有料老人ホームの新たなビジネスモデルにICT ニチモ(千葉県)
2021年05月26日 06:00
この記事に書いてあること
執筆者
フジサンケイビジネスアイ
産経新聞グループの日本工業新聞社が発行する日刊ビジネス情報紙。我が国経済の成長を盛り上げると同時に、経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
茂原駅から徒歩10分ほどのところにある住宅型有料老人ホーム「時の村 本館」。一見すると、ビジネスホテルのようなたたずまいだが、この施設には介護保険認定を受けた約30人の高齢者が入居している。24時間365日の体制で医師や看護婦がサポートする体制を整え、胃ろうや酸素吸入が必要な高齢者も入居が可能だ。
「ここはね、もともとはゴルフ場の社員寮だったんですよ」。運営するニチモの細矢宏将社長が説明してくれた。
低所得者でも利用できる施設
細矢社長は、この施設をはじめ千葉県茂原市で5つの住宅型有料老人ホームを運営する。いずれも空きアパートや社員寮など遊休施設を活用したものだ。施設には、介護職員が常駐しており、24時間体制で利用者の見守りや介助・介護を行う。専用の施設を一から建設するわけではないので、低コストでの運営ができる。利用者も、年金や生活保護、介護保険の範囲内の低料金で施設を利用できるメリットがある。
「今後、日本は介護が必要な高齢者がどんどん増えていきます。みんながお金に余裕のあるわけではありません。低所得の高齢者でも利用できる施設のニーズは高まります。その中で、いかに採算がとれる形で運営するか。2年くらい研究して、導き出したのが、このモデルなんです」
もともと細矢社長は福祉機器の製造販売を手掛けていた。シートを上昇させて足の不自由な高齢者が立ち上がりやすくした座椅子を2005年ごろに開発した。「足が悪い祖父にそんな座椅子をプレゼントしたいと思って探したのですが、みつかりませんでした。そこで自分で作ることにしたんです」。細矢社長はこの座椅子を商品化し、福祉事業に乗り出す大きなきっかけとなった。
その後、介護・福祉機器の製造・販売事業を手掛ける中、空きアパートなどを高齢者施設に利活用する国の取り組みを知り、そのしくみを活用した老人ホームの取り組みにチャレンジしたという。
外国人の教育と就労の仕組みを構築
さらに興味深い取り組みは、介護職員に積極的に外国人を採用している点だ。約100人いる社員のうち約30人は外国人。現在9カ国から介護職員を受け入れているという。優秀な介護人材を確保するため、フィリピンやミャンマーなどでの日本語学校の設立にも乗り出した。
生徒は少数精鋭。介護施設への就労を希望する生徒を集めて、授業料を免除して日本語や介護技能を教育し、卒業後、介護職員としてニチモで就労してもらう。慢性的に不足する介護人材を安定的に確保するための策だ。
「現状では持ち出しばかりですが、軌道に乗せて採算がとれるビジネスに育て上げたい」と力を込める。
台風を機に、一気に書類のデジタル化
ニチモがICTの積極活用に舵を切った大きな契機となったのが2019年10月の台風19号だった。市内の河川が氾濫し、茂原市内は1メートルを超す洪水に見舞われた。ニチモでは、介護記録や利用者への経費請求など書類の作成を手書きで行っていたが、こうした書類が水浸しになってしまったという。
「介護保険の請求や利用者への利用料の請求などに大きな影響が出てしまいました。その時、もう紙で書類を作成・保存するのはやめようと、ICTの活用を急ぐことにしました」
まずは、介護請求業務ソフトや会計処理ソフトを導入。業務の効率化を図った。
ニチモでは、約120人の利用者の世話をしているが、介護にかかる費用は利用者一人ひとり異なる。それぞれ個別に計算する必要がある。施設が増え、利用者の数が増加する一方で、利用者への請求業務は経理担当者一人で対応していた。それぞれ紙ベースでの作業だったため、作業が集中すると、請求書の作成が遅れることがあったという。
導入した介護請求業務ソフト「ほのぼの」は利用者への請求書・領収書をパソコン上で作成でき、発行状況を一覧で管理できる。請求書も表計算ソフトを活用しているため、追加の変更なども容易になり、大幅な業務の効率化につなげた。また、会計処理ソフト「SMILE(スマイル)」を導入したことで資金繰りの管理業務もスムーズに進むようになったという。クラウドやサーバーを導入し、災害にも強い管理体制を整えた。
タブレットで外国人職員の負担軽減
さらにタブレットを活用して介護記録を作成できるシステムも取り入れ、介護記録のペーパーレス化を進めている。介護記録の作成では、話した言葉を音声認識で文字にするシステムの活用をトライアルしている。「外国からきた介護職員は文字を書くことに慣れていません。話した言葉を文字化することで、外国人の介護職員の記録作成の負担を軽減してあげたい」と細矢社長は話す。介護サービス計画などを策定するケアマネジャーの業務負担の軽減にも効果を果たしている。
「介護サービスは現場が第一だと思います。書類の作成作業が軽減されることで、現場でのサービスの充実につながってほしい」と細矢社長は期待していた。
一方、外国人学校の運営では新型コロナウイルスの感染拡大で、現地での教育活動が困難になってきた。日本から指導者を送り込むことができず、インターネットを活用した遠隔授業を行っている。東南アジアの国の中にはネット回線の状況が不安定なところもあり、安定した通信環境の整備を急いでいる。
3Dプリンターで高齢者が使いやすいスプーン開発
こうしたニチモのICT活用をサポートしているのはリコージャパンだ。ニチモは2年ほど前に複合機の契約を別の会社からリコージャパンに変更。その中で、リコージャパンのICT活用の提案が業務の効率化を進めたいニチモのニーズとマッチし、さまざまなトライアルが始まった。
福祉機器の開発に現在も取り組んでいる細矢社長は、介護が必要な高齢者が使いやすいスプーンの開発に取り組んでおり、開発に向けて3D(三次元)プリンターを導入。実用化に向けた試作に励んでいる。これも、顧客ニーズに応じた幅広いソリューションを用意できるリコージャパンならではサポートだ。
遊休施設を活用した住宅型有料老人ホームと、運営するためのシステムを準備することで、採算性の高いビジネスが可能になる。ニチモではフランチャイズ展開を含めた事業展開を検討する一方、優秀な外国人介護人材の育成プロジェクトも今後、強化する考えだ。高齢社会、低所得・貧困層高齢者の介護、介護人材不足という日本が抱える重要な課題を抜本的な解決が期待できるニチモの取り組みにICTがどう貢献するのか注目される。
会社概要
会社名
株式会社ニチモ
本社
千葉県茂原市八千代2-5-5
電話
0475-26-6233
設立
2008年8月
従業員数
100人
事業内容
住宅型有料老人ホームの運営、デイサービス施設の運営、訪問介護事業、日本語教育事業、福祉用具・介護用品製造・卸し・販売事業など
記事タイトルとURLをコピーしました!