少数精鋭経営を行う。だからICTは必須ツール。 社員4人の東郷建設に見る新時代経営術
2020年11月27日 06:00
この記事に書いてあること
執筆者
フジサンケイビジネスアイ
産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
「地域に根差して仕事をしている以上は『これはできない』ではだめ。土木に関わるすべての問題を引き受けます。道路の舗装でしたら、舗装業者に声をかけ、橋の工事なら橋の建設業者を呼び寄せます」と株式会社東郷建設の近藤洋一社長は静かに話し始めた。
社長を含め社員は4人。その道にたけた業者を集め、現場を監督し、工事を完成させる。オーケストラの指揮者にもなぞられる。省力化のためのICTの活用には躊躇がない。「ITは使わないと。その方が楽ですから」と笑う。その表情からは、新しいことに取り組むワクワク感のようなものもみてとれた。
東郷建設のある愛知県東郷町は、名古屋市と豊田市の間に位置し、両市のベッドタウンとして発展してきた町だ。宅地化の一方で、美しい水辺や豊かな緑地が今も多く残り、暮らしやすい町としての評価も高まっている。2020年9月には町内に大型商業施設がオープンし、その魅力度が増している。
東郷建設は、1972年から東郷町で建設土木業を営んできた。工事の段取りや進行を管理・監督などを受け持つ施工管理を手掛け、町の公共工事から立木の処分や私有地の外構や舗装の補修まで地元住民のささいな困りごとも引き受けている。まさに東郷町の発展を支えてきた会社だ。
工事写真の撮影が一人でも可能に 省力化に貢献する「電子小黒板」
近藤社長が「電子小黒板」を導入したのは2017年のことだ。今でこそ業界で普通に使われているが、当時はまだ導入する会社は少なかった。近藤社長は、このシステムのデモを見たとき、すぐに「これは使える」と確信したという。
工事写真の撮影は、施工管理の中でも重要な仕事だ。現場監督は、工事の発注先に注文通りに施工していることを証明するため、工期の全期間にわたって工事の状況を撮影する。その際、いつ、どこで、何の工事をしたかなどを小黒板に記入して、その黒板と一緒に写真を撮る。一度の工事で500枚以上の写真を撮影することもあるという。
例えば、道路の舗装工事のような場合、どの写真も同じような画像が続いてしまう。撮影の際、黒板に内容を書き込んで撮影しておかないと、「これはどこの写真だったっけ」ということになってしまう。画像だけで整理するのは不可能だ。このため、撮影の際には、小黒板が不可欠なのだが、撮影する担当と黒板を持つ担当の2人が必要になる。
「黒板担当がいないときは、職人さんの手を止めて黒板を持ってもらったり、看板を立てかけて撮影しようとしたら、シャッターを押す瞬間に風でばたんと倒れてしまったり。天井を撮影するときは棒を取り付けたりもします。効率が悪くて、面倒なんです」と近藤社長は語る。
電子小黒板のシステムは、スマートフォンのアプリに工事情報を入力し、スマホのカメラでそのまま現場を撮影すればいい。撮った写真データはクラウドに保存される。さらに入力した工事情報に基づいて自動で写真データの仕分けもしてくれる。
今までは正確を期するため、数日かかかっていた工事アルバムづくりが、わずか数時間でできるようになった。もとから余分な人間を置いていない会社にとっては非常にありがたい。まさに働き方改革だ。
「杭打ち」「墨出し」などの測量作業も一人で対応が可能に
もう一つ、近藤社長をワクワクさせているのが、杭打ちなどの作業に特化したデジタル測量機器「杭ナビ」だ。
土木工事では、工事をする場所や位置を正確に測定するため測量作業が行われる。一般的には、熟練した測量士と助手の2人で行い、道路などでは自動車や人に気を使いながら、正確な高度や水平位置などを測量する。その際、工事をする境界や構造物などを配置するポイントに杭を打ったり、ラインを引いたりするが、デジタル測量機器を活用すると、複数の人員が必要だったこうした作業を一人でこなすことが可能だ。
スマートフォンにアプリを入力して操作でき、計測したデータはメールやクラウドでやりとりができる。測量作業の大幅な省力化に効果を上げている。 近藤社長は、「工事作業中に設計通りになっているか確認したいときにも便利。わざわざ測量技師を呼ばなくても確認できるようになりました」と高く評価している。1人で測量が出来る、電源を入れるだけで自動整準、機械設置が簡単ということもその評価の理由だ。
「土木の世界ではまだあまり普及していませんが、3D-CAD(三次元設計)とこの技術を組み合わせることができれば、さらに効率的な工事を実現できるのではないかと考えています。今のところまだ活用する機会はないのですが、ぜひチャレンジしたい」と、新たなITの活用にも意欲をみせていた。
ICTで日進月歩進化する建築・土木技術 活用しない手はない
建築・土木はICTの活用で急速に進化している。国土交通省も「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を掲げて、ICTやAI(人工知能)、ロボットなどの活用を推進。業界に積極的な活用を呼びかけている。背景にあるのは、日本の産業全体に広がる人手不足だ。特に建設・土木業界は3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれる代表的な職場で、若者に敬遠されがちな傾向にもある。人手の確保は業界全体の課題だ。ICTの活用が広がれば、若者にとって魅力的な業種の一つになる可能性も秘めている。
大手のゼネコンから東郷建設のような少数精鋭の地域企業まで建設・土木業界の裾野は広い。「ICTなんて、大手の会社が使うもの」というイメージがあるかもしれないが、むしろ規模が小さい中小企業こそが積極的に活用することで、新たな成長のチャンスをつかむきっかけをつかめるのではないか。東郷建設の近藤社長の話を聞くとそんな思いが強くなった。
会社概要
会社名
株式会社東郷建設
本社
愛知県東郷町大字諸輪字富士塚181-33
電話
0561-39-1752
設立
1972年8月
従業員数
4人
事業内容
上下水道、乗入、盛切土、擁壁等の許可申請が必要な工事から既設建造物のメンテナンスまでトータルに対応
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