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脱炭素ビジネスとは?企業の取り組み事例や必要性・やり方を解説

From: GXラボ

2024年09月18日 11:00

この記事に書いてあること

脱炭素ビジネスとは、企業が事業活動を通して地球温暖化の防止に貢献するビジネスのことです。具体的には、再生可能エネルギーの導入や省エネ化、脱炭素技術の開発・導入など、脱炭素化につながる事業のことを指します。国が推し進める脱炭素化施策を受け、資本力のある大手企業から技術を武器にしたスタートアップ企業まで参画が続き、今後ますます拡大が予想されています。

この記事では、脱炭素ビジネスの概要、市場規模や成長性などについて解説していきます。

脱炭素ビジネスとは

脱炭素ビジネスとは、脱炭素社会に向けた活動をビジネスチャンスと捉え、事業として取り組むことをいいます。

脱炭素とは、CO2などの温室効果ガスの排出量をゼロにすることです。地球温暖化の原因となる温室効果ガスを排出しない、または排出した分のCO2を吸収することで温室効果ガスの濃度を増加させないようにする取り組みになります。

地球温暖化の防止は、今や世界的な共通課題となっています。そのため、脱炭素化を推進するビジネスは、社会的な要請に応えるものとして、需要が高まっていくと考えられます。

脱炭素ビジネスを支える新技術

既に世の中に浸透している代表的な脱炭素ビジネスとしては、太陽光発電や水素発電、風力発電、EVなどがあります。

下図は水素エネルギーの例ですが、今日ではこのように脱炭素ビジネスの仕組みを支え、脱炭素社会の早期実現を目指すための先進的イノベーションが、日々生み出されています。

出典:経済産業省|国内外事例集及び⽔素製造・利活⽤適地調査結果

ここからは、脱炭素ビジネスを支える新技術について紹介していきます。

メタネーション技術

メタネーション技術とは、水素と二酸化炭素を反応させてメタンを合成する技術です。合成されたメタンは、都市ガスの主成分として利用できます。
メタンは燃焼時にCO2を排出しますが、メタネーションをおこなう際の原料として、発電所や工場などから回収したCO2を利用すれば、燃焼時に排出されたCO2は回収したCO2と相殺されるため、大気中のCO2量は増加しません。つまり、CO2排出は実質ゼロになるわけです。

出典:日本ガス協会|「カーボンニュートラルチャレンジ 2050」アクションプランの策定および「カーボンニュートラル委員会」の設置について

出典:経済産業省 資源エネルギー庁|ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術

1995年に日本は世界で初めて、メタネーション技術によるメタンの生成に成功しています。

その後も研究開発は進められており、実際に事業として推進している主な企業は以下のとおりです。

国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO NEDOの事業として、日立造船とINPEX(旧国際石油開発帝石)が基盤技術開発
大阪ガス 都市ガスのカーボンニュートラル化に向けたCO2-メタネーションシステムの実用化を目指した技術開発事業
日立造船 メタネーション装置の開発

CCS・CCUS・DAC技術

CCS、CCUSDACは、いずれもCO2を削減するための技術です。

CCS

CCSは、Carbon dioxide Capture and Storageの略で、CO2を排出源から回収し、地中深くに貯留する技術です。発電所や工場から排出されるCO2を回収し、安全に貯留することで、大気中のCO2濃度を削減することができます。

CCSを事業として推進している主な企業は、以下のとおりです。

関西電力株式会社 CCSバリューチェーンの構築
日本製鉄株式会社 セメント製造過程からの CO2 分離・回収、そして貯留といったCCSへの取り組み、あるいは CO2を新たに資源として活用するなどの CCU 技術の開発

CCUS

CCUSは、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で、CCSに加えて、回収したCO2を有効利用する技術も包含する概念です。回収したCO2を燃料や化学製品の原料として利用することで、資源循環を促進し、CO2排出削減に貢献できます。

参考:環境省|CCUSを活用したカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み

CCUSを事業として推進している主な企業は、以下のとおりです。

ENEOSホールディングス CCUS事業の商用化
三菱重工業 CO2エコシステムの実現

DAC

DACは、Direct Air Captureの略で、大気中から直接CO2を回収する技術です。従来のCCSは、排出源からCO2を回収するため、排出源の近くにCCS設備を建設する必要がありました。一方、DACは、大気中からCO2を回収するため、排出源に関係なく設置することが可能です。

DACを事業として推進している主な企業は、以下のとおりです。

川崎重工株式会社 DACの実用化の推進
Planet Savers株式会社 低コスト・高性能なDCAシステムの開発

全固体電池・ペロブスカイト太陽電池

全固体電池とペロブスカイト太陽電池は、いずれも次世代電池として注目されている技術です。

全固体電池

全固体電池は、従来の液体の電解質の代わりに固体電解質を用いた電池です。固体電解質は、液体電解質に比べて安全性が高く、長寿命であることが期待されています。
また、これらのメリットに加え急速充電が可能となることから、自動車業界からも大きく注目されています。
実用化されればEV車の普及に拍車がかかり、脱炭素化に大きく貢献できると考えられています。

全固体電池を事業として推進している主な企業は、以下のとおりです。

トヨタ自動車 全固体電池搭載車両の実用化に向けた開発
村田製作所 全固体電池の開発

ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ材料を用いた太陽電池です。
従来のシリコン系太陽電池は、耐久性に優れ変換効率も高いという特徴がありますが、高重量のため、設置場所が限られていました。
ペロブスカイト太陽電池は、薄くて軽く柔軟であるという特性から、これまでの技術では設置が難しかった場所にも導入できるものとして期待が高まっています。また製造工程が少なく大量生産が可能なため、低コスト化も見込めます。

参考:資源エネルギー庁|日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?

ペロブスカイト太陽電池を事業として推進している主な企業は、以下のとおりです。

東芝 ペロブスカイト太陽電池の効率的な製造技術時の開発
積水化学工業 ペロブスカイト太陽電池の耐久性に優れた製品の開発
リコー 東京都でのペロブスカイト太陽電池の実装検証を開始

次世代パワー半導体

パワー半導体は電力の直流と交流の変換や制御をおこなう半導体です。
次世代パワー半導体とは、従来のシリコン(Si)をベースとしたパワー半導体よりも、高い耐電圧、低損失、高速スイッチング特性を持つ新素材を用いたパワー半導体です。主な候補材料としては、炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)が挙げられます。
従来のパワー半導体より、制御時の電力損失が少ないためエネルギー効率が高くなり、電力機器の省エネ性能の向上につながります。

参考:経済産業省 商務情報政策局|「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに関する 研究開発・社会実装計画(案)

次世代パワー半導体を事業として推進している主な企業は、以下のとおりです。

三菱電機 SiCパワー半導体デバイスの事業拡大
富士電機 SiC新製品の開発

脱炭素ビジネスへの支援

ここからは、脱炭素ビジネスを実施するにあたり、どのような支援があるのか紹介します。

国が支援するグリーン成長戦略

政府はグリーン成長戦略として、2050年のカーボンニュートラル達成を見据えた企業の技術開発から設備投資までの様々な取り組みを多面的にサポートするための予算を計上しています。

具体的には、3本の柱を中心に以下のような支援を提供します。

官民連携によるイノベーションの加速
  • ・重点分野における官民連携プロジェクトの推進
  • ・技術開発・実証への支援
  • ・オープンイノベーションの推進
  • ・国際連携の強化
  • ・国際標準化への積極的な取り組み
民間投資の拡大
  • ・グリーン投資の促進
  • ・グリーンファイナンスの推進
  • ・環境情報の開示
人材育成・社会の変革
  • ・環境人材の育成
  • ・国民の意識改革
  • ・ライフスタイルの転換
  • ・地域活性化

参考:経済産業省|2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました

環境省支援の脱炭素先行地域

環境省では、地域で脱炭素を行うと同時に地方創生に貢献する取り組みを行う「脱炭素先行地域」を公募し、2025年までに100か所以上の脱炭素先行地域の創設を目指しています。選定されると補助金を得ることができ、20234月時点で累計62 地域が選ばれました。

出典:NRI Digital Consulting Edge|脱炭素と地方創生を同時に実現する「脱炭素ビジネス」への挑戦

脱炭素先行地域の拡大は、企業にとってビジネスチャンスといえます。脱炭素や地方創生に事業機会を見出す企業は、脱炭素先行地域への公募に、自治体と共同で提案する機会を活用することができます。これらの企業は脱炭素先行地域でグリーンテックやスマートシティー、モビリティなどの知見・技術を提供し、投資を行ってくれる金融機関や自治体と連携してビジネスの創出に取り組んでいます。

脱炭素ビジネスに取り組む企業事例5選

日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を掲げており、さまざまな企業が脱炭素化に向けて事業を進めているところです。代表的な取り組み事例を紹介します。

株式会社脱炭素化支援機構

脱炭素化支援機構は、脱炭素関連事業へ投融資を行う官民ファンドです。国の財政投融資からの出資と民間からの出資(設立時は計204億円)を原資として出融資などを行っています。豊かで持続可能な未来を創ることを目指し、再エネ・蓄エネ・省エネ、資源の有効利用など、カーボンニュートラルに挑戦する事業に対し、幅広いステークホルダーと連携しながら支援を行っています。

参考:JICN

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社は、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めており、その中核を担うのが低炭素車の事業です。同社では2030年までに電動車(電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)など)の販売台数を全体の55%にすること、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標としています。具体的な施策として、1・電動車のラインアップ拡充2・電動車の製造コストの低減3・充電インフラの整備を進めています。

トヨタは、充電インフラの整備にも取り組んでいます。具体的には、自社で充電ステーションの設置を進め、政府や自治体と連携して充電インフラの整備を支援しています。

参考:トヨタ自動車|新型「プリウス」(PHEV)を発売

日立造船株式会社

日立造船株式会社は、CO2と水素を原料としてメタンガスを生成できるメタネーション装置を開発しました。具体的には、ごみ焼却場から排出されるCO2を再生可能エネルギー由来水素と反応させ、天然ガス代替となるメタンを製造する技術です。独自の高性能なメタン化触媒を開発したことで、各機関から高い評価を得ています。

参考:環境省|日立造船株式会社におけるCCU事業の取組

積水化学工業株式会社

積水化学工業株式会社では、3年間の開発期間を経て、収集したごみを高い生産効率でエタノール化することに成功しています。具体的には、ごみ処理施設から排出されるCO2と再生可能エネルギー由来水素からシンガス*を合成し、微生物触媒を用いてシンガスからエタノールを製造する技術です。この技術をもとに、資源循環社会システムの創生を目指します。

参考: 積水化学工業株式会社|“ごみ”を“エタノール”に変換する世界初の革新的生産技術を確立

株式会社豊田中央研究所

株式会社豊田中央研究所では、次世代のエネルギー設備を構築とともに、エネルギーマネジメントシステムの実証研究やカーボンニュートラルエネルギーキャリアに関する要素技術・システムの研究に取り組んでいます。具体的にはCO2、水、太陽光から、syngas*を高効率で合成する技術を開発し、これを熱源として再利用する炭素循環モデルを提言しています。

syngas:合成ガス(化学製品や燃料の原料となる、一酸化炭素と水素の混合ガス)

参考: 株式会社豊田中央研究所|プロジェクト1:カーボンニュートラル社会実現にむけてエネルギーシステムの変革に挑む

まとめ

脱炭素を推進させるための新技術は今後もますます開発され実用化されていくでしょう。
これらの研究開発や実証実験に対しては、国や自治体からも多くの補助金が出ております。
企業が、新しい脱炭素技術へ取り組み、またそれらを活用することで社会全体の脱炭素に大きく貢献することができます。
脱炭素をビジネスと結びつけることは脱炭素社会の実現に必要不可欠です。
自社の強みや弱みを分析し、効果的な脱炭素ビジネスを起動させてください。

※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。

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