建築業におけるカーボンニュートラル実現へ向けた課題やできることを解説
2024年01月10日 14:34
この記事に書いてあること
建築業において、世界全体で取り組みを実施している「カーボンニュートラル」はどのような意味を成すのでしょうか。
カーボンニュートラルの実現を目指すには、どの段階でCO2が排出されるのか把握する必要があります。建築業のCO2排出量は、施工時の排出量と施工後の排出量に分かれており、そのほとんどが施工後の建物に関わる排出量です。
本記事では、建築業におけるカーボンニュートラルについて詳しく説明します。建築業に携わっている方は、ぜひ最後までご覧ください。
建築業におけるカーボンニュートラルとは
最初に、カーボンニュートラルとは何なのか、脱炭素との違いはあるのか、詳しく説明しましょう。
カーボンニュートラルとは、地球上の温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、全体としてゼロにすることです。CO2やフロンガスなど温室効果ガス全般の排出量から、植林・森林管理による吸収量と除去量を差し引き、実質的にゼロにすることを目指しています。
ちなみに、カーボンニュートラルと同じ意味合いとして使われる「脱炭素」は、CO2の削減に焦点を当てている点が特徴です。
それでは、建築業におけるCO2排出量の現状を見ていきましょう。環境省の資料「2020年度温室効果ガス排出量」(※出典1)によると、建設業(建築業含む)・製造業などを含めた産業部門は全体排出量の約3分の1を占めていることがわかります。
国土交通省の資料「建設施工分野における地球温暖化対策の推進」によると、(※出典2)、産業部門のうち、建設工事現場における燃料燃焼から年間11,466千tのCO2が排出されています。これは産業部門の約2.4%を占める排出量です。
約2.4%という数字は少なく見えるかもしれませんが、日本の1人あたりエネルギー起源CO2排出量は約7.87tといわれているので(※出典3)、およそ150万人分のCO2が建設工事現場から排出されている計算になります。
また、建築業から排出されるCO2は施工時だけとは限りません。実は、施工後の建物に関わるCO2排出量のほうが多いといわれています。先ほど紹介した「2020年度温室効果ガス排出量」の内訳を見てみると、建物に関わるCO2排出量は“業務その他(商業・サービス・事務所等)”で17.4%、“家庭(家庭での冷暖房・給湯・家電の使用等)”で15.9%です。この2つを合わせると、産業部門に次いで多い割合となっています。
つまり、建築業におけるカーボンニュートラルを実現させるためには、施工時だけでなく、施工後の建物運用に対する取り組みも大切なポイントになるということです。
出典1:環境省|2020年度温室効果ガス排出量(部門別)
出典2:国土交通省|建設施工分野における地球温暖化対策の推進
出典3:環境省|世界のエネルギー起源CO2排出量(2020年)
建築業におけるカーボンニュートラルの実現に向けた課題

建築業におけるカーボンニュートラルの実現には、以下の3つの課題と向き合う必要があります。
● CO2排出量の多さ
● 検証の難しさ
● 導入コストの負担
前述したように、建築物は施工時だけでなく、施工後における建物の運用でCO2が多く排出されています。サプライチェーン全体でカーボンニュートラルに取り組んでいる製造業のように、建築業も資材の調達から建築、建物の運用、解体まで全体の流れを考えた取り組みが必要です。また、建築業ならではの検証の難しさ、導入コストの負担もカーボンニュートラルの実現に向けた大きな課題です。
CO2排出量の多さ
建築業に関しては、住宅や建物の建設や解体時、そして建物の運用・居住で多くのCO2を排出しているといわれています。
CO2の排出量が多い分、効率的に軽減できる施策を立て、実践し続けることが大切です。カーボンニュートラルの実現に向けて取り組み始めたとしても、効率の悪いやり方であれば、CO2排出量に対して吸収量と除去量が追いつきません。
CO2排出量削減の取り組みを行っている最中でも、建築や解体作業をしている限りCO2は発生するものなので、できるだけ排出量を抑えられる方法で建築・解体を行う必要があります。
また、施工後の建物運用についても、できるだけCO2を排出しない方法を導入することで排出量削減が可能です。
検証の難しさ
カーボンニュートラルは効果が非常にわかりにくく、モチベーションの維持が難しい傾向があります。建築業でどのくらいのCO2が排出されているのか、具体的かつ正確な測定は困難です。自社で排出しているCO2の排出量が不明確だと、効果的なカーボンニュートラルが実践できません。
実施している取り組みの効果が実感できれば良いのですが、実感できない状況ではどのような施策を立てれば良いのか、どのように改善していけば良いのかわからなくなってしまいます。
結果、カーボンニュートラルの実現に向けた課題が不透明になり、自然とモチベーションも下がってしまうというわけです。
導入コストの負担
CO2を排出しない重機を導入したり、空調や照明設備などに省エネ機器を使用したりするなど、導入コストが負担になるという点も課題の1つです。
普段使用している重機や機器よりも、カーボンニュートラルが実現できる機器を導入するには大きなコストがかかります。コストの負担を考えると、導入リスクのことばかりを考えてしまい、カーボンニュートラルの実現は遠ざかるばかりです。
建築業がカーボンニュートラル実現に向けてできること

それでは、どうすれば建築業におけるカーボンニュートラルの課題が解決できるのでしょうか。
建築業において、カーボンニュートラル実現に向けてできることは以下の3点です。
● カーボンニュートラルに対応した工事
● 原料をカーボンニュートラル化する
● 再生可能エネルギーの活用
代表的な方法として、CO2排出量の大幅な削減が期待できるカーボンニュートラルに対応した工事に変更し、原料をカーボンニュートラル化する方法があります。また、CO2を排出しない再生可能エネルギーの活用も、建築業がカーボンニュートラルの実現に向けてできることの1つです。
カーボンニュートラルに対応した工事
カーボンニュートラルに対応した工事とは、建設現場で用いる重機や建設資材をカーボンニュートラル化した工事のことです。代表的な取り組みの1つに、「カーボンニュートラル対応試行工事」があります。
カーボンニュートラル対応試行工事とは、工事契約を交わす際にカーボンニュートラルに関する取り組み状況や実績を評価する取り組みのことです。
たとえば、契約の1次審査で燃費性能に優れている建設機器を用いた工事実績や、SBT認定取得企業の証明など、カーボンニュートラルにおける取り組み実績を評価します。そして、2次審査でカーボンニュートラル推進の取り組み提案を評価するという流れです。
また、工事中は看板などでカーボンニュートラルの取り組みをPRしたり、工事の完成時は低炭素・低燃費建設機械の活用状況に応じた工事成績評定で評価を行ったりします。
契約時から工事後にかけてさまざまな項目を見て評価を行うことで、カーボンニュートラル実現に近づけるだけでなく、建築業においても企業の価値が上がります。
原料をカーボンニュートラル化する
できるだけ環境にやさしい原料を建設現場で用いることも、カーボンニュートラルの実現に向けてできる取り組みです。
CO2を吸収するコンクリートの使用など、できることはたくさんありますが、木材の利用促進がすぐに取り入れられる方法といえます。木材は製造過程や施工過程においても、他の原料と比べてCO2の排出量を抑えることが可能です。特に、海外からの長距離の運搬が不要な国産材は、輸送時の環境負荷の低減にも大いに期待できます。
再生可能エネルギーの活用
建築業においても、再生可能エネルギーをうまく活用することで、温室効果ガスの排出量削減につなげることができます。
石炭・石油・天然ガスを使用した化石燃料の代わりに、温室効果ガスを発生させない環境にやさしい再生可能エネルギーを活用する建設現場も、少しずつ増えてきている状況です。
国内で実際に行われている建築物における再生可能エネルギーの活用方法として、 ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)=「快適な室内環境を維持しつつ、建物で消費する年間の1次エネルギー収支をゼロにすること」を目指した建物があります。
建物の中で人が動き生活している限り、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできません。しかし、省エネで使用エネルギーを減らし、創エネで使用するエネルギーを創ることができます。省エネと創エネで建物運用におけるエネルギー消費量をゼロにするのが「ZEB」の目的です。
最近では、宮古島市の下地島空港が、国内初となる空港ターミナルのZEBになると注目されました。建物北側に太陽光発電を設置するなど、空港ターミナルの年間1次エネルギー収支をゼロにする取り組みが進められています。
出典:環境省|ZEBとは?
建築業でカーボンニュートラルを活用するメリット
CO2の排出量が多い建築業だからこそ、カーボンニュートラルを活用することでCO2の大幅な削減が期待できます。
また、カーボンニュートラルに対する取り組みを積極的に行えば、地球温暖化問題に真摯に向き合っている企業として、イメージの向上にもつながります。
今後、カーボンニュートラルの取り組みは拡大していくと考えられているため、いち早くカーボンニュートラルを活用すれば企業の成長力と競争力が高められる点もメリットです。
建築業でカーボンニュートラルを活用するデメリット
建築業でカーボンニュートラルを活用するデメリットは、再生可能エネルギーの利用や新しい機器の導入など、全体的にコストが高くなる点です。
もともと建築業は、受注から入金されるまで時間がかかる傾向のため、資金繰りが難しいといわれています。資金繰りを円滑にするには、工事の原価管理や入出金管理をしっかりと行うことが大切です。
資金繰りが良くなれば銀行の融資も受けられるようになり、カーボンニュートラル活用の意識が高められます。
建築業におけるカーボンニュートラルの取り組み事例

建築業におけるカーボンニュートラルの取り組みは、どのようなことが行われているのでしょうか。ここでは、事例を2つ紹介します。
事例①
大手建設会社である清水建設株式会社は、「エコロジー・ミッション2030-2050」を掲げてカーボンニュートラルの取り組みに励んでいます。自社からのCO2排出量をゼロにするだけでなく、建設に携わった建物からのCO2排出量ゼロを目指しているのです。
施工時のCO2削減の取り組みとしては、ICTを活用したエネルギー生産性の向上や、重機の燃料である軽油を環境負荷が小さい次世代バイオディーゼル燃料やGTL燃料などに置き換えています。
本社ビルでは、太陽光パネルを外壁に設置して照明電源として利用することやグリーン電力を使用することで、カーボンフリー化を達成しました。携わった建物運用時の取り組みとしては、ZEBの推進やコンクリートにCO2を吸収させる技術を開発しています。
結果として、2021年度は1990年と比べてCO2が施工時は62%削減、自社オフィスは60%削減、省エネルギー設計による建物運用時は54%の削減が実現しました。
その他にも、洋上風力発電やバイオマス発電施設の稼働など、再生可能エネルギーの推進に力を入れています。
出典:清水建設|脱炭素 ESG経営
事例②
大和ハウス工業株式会社では、事業活動において「2030年までに温室効果ガス排出量を70%削減する」という目標を掲げ、省エネ・電化・再エネの3つに分けて取り組みを行っています。
「省エネ」では自社の新しい施設をZEBにしつつ、既存の建物では省エネ投資で設備を更新中です。「電化」では社用車のクリーンエネルギー自動車化を推進しています。そして、「再エネ」では自社で使用する電気を自社開発の再生エネルギー発電で補っている点が大きな特徴です。単体では100%、グループでも41.5%を賄っています。
出典:大和ハウス工業株式会社|事業活動での脱炭素
まとめ
建築業におけるカーボンニュートラルは、取り組み方によって温室効果ガスの大幅削減につながるという大きな意味合いを持っています。カーボンニュートラルに対応した工事や原料の変更など、建築業ならではの取り組みは多種多様です。施工時だけでなく、施工後の建物運用に関するカーボンニュートラルも大きなポイントになるでしょう。
建築業におけるカーボンニュートラルのメリットやデメリット、課題などをしっかりと把握し実現させることができれば、企業のイメージ向上と新規顧客開拓にもつなげることができます。
※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。
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