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サプライチェーン全体での脱炭素化への取り組み|メリットや事例を紹介

From: GXラボ

2024年09月25日 16:03

この記事に書いてあること

スコープ1、2、3によるサプライチェーン全体におけるCO2排出量の把握については、パリ協定に準拠するSBT*によって定められており、現在既に常識化しつつあります。サプライチェーン全体に対する脱炭素化への取り組みは、仕入れ先や取引先と連携することで、より効果的に推進することができます。脱炭素化へ取り組むことによるメリットを有効活用しつつ、今後の事業成長にうまく繋げることが、持続的に取り組みを続ける上で大切です。

*SBT: パリ協定が求める⽔準と整合した、5年〜10年先を⽬標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減⽬標のこと。

サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組むメリット

サプライチェーン全体のCO2排出量の測定に使用するスコープ1、2、3は、パリ協定に準拠するSBTが定めた算定基準で、製品に対して原材料の段階から消費者の使用プロセスに至るまでの全ての範囲において、CO2排出量をネットゼロにしようとするものです。

脱炭素化は世界的な動きであり、これに取り組むことで対外的に信用性のある企業として知名度を高めることも可能です。いわば、世界に通用する企業として、国内においても取引先企業や消費者から認められることになります。

このような脱炭素化に取り組む企業には、下記のようなメリットがあります。

●企業価値が向上する
●他社と差別化を図れる
●人材を確保しやすくなる

脱炭素化に取り組む企業では、脱炭素化への取り組みが対外的に知られることで、事業に好影響があった企業も少なくありません。企業が脱炭素化に取り組むメリットについて、それぞれ詳細に解説します。

企業価値が向上する

サプライチェーン全体のCO2排出量を削減することに取り組む企業は、電力消費や燃料の使用においてCO2排出量の低減化が進んでおり、エネルギー消費効率が高い設備なども導入されています。これにより、その企業における事業運営上のランニングコストを低減することが可能です。

このような取り組みは脱炭素に取り組む企業としての信用性や知名度アップにつながります。また、ESG投資や金融機関からの脱炭素化に取り組む企業への優遇まで資金調達面でも有利です。これらから、企業価値は、それ以前よりも大きく向上することが期待できると言えます。

他社と差別化を図れる

脱炭素化に取り組む企業は、炭素税の徴収や、環境配慮のない商品と認定されることによるビジネス取引からの排除などの企業低迷リスクを避けることができます。
このような企業としての健全性の高さは、他社との対比において明確な優位性となります。

取引先企業や消費者にとっては脱炭素化に関して健全な企業という安心感があり、将来的な取引や商品の購入における健全性について考えれば、脱炭素化に取り組む企業としての魅力も感じます。脱炭素化の動きは世界的なものであるため、このような取り組みはサーキュラーエコノミー(循環経済)につながり、企業としてのサーキュラー・アドバンテージを得ることができるでしょう。

人材を確保しやすくなる

脱炭素化に取り組む企業の優位性は、企業評価として就職活動者や転職希望者から注目される側面もあります。多くの就業希望者が集まることで、優秀な人材の確保が容易に行えるようになり、事業の成長に向けて活力をさらに増進することが可能です。

脱炭素化にはサプライチェーン排出量の算定が不可欠

企業が脱炭素化を実現するためには、事業における全ての領域のCO2排出量を削減することが必要です。例えば製品・商品であれば、原材料の調達段階から、消費者や企業などの購入者に届いて使用後に廃棄されるまでの全てのプロセスにおけるCO2排出量が、サプライチェーン排出量になります。この全てのサプライチェーン排出量を削減対象としなくてはなりません。

サプライチェーン全体で見たときに、どの部分が多くのCO2を排出しているのか、各企業がしっかりと把握して削減に取り組むことでカーボンニュートラルが実現します。つまり、サプライチェーン排出量の算定は、脱炭素社会実現のために不可欠なのです。

サプライチェーン排出量の算定方法

サプライチェーン排出量について把握していく方法は、原材料の調達段階から消費者に届くまでのプロセスを大きく3つに分けてから、それぞれの領域についてCO2排出量を測定します。

この3つの領域をスコープ1、スコープ2、スコープ3と呼びます。スコープ1は、自社の事業において燃料の焼却時などに発生するCO2排出量です。スコープ2は、自社の事業において、別の会社から供給された電気、熱、ガスなどの使用時に発生するCO2排出量です。スコープ3は、調達する原材料や、輸送、雇用者の通勤、消費者に届き使用され廃棄されるまでのプロセスなどにおけるCO2排出量を意味しています。

出典:環境省 | 排出量算定について

スコープ1、2は自社の活動における排出量ですが、スコープ3は自社の活動に関連する他社(消費者含む)の排出量です。スコープ3は下記の15のカテゴリに分類されます。

区分 該当する排出活動(例)
1 購入した製品・サービス 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達
2 資本財 生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上)
3 Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動 調達している燃料の上流工程(採掘、精製など)
調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製など)
4 輸送、配送(上流) 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主)
5 事業から出る廃棄物 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送(※1)、処理
6 出張 従業員の出張
7 雇用者の通勤 従業員の通勤
8 リース資産(上流) 自社が賃借しているリース資産の稼働
(算定・報告・公表制度では、Scope1,2に計上するため、該当なしのケースが大半)
9 輸送、配送(下流) 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売
10 販売した製品の加工 事業者による中間製品の加工
11 販売した製品の使用 使用者による製品の使用
12 販売した製品の廃棄 使用者による製品の廃棄時の輸送(※2)、処理
13 リース資産(下流) 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
14 フランチャイズ 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2に該当する活動
15 投資 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用
その他(任意) 従業員や消費者の日常生活

※1 Scope3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を任意算定対象としています。
※2 Scope3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を算定対象外としていますが、算定頂いても構いません。

出典:環境省 | 排出量算定について

そして、この3つの領域を合算することで、サプライチェーン排出量を算定したことになります。

サプライチェーン排出量=スコープ1排出量+スコープ2排出量+スコープ3排出量

スコープ1

スコープ1は、自社における燃料の燃焼などによる直接排出です。
例えば、プラスチック製品の製造工場において、重油のボイラーがあり、生産ラインにおいてそのボイラーの熱が使用されていましたが、多くのCO2排出量があるために脱炭素化の取り組みとしてバイオディーゼルのボイラーに転換されました。
バイオディーゼルとは、大豆や菜タネに由来するものであることから、重油に比べて大幅にCO2排出量を低減する低炭素化燃料です。スコープ1では、このような領域での脱炭素化への取り組みがあります。

スコープ2

スコープ2は、電力会社などの社外の企業から供給されるエネルギーに関して自社内において消費するという間接排出の部分を意味するものです。
例えば本社の照明器具に関して、従来の蛍光灯からLED照明に入れ替え、さらなる電力消費の節減のために資料調査室の照明は、人感センサー付きの照明に替えることにしました。

蛍光灯からLED照明に変更したことでの電力消費量の削減にくわえ、今までは、一日中照明していた資料調査室は、誰かが利用していないと自動で消灯するように変わりました。これにより、本社の電力消費を節減することに成功しています。スコープ2では、脱炭素化の実現に向けこのような取り組みを行います。

スコープ3

スコープ3は、調達する原材料や輸送、雇用者の通勤、消費者に届き使用され廃棄されるまでのプロセスなどにおけるCO2排出量という自社内での事業以外の部分を意味します。

例えば、あるタブレット端末を自社の製造工場から小売店舗に届けるまでの輸送手段として、排気量の大きい大型トラックで搬送していたことでCO2排出量が大きくなっていたとします。この大型トラックを中型の電気自動車に変更することで、CO2排出量を大きく削減することができました。スコープ3では、このような活動が脱炭素化への取り組みです。

サプライチェーン排出量を算定するメリット

サプライチェーン排出量の算定においては、仕入れ先企業や取引先企業との協力関係において、綿密に調査することが必要です。正確に排出量を算出することは、企業にとっても様々なメリットがあります。

具体的には、以下のようなメリットがあります。

●削減対象が明らかになる
●取引先との関係が強化する
●社会的信頼性が向上する

削減対象が明らかになる

サプライチェーンにかかわる企業間での調査によって、より詳細にCO2排出量を把握することが可能です。サプライチェーン排出量については、共通の作業目的で活動する2社以上の視点でCO2排出量について調査することで、しっかりとした調査ができるようになります。

これによって、事業におけるサプライチェーン全体のCO2排出量が数値化され、CO2排出量削減のために削減しなければならない対象も明確になります。
そして、その対象を企業間で認識し共有することで、脱炭素の取り組みに対する当事者意識を持つことが可能です。

取引先との関係が強化する

脱炭素化に取り組む企業は、取引先との企業間での調査の中で、CO2排出量削減のための協力的な取り組みについて話し合うことによって、企業間の連携性を強化することが大切です。

このような話し合いの中では、建設的なエネルギー節減の提案などから、より効率的な協業関係の在り方を模索することも重要な課題です。様々なアイデアの交換の中で、CO2排出量削減について共に学んでいくことも、連携性を高める絆となります。

社会的信頼性が向上する

サプライチェーン全体におけるCO2排出量削減に取り組むことで、脱炭素化に取り組む企業は、外部の企業や消費者から、それだけの努力に取り組んだ企業として認知されることになります。

脱炭素化に取り組む企業は、TCFD(企業における気候変動に対応した経営戦略の開示)、SBTi、RE100、ゼロエミ・チャレンジ企業への参画などでも国内外の企業から信用が得られ、社会的信頼性が高まる点も重要なポイントです。

サプライチェーン全体での脱炭素化の取り組み事例3選

サプライチェーン全体での脱炭素化への取り組みによって、CO2排出量が多くなっている領域について、しっかりと把握するとともにカーボンニュートラルに向けて解消していくことが必要です。

先行する事例から、自社の脱炭素化への取り組みにおける方策に使えるものを探し出しておくこともCO2排出量削減計画の策定に役立ちます。さらに、どこのCO2排出量が多くなっているのか、という点についても先行事例から類推することが可能です。

以下で、サプライチェーン全体での脱炭素化の取り組み事例について3社をご紹介いたします。

住友林業株式会社

住友林業株式会社は木材注文住宅の国内外の建築を中心に、海外では、ニュージーランド及び東南アジアなどで植林事業も行っています。国内でも森林アセットマネジメントから、建材の輸入・製造などの事業も手掛けているところが特色です。

全世界のCO2排出量に占める建設部門の割合は約37%と言われており、その70%が建築後に暮らすときの排出量、すなわちスコープ3のカテゴリ11[販売後の製品の使用]と言われています。建設業界における脱炭素化の取り組みが求められる中、住友林業株式会社では、「Mission TREEING 2030」を掲げ、脱炭素社会の実現に向けて様々な取り組みをおこなっています。

また、One Click LCA社のソフトウェア「One Click LCA」と日本単独代理店契約を締結しています。「One Click LCA」の特長は、建物に使用する資材のデータをもとに、建設にかかる原材料調達から加工、輸送、建設、改修、廃棄時のCO2排出量などを効率的に算定でき、建物のライフサイクル全体について評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)が、分析できます。

出典:住友林業株式会社|Mission TREEING 2030
出典:住友林業株式会社|ニュースリリース
出典:住友林業株式会社|One Click LCA

ライオン株式会社

ライオン株式会社は、一般用消費財事業がメインとなり、歯磨き粉などのオーラルケアからビューティーケア・ファブリックケア・リビングケア薬品などの製造・販売を手掛けている企業です。

ライオングループとして2030年までにライフサイクルにおけるCO2排出量を2017年比で30%削減、2050年までにライフサイクルにおけるCO2排出量半減を目指しています。「脱炭素社会の実現」に向けて、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を把握することの重要性を認識し、2013年より「GHGプロトコル・スコープ3基準」に基づき、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算出しています。

物流部門においては、輸送用トラックの大型化や積載率向上などの物流効率化、工場直送による輸配送距離の短縮化やモーダルシフトなどを通じてCO2排出量の削減に取り組んでいます。また、温室効果ガス排出量が大きいスコープ3のカテゴリ11「販売した製品の使用」での排出量削減に寄与する商品の普及及びさらなる開発を推進し、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいます。

出典:ライオン株式会社 | ライフサイクルにおけるCO2排出量削減

住友ゴム工業株式会社

ダンロップ、ファルケンのタイヤブランドで知られている住友ゴム工業株式会社は、タイヤ製造事業がメインとなり、ゴルフやテニスのスポーツ用品でもダンロップのブランドで展開しています。

事業を通じて環境問題や社会課題の解決に貢献し、社会をサステナブルなものにするための取り組みをさらに強化することを宣言し、2021年8月に「はずむ未来チャレンジ2050」を策定し、その目標のひとつにカーボンニュートラルを掲げています。グループの温室効果ガス排出量はScope3が約9割を占めており、サプライチェーン全体におけるカーボンニュートラル達成に向けて、Scope3排出量のほぼ全てをカバーした2030年目標をあらたに設定しました。

スコープ2の自社の電気の使用に関しては2022年に中国の常熱工場、湖南工場にて購入電力の全てを再生可能エネルギー由来の電力に切り替え、CO2の削減を図ってきましたが、スコープ3においては今後、「材料開発・調達」では、サステナブル原材料の活用、サプライヤーエンゲージメントの強化、「物流」ではモーダルシフトの推進など、「販売・使用」「回収・リサイクル」ではタイヤの転がり抵抗低減やロングライフ化、リトレッドタイヤの生産能力拡大などを進め目標値の達成を目指しています。

出典:住友ゴム工業株式会社|サプライチェーン全体のカーボンニュートラル達成に向けた2030年目標を設定

まとめ

サプライチェーン全体での脱炭素化は、環境負荷の削減、企業の持続可能性、法規制への適合、そして市場競争力の向上といった多岐にわたる利点をもたらします。これは単なる企業の責任ではなく、地球全体にとって喫緊の課題であり、今後ますますその重要性が高まることでしょう。特にスコープ3のカテゴリ11「販売した製品の使用」での排出量削減も求められる中、製造業においては使用時におけるCO2排出量の少ない製品の開発が商品競争力の1つになることが予想されます。

このように、企業は積極的かつ継続的な取り組みを通じて、サプライチェーン全体の脱炭素化を進め、持続可能な未来の構築に貢献していくことが自社の繁栄と存続に重要となると言えるでしょう。

※本記事に掲載の会社名および製品名はそれぞれの各社の商号、商標または登録商標です。

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