土木のICT施工を推進、i-Constructionで建設業新時代へ 齋勝建設(青森県)
2021年09月14日 06:00
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青森県五所川原市は新青森駅から車で1時間足らず。途中、自動車専用道路の津軽自動車道を通過する。2013年までに青森市からつがる市までの約20キロが開通したこの道路は、交通事情の悪かった県西部と県中心部を結ぶネットワークとして重要な役割を果たしている。
沿道には美しい田園やリンゴ果樹園が広がり、津軽の名峰・岩木山を遠く望む。夏の青森ならではの美しい風景だ。車窓からの眺めを後にして向かったのが、五所川原市の総合建設会社齋勝建設だ。
五所川原市や西津軽郡、北津軽郡など津軽西北エリアを中心に事業を展開する齋勝建設は、道路や漁港整備などの公共工事を中心に市庁舎や学校施設の建設なども幅広く手掛けている。「もちろん、津軽自動車道の工事には、すべて参画させてもらっています」と、齋勝建設の木村英人土木部長は胸を張った。その表情には、地域のインフラ整備を担う自負が表れているようだった。
全行程を自社ICT施工できる態勢に
齋勝建設は2016年ごろから、業務のICT化を積極的に推し進めている。着工前に現場の状況を確認する起工測量から、3次元(3D)の設計データの作成、ICT建機での施工、出来形計測、電子納品までICTを活用して全ての工程を自社施工できる態勢を整えた。青森県内の建設業者ではいち早く取り組み、ICT施工のトップランナー的な存在になっている。
「国土交通省が『i-Construction(アイ・コンストラクション)』を推進するようになり、青森でもICT施工を求める工事が増えてきました。安定した受注を勝ち取るには自社での態勢づくりを急がなくてはならないという危機感があったのです」
i-Constructionは、土木・建設業界の生産性の向上を図ることを目指した取り組み。業界で深刻化する人手不足に対応し、ICTの積極活用を業界に促している。ICTを活用することで、工期の短縮や無駄のない効率的な施工が可能になり、公共工事などの入札では、ICTを活用した施工を参加条件にしたり、ICTを積極活用する業者の実績評価を高くするなどのインセンティブを与えたりしている。
現場からの声受け、外注頼みからの脱却図る
国の政策を受けて、大手ゼネコンなどはICT導入を積極的に進めているが、地方の規模の小さな建設会社にはまだハードルが高いのが実情だ。当時の齋勝建設も同じ状況でICTの活用が必要な工事に関しては、対応できる測量会社に発注するなどほぼすべて外注で賄っていた。
「外注でも十分に対応できたのですが、いろいろな課題も出てきたんです」と木村部長は打ちあける。
例えば、工事の途中で発注元から設計の変更を求められることがよく起こる。変更部分の測量や設計をやり直なくてはならないが、外注の場合、すぐに対応できないことが少なくない。「『予定があるので2、3日後に』と外注先に言われると、その間、工事がストップせざるを得ない」と木村部長。自社であればいくらでも融通が利く設計変更が足かせとなり、工事に影響を与えることもあった。
「自社でICT施工をやりたい」。現場からもそんな声が持ち上がっていたという。
ICT施工は今後、国だけではなく、県や市町村単位で広がることは容易に予想ができた。社員たちの声を受けて、木村部長は意を決して齋藤彰浩社長に談判した。
「だいたいこれくらいの費用がかかります。やらせてください」
齋藤社長の答えは明確だった。「よし、やろう!」
創業者の3代目に当たる齋藤社長。ふだんから幹部たちには「新しい技術をどんどん取り込んで、いいものをつくっていこう」と呼びかけていた。「社長なら絶対にノーとはいわない」。木村部長にはそんな自信のようなものがあったという。
社長のゴーサインを受けて、木村部長は一気にICT化に乗り出した。まずは、ICTの機能を搭載した建機を購入。測量データや3Dで作成した設計データなどを取り込み、モニターで作業をガイダンス或いはコントロ-ルしてくれる機能を持つ。さらにICT施工には不可欠なソリューションソフトや機器をそろえた。
3D設計データを作成するためのソフト及びドロ-ン、3DレーザースキャナーなどのICT測量機器、ソフトを高速稼働させるための高性能サーバー、複数の人員が必要だった現場作業を一人でこなすことができる現場端末アプリなど大がかりな投資になった。
ICT施工の効果はてきめん、省力化+働き方改革に大きな効果
ICT施工の効果はてきめんだった。土木工事には、丁張(ちょうはり)という大切な作業がある。建造物をつくる位置や高さなどの基準をあらかじめ木杭や杉板などを使って設計図通りに組み立てて設置する。現場を測量して杭打ちをするなど時間がかかる作業で、一度設置しても、時間がたってズレが生じていないか、毎日位置を確認しなくてはならなかった。その作業が一切必要なくなったのだ。
ICT施工では、現場の測量データや3D設計のデータなどを処理して、建機の運転席にあるモニターに表示される。モニターを見ながら設計図通りの作業ができ、設計図よりも深く掘りそうになっても掘りすぎないよう建機は自動的にガードしてくれる。
「丁張には3、4人の人員を配置していましたが、その必要もなくなりました」と木村部長は手放しで評価する。建機の細かい操作を補助するため、建機の近くでオペレーターに指示する施工助手を配置していたが、その人員も無用になった。助手の仕事は危険がつきまとう作業だが、そのリスクも減らすことができた。省力化だけではない効果も表れている。
もう一つの効果は、社員たちの「働き方改革」につなげることができたことだ。作業人数が減っても作業効率が大きく上がるため、今までは納期に合わせて常態化していた残業や休日出勤をなくすことができた。社員の福利厚生にも力を入れ、社員の健康増進や家族との絆を深める機会を提供できるようになった。
試行錯誤で人材を育成、成功体験の積み重ね
ICT化を進める中で大きな課題をなったのが、活用できる人材の育成だった。
導入当初は、現場ごとにICTの活用技術を学ばせながら作業を進めたが、現場が混乱して負担が増えてしまったという。
そこで、ICT施工の技術指導者を一人育成し、そのスタッフをICTを活用推進する現場に派遣する形に変えた。すると現場の作業も円滑に進むようになった。
その情報を聞いた、まだICT施工していない現場の社員たちから、「自分のところでもICT施工したい」「ICT技術を学びたい」との声が上がってきた。成功モデルを作り、その効果のすごさとやり方を目の当たりにした社員たちの取り組む姿勢や目つきが変わってきた。
現在はICT施工の技術指導者は一人だが、「彼を指導役にして、ICTを活用できるスタッフを徐々に増やしていきたい」と木村部長は話す。
ICT施工は機器やソフトの導入だけではうまくいかない。中小の建設業者が導入に躊躇する原因の一つだが、人材の育成方法についてはICT施工の導入を検討している企業にも参考になるかもしれない。
3KからICTを駆使した生き生きした職場へ
3K(きつい、汚い、危険)と揶揄された建設業の現場だが、今後、ICT施工を全現場に浸透させることで若者に魅力的な仕事に変わるのは時間の問題だ。測量のように、これまでは熟練した技術が求められた作業もコンピューターが対応してくれる。デジタルのリテラシーが高い若い人材にも入りこみやすい仕事に変化し、モチベーションが高まることも期待される。
師匠と弟子、先輩・後輩の古い徒弟制度が残る建設業から、若手もベテランもそれぞれが力を発揮できる生き生きとした職場に変わっていく。齋勝建設の取り組みから、そんな建設業の明るい未来予想図がみえているようにも感じられた。
事業概要
法人名
齋勝建設株式会社
所在地
青森県五所川原市大字太刀打字早蕨98-4
電話
0173-35-2710
設立
1957年9月
従業員数
190人
事業内容
総合建設業
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