
カーボンクレジットとは?仕組みや種類、問題点やビジネスモデルの例を紹介
2024年12月23日 17:49
この記事に書いてあること
地球温暖化は、異常気象の頻発、海面上昇、生物多様性の喪失など、様々な問題を引き起こしています。その主な原因は、人間の活動による温室効果ガスの排出だとされています。
このような地球温暖化に対する対策の柱として、カーボンニュートラルへの対応が世界各国で取り組まれております。
各企業もカーボンニュートラル実現に向けてCO2排出量の削減を求められています。
そのような中、企業間でCO2排出削減量を売買する「カーボンクレジット」が注目を集めています。
ここではCO2排出量削減のための一つの手段である「カーボンクレジット」について解説します。
カーボンクレジットとは
カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出削減を促進するためにCO2排出権を取引する仕組みです。
企業や自治体が森林の保護や植林、省エネルギー機器導入などを行うことで生まれたCO2などの温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)をクレジット(排出権)として発行し、他の企業などと取引できるようにしたものです。カーボンクレジットは、温室効果ガスの排出削減量または吸収量を 1 トンあたり 1 クレジットとして認証したものです。
参考:経済産業省|カーボン・クレジット・レポートの概要
カーボンクレジットの現状
世界のカーボンクレジット市場は、2021年に急速に拡大し、4億7800万トンのCO2換算が発行されております。
また、世界銀行の「カーボンプライシングの現状と傾向 2023年」報告によると、2023年4月時点において、世界で導入されているカーボンプライシング政策(二酸化炭素排出に対する価格付けを行う政策であり、排出側での排出抑制を促すことを目的としている)では、世界で排出される温室効果ガスの約23%をカバーしている状況にあり、10年前の報告の7%から大幅な上昇が見られている状況です。
さらにカーボンクレジットの取引価格は上昇傾向を維持しており、2022年の収入は前年比1割増の約950億ドルに達している状況です。
対して、日本では2023年10月に東京証券取引所がカーボン・クレジット市場を開設しました。これは政府のグリーントランスフォーメーション(GX)政策の一環で、企業の自主的な排出量取引制度(GX-ETS)が試行されています。GX-ETSは2026年度以降の本格稼働が予定されており、現状ではJ-クレジットのみが取引対象です。
市場の活性化には、取引対象の拡大や市場調達義務化などが求められており、今後は海外市場との連携も期待されています。
参考:日本貿易振興機構(JETRO)|カーボンプライシング政策、世界で950億ドルの収入、世界銀行推計
カーボンクレジットとカーボン・オフセットの違い
カーボン・オフセットという言葉もよく聞かれるようになりました。カーボンクレジットもカーボン・オフセットも温室効果ガスの排出削減に関連する用語ですが、異なる意味を持っています。
カーボンクレジットは温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)をクレジット(排出権)として発行する仕組みを指します。対してカーボン・オフセットは、日常生活や経済活動において避けることができないCO2などの温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量を減らす対策を行い、どうしても排出される分について排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することで、排出される温室効果ガスを相殺(オフセット)するという考え方です。
カーボンクレジットは、カーボン・オフセットを実現するための手段の一つだと言えます。
カーボンクレジットの取引制度の仕組み
カーボンクレジットの取引制度には、主に「ベースライン&クレジット(削減量取引)」と「キャップ&トレード(排出権取引)」の2つがあります。
ベースライン&クレジット
政府や第三者機関が、事業者ごとに温室効果ガスの排出基準(ベースライン)を設定します。事業者は、ベースラインよりも排出量を削減した場合、その削減量をクレジットとして発行・認証を受けます。事業者は、余剰となったクレジットを他の事業者に売却できるというものです。
キャップ&トレード
キャップ&トレードは、政府が全体的な排出量の上限(キャップ)を設定します。事業者には、排出量に応じて排出権が割り当てられます。排出量が上限より増える場合、事業者は他の事業者から排出権を購入する必要があります。ベースライン&クレジットは日本や韓国などで、キャップ&トレードは、EUや米国などで導入されています。
参考:環境省|炭素クレジット等について
カーボンクレジットの種類
カーボンクレジットは、発行主体やプロジェクトの種類によって分類されます。まず、発行主体では「国連・政府主導型 」と「民間主導型(ボランタリークレジット) 」があります。
国連・政府主導型
国連・政府主導型は国連や政府が主導して発行するクレジットで、京都議定書に基づくCDM(クリーン開発メカニズム)や、パリ協定に基づくJCM(二国間クレジット制度)などが代表的です。厳格なルールに基づいて発行されるため、高い信頼性を持ちます。
CDMは、先進国と開発途上国が、開発途上国において共同で温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、そこで生じた削減量の一部を先進国が自国の削減量に充てることが出来る仕組みです。
JCMは、パートナー国への優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、パートナー国での温室効果ガス排出削減・吸収や持続可能な発展に貢献し、その貢献分を定量的に評価し、相当のクレジットを我が国が獲得することで、双方の国が決定する貢献の達成に貢献する仕組みです。
日本においては、経済産業省、環境省、農林水産省によって運営されるJ-クレジットがあります。
これは省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。
民間主導型
民間主導型は民間団体やNGOなどが発行するクレジットでボランタリークレジットとも呼ばれています。
代表的なものには、VCS(Verified Carbon Standard)や、GS(Gold Standard)があります。
VCSはWBCSD*1や、IETA*2などの民間企業が参加している団体が、2005年に設立した認証基準・制度で、森林や土地利用に関連するプロジェクト(REDD+を含む)や湿地保全による排出削減プロジェクトなど多様なプロジェクトが実施されています。
GSは、2003年にWWF*3等の国際的な環境NGOが設立した認証基準・制度で、自ら第三者認証排出削減量を発行するだけではなく、CDMプロジェクトの中でも、地元共同体への貢献などの付随的な便益を有すると見なされたプロジェクトについては、GSが認証する取組みを行なっています。
*1 WBSD World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議
*2 IETA International Emissions Trading Association:国際排出量取引協会
*3 WWF World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金
カーボンクレジットのメリット
カーボンクレジットを購入するとどんなメリットがあるでしょうか。企業の排出削減目標達成と環境保護に貢献できるほか、経済効果や社会貢献に繋がることが期待できます。まず、売却する企業は自社の削減量を売却することで収益を得ることができます。その収益をもとに更なる排出量の削減に向けた投資をすることが可能となります。
また一方で購入する企業はカーボンクレジットを購入することで、自社の排出量を削減する努力に加え、排出量の一部を相殺(カーボンオフセット)可能です。カーボンクレジットの購入は、に森林保護や植林などの削減・吸収活動を行っているプロジェクトの支援となります。
カーボンクレジット市場は、今後さらに拡大していくと予想されており、企業はカーボンクレジットの取引を通じて収益を得ることができ、経済効果が生まれます。また、カーボンクレジットの購入は、プロジェクトが行われる国や地域の雇用創出や経済発展に繋がります。
参考:経済産業省|カーボン・クレジット・レポートの概要
カーボンクレジットの問題点
排出削減目標達成や環境保護に貢献する重要なツールとなるカーボンクレジットですが、新しい制度だけに問題点もあります。問題としては、クレジットによって質が異なる、クレジットが追加されなくても排出量の表示が認められる、情勢によってクレジットの価格が変動する、生活に影響を与える可能性があることが挙げられます。
クレジットによって質が異なる
カーボンクレジットには、排出量をどれだけ減らしたかを示す削減系と、森林管理や植林等による吸収・除去系があります。これらのクレジットは算定基準や評価方法が不明確で発行元によって認証方法も異なり、品質に対する信頼性に疑問が生じます。
排出量削減努力の消極化
カーボンクレジット購入によるオフセット活用は排出量の削減が難しい企業にとって脱炭素への協力として有効な手段です。しかし、企業がカーボンクレジットを購入しても、排出量削減するための対策が不十分な場合、目的を果たしているとはいえません。あくまでもカーボンクレジット制度は単独でカーボンニュートラルを達成するものではなく、自社の排出量削減努力を最大限行ったうえで補完するための手段のひとつです。
情勢によって価格が変動する
カーボンクレジットには、価格が変動するという課題があります。カーボンクレジットの市場は新しく、メカニズムが十分に確立されていないこと、さらにカーボンクレジットの背景にある気候変動の対策は世界各地の政治・経済・社会的な状況などが複雑に絡み合っているため、価格も影響を受けてしまうのです。
価格が変動する主な要因としては、市場の需給バランスが挙げられます。各国の気候変動対策強化、企業のカーボンニュートラル目標達成への取り組みなどの需要が増えれば価格は上がり、逆に減少すれば下落してしまいます。
また、自然災害やCO2の排出規制の強化、新たな技術開発などもクレジットの価格に影響します。国際的な紛争が起きた場合、 サプライチェーンが停滞してしまうことによって、カーボンクレジットの価格変動を引き起こす可能性もあります。価格が極端に変動すると、市場の信頼性が低下し、カーボンクレジット制度全体の有効性にも関わります。
価格変動のリスクを完全に払拭することはできません。市場の透明性向上や規制の安定性確保などを通じて、価格変動リスクを軽減し、カーボンクレジット市場の健全な発展を図ることが重要です。クレジットの品質や発行量に関する情報の透明性を高め、関係者の理解を深めることが重要です。カーボンクレジット制度を持つ国には政策の安定性と予測可能性、企業には長期的な視点で排出削減に取り組む計画性が求められます。さらに、各国が協力して、統一的な基準やルールを策定し、グローバルなカーボンクレジット市場を構築していくことが課題です。
生活に影響を与える可能性がある
カーボンクレジットの価格上昇はエネルギー価格の上昇につながり、消費者の生活に影響を与える恐れがあります。
こうした問題を克服するため、クレジットの質の向上、排出量の表示制度の改善、市場の安定化など、さまざまな取り組みが求められます。
カーボンクレジットのビジネスモデル事例
カーボンクレジットは、企業の温室効果ガス排出量削減目標達成や、ブランドイメージ向上に貢献するツールとして注目されています。具体的なビジネス活用事例を紹介します。
全日本空輸(ANA)
ANAは2009年から「ANAカーボンオフセットプログラム」を提供しています。これは、お客様が航空機を利用する際に発生するCO2排出量を計算し、その量に相当するカーボンクレジットを購入することで排出量を相殺できるというサービスです。環境問題に関心を持つ顧客の獲得に繋がり、ブランドイメージ向上に貢献するとして、航空業界だけでなく広く注目を集めました。
2023年5月、INPEXと出光興産との3社で、ジェット燃料サプライチェーン全体の脱炭素化に取り組むと発表しました。INPEXと出光興産が、原油の生産からフライト運航時の消費に至るジェット燃料サプライチェーン全体で発生するCO2全量をニュートラル化するためカーボンクレジットを調達し、出光興産がカーボンニュートラル化されたジェット燃料としてANAに供給するというものです。
前述のように、カーボンクレジットは制度が新しく、議論もありますが、ANAのような公共性の高い企業が積極的にビジネスに取り入れることで、普及を促す効果が期待されます。
参考:ANAグループ プレスリリース|本邦初、INPEXと出光興産がサプライチェーン上でカーボンニュートラル化されたジェット燃料をANAへ提供
ローソン
コンビニエンスストアチェーンのローソンは、「CO2オフセット運動」に取り組んでいます。これは、お客様が商品を購入する際に、発生するCO2排出量をクレジットの活用によってオフセットできる仕組みです。環境問題への取り組みをコンビニエンスストアという身近な店舗で消費者と共有し、共感を呼ぶことで、リピート率の向上や競合との差別化が期待できます。
参考:株式会社ローソン|お客さまと取り組む社会・環境活動 CO2オフセット運動
まとめ
カーボンクレジットは、カーボンニュートラルの実現に貢献する重要なツールとなり得ますが、多くの利点がある一方で、解決すべき課題も存在します。制度の可能性を最大限に活かすためには、多方面からの取り組みが必要となります。
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