「コロナ禍でもいつも通りの研修を」 テレビ会議システムの導入を即決 ヒルズ伊勢崎(群馬県)
2021年10月29日 06:00
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「職員の言葉遣いや身だしなみが乱れていたり、整理整頓や清掃が行き届いていなかったりする施設や会社に、人のケアなんてできるはずがありません。大切なのは『清潔感』です」
群馬県伊勢崎市にある株式会社ヒルズ伊勢崎は、介護付有料老人ホーム「ラポール伊勢崎」と小規模多機能型居宅介護施設「美茂呂の丘」を運営している。石原秀樹社長に施設運営で最も重視しているポイントを尋ねると、開口一番、この答えが返ってきた。
ホスピタリティー教育で接客の大切さを学ぶ
清潔感のある施設運営を実践する上で重要なホスピタリティー(おもてなし)の精神を職員に身につけてもらおうと、石原社長は2019年に正しい言葉遣いや適切な身だしなみ、所作などを学ぶ研修をスタートさせた。外部から専門の講師を招き、施設内のホールで職員全員が参加し、毎月1回行っているという。
「ホスピタリティーはお客さまの信頼や信用を勝ち取る上で、非常に大切な取り組みです。一般的な企業はその重要性が認識されているのですが、介護業界全体をみると、その意識が少し薄いと感じていました。当社の職員にはホスピタリティーの精神を持ってもらいたい。その思いからスタートさせた研修です」
「ラポール伊勢崎」は、24時間態勢で介護サービスを提供できる老人ホームだ。喀痰(かくたん)吸引をはじめとする医療ケア、認知症ケアも充実。さまざまな形態がある老人ホームの中でも、手厚いサービスを受けることができる。現在、定員の21人が入居し、充実した介護を受けながら生活を送っている。
介護保険制度がスタートとして間もない2003年、農家を経営していた石原社長の父が「地域の役に立ちたい」と施設を設立。石原社長は2015年に父から経営を任された。「それまでは東京の総合建設会社(ゼネコン)でサラリーマンをしていた」という石原社長。住宅部門で設計から販売まで一通りの業務をこなした。顧客対応の経験も豊富。ホスピタリティーの研修の開催は、接客の大切さを身にしみ見て感じていた石原社長の思いが込められている。
研修の開催に暗雲 「途切れさせたくない!」
ところが、2020年に急速に感染が拡大した新型コロナウイルスの影響で、研修の開催が危ぶまれる事態に陥った。外部から人を施設に招き入れることで、利用者への感染リスクが高まる懸念があったからだ。
「職員にとって有意義な研修を途切れさせたくない」
石原社長は、オンラインで研修ができる環境の整備を即決した。2020年5月のことだ。導入したのは、大型のディスプレイやスピーカー、カメラなどのテレビ会議のシステム。普段、研修に使っているホールに設置した。リモートの会議で幅広い企業が活用しているテレビ会議用ソフトも導入した。
東京にいる講師と施設をネットでつなぎ、収束の見通しがなかなかたたない中でも途切れることなく、研修を継続することができた。
研修に力を入れるのは、「選ばれる施設」を目指し、付加価値の高いサービスを提供するためだ。介護福祉士やケアマネジャーなどの資格取得の費用を負担するなど職員のキャリアアップを積極的に支援。現在は介護職員の9割以上が介護福祉士の資格を取得しており、100%の資格取得を目標に据える。
離れた家族とのオンライン面会は、新たなコミュニケーションの始まり
テレビ会議システムを活用して、入居する利用者とその家族とのオンライン面会も本格化させている。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、利用者家族との面会は中止していたが、ネットでコミュニケーションがとることができるようになった。
「面会を中止している間は、施設のホームページに利用者の家族だけが閲覧できる専用ページを構築して、利用者の日常を撮影した写真やビデオレターを掲載していました。でも、それではリアルタイムではありません。オンラインとはいえ、家族や利用者が、直接コミュニケーションがとれるようになり、家族や利用者に喜ばれています」と石原社長は笑顔をみせた。
オンライン面会には、介護記録のデジタル化に伴い導入したタブレットも利用。床に就く利用者も扱いやすいようタブレットに自撮り棒をつけ、お互いの姿や声が見やすくする配慮しているそうだ。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレビ会議システムを利用したリモートでの会議はもはやビジネスの現場で日常になりつつある。在宅で勤務する社員や取引先など離れた場所にいる複数のメンバーがパソコンやスマホを通じて同じ仮想のミーティングルームに集まり、喧々諤々の議論を繰り広げる。そんな光景はラポール伊勢崎のオンライン面会でも目にするという。
オンライン面会のタイミングに合わせ、いつもの家族とともに普段なかなか面会ができない遠方に住む家族も加わり、1つの画面に複数の家族を表示して入居者と面会。家族同士も久しぶりに顔を合わせたのか、まるでお盆や正月で集まったかのように賑やかで、楽しげに話を弾ませているとか。
コロナ禍の長期化でコミュニケーションの大幅な低下が叫ばれているが、外部との接点が限られる介護施設には、その影響が顕著に表れる。しかし、この逆風が「物理的な距離が遠いと、コミュニケーションが疎遠になる」という固定概念を簡単に打ち壊してくれた。離れた家族や親せきといつでもコミュニケーションできる、そんな素晴らしい時代になったことを再認識させてくれるエピソードだ。
ラポール伊勢崎では、ネットの操作に不慣れな家族に対して、施設に来てもらい、研修に使っているディスプレイと利用者が入居する部屋をつなげる方法で面会できるようにしている。もともとは研修用に導入したシステムだったが、さまざまな場面での用途が広がっている。
介護記録のデジタル化で作業時間が10分の1、サービスの質向上
ICTの活用も付加価値の高い施設づくりに大きな貢献を果たしている。
2019年に介護記録をデジタル化したことで、介護職員の日常の作業を大幅に軽減させ、利用者へのサービスも拡充できた。介護記録は利用者の日々の状態の変化や生活状況などを記録する作業だ。介護士が利用者の健康状態などを共有化し、日常の介護の参考にするだけでなく、利用者に提供する介護サービスを決めるケアプラン作成の必要な参考資料になる。
それまで介護士が手書きでメモにしたものをパソコンに入力していたが、作業の合間にタブレットで入力し、直接、施設のパソコンに送り込めるようになった。
「作業の手間は10分の1になりました。これまでに比べ、10倍の効果が表れた計算です」と石原社長は評価する。省力化以上に重要なのは、デジタル化によって、介護記録の情報を介護士同士が簡単に把握できるようになり、サービスの向上につなげられるところだ。
大胆な発想とICTの融合で介護サービスに革新を
ICTには、これ以外にも、今まで考えつかなかったような高い付加価値を提供する可能性も秘めている。
ヒルズ伊勢崎が運営する「美茂呂の丘」では、在宅療養する要介護者向けに訪問介護や通所、宿泊などのサービスに加え、買い物や病院への通院支援など利用者の生活のすき間を埋めるきめ細かいサービスを提供しているが、在宅介護を充実化させるため、石原社長は「こんなことはできないか」というアイデアを披露してくれた。
「利用者の中には、ひとり暮らしや高齢の夫婦2人暮らしの方もいます。こうした方たちにタブレットを渡し、常時ネットワークでつないでおく。万一、自宅で体調を崩すなど問題が起きた時の対応をしてあげる。ICTを活用すれば、そんな見守りをできるかもしれません」
利用者目線を大切にする石原社長の大胆な発想がICTと融合することで、高齢者福祉に新たな革新をもたらすかもしれない。
事業概要
法人名
株式会社ヒルズ伊勢崎
所在地
群馬県伊勢崎市美茂呂町3197-1
電話
0270-21-1345
設立
2003年5月
従業員数
52人
事業内容
介護施設(介護付有料老人ホーム、小規模多機能型居宅介護施設)の運営
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