全業種対象

GX推進法の概要|推進戦略や課題などを簡単に説明

From: GXラボ

2024年09月25日 14:47

この記事に書いてあること

GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、脱炭素社会への移行に向けた再生可能なクリーンエネルギー活用と、それにより経済社会システム全体を変革して持続可能な経済成長へとつなげることを指します。
日本は2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて、国内の温室効果ガス排出量を2030年までに2013年度比で46%削減するという中間目標を掲げていますが、この目標期限まであとわずかです。
国や地方自治体、企業や個人で様々な取り組みが行われておりますが目標達成に向けては予断を許さない状況です。
日本のカーボンニュートラルの実現には、政府・企業・国民が環境問題に対する責任を各自で強く認識して、社会全体で取り組んでいくことが必要です。
ここでは、カーボンニュートラルの実現に向けて日本がGXを進めていくために策定された「GX推進法」について解説いたします。

GX推進法とは?目的と概要をわかりやすく解説

GX推進法とは、2023年6月に施行された「2050年のカーボンニュートラル実現」に向けた経済成長と脱炭素化を両立するための法令です。正式名称は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」といいます。

GX推進法では今後10年間において、20兆円のGX経済移行債の発行や、成長志向型カーボンプライシングなどにより、官民合わせて合計で150兆円となる資金を調達し、日本のGXを推進していくための活動と計画が規定されています。

GX推進法では、「GX実現に向けた基本方針」に基づいて、次の5つの施策が法定されました。

①GX推進戦略の策定・実行
政府はGXを総合的かつ計画的に推進するための戦略(脱炭素成長型経済構造移行推進戦略)を策定し、戦略はGX経済への移行状況を検討し、適切に見直すとしています。

②GX経済移行債の発行
政府はGX推進戦略の実現のための資金の調達を目的にGX経済移行債を発行します。このGX経済移行債は、新たな国債として2024年2月に初めて発行され、今後10年間で約20兆円を発行する計画が立てられています。
また、集めた資金は次項で掲げるカーボンプライシングで得られる財源から償還される予定です。

③成長志向型カーボンプライシングの導入
カーボンプライシングとは排出されるCO2に価格付けをすることです。
この法令でいう成長志向型カーボンプライシングとは、企業などが排出するCO2排出量に対して「化石燃料賦課金」を徴収したり、火力発電事業者に対しCO2の排出量枠を有償で割り当て、「特定事業者負担金」として徴収するものです。
前者は2028年度以降、後者は2033年度以降に開始され、徐々に負担額を引き上げていく構想です。

④GX推進機構
経済産業省の認可によりGX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)を設立します。
GX推進機構の業務は下記3点となります。
・民間企業のGX投資の支援(金融支援(債務保証等))
・化石燃料賦課金・特定事業者負担金の徴収
・排出量取引制度の運営

⑤進捗評価と必要な見直し
GX推進活動は、実際のGX投資等の実施状況やCO2の排出に係る国内外の経済動向等を踏まえ、進捗の評価と必要な見直しをすることです。
前述の化石燃料賦課金・特定事業者負担金に関しては、本法の施行後2年以内に、必要な法律上の措置を行うこととしています。

参考:経済産業省|GX実現に向けた基本方針
参考:環境省|脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案【GX推進法】の概要

GX推進戦略における重要なポイントは2つ

資源エネルギー庁の「総合エネルギー統計」によると日本のエネルギー自給率は11%と、先進諸国のなかできわめて低い水準です。
またロシア侵攻による石油・ガス市場の乱高下により日本のエネルギー安全保障上の課題が改めて浮き彫りになりました。
こうした中、政府はGXを加速させることでエネルギーの安定供給と、脱炭素分野で新たな需要・市場を創出することで日本経済の産業競争力強化・経済成長につなげていく「GX推進戦略」を掲げています。

GX推進戦略における重要なポイントは、「エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取組」と「成長志向型カーボンプライシング構想の実現」です。

エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取組

「GX推進戦略」では「エネルギー安定供給の確保」に対して下記のような3つの主要な取り組みを掲げています。

●徹底した省エネの推進
●再エネの主力電源化
●原子力の活用

この3つ以外にも、日本が世界で注目されているような水素やアンモニアでの発電も今後に期待がかかります。しかし、水素やアンモニアなどは、日本国内でのエネルギー供給においてまだ発展途上的な段階です。

徹底した省エネの推進

まず、徹底した省エネの推進における活動としては、中小企業などにおける省エネ支援について強化していく計画です。企業のオフィス部門などから、LEDや高効率機器の導入、人感センサーの設置など脱炭素化に向けた投資に対して補助金などで支援しています。

複数年の投資計画に対応できる省エネ補助金を創設することでも強化を図ります。この補助金制度では、機械設計などが伴う省エネ設備の導入などにも対応しており、比較的活用しやすい制度です。

さらに住宅省エネ化への支援なども行います。賃貸集合住宅の省エネ化支援事業では、高効率給湯器などへの切り替えに対して補助金が出るようになります。そのほか、建築物省エネ法改正により省エネ性能の高い住宅を増やしていくことが重視され、新築住宅での省エネ基準への適合が義務化されます。改正省エネ法では、非化石エネルギーへの転換が目的として掲げられるようになり、GX推進にもプラス効果になるものです。

再エネの主力電源化

第6次エネルギー基本計画では、2030年における再エネ比率の目標を、現状の20%程度から「36~38%」に掲げられました。

再生可能エネルギーのシェア率の拡大においては、今後10年間で国産次世代型太陽光の量産体制の構築や浮体式も含めた大規模洋上風力の案件形成など、次世代再生可能エネルギー技術の社会実装を目指しています。
また北海道から本州間の海底直流送電の整備や、洋上風力発電における初期の海洋調査を政府主導で合理的に一括して調査するという「日本セントラル方式」によって、洋上風力発電の設置数の増加促進を目指す計画です。
また地域と共生した再エネ導入を図るための措置を盛り込んだ「改正再エネ特措法」が2024年4月に施行される予定です。これにより再エネ導入に取り組む事業者の活動が強化されます。

原子力の活用

原子力の活用においては、安全性の確保を大前提として、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むことや、原子炉の運転期間の「原則40年、最長20年」規定を、厳格な安全審査のうえで経済産業省の認可で延長稼働できるとしています。

原子力の活用は世論の賛否が分かれるところであり、慎重な対応が求められます。

その他

その他にも世界的に高い技術水準にある日本国内の水素技術について、国家戦略とともに制度的な設計を進めていく計画です。予備電源制度や、長期脱炭素電源域でのオークション制度の導入で、計画的に脱炭素電源に対する投資を支援します。

不確実性があるLNG市場の動向に配慮しながら、戦略的に余剰LNGについて確保する仕組みをシステム的に作りあげる計画です。同時にメタンハイドレードなどの技術に関して支援します。

蓄電池、資源循環、次世代自動車、次世代航空機、ゼロエミッション船舶などから、各領域において、GXに向けた研究開発・設備投資・需要創出などの必要な取り組みについて支援していく方針です。

「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行

「カーボンプライシング」とは、企業などの排出するCO2(カーボン、炭素)に対して価格付けすることでCO2排出量の抑制につながるように考え出された政策的な手法です。

具体的には、「炭素税」や「排出量取引」、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」といった制度があります。
前述の通り、成長志向型カーボンプライシング構想では、GX推進法における今後10年間での150兆円超の官民によるGX投資なども含めて、カーボンニュートラルの実現にはやくから取り組んでいる企業に有利に働く仕組みでもあります。

GX経済移行債を活用した先行投資支援

「GX経済移行債」とは、GX経済に移行するために必要な資金を調達するための国債です。

GX推進法では、今後10年間において約20兆円規模の資金をこの「GX経済移行債」によって調達する計画です。

この「GX経済移行債」から調達した資金は、再生可能エネルギーの太陽光発電施設の建設や、水素やアンモニアによる発電技術の開発、次世代用の原発の技術開発などの支援に使用される予定です。

成長志向型カーボンプライシング(CP)によるGX投資インセンティブ

CO2排出に値付けをすることでGX関連製品・事業の収益性を向上させ、投資の促進を図ります。
当初は炭素価格を低い価格で設定し、徐々に引き上げることを方針で示すことで投資の前倒しを狙います。
具体的には、「排出量取引制度」の本格稼働(2026年度~)、「炭素に対する賦課金」(化石燃料賦課金)の導入(2028年度~)、「GX推進機構」の創設が計画されています。

新たな金融手法の活用

官民協調で150兆円超のGX投資を実現していくためには、国内外のESG資金の呼び込みを始め、民間金融の力を最大限活かすことが不可欠です。
脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略にもとづいて取り組みを行う企業に対し、資金面で取り組みをサポートするための新しいファイナンス手法である「トランジション・ファイナンス」を促進することで、温室効果ガスを多く排出する産業における事業活動を脱炭素型へ移行するための融資を強化していく方針です。具体的な取り組みとしては、「GX分野における民間資金の呼び込み」、「公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法(ブレンデッド・ファイナンス)の開発・確立」、「サステナブルファイナンスの推進」が計画されています。

国際戦略・公正な移行・中小企業等のGX

アジア地域の実情に即した脱炭素化と経済成長という共通理念を掲げ、アジア地域全体の脱炭素化を目指す枠組みである「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想により、アジア全体のGXを後押しする国際戦略を進めていきます。
他にもリスキリング支援によるGX関連分野の人材確保や、脱炭素先行地域の全国展開等により脱炭素製品等の需要喚起、事業再構築補助金の活用による支援、人材育成やパートナーシップ構築宣言の拡大等で中小企業を含むサプライチェーン全体でのGX促進を狙います。

参考:経済産業省|脱炭素成長型経済構造移行推進戦略【GX推進戦略】の概要

まとめ

GX推進法による国内での活動は、2030年までの中間的な位置づけにある「CO2削減目標」や、「再生可能エネルギーのシェア率」などの実現にも、効果を発揮していくことが重要な課題です。

GX推進法は、2023年に施行され、今後10年間にわたるGX推進に関する活動内容が規定されている法律です。よって、日本におけるGX推進に大きな役割を持っていることになります。

この日本のGX推進法は、世界各国における同様な法律に比べて、法的な強制力がないことや、企業の自主性に依存している点でも、力が弱いと言われています。また、2023年においても世界のなかで21位*と良好な結果ではありません。

このような状況も踏まえて、政府・企業・国民が社会全体として、GX推進に対して強い取り組み姿勢を示していく必要があります。
世界の共通目標である温室効果ガス排出削減に対して、政府・企業・国民は、各自が自分の責任として強い危機感と使命感を持つことが必要です。

*出典:Sustainable Development Report 2023

※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。

記事タイトルとURLをコピーしました!

業種別で探す

テーマ別で探す

お問い合わせ

GXラボに関連するご質問・お問い合わせは
こちらから受け付けています。お気軽にご相談ください。

お問い合わせ

GXラボ

https://www.ricoh.co.jp/magazines/green-transformation/

「GXラボ」は、脱炭素社会の実現と企業価値の向上をご支援する 新たな情報提供プラットフォームです。

新着情報をお届けします

メールマガジンを登録する

リコージャパン株式会社

東京都港区芝3-8-2 芝公園ファーストビル

お問い合わせ先:GXラボ 編集部 zjp_gx_lab@jp.ricoh.com