製造業におけるカーボンニュートラル実現への課題と取り組み事例を解説
2024年01月11日 11:19
この記事に書いてあること
製造業におけるカーボンニュートラル施策は、非常に重要です。日本において部門別CO2排出量の3割以上は産業部門となっており(*出典1)、産業部門から排出されるCO2の9割以上を製造業が占めています(*出典2)。
製造業はCO2の排出量が多い業種だからこそ、カーボンニュートラルの取り組みが大切なポイントです。
では、具体的にカーボンニュートラルを実現するにはどのような取り組みを実践すればいいのでしょうか。この記事では、製造業におけるカーボンニュートラルについて詳しく説明します。
*出典1:全国地球温暖化防止活動推進センター|日本の部門別二酸化炭素排出量(2021年度)
*出典2:環境省|産業部門における エネルギー起源CO2
製造業におけるカーボンニュートラルとは

そもそもカーボンニュートラルとは、地球上における温室効果ガスの排出量を吸収または除去し、最終的に全体としてゼロにすることです。カーボンゼロとも呼ばれます。ここでは、製造業におけるカーボンニュートラルの特徴について説明しましょう。
まず、製造業のカーボンニュートラルは、サプライチェーン排出量という原料調達から製造・物流・販売・廃棄まで一連のプロセスから発生するCO2排出量を考えるのがポイントです。
なお、サプライチェーン排出量は、以下の図のようにScope1、Scope2、Scope3に分かれています。

※画像引用元:環境省|排出量算定について
Scope1は燃料の燃焼や工場プロセスなどの事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、Scope2は他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3はScope1とScope2以外の間接排出を示しています。*
それぞれの工程で発生するCO2排出量を把握するのはもちろん、製造業においてはサプライチェーン全体でカーボンニュートラルへの取り組みが必要不可欠です。
*出典:環境省|排出量算定について
製造業におけるカーボンニュートラルの実現に向けた課題
製造業におけるカーボンニュートラルを実現させるためには、現状と実現に向けた課題をしっかりと把握しておかなければなりません。以下の2つの課題をクリアできるかどうかで、カーボンニュートラル実現の可能性が一気に広がります。
● 検証の難しさ
● 導入コストの負担
カーボンニュートラルの欠点とも言われている「検証の難しさ」は、特に製造業にとっては大きな課題です。サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルへの取り組みが拡大しつつあるため、製品あたりのCO2排出量を見える化し、吸収量・除去量とのバランスを取る必要があります。
また、生産設備の省電力化など、新しいエネルギーや機器を導入するにはコストがかかります。導入コストの負担に対して、どのような策を立てられるかが大きなカギです。
それぞれの課題について、さらに詳しく見ていきましょう。
検証の難しさ
前述したように、製造業のカーボンニュートラルはサプライチェーン全体で考える必要がありますが、Scope3の自社活動に関連する他社からの排出算定は難しいという問題点があります。
Scope3に含まれている主なプロセスは、上流における原材料の調達、製品の輸送と配送、従業員の通勤、下流における製品の使用や廃棄などです。
通常、CO2の排出量を計算するためには情報を集めなければなりません。なかでも上流・下流におけるCO2排出量を指すScope3は、社外から情報収集しなくてはいけないため、計算に必要な情報が集まりにくいのです。またScope3(下流)は、製品使用者の使用状況により変動しやすく、さらに排出算定が難しくなります。
より精度の高い排出算定を行うには、Scope3に関連する社内外からの情報提供が必要不可欠です。
導入コストの負担
製造業におけるカーボンニュートラルのもう1つの課題として、導入コストの負担があります。
CO2の排出量を抑えることができる省エネ効果が高い設備を導入するには費用がかかります。たしかにCO2排出量は抑えられるものの、すべての設備を省エネ効果の高い設備に変えるとなれば、高額な投資費用がかかる点は大きな壁になります。
また、工場での主なエネルギー源を再生可能エネルギーに変えることでコストが増加する点も、問題点の1つです。再生可能エネルギーはCO2を排出しないなどのメリットがたくさんありますが、化石燃料を用いた従来の発電方法とは違って、一般的には発電規模が小さく発電量が不安定になりやすいため、発電コストがかかり通常の電気代より高くなるのが日本国内の現状です。
また、自社で太陽光パネルを設置し発電した電力を自家消費する方法もありますが、自家消費型大型パネルの設置には初期費用がかかるので、中長期的には元が取れるのですが、将来の経営状況も踏まえて投資判断をしづらいのが現状です。
製造業がカーボンニュートラル実現に向けてできること

では、製造業がカーボンニュートラル実現に向けて、具体的にどのようなことができるのでしょうか。
主な内容を下記にピックアップしました。
● 製造設備や工場、事務所の空調、照明の省エネ効果の高い設備への更新
● 化石燃料由来の電力から再生可能エネルギー由来の電力への切り替え
● IoT(Internet of Things)の活用、DX化による省エネ対策の実施
製造設備や工場、事務所の空調、照明の省エネ効果の高い設備への更新
化石燃料の燃焼をエネルギー源としたタービンやボイラーなどの製造設備から、電気をエネルギー源としたモーターやヒーターなどの設備へ変更したり、バイオマスを利用できるところはバイオマスボイラーへ変更したりすることで、化石燃料の燃焼による直接的なCO2の排出を抑えることが可能です。
また、工場や事務所の空調をエネルギー効率の高いものに更新、照明をLED化することだけでも大きな省エネ効果が期待でき、CO2排出量の削減に貢献できます。
化石燃料由来の電力から再生可能エネルギー由来の電力への切り替え
さらに工場や事務所で使用している既存の化石燃料由来の電力契約を再生可能エネルギー由来の電力に切り替えることで電力利用におけるCO2排出量を実質0にすることが可能となります。
また、自社に太陽光発電パネルを設置し、発電した電力を自社で利用する自家消費型太陽光発電の導入や、大型蓄電池の導入による余剰電力の活用も有効な手段と言えるでしょう。
IoT(Internet of Things)の活用、DX化による省エネ対策の実施
IoT(Internet of Things)技術を活用したFEMS(Factory Energy Management System)の導入により、リアルタイムでの電力使用量の可視化と空調・照明等の制御をおこなうことで効率的なエネルギー管理が可能です。また、各種製造業DXソリューションの導入は工場の生産性を向上させ、歩留まり率や設備稼働率等の改善によるエネルギーロスにつながります。
新しい設備への更新は、いずれも初期投資費用がかかります。ただし脱炭素に関わる設備の投資には、国や地方自治体、各種団体から補助金が出ているケースが数多くあります。是非、補助金も活用しながら自社でできるカーボンニュートラル実現への取り組みに着手してみてはいかがでしょうか。
製造業でカーボンニュートラルを活用するメリット

カーボンニュートラルに取り組んでいる企業は、社会への配慮や環境保護に対して意識が高いことをアピールできます。また、今後大企業によるscope3が徹底されてくると、そこに製品やサービスを提供している製造業はCO2排出量の削減を実践していないとサプライチェーンから外されることになります。
自社の生産性を高めるだけでなく、企業やブランドのイメージが向上し、取引先や消費者からの信頼感が高まり新しいビジネスチャンスが訪れやすくなるでしょう。新しい取引につながり、新しいニーズが獲得できるという点も、製造業でカーボンニュートラルに取り組むメリットの1つです。このようにカーボンニュートラルの取り組みは企業価値の向上につながることから、人材確保の点でも優位となります。
世界規模において地球温暖化対策は大きな問題になっているので、カーボンニュートラルに対する企業の取り組みを踏まえて投資する“ESG投資”も増えてきました。環境に配慮をしていない企業は今後の資金調達が困難になる可能性があります。持続的な企業成長において、カーボンニュートラルへの取り組みは必要不可欠と言えるでしょう。
製造業でカーボンニュートラルを活用するデメリット

製造業でカーボンニュートラルに取り組むデメリットは、全体的にコストがかかるという点です。化石燃料と同じエネルギー量を消費したとしても、再生可能エネルギーのほうが現状では製造コストは高くなります。
特に、近年は原材料や電気代の高騰が製造業に大きな打撃を与えている状態です。さらに製造コストがかかるカーボンニュートラル化はハードルが高いかもしれません。
ただし、世界で新設されている電源の90%以上は再エネになっている中で、日本国内ではカーボンニュートラルに取り組むためのコストはかかりますが、企業価値が高まり、新しいビジネスチャンスにつながるなど、デメリットを上回るメリットがたくさんあります。補助金等も活用しながらまずはできることから、カーボンニュートラルへの取り組みを始めてみてください。
製造業におけるカーボンニュートラルの取り組み事例
ここでは、製造業におけるカーボンニュートラルの取り組み事例を2つ紹介します。
事例①
最初に紹介するのは、国内大手飲料メーカーのサントリーグループが実施している取り組みです。最終的な目標に温室効果ガスの排出量ゼロを掲げ、多角的な視点からカーボンニュートラルの取り組みを行っています。
配車システムの開発・導入による輸送システムの効率化や、トラックから鉄道や船を利用するモーダルシフトの推進などを行っています。
また、工場で使用する燃料を重油から都市ガスやLNG(液化天然ガス)への変更、自家発電で生じた熱を回収し再利用することで、エネルギー効率を高めています。2021年には太陽光発電やバイオマス燃料の導入、再生可能エネルギーの利用を進め、自社で初のCO2排出量ゼロ工場を建設しました。
出典:サントリーホールディングス|サントリーのエコ活
事例②
国内の大手機械メーカーである三菱重工の事例です。主な取り組みとして、「改善活動」と「生産技術の革新」の2つに分けてカーボンニュートラルに注力しています。
改善活動では、最初にエネルギー使用量を見える化し、高効率の設備導入や待機電力の削減などで生産性向上と省エネを確立させました。生産技術の革新では、設計から製品の製造・物流まで無駄をなくした効率的な技術と設備を開発し、現場へ導入しました。
日々の取り組みを積極的に行った結果、エネルギー使用量と温室効果ガスの大幅削減が実現し、省エネ大賞を受賞しています。
出典:三菱重工|脱炭素への取り組み
三菱重工|カーボンニュートラルツアー
三菱重工|カーボンニュートラル社会の実現に 向けた三菱重工グループの取り組み
まとめ
製造業のCO2排出量は産業部門において約9割を占めているため、どれだけカーボンニュートラルの取り組みを行うかが重要です。最近では大企業が仕入先に対し、温室効果ガスの削減計画と目標を求めるケースも増えてきています。カーボンニュートラルに取り組んでいない企業は淘汰される方向にあります。たしかに、製造業のカーボンニュートラルは再生可能エネルギーの導入や省エネ効果の高い設備への更新など投資費用がかかるものの、燃料費が高騰する中では中長期的に元が取れ、企業価値の向上につながるのでデメリットよりもメリットのほうが大きくなります。まずは、電気代の削減効果もある空調や照明設備を省エネ効果の高い設備に更新するなど、できることからカーボンニュートラルへの取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。
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