カーボンニュートラルに企業が取り組む必要性は?国内・海外の事例10選
2024年09月18日 11:00
この記事に書いてあること
カーボンニュートラルに企業が取り組む時には、その必要性やメリット・デメリット、取り組み方をあらかじめ把握しておくことが大切です。
本記事では、企業がカーボンニュートラルの取り組みを始める上で必ず押さえておくべき知識を解説し、優良な取り組み事例を厳選して紹介します。
カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、その排出量を「実質ゼロ」に抑える、という概念です。日本語で直訳すると炭素中立という意味になります。
日本では、2020年の菅前首相の所信表明演説での「2050年までのカーボンニュートラルの実現」という宣言により、政府レベルでの取り組みが進められています。
カーボンニュートラルに企業が取り組む必要性

世界で見ると、先進国では、住宅・ビル・衣類などのほとんどのビジネス取引において、CO2排出量削減の規制に適合する製品・商品・サービスを使用する動きが進んでいます。
CO2排出量削減に取り組んだ製品・商品・サービスを開発することによるメリットが増加する一方、今後、これに取り組んでいない製品・商品・サービスは、ビジネス取引の領域から対象外とされてしまうという予測もされています。
このような世界規模の大きな潮流に企業が淘汰されないように取り組むことは、重要な課題です。
カーボンニュートラルに企業が取り組むメリット

これからの企業成長において重要な課題となるのが脱炭素経営です。
カーボンニュートラルに取り組む企業では、CO2排出量の削減のために製造工程・配送システムから製品・サービスまで様々な取り組みをおこない、企業価値の向上に成功している事例も多数あります。
具体的には、以下のような企業価値の向上につながるメリットがあります。
- ・企業におけるイメージ・評価の向上
- ・光熱費や燃料費などの削減
- ・知名度・認知度の向上
- ・社員のモチベーションの向上
- ・人材獲得のための採用力の強化
- ・好条件での資金調達力の向上
- ・新しいビジネスチャンスの創出
カーボンニュートラルに企業が取り組む方法

企業がカーボンニュートラルに取り組む方法はいくつかあり、様々なCO2排出量削減への方策のなかから、自社において最適な方策を自社の事業に合わせて取り組みをすることが必要となってきます。
ここからは、カーボンニュートラルに企業が取り組む方法について紹介します。
再生可能エネルギーを導入する
CO2排出量削減を目標とするカーボンニュートラルでは、利用時にCO2の排出をしない再生可能エネルギーの導入が有効な手段です。
再生可能エネルギーとは、石油や石炭、天然ガスといった限りのある化石燃料をエネルギー資源とせず、資源が枯渇せずに永続的に繰り返し利用でき、発電時に温室効果ガスを排出させないエネルギーのことです。 再生可能エネルギーを利用した発電方法としては、以下のようなものがあります。
| 再生可能エネルギーによる発電の種類 | 概要 |
| 太陽光発電 | 太陽電池という半導体を使用した太陽光パネルにより、太陽の光エネルギーを電気に変える発電システムです。 比較的容易に自社の敷地や屋上に設置できることから、自家消費型太陽光発電システムとして企業や個人宅でも利用されています。 |
| 地熱発電 | 地下の蒸気や熱水といった地熱エネルギーによって、タービンを回し電力を作りあげるシステムです。 |
| 風力発電 | 山地や丘陵や、海上において風力発電システムを置いて、風の力で電力を作り上げます。 |
| 水力発電 | 水が高いところから低いところに流れるエネルギーで水車をまわし電力を発生させます。 |
| バイオマス発電 | 木材の廃材等の木質燃料、生ごみや糞尿から発生するバイオガス、とうもろこし等から作られたバイオ燃料などを燃焼して発電させるシステムです。バイオマス燃料の燃焼時にはCO2が発生しますが、燃料の成長過程では、光合成によって大気中のCO2を吸収しているので、排出量は相殺されカーボンニュートラルとみなされます。 |
低炭素燃料を導入する
低炭素燃料とは、石油などの化石燃料などに代替するもので加工時にCO2排出量が比較的少ない燃料のことです。
代表的なものとしては、廃食用油など多様な動植物油脂を原料とした第二世代バイオディーゼルや、微細藻類や木材チップ、製材廃材や林地残渣などといったバイオマス原料をもとに製造されるバイオジェット燃料、植物の茎や葉、幹の部分にある成分のセルロースやヘミセルロースを原料とした第二世代バイオエタノールなどがあります。
航空業界はSAF(Sustainable Aviation Fuel)と言われるバイオジェット燃料の導入を促進しており、船舶・海運業界でもバイオ燃料に対する取り組みを始めています。
省エネ対策を実施する
省エネ対策とは、限りある資源が枯渇しないようにするためのもので、効率のよいエネルギー使用の実現のための方策を意味します。前述の再生可能エネルギーや低炭素燃料の導入以外にも、省エネには以下のような対策があります。
- ・LED照明の導入
- ・古い空調設備の更新
- ・エネルギー効率の高い生産設備の導入
- ・OA機器の省エネモードの活用
- ・EMS(エネルギーマネジメントシステム)*の導入
この他にも省エネ診断を受けて、自社の問題点や課題を把握することも有効な手段と言えるでしょう。
また、設備の導入や更新には初期投資が必要ですが、国や自治体などの補助金を利用できる場合がありますのでご検討してみてはいかがでしょうか?
*EMS:電力の使用状況を監視、可視化することで、照明や空調機器を制御し最適なエネルギー運用の管理をおこなうシステム
カーボンオフセットを実施する
企業活動において自らの温室効果ガスの排出量をゼロにすることは非常に困難です。
カーボンオフセットとは、自ら排出量の削減努力を行ったうえで、どうしても排出されてしまう排出量を、他の場所で行われた温室効果ガスの削減・吸収活動に投資すること等で埋め合わせ(オフセット)するという考え方です。
カーボンオフセットの具体的方法として、経済産業省、環境省、農林水産省が運営する「J-クレジット制度」があります。
J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。実際の排出削減・吸収活動の成果をクレジットとして売買できるようにすることで、クレジット購入者もクレジット創出者の排出削減・吸収活動を資金面で支援することができ、社会全体で排出削減・吸収活動が一層推進されます。
国内におけるカーボンニュートラルに取り組む企業の広がり

企業のカーボンニュートラルの取り組みを評価する国際的なイニシアティブ(枠組み)の代表的なものに「TCFD」、「SBT」、「RE100」があります。
- ・TCFD:企業の気候変動への取組、影響に関する情報を開示する枠組み
- ・SBT:企業の科学的な中長期の目標設定を促す枠組み
- ・RE100:企業が事業活動に必要な電力の100%を再エネで賄うことを目指す枠組み
日本の多くの企業がこれらのイニシアチブに取り組んでおり、その数は世界トップクラスになっています。

【国内】カーボンニュートラル実現に向けた企業の取り組み例5選

カーボンニュートラルへ取りかかる前に先進企業の事例から、自社のビジネススタイルに活かせるアイデアを学ぶことは大切です。
カーボンニュートラルに取り組む企業の多くは、その取り組みを自社のWEBサイトなどでしています。ここでは、大手企業5社のカーボンニュートラル実現に向けた企業の取り組み事例をご紹介します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、2015年に持続可能な社会の実現に貢献するための新たなチャレンジとして、「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。 「トヨタ環境チャレンジ2050」は、未来の地球環境のために「もっといいクルマ」「もっといいモノづくり」「いい町・いい社会」の3つの領域で6つのチャレンジを掲げています。
このうち3つのチャレンジでカーボンニュートラルを目指しています。「新車CO2ゼロチャレンジ」では、世界で販売されるトヨタ自動車の新車から排出されるなどの温室効果ガスのカーボンニュートラルを目指すことが目標です。
「工場CO2ゼロチャレンジ」では、製造工程の短縮や、排熱のリサイクル利用で環境に優しい工場として、工場から排出するCO2をゼロにすることが目標です。
「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」では、クルマの走行だけではなく、生産、メンテナンス、廃棄、リサイクル、輸送などのライフサイクル全体でのカーボンニュートラルを目指しています。
参考:トヨタ|環境にやさしいクルマづくり
三井不動産株式会社
三井不動産グループでは、グループ全体の温室効果ガス排出量を2019年度比で2030年度までに40%削減し、2050年までには、ネットゼロにすることを目標として取り組んでいます。
具体的な行動計画は、6項目から成り立っており、①新築・既存物件における環境性能向上、②物件共用部・自社利用部の電力グリーン化、③入居企業・購入者の皆様へのグリーン化メニューの提供、④再生可能エネルギーの安定的な確保、⑤建築時のCO2排出量削減に向けた取り組みがあります。
その他の重要な取り組みでは、森林活用、外部認証の取得、オープンイノベーション、街づくりにおける取り組み、社内体制の整備があります。
参考:三井不動産|脱炭素社会実現への取り組み
セコム株式会社
セコム株式会社では、2021年度に従来の温室効果ガス排出量の削減目標に関して大幅に変更して、「新たな中長期目標「セコムグループ カーボンゼロ2045」を公表しました。
「セコムグループ カーボンゼロ2045」では、再生可能エネルギーの導入、電動車の導入により温室効果ガスの排出量を2030年度に2018年比で45%削減することを目指します。
この目標は、世界の気温上昇抑制に向けた妥当なものであるとして「SBTイニシアチブ※」から認められ、2021年7月に「SBT」認定を取得しています。
*SBTi(Science Based Targets initiative)・・・国際的な気候変動イニシアチブ。企業の設定する温室効果ガス削減目標がパリ協定における「世界の気温上昇を産業革命前より2℃未満に抑える」といった目標に準拠し、科学的根拠に基づいた妥当なものであるかを検証し、認定する
参考:セコム|「セコムグループカーボンゼロ2045」の策定
味の素株式会社
味の素株式会社では、2022年3月にSBTイニシアチブが科学的根拠に基づく方式で目標設定している基準に適合するようにカーボンニュートラルの実現することを宣言しました。
例えば取り組みとしては、2030年度までに温室効果ガスの排出量を50%削減することを目標にしています。その中で各事業拠点における購入電力について非化石証書を調達し、100%再生可能エネルギーへの切り替えを行っています。2022年度には、東海事業所の購入電力を100%再生可能エネルギーに切り替えています。この取り組みは九州事業所でも展開する予定となっています。
参考:味の素|味の素グループ、カーボンニュートラルを新たな目標に設定
参考:味の素㈱、東海事業所の購入電力を100%再生可能エネルギー化
日本通運株式会社
日本通運株式会社では、2030年目標として、SCOPE1,2におけるCO2排出量を2013年度比で50%削減することが目標です。2050年には、NX(NIPPON EXPRESS)グループ全体としてカーボンニュートラルの実現を目指します。
NXグループでは物流網のモーダルシフトを推進しており、鉄道貨物や海上貨物での輸送へと切り替えることで、トラックと比較して大量輸送で環境負荷の低い効率的な輸送手段の活用に取り組んでいます。輸送の主力であるトラックについても環境に配慮した車両の導入を積極的に進めており、CNG車、ハイブリッド車、LPG車などが12,726台(2022年12月31日現在)となっています。
また、物流施設や事務所を新設する際には設置基準が定められており、再生可能エネルギーの利用や、LED化を進めるなど、CO2排出量削減に効果があり設備の導入が基準です。
参考:サステナビリティデータ
参考:Environmental Value
まとめ
カーボンニュートラルの必要性やメリット・デメリットについてしっかり把握することで、変革後のビジネススタイルが、最大限に収益化できるように考えることが必要です。潜在するCO2排出量削減に関する問題性を認識し、CO2排出量の多い領域において、自社に最適な方策とは何かについて考えることも大切です。
スターバックスにおける「リソースポジティブ」からも分かるように、ビジネススタイルの特性に応じたCO2排出量削減の理念も必要と言えます。様々な企業におけるカーボンニュートラルの導入事例に学んで、自社に最適なカーボンニュートラルのための改善策を構築していきましょう。
※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。
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