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カーボンニュートラル対策は世界でどのように取り組まれている?企業、個人ができる対策も紹介

From: GXラボ

2024年09月18日 11:00

この記事に書いてあること

現在、カーボンニュートラルの取り組みは全世界共通の課題であり、企業としてどう対応していくかが問われています。この記事では、企業がカーボンニュートラルの取り組みを始めるべき理由やメリット、実際に取り入れられる対策内容について解説します。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量に対して、排出量そのものの削減や植林、森林管理などによる吸収量で全体としてゼロにするものです。

温室効果ガス(Greenhouse Gasの略称)には、CO2(二酸化炭素)、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)などの7種類があります。現在、工業化以前(18501900年)に比べて1.1度の気温上昇が観測されていますが、今後は、この上昇について1.5度以下に抑制するように2015年にパリ協定が採択されました。

参考:外務省|2020年以降の枠組み:パリ協定

企業ができるカーボンニュートラル対策

企業において、CO2排出量を削減することは、重要な課題です。

ここでは、企業が取り組むカーボンニュートラルの施策をいくつか簡単にご紹介いたします。尚、企業のカーボンニュートラルの取り組みについては、別コラム「カーボンニュートラルに企業が取り組む必要性は?」で詳しくご紹介しております。

関連記事:カーボンニュートラルに企業が取り組む必要性は?

●再生可能エネルギーを導入する
CO2排出量削減を目標とするカーボンニュートラルでは、利用時にCO2の排出をしない再生可能エネルギーの導入が有効な手段です。

●低炭素燃料を導入する
低炭素燃料とは、石油などの化石燃料などに代替するもので加工時にCO2排出量が比較的少ない燃料のことです。

●省エネ対策を実施する
エネルギー効率の高い設備の導入や更新

●カーボンオフセットを実施する
カーボンオフセットとは、自ら排出量の削減努力を行ったうえで、どうしても排出されてしまう排出量を、他の場所で行われた温室効果ガスの削減・吸収活動に投資すること等で埋め合わせ(オフセット)することです。

個人ができるカーボンニュートラル対策

カーボンニュートラルを実現するには、企業だけでなく、私たち一人ひとりの取り組みも重要です。地球温暖化や気候変動への対策として個人ができることは多岐にわたり、個人の様々な工夫や意識改革が、持続可能な未来への鍵となります。

ここからは、省エネ家電の導入によるエネルギーの節約、太陽光パネル設置による自家発電、温室効果ガスの排出が少ないサービスの利用など、個人で実践できるカーボンニュートラル対策をご紹介します。

エネルギーを節約・転換する

個人ができるカーボンニュートラル対策の代表的なものが省エネです。また、電力自由化に伴い、再生可能エネルギーで発電された「再エネ電気」の利用も増加しています。エネルギーの節約や再エネ電気の切り替えについてご紹介します。

●省エネ家電の導入
エネルギー効率の高い家電を選ぶことは、電気料金の節約につながるだけでなく、カーボンニュートラル対策にも効果的です。身近なものではLED照明も省エネ家電の一つで、白熱電球を使う照明に比べて消費電力が少なく長持ちします。また、エアコンや冷蔵庫などは、その時々の状況に合わせて家電のパワーを無駄のない強さに調整してくれる「エコモード」がある家電を選びましょう。

●再エネ電気への切り替え
再エネ電気は、太陽光や風力、水力、地熱といった自然のエネルギーから生成される電力のことです。石油や石炭などの化石燃料を燃やす火力発電とは違い、発電時にCO2をほとんど排出しません。再エネ電気への切り替えは、太陽光パネルを設置して自家発電を行う方法もありますが、再エネ電気を提供する小売電気事業者と契約することでも切り替えられます。

住居に太陽光パネル・蓄電池を設置する

太陽光発電は、電力会社を利用するよりも電気代が安くなったり、売電収入を得ることができるなど、金銭的メリットが注目されがちですが、CO2をほとんど排出しないため、カーボンニュートラル対策としても効果的です。「住居」という観点からカーボンニュートラル対策について見ていきます。

●太陽光パネルの設置
太陽光発電は、太陽光パネルを使用して太陽光エネルギーを電力に変換するものです。パネルに太陽の光が当たることで生じる光電効果の仕組みを利用して発電します。太陽光パネルは家庭から大規模施設まで幅広く導入されており、火力発電などとは異なりCO2をほとんど排出しません。

●住宅を「ZEH」にする
ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、簡単に説明すると「使うエネルギーよりも、創出するエネルギーのほうが大きい住宅」のことです。断熱性能と省エネ性能を高めてエネルギーの消費量を減らしつつ、エネルギーを創出する性能を向上させ、それらを合わせることでエネルギーの消費量が実質ゼロ以下になるため、エネルギー問題への対策として注目されています。

●蓄電池の導入
蓄電池は、充電により繰り返し使うことができる電池のことで、一般的には「バッテリー」とも呼ばれます。家庭用蓄電池は、深夜等の割安な電気料金の時間帯に電気を貯めておいて日中に使用したり、太陽光発電システムで昼間に発電した電気を溜めておいて夜間に使用したりするといった使い方が可能です。家庭用蓄電池の導入は、エネルギーの節約に大きな効果を発揮します。

CO2排出の少ない交通手段・製品・サービスを使う

日々の移動や生活において、CO2の排出を減らすための選択肢を考えることは、カーボンニュートラル対策に欠かせません。「二酸化炭素の排出が少ないもの」という観点から、日常生活で利用する交通手段やサービスなどについてご紹介します。

●スマートムーブ
スマートムーブは、日常の移動においてCO2排出を減らすための取り組みです。このエコで賢い移動方法は、環境省が推進しており、カーボンニュートラルに効果のある取り組みとして注目されています。例えば、マイカー移動を電車移動に変えるだけでCO2排出量を大幅に削減できます。

参考:長浜市|公共交通機関を利用した「smart move(スマートムーブ)」

●ゼロカーボン・ドライブ
ゼロカーボン・ドライブは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って発電した再エネ電気と、電気自動車やプラグインハイブリッド車、燃料電池自動車を活用した、走行時にCO2を排出しないドライブのことです。再エネ電気を利用し、かつCO2を排出しないクリーンな車両のため、カーボンニュートラル対策に大きく貢献します。

参考:環境省|ZERO CARBON DRIVE

●個人のESG投資
投資先のESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)の取り組みを評価して投資対象を選別し、ESGにおける課題への継続的な配慮を促す投資のことをESG投資と呼びます。「Environment(環境)」の観点に注目して、環境に配慮した企業や、再生可能エネルギーの分野で事業を展開する企業に投資を行うことで、間接的ですが環境保全に貢献することができます。

●脱炭素型の製品・サービスの選択
脱炭素型の製品やサービスを選択することも、カーボンニュートラル対策に役立ちます。例えば、新潟県の「越後雪室屋」では、冬の間に降り積もった雪を藁などで囲って夏まで貯蔵庫として利用する「雪室」を活用した食品を展開しており、「天然の冷蔵庫」を使うことでCO2の排出を抑えた食品作りで注目を浴びています。低炭素をキーワードにした製品やサービスは、今後も続々と増えていくでしょう。

参考:ツナイチ WEBサイト|美味しくて低炭素「天然の冷蔵庫」 雪室食品の普及を目指す「越後雪室屋」の挑戦

サステナブルなファッションをする

環境に与える影響を意識したファッションの新しい潮流を「サステナブルファッション」と言います。環境にやさしい素材、長寿命デザイン、リペアとリユースなど、持続可能なファッションの取り組みが広まっています。

●環境に配慮したものを着る
環境に配慮したファッションとして代表的なものが、リサイクル素材を利用した衣類で、ペットボトルをリサイクルしたフリースなどが有名です。また、廃棄される服を減らすことから、破れた服を修繕したり、古着をリユースしたりすることも環境負荷の軽減につながるアクションです。

●長く着られる服を選ぶ
耐久性のあるデザインやクラシカルな服は、流行に左右されないため長く着用でき、環境負荷軽減につながります。耐久性のある素材、色落ちしにくい染色技術が施されたもの、ほつれにくい縫製技術で仕立てられた服も、長く着られる長寿命なファッションです。服を長く着るために、洗濯表示を確認を行う等により、適切なケアを心がけましょう。

食品ロスをなくす

食品ロスは、日常生活に潜む大きな問題です。冷蔵庫の奥に眠った野菜や賞味期限が切れた食品などは、当然ながら廃棄されてしまいます。2021年3月の「ネイチャー」誌に掲載された研究によると、1990年から2015年の間で、世界中で人為的に排出された温室効果ガスのうちの3分の1は「食」に関係しているとのこと。また、国連環境計画(UNEP)の報告によれば、食品ロスの廃棄による温室効果ガスの排出量は、世界の温室効果ガス排出量のうち、8%から10%を占めているとのことです。そこで、食品ロスをなくすために個人ができることを紹介します。

参考:Deloitte WEBサイト|食品ロスの削減を通じてカーボンニュートラル社会を実現しよう

●冷蔵庫の整理を行う
食品ロスを減らすのに、難しいことを行う必要はありません。冷蔵庫に入っている食品の賞味期限をチェックして、期限が近付いているものから優先的に使用したり、古いものから消費したりするようにしましょう。それだけでも食品ロスを削減することができるはずです。

●残り物の活用
昨日の夕食の残り物をアレンジして新しい料理を作ったり、近所の方と食品をシェアしたり、余った食品を無駄にしないようにすることも食品ロスの削減につながります。

●自宅でコンポストを活用する
コンポストとは、生ゴミなどの有機物を土と混ぜて分解し、たい肥化する方法です。コンポストでできた土は、肥料として庭や農園で使えます。これによってゴミの量が減るため、ゴミを燃やすことで排出されるCO2を削減できます。このコンポストが世界的に広まることで、2050年までに21億トンの温室効果ガス削減が期待されます。

参考:株式会社明治 WEBサイト|明治の食育 ”捨てる責任”について考えよう!
参考:国連環境計画 国際環境技術センター|コンポストで食品ロスを減らそう

世界ではカーボンニュートラル対策へどのように取り組んでいる?

イギリスのグラスゴーで開催されたCOP 26では、1.5℃の努力目標継続と2030年に向けた積極的な気候変動対策に期待する「グラスゴー気候合意」が決まりました。

2023年12月には、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開催されたCOP 28において、パリ協定で掲げられたカーボンニュートラルの長期目標に対する世界全体の進捗について評価する仕組みである「グローバル・ストックテイク」がはじめて決定されました。これにより、世界的なレベルでCO2排出量削減の状況を明確に把握できるようになります。

各国・地域におけるCO2排出量削減の方策も様々なものがあり、先進的な地域では、デンマーク・カルンボー市などで、資源を循環して活用することで廃棄物の発生を抑えるサーキュラーエコノミーを実現しています。EUでは、ドイツなどでプラスチックのリサイクルが積極的に行われています。コンビニエンスストアには使用済のペットボトルを回収する機械まで設置しており、利用者に料金がいくらか返金されるデポジット制度が採用されています。

参考:経済産業省 資源エネルギー庁|第2節 諸外国における脱炭素化の動向
参考:三菱総合研究所|カーボンニュートラルと国際的な政策の動向及び 企業への影響

日本

日本では、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を推進しています。これは、成長が期待される14分野におけるカーボンニュートラルの実行を推進する計画のことです。

エネルギー関連では、洋上風力・太陽光などでの発電分野、水素・燃料アンモニアなどの分野が含まれ、輸送・製造関連産業からは、自動車・蓄電池分野、半導体分野、食料・農林水産分野などがあります。

また、地球温暖化に対する別の対策としては、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)で温室効果ガスの排出量抑制を目的に、多量の排出をする事業者を対象に排出量の報告を義務づけており、省エネ法ではエネルギー使用の合理化と非化石エネルギーへの転換を目的に、一定規模以上のエネルギー使用事業者へすべてのエネルギー使用状況の報告と非化石エネルギーへの転換目標の中長期計画書の作成が求められるようになりました。

参考:経済産業省|2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
参考:環境省|中⻑期排出削減⽬標等設定マニュアル

EU

EUは、2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で55%以上削減するという目標を達成するための包括的な政策パッケージ「Fit for 55」を推進しています。

Fit for 55第1弾には10を超える法案が含まれており、対象は産業、電力、航空・海運・陸運、建物、農林業など幅広い分野に及び、各分野においてGHG削減に向けた取り組みが一層強化されていきます。
またEUは、欧州グリーンニューデールを推進し、ロシアからの化石燃料依存から脱却を図る「 REPowerEU 」計画を発表しています。

参考:日本貿易振興機構(ジェトロ)|EU、2030年までのGHG排出55%削減に向けたFit for 55関連法案がほぼ成立
参考:日本貿易振興機構(ジェトロ)|欧州委、ロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」の詳細発表

イギリス

イギリスでは、「クリーン成長戦略」を推進しています。これは、再生可能エネルギーの拡大に継続的に取り組んでいく計画です。

太陽光発電では、2035年まで現時点での 5倍に相当する70GWの出力が可能な設備を、風力発電では2030年までに50GWの出力分を実現する設備を、低炭素水素では2030年までに10GWの発電設備を設置する予定です。また、2040年には国内航空の全域でネットゼロを目指しています。

参考:NEDO|COP27に向けたカーボンニュートラルに関する海外主要国(米・中・EU・英・独・インドネシア・エジプト・インド)の動向
参考:環境展望台|海外ニュース イギリス、低炭素化を通じた経済成長のための新たなクリーン成長戦略を発表

アメリカ

アメリカでは、「インフレ削減法」、「インフラ投資雇用法」によって、カーボンニュートラルを推進しています。2023年の5月にはG7において、2035 年までに石炭火力発電に関してフェーズアウトに向かうことの同意がされています。

バイデン大統領は、2021年1月に大統領に就任してから、即座にパリ協定への復帰に動いており、気候問題として政府の最優先課題の一つとして取り組んでいます。輸送分野では2030年までに国内の新車についてゼロエミッションカーが50%になるよう対応、発電の領域においては、2035年までに炭素排出量をゼロにする目標です。

参考:NEDO|COP27に向けたカーボンニュートラルに関する海外主要国(米・中・EU・英・独・インドネシア・エジプト・インド)の動向

中国

中国では、国家主席宣言としてカーボンニュートラルを推進し、分野別の計画も相次いで発表されています。これは、2030年には土地利用と林業などによって温室効果ガスの排出量をピークにして下降傾向に持ち込むカーボンピークアウトを実現し、2060年にはカーボンニュートラルの達成を目指していく計画です。

中国では、このカーボンピークアウトとカーボンニュートラルの両方を「双炭」と呼びます。中国は「双炭」政策として省エネルギー技術の活用や、再生可能エネルギーの活用、電気化交通の推進、植林、ネガティブエミッション技術の利用などを実施しています。

参考:NEDO|COP27に向けたカーボンニュートラルに関する海外主要国(米・中・EU・英・独・インドネシア・エジプト・インド)の動向
参考:日本貿易振興機構(ジェトロ)|カーボンニュートラル達成に向けた中国政府、企業の対応状況
参考:日本貿易振興機構(ジェトロ)|中国「カーボンピークアウト・カーボンニュートラル」政策概要および中部地区の実行現状について

まとめ

地球温暖化への対策は、全世界における重大な課題です。ここ数年、世界各国において化石エネルギーへの対応や発電部門、輸送部門での対応など、政府が主導となって具体的な計画が立てられ、取り組みが推進されています。日本国内においても環境問題への意識が高まっており、企業がカーボンニュートラルの取り組みを実施することはもはや必須事項となっていると言えるでしょう。

今回紹介したような、再生可能エネルギーの導入や低炭素燃料の導入といった企業ができる対策から、CO2排出の少ない交通手段や製品、サービスを使うといった個人としてできる対策までを一つ一つ大事に行っていくことが、地球の未来を守るために求められています。


※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。

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