しています。ECサイトでも直営店のような顧客体験を提供するには、顧客一人ひとりに合ったコミュニケーションの仕組みを確立する必要がありました。
CRM活用方法
直営店・ECサイト双方の購買情報をCRMで一元化し、ステップメール施策に活用しました。顧客一人ひとりに合わせたタイミングと内容でメールを出し分けることにより、実店舗と同じようなパーソナライズされた顧客体験の提供を推進しました。
得られた成果
ステップメールのシナリオを顧客ごとに最適化した結果、開封率・クリック率が顕著に上昇しました。実店舗で培った商品への信頼性と、ステップメール施策による顧客体験の提供が相乗効果を生み出し、優良顧客の創出に寄与しています。
CRMを効果的に導入・運用するためのポイント5選

CRMは顧客との良好な関係構築に役立つツールですが、ただ導入するだけでは十分な効果が得られません。CRMを効果的に導入・運用するためのポイントを押さえておきましょう。
ポイント1:導入目的や期待する効果を明確にしておく
CRMに限らずいえることですが、ツールを導入する際には解決したい課題や目指すべきゴールを決めておくことが重要です。CRMの導入によって解決できる課題は多岐にわたります。たとえば、顧客満足度の向上を図りたいのか、営業活動を効率化したいのかによって、CRMに期待する効果は大きく異なるでしょう。
まずは現状の課題を整理し、CRM導入によってどのような変化を望んでいるのか、どの課題を解決したいのかを明確にしておく必要があります。
ポイント2:具体的な数値目標を設定する
次に、具体的な数値目標を設定していきます。目標達成に至るまでの各プロセスにおいて、達成していくべきKPIを定めておくことが大切です。
KPIはCRM導入の効果測定に役立つだけでなく、各部門や担当者にとっての道標にもなります。KPIを設定する際には、「目標達成のためにいつまでに誰が何をするのか」を整理し、過去の業績などをベースに実現可能な目標値を設定しましょう。また、KPIの達成状況を見ながら、適宜戦略の見直しを図るのも重要なポイントの1つです。
ポイント3:運用体制を整えておく
CRMを運用していくための体制を整えておくことも大切です。CRMはあくまでも顧客中心の施策を実現するためのツールであることから、部門や担当者によって運用方法に違いが見られたり、期待する効果に対して温度差が生じたりするようでは本末転倒といわざるを得ません。あらかじめ関連部門の合意や理解を得た上で、調整役を立てたりプロジェクトチームを組んだりするなど、体制を整えておきましょう。
また、CRMを継続的・安定的に運用していくには、共通のルールを定めることも重要です。社員がCRMの運用方法について迷うことがないよう、大枠のルールを決めておきましょう。ルールは細かく決めすぎないようにするとともに、定期的に見直すのがポイントです。
ポイント4:必要な機能を明確にする
CRMと一口にいっても、ツールによって搭載されている機能はまちまちです。自社が解決すべき課題に立ち返り、課題解決に必須の機能が備わっているかどうかを確認しましょう。また、将来的に事業や商品ラインナップを拡充することも見据え、拡張性のあるツールかどうかを見極めることも重要なポイントです。
CRMは必ずしも「高機能=導入効果が高い」とは限りません。確実に定着が見込める必要最低限の機能を選んでスタートすることをおすすめします。また、導入時の要件定義やデモの際には、関連部門のすべての関係者に参加してもらうのが望ましいでしょう。部門ごとの意見を集約することにより、本当に必要な機能は何か、使いこなせるツールかどうかなどを見極めやすくなるからです。
ポイント5:既存顧客を対象とした運用からスタートする
CRMが定着し、効果を発揮するにはある程度の時間を要します。まずは導入効果が得られやすい既存顧客から適用し、優良顧客化を目指しましょう。成功体験を積み上げつつ、効果を確認しながらPDCAを回すことが、着実な運用定着を実現するポイントです。
顧客中心のCRM活用が成功のポイント
今回紹介したとおり、CRMは幅広い活用方法があり、顧客との関係構築や信頼の醸成に役立つツールです。一方で、CRMはあくまでも顧客情報を管理するためのツールに過ぎないともいえます。導入・運用に当たっては、常に顧客中心の戦略・施策設計を心がけることが重要です。この記事で紹介した活用事例・成功事例を参考に、ぜひ顧客とのより良い関係構築に寄与するCRMの活用を実現してみてはいかがでしょうか。
記事執筆
ダイレクトマーケティングラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
「ダイレクトマーケティングラボ」では、デジタルと紙の特性を理解しているリコーが、販売促進やマーケティングに携わるすべての方に、企業と顧客との最適なコミュニケーション施策のヒントをお届けします。
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