給与計算の業務時間が半分に ICT活用で日常業務を削減 社会福祉法人髙陽会(和歌山県)
2021年11月24日 06:00
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「高齢者介護、保育といった福祉にかかわる仕事は今後、ますますニーズと重要性が高まっていきます。スタッフが高齢者、子どもたちと接する時間を増やすには日常業務の負担を軽減しなくてはなりません。業務を効率化するICTの活用はこれからの社会福祉法人が最優先すべきテーマではないでしょうか」
和歌山県紀の川市を中心に大阪府岸和田市などで8ヶ所の特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、保育園などを運営する社会福祉法人髙陽会。10月上旬、グループ全体の勤怠管理、給与計算などの業務を担当する本部・総務課係長の楠木雄一さんはそう話した。
10年前から介護請求業務にクラウドを活用
髙陽会では介護と保育の両方の施設を運営している。「高齢者と子供が触れ合う世代間交流に今後、さらに力を入れていきたいと考えています。コロナ禍が落ち着けば介護施設で子供たちにお遊戯をしてもらったり、高齢者が保育園を訪問したりといった交流を再開したいと考えています」と話す楠木さん。高齢者や子供たちのために髙陽会だからこそできる取り組みを考えていきたいという。
「導入にあたっては情報をしっかりと集め、費用対効果を考えながら少しずつ進めています。」髙陽会では約10年前から介護請求データをクラウドで運用するなどICTの導入を積極的に進めている。ICTは業務効率化によって、利用者と触れ合う時間を作るために有効な技術になると判断したからだ。
課題だった本部と施設の二重管理
最近導入したのは給与計算と連動した新しい勤怠管理システムだ。運営施設の増加に伴ってスタッフの数は増え続けている。今後の見通しも考えると給与計算など人事面での業務負担の軽減は大きな課題だった。現在、8ヶ所の施設で働くスタッフは約380人で8割を女性が占める。40代以上で結婚して子育てが一段落してから務める人が多いという。
新しい勤怠管理システムを導入する前は、本部と各施設の二重管理になっていた。施設ごとの事務担当者が、タイムカードをもとに出勤簿の作成とExcelで作成したスタッフの勤務時間などのデータを本部・総務課に送信。給与計算の担当者がデータを再チェックした上で給与システムに入力するという手順で行っていた。
「入力作業だけでなく、チェックも必要なので、ほかの業務と並行して進めるとどうしても作業効率は低下してしまいます。一つの業務に集中できる時よりも時間がかかるため、その分疲れてミスも起こりやすくなる悪循環に陥っていました」と総務課のもう一人の係長、岡田眞由美さんは以前の環境を振り返った。
新システム活用で給与計算の業務時間が半分に
今年5月から導入した勤怠管理システムは、クラウドでデータを管理している。スタッフが個々のICカードをタイムレコーダーにかざすだけで、出勤時間や退所時間が自動的に記録され、その内容は本部でもリアルタイムで確認できるのが特徴だ。給与システムとも連動して、いつでも処理できるので、毎月の締め切り日に集中する業務を分散できるようになった。
各施設の事務担当者は、毎月スタッフの人数分のタイムカードを準備して配布する必要があったがその手間もなくなった。
「これまで使っていたタイムカードをICカードに代えるだけなので現場で働いている人に負担をかけることなく業務の仕組みを変えることができたのは本当にありがたかったです。各施設の給与計算にかかる時間はざっと半分程度になりました。給与計算は神経を使う仕事で、毎月締切日直前に6時間はかかっていた本部での入力作業も無くなり、負担が減少して本当に助かっています。転記に伴うミスもなくなり、その分、ほかの業務もはかどる好循環が生まれています。職場のコミュニケーションも以前より活発になりました」と岡田さんはその効果を実感する。
楠木さんは、クラウド活用による情報の見える化によって法人全体で情報を共有するメリットにも注目している。「人を通じて情報を集めることに頼っていると、その人がどう捉えているかで解釈に偏りが生じてしまうことがあります。幅広くデータや情報を集めて分析することで、より利用者の要望に沿ったサービスを提供できるようになるはずです」
設立40周年を機にホームページを一新 情報発信を強化
髙陽会では、タブレットによる介護業務の記録化も進めている。設立40周年を迎えた2年前からはホームページも一新し、ブログによる情報発信にも力を入れている。コロナ禍の中、特別養護老人ホーム等の入居者と家族のオンライン面会も整えた。
「デジタル化に積極的な姿勢を情報発信することは、若い人材に介護業界を志してもらう上で効果が大きいと思っています。アナログのイメージが強い業界だからこそ、デジタル化が進んだときのインパクトはほかの業界よりも強くなるのではないでしょうか。山間部などでさらにネット環境の整備が進めばホームヘルパーの訪問先でタブレットから記録を入力してオンラインで必要な情報を共有できるようになるなどさらなるサービス提供の改善が可能になります」(楠木さん)。
デジタル対応のモデルケース目指す
楠木さんがこれからのICT導入による効果を期待しているのがダイバーシティへの対応だ。「これからの日本は介護だけでなくさまざまな現場で外国人、高齢者、障害者に働いていただくケースがこれまで以上に増えることでしょう。タブレット、スマートホンなどのデジタル機器とアプリケーションを組み合わせることで、さまざまな人がストレスなく意思疎通を行い、生き生きと働く環境を作ることができるはずです」と先を見据えている。
「研究・教育を通じて英知を高め、介護に従事するものとしての品位と誇りを持ってサービス提供に努める」をスローガンに掲げる髙陽会。新しい技術や制度についての情報を幅広く集め、積極的に対応するその取り組みが、デジタル化を目指す社会福祉法人のモデルケースになることを期待したい。
事業概要
会社名
社会福祉法人髙陽会
本社
和歌山県紀の川市黒土153番地
電話
0736-73-5881
設立
1979年7月
従業員数
380人
事業内容
特別養護老人ホーム、ショートスティ、訪問介護、グループホーム、デイサービス、ケアプランセンター、保育園
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