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カーボンニュートラルとは?脱炭素との違いや企業別の取り組みを紹介

From: GXラボ

2024年09月18日 11:00

この記事に書いてあること

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスを実質ゼロにすることです。昨今、地球温暖化が深刻となり、CO2をメインとした温室効果ガスの削減は世界的な課題となっています。日本政府は、2020年10月に「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言しました。

この記事では、カーボンニュートラルとは何か、注目される背景、実現に向けた目標や取り組みなどを詳しく解説します。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を全体でゼロにすることです。“全体で”という言葉は、排出してしまった温室効果ガスについては同量を吸収または除去し、実質ゼロにすることを意味します。

カーボンニュートラルを目指すには、温室効果ガスの排出を大幅に削減する必要があります。しかし、温室効果ガスを最初から全く排出しないということは今のところ難しいため、排出した分を植林や森林管理といった人為的な活動で吸収・除去し、差引するとゼロになる状態がカーボンニュートラルなのです。

脱炭素との違い

カーボンニュートラルと似た言葉に、「脱炭素」があります。脱炭素とは、CO2の排出をゼロにすることです。化石燃料に含まれる炭素が燃やされると、大量のCO2が排出されます。このCO2は温室効果ガスの大部分を占めているため、脱炭素を目指すことで温室効果ガスを大幅に削減することが可能です。

カーボンニュートラルがCO2に加えメタン、一酸化二窒素、フロンガスなどを含む温室効果ガス全体の排出量を実質ゼロにするのに対し、脱炭素は二酸化炭素CO2の排出量をゼロにする状態を指します。

また、カーボンニュートラルは排出量から吸収・除去した量を差し引きして温室効果ガスの実質ゼロを目指すのに対し、脱炭素は排出そのものをゼロにすることを目指します。

ただし、脱炭素は世界的に定義されている言葉ではありません。そのため、温室効果ガスを実質ゼロにするという意味で、「カーボンニュートラル」と同義で扱われる場面が多いようです。

関連記事:脱炭素とは?必要性や日本・各国の取り組み・できることについて説明

カーボンニュートラルの実現に向けた目標

世界各国でカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが行われています。2021年4月時点で、世界125カ国1地域が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると表明しています。

カーボンニュートラルの実現に向け、いつまでにどれだけ温室効果ガスを削減するのか、代表的な国の主な目標は以下の表のとおりです。

  カーボンニュートラルの目標
日本 2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減する。さらに50%削減に向けて挑戦する
EC 2030年に1990年比で少なくとも55%を削減する
イギリス 2030年に1990年比で少なくとも68%削減する
アメリカ 2030年に2005年比で5052%削減する。2035年までに発電部門の温室効果ガス排出をゼロにする
中国 2030年までに2005年比でCO2排出を65%減少させ、2060年までに炭素中立を達成するように努める

参考:経済産業省 資源エネルギー庁「第1部エネルギーをめぐる状況と主な対策 第2章2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と取り組み 第2 諸外国における脱炭素化の動向」

カーボンニュートラルが必要とされる背景

前述したように、世界的にカーボンニュートラルを目指した取り組みが行われている背景には、主に2つの要因があります。

一つ目は、環境的な要因です。2023年の世界の平均気温は、1991~2020年の30年間の平均値に比べて0.54度上がっており、様々な変動を繰り返しながらも長期的には100年あたり0.76度の割合で上昇しています。

出典:気象庁|世界の平均気温

現在でも世界中で地球温暖化による影響が出ています。このまま平均気温が上がり続けた場合、異常気象による洪水や、食糧・水不足、海面の上昇、生態系の変化などさらなる深刻な影響が想定されます。地球温暖化の主な原因は温室効果ガスと言われているので、カーボンニュートラルが実現すれば、地球温暖化の抑制にも繋がるのです。

二つ目は、経済的な要因です。カーボンニュートラルを実現する取り組みは、産業構造の大きな転換点となり得ます。温室効果ガスの排出を大幅に抑えるためには、今までの産業構造とは全く違う仕組み作りが求められます。これに従い、社会経済の変革が起き、投資が促されるでしょう。カーボンニュートラルを目指すことは、経済的に大きく成長を遂げるチャンスでもあるのです。

カーボンニュートラルの実現に向けた国の政策

2020年10月の臨時国会の所信表明にて、日本政府は「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言しています。

それに伴い2021年6月、日本政府はカーボンニュートラルの実現に向け「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。グリーン成長戦略とは、産業政策とエネルギー政策の両方で成長が期待される14の成長分野について、実行計画を策定したものです。国はそれぞれの分野に目標を掲げて、具体的な見通しを示しています。

カーボンニュートラル実現に向けた日本の戦略

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の14の分野と、分野ごとの目標は以下のとおりです。

成長が期待される分野 目標
洋上風力・太陽光・地熱
  • ・海上風力の導入を2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万kW〜4,500万kWにする
  • ・太陽光は2030年を目処に普及段階に移行できるよう次世代型太陽電池を重点化する
  • ・地熱は次世代型地熱発電技術の開発を推進する
など
水素・燃料アンモニア
  • ・水素の国内導入を2030年に最大300万トンに、2050年に2,000万トン程度にする
  • ・水素の共有コストを2050年に20円/Nm3程度以下にする
  • ・2030年までに石炭火力の20%を燃料アンモニア混焼にする
など
次世代熱エネルギー
  • ・2050年に都市ガスをカーボンニュートラル化する
  • ・統合エネルギーサービス企業への転換を図る
  • ・合成メタンの安価な供給を実現する
など
原子力
  • ・国際連隊を活用して高速炉開発を着実に推進する
  • ・2030年までに国際連隊により小型モジュール炉技術を実証する
  • ・2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術を確立する
など
自動車・蓄電池
  • ・乗用車は2035年までに新車販売で電動車100%を実現
  • ・2030年までのできるだけ早期に、国内の車載用蓄電池の製造能力を100GWhまで高める
  • ・2030年までに1,000基程度の水素ステーションを最適配置で整備
など
半導体・情報通信
  • ・次世代パワー半導体や環境配慮型データセンターなどの研究開発支援を通して、半導体・情報通信産業の2040年のカーボンニュートラル実現を目指す
  • ・データセンターの国内立地・最適配置を推進する
など
船舶
  • ・近距離・小型船向けには、水素燃料電池システムやバッテリー推進システムの普及を促進
  • ・内航海運のカーボンニュートラル推進に向けたロードマップを2021年中に策定し、必要な制度構築を含めた取り組みを推進
  • ・LNG燃料を低速航行、風力推進システムなどと組み合わせ、CO2排出削減率86%を達成
など
物流・人流・土木インフラ
  • ・高速道路利用時のインセンティブを付与し、電動車の普及を促進
  • ・過疎地域などにおけるドローン物流の実用化に向け、制度面の整備、技術開発及び社会実装を推進
  • ・2025年「カーボンニュートラルポート形成計画」を策定した港湾が全国で20港以上となることを目指す
など
食料・農林水産業
  • ・高速加温型ヒートポンプなどの開発を通じて、2050年までに化石燃料を使用しない園芸施設への完全移行
  • ・木質建築部材の開発・工法の標準化などを図り、2040年までに高層木造の技術を確立
など
航空機
  • ・電池、モータ、インバーターなど、航空機の動力としてのコア技術については、2030年以降段階的に技術搭載することを目指す
  • ・燃料タンクやエンジン燃料といった、水素航空機が成立するために必要不可欠なコア技術の研究開発を推進
など
カーボンリサイクル・マテリアル
  • ・低価格かつ高性能なCO2吸収型コンクリート、CO2回収型のセメント製造技術を開発する
  • ・カーボンフリーな合成燃料を2040年までに自立商用化、2050年にガソリン価格以下とする
  • ・2050年に人工光合成によるプラスチック原料について、既製品と同価格を目指す
  • ・「ゼロカーボン・スチール」の実現に向けた技術開発・実証を実施する
など
住宅・建築物・次世代電力マネジメント
  • ・住宅についての省エネ基準適合率の向上に向けて、さらなる規制的措置の導入を検討
  • ・省エネの大量導入に伴う電力系統の混雑解消のため、デジタル技術や市場を活用した次世代グリッドを構築
など
資源循環関連
  • ・2030年までにバイオプラスチックを約200万トン導入
  • ・リサイクル性の高い高機能素材やリサイクル技術の開発・高度化、回収ルートの最適化、設備容量の拡大に加え、再生利用の市場拡大を実現
  • ・低質ごみ下で高い効率でエネルギー回収を実施するための技術開発を推進
など
ライフスタイル関連
  • ・観測・モデリング技術を高め、地球環境ビッグデータの利活用を推進
  • ・ナッジ*やデジタル化、シェアリングによる行動変容を実現
  • ・地域の脱炭素化を推進し、その実践モデルを他の地域や国に展開
など

*ナッジ(nudge):[そっと後押しする]の意。人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法

参考:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

カーボンニュートラル実現に向けた各国の戦略

続いて、カーボンニュートラルの実現に向けた各国の戦略について紹介します。

国名 戦略
EU 欧州グリーンニューデールを推進。ロシアからの化石燃料の輸入への依存体質から脱却するために「REPowerEU」などを計画
イギリス 「クリーン成長戦略*」「グリーン産業革命に向けた 10項目」を推進。70GWの出力が可能な太陽光発電設備の増設(2035年まで)など
アメリカ 「インフレ削減法」「インフラ投資雇用法」を推進。2030年までに国内の新車についてゼロエミッションカーが50%となる状態を目指す
 中国 2030年までにカーボンピークアウト、2060年までにカーボンニュートラルの推進を計画。省エネルギー技術や再生可能エネルギーの活用、電気化交通の推進など

*クリーン成長戦略(Clean Growth Strategy):2017年に英国政府が発表した低炭素化に向けた戦略

なお、カーボンニュートラルへの取り組みについては以下の記事もあわせてご参考ください。

関連記事:カーボンニュートラル対策は世界でどのように取り組まれている?企業、個人ができる対策も紹介

カーボンニュートラルの実現に向けた企業の取り組み

これまで、日本を含む各国でカーボンニュートラルへの取り組みが実践されていることを紹介してきました。しかし近年では、企業としてもカーボンニュートラルへ取り組む必要性が高まってきています。

ここからは、日本と海外それぞれにおける、カーボンニュートラルに向けた企業の取り組み例を紹介していきます。

カーボンニュートラル実現に向けた日本企業の取り組み

まずは、日本企業におけるカーボンニュートラル実現に向けた取り組みです。

企業名 内容
トヨタ自動車株式会社 2050年までのカーボンニュートラル実現を目指して「トヨタ環境チャレンジ2050」と題し、「新車CO2ゼロチャレンジ」と「工場CO2ゼロチャレンジ」の2つの目標を設定

出典:TOYOTA|トヨタ自動車、「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表
三井不動産株式会社 グループ内における全体の温室効果ガス排出量を2019年度比で2030年度までに40%削減することを目標に設定

出典:三井不動産株式会社|脱炭素社会実現への取り組み
セコム株式会社 「セコムグループ カーボンゼロ2045」として、サプライチェーン全体で温室効果ガス排出の削減に取り組むことが重要であるという認識のもと、スコープ3の温室効果ガス排出についても新たな中長期目標を設定

出典:SECOM|地球温暖化防止
日本海運株式会社 2030年までにSCOPE 1,2におけるCO2排出量を2013年度比で50%削減することを目標に設定

出典:NIPPON EXPRESSホールディングス|ニュースリリース

上記で紹介した企業の中には、2018年度比で2022年に10.7%の削減が実現したセコム株式会社のように、既に成果を出している企業もあります。そのような企業の取り組み事例を参考にして施策を立てると良いでしょう。

カーボンニュートラル実現に向けた海外企業の取り組み

続いて、海外企業の取り組み事例を紹介していきます。

d企業名 内容
パタゴニア 2025年までにサプライチェーン全体におけるカーボンニュートラルの実現を目指し、現在は主にCO2総排出量の大半を占める素材の製造工程でのカーボンニュートラルに取り組む

出典:patagonia|2025年までにカーボンニュートラルになる
カルティエ 2020年にカーボンニュートラルの実現に成功し、今後はカーボンネイティブの実現を目標に設定

出典:Cartier|エネルギーおよび排出量
ダノン 3億円を投資してカーボンニュートラルに向けた新工場を建設、また事業所で使用する電力をすべて再エネから調達

出典:DANONE|ダノン、3年連続でCDPのトリプルAを獲得
スターバックス 「リソースポジティブ」を理念に掲げ、2030年までにカーボンニュートラルなグリーンコーヒーの実現を目指す

出典:STARBUCKS|スターバックスが掲げる、コーヒーに関する環境目標
GAP 各店舗におけるエネルギー管理システムの改善や、エネルギー効率がより良い空調設備の導入など

出典:Gap Inc.|気候

海外の企業では、既にカーボンニュートラルの実現に成功しているカルティエをはじめ、事業所の電力を再エネで100%賄っているダノン、本社から直営小売店舗まで再エネ利用率100%を達成しているGAPなど、日本よりも一歩先を進んでいる企業が多い状況です。

カーボンニュートラルの実現に向けた個人ができる取り組み

最後に、カーボンニュートラルの実現に向けて、個人でできる取り組みについて紹介します。

取り組み例 内容
エネルギーを節約・転換する 省エネ家電の導入や消費エネルギーの見える化、再エネ電気への切り替えなど
住居に太陽光パネル・蓄電池を設置する 太陽光パネルの設置や住宅のZEH化、蓄電池の導入など
CO2排出の少ない交通手段・製品・サービスを使う スマートムーブの導入やゼロカーボン・ドライブの実行、個人のESG投資、脱炭素型の製品・サービスの選択など
サステナブルなファッションをする 環境に配慮したものを着る、長く着られる服を選ぶなど
食品ロスをなくす 冷蔵庫の整理を行う、残り物を活用する、自宅でコンポストを活用するなど

国や企業が行っている取り組みと聞くと、自分には無関係だと捉えてしまう人も少なくありません。しかし、カーボンニュートラルの取り組みに関しては、個人レベルでも実践できることが多いです。例えば、冷蔵庫の中身を整理し、残り物を捨てないように活用するなど、日常で取り組めるものもあります。

まとめ

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスを全体としてゼロにすることです。現在、地球温暖化が世界的に問題視されており、原因となる温室効果ガスの削減に各国が取り組んでいます。さらに、カーボンニュートラルの実現は、環境問題の解決だけではなく、社会経済の変革を起こし、経済成長に繋がるとも期待されています。

ここに挙げた例以外でも、各分野において省庁や自治体、民間企業は、カーボンニュートラルに向けてCO2の削減や新エネルギーの利用に取り組んでいます。政府、自治体、企業、個人といった主体が連携し、協力してカーボンニュートラルの実現に向けて努力することが重要です。


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