学生時代から企業の環境に慣れる これからの大学が構築したネットワーク 開志専門職大学(新潟県)
2022年01月20日 06:00
この記事に書いてあること
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
「これからはネットワークやクラウドを使うことが当たり前の時代です。企業が使っているのと同じネットワーク環境に学生生活を送りながら慣れてもらう。そうすることで実際に社会に出ても戸惑うはありません。そんな環境をつくることを目指しました」
新潟県内で学校運営などを手掛けるNSGグループの学校法人新潟総合学院が2020年4月に開学した開志専門職大学は、新潟市内に3つあるキャンパスにどこでも同じようにネットワークが使用できる環境を整備した。その狙いを高野真司総務部長はこう説明してくれた。
教室だけでなく、廊下やロビーなどの共用スペースにもWi-Fiが張り巡らされ、インターネットを利用できる。廊下の片隅には、共用の複合機を配置され、学生や職員が自由にプリントやスキャンができる。ICカードを複合機に認識させ、授業に必要な資料をスキャンしたり、必要な時はプリントしたりする。ネットワークが整備されたオフィスでは当たり前のような光景が、ここのキャンパスでも同じように行われている。
「スマートフォンにタブレット、パソコンと学生も普通に2台、3台のデバイスを利用しています。4学年の学生が一人5台使用できる想定で、アクセスポイントを設置しているので、回線も混雑することなく、スムーズに利用できるようにしています」と高野総務部長は胸を張った。ネット社会に求められる、これからのキャンパス像がここに存在していた。
即戦力となる人材を育成する新しい大学だからこその取り組み
専門職大学は2017年の学校教育法の改正で55年ぶりに生まれた新しい大学だ。単位数は一般の大学と同じで、卒業すると、大学と同じ学士の学位を取得できる。一般の4年制大学が学術や教養の習得を中心としたカリキュラムなのに対し、専門職大学は、産業界や地域と連携し、より実務を重視した教育内容になっている。
開志専門職大学の高野真司総務部長(左)と総務課の菅原悠矢さん
教員には業界での経験が豊富な専門家たちが名を連ねるほか、実際に企業などに出向き、学外で年間600時間以上の実習を行う。また、一度に授業を受ける人数は40人以下の少人数授業が原則だ。大講堂で大人数の学生が授業に参加する一般の大学の姿はなく、教員と学生は顔と顔が分かる距離で教養や実務を学ぶ。
新潟初の専門職大学である開志専門職大学は、起業家・プロジェクトリーダーを育成する「事業創造」、ICTの先端技術を学ぶ「情報」、クールジャパンの代表、アニメーションや漫画の製作技術を習得する「アニメ・マンガ」の3学部を開設。それぞれの分野で、社会に出て即戦力となるスペシャリストを育成している。
3キャンパスを結ぶ回線、学生と職員とを切り分け活用
ネットワークの設置にあたって開志専門職大学ではVLAN(バーチャルLAN)を設定した。VLANは一つのLAN回線を仮想的な複数の回線にする技術で、学生や教員が使える回線以外に職員が専用で業務に利用する仮想の回線を設けた。
VLANにすると、業務用回線のために新たな機材を設置する必要がなく、低コストで、運用管理も楽にできる。高いセキュリティーが確保されており、学生や教員は職員専用の回線には入ることはできない。仮に学生が利用している回線が外部から攻撃を受けても、職員用は影響を受けない仕組みになっている。一つのネットワーク回線を安全で効率的に利用することが可能になる。
「職員も3つのキャンパスに分散して配置されています。会議や打ち合わせで、ふだん仕事をしているキャンパスとは別のキャンパスに出向くことがありますが、同じネットワークを使用しているのでストレスなく、ネットを活用しています」と、総務課の菅原悠矢さん。別のキャンパスで作成した打ち合わせ用の資料をクラウドに保管し、打ち合わせ先の複合機でプリントをしたり、パソコンのデータを呼び出したり。パソコンなどの端末1つ持っていけば対応が可能だ。
学生や職員が複合機を利用した履歴はクラウド上で管理される。学生が使用した印刷代はまとめて請求される。また、業務で使用した分も記録され、どこの部署の印刷状況が「見える化」される。こうした記録は今後の業務の効率化の大きな参考にもなる。
廊下の片隅に設置された複合機。ネットワークに接続され、学生が自由に使うことができる
職員は1本のネットワークの中に設けられた仮想回線を使い、高いセキュリティーを確保しながら業務を行っている
新型コロナウイルスの感染対策に大きな効果を発揮
充実したネットワーク回線の整備は、新型コロナウイルスの感染対策に大きな効果を発揮した。
不要不急な移動を抑え、会議や打ち合わせをオンライン会議で実施することになったが、同じ事務室内で複数の打ち合わせが同時にスタートすることもあったという。「会話が錯綜するのを防ぐため、パソコンを持ってロビーや空いている教室に移動することもありました。そんな時には、どこでもつながるネットワーク環境の良さを実感しました」と菅原さんは振り返った。
一方、学生生活に及んだ新型コロナウイルスの影響も大きかったが、その影響も最小限に食い止めることができた。
晴れの舞台となるはずだった2020年、開学一期生の入学式は、オンライン形式で対応しなくてはならなかった。その後の授業もオンライン。それでも6月には対面での授業を再開することができた。
カメラや大型モニターが配置された教室。遠隔での講義も可能だ
1クラス40人ほどの授業だが、ソーシャル・ディスタンスを確保するため、2つの教室を使用することもあった。一方の教室で教員が講義をし、その姿をカメラで撮影。もう一方の教室のモニターにその様子を流す形で授業を進めたこともあったそうだ。「開学からまだ間もないので、学生が少ない分、教室に余裕があり、こうした対応も可能でした」と高野総務部長は話す。
大手企業の経営トップを招いた講演会を開催したときには、3つのキャンパスで視聴可能な対応をとった。一般にもキャンパスを開放。学生たちに交じり、その家族たちもいっしょに視聴することができた。
「今のネットワークはまだ活用しきれていません。もっとさまざまな用途に活用が可能だと思っています。授業、業務の改善など今後、いろいろな可能性を探っていたいですね」と高野部長は期待を膨らませていた。
デジタル化が叫ばれる時代だが、大学にはまだ紙の文化が根付いている。
おしゃれな雰囲気の開志専門職大学紫竹山キャンパス。もともとはブライダルの専門学校だったという
出願書類や入学手続きの書類、試験問題や答案書類、在籍記録など紙での長期間保管する。永久的に保存する必要がある書類もあり、歴史のある大学ほど、その数は膨大だ。PDFなどのデジタルデータで保管しておれば、保管場所のコスト削減にもなるし、災害などによるデータの遺失を防ぐこともできる。開学間もない開志専門職大学にとっては将来の大きな課題で、先を見通した対応も検討中だ。ネットワークやクラウドの新たな活用法の一つといえるだろう。
教育現場でICTの活用はまだ途上 将来の活用に期待
新型コロナウイルスの感染拡大は、教育現場でのICT活用の遅れを再認識させる面もあった。対面での授業が難しくなり、オンラインで授業するための対応に国や自治体を含め、多くの教育機関が振り回された。学生たちがネットを使いこなせる一方で、教育の現場はまだ追い付けていないようにもみえる。
開志専門職大学には、全国の生徒が入学を志願するが、2021年度の入学試験では、地方の受験生に対してオンラインでの面接試験を受け付けたそうだ。企業の会議室を借りるなど協力を得ながら実施にこぎつけた。ICTに対する理解や認識がしっかりしていないと踏み切れない取り組みだ。
日本の未来を担う人材の輩出に向けて、今後、どのようなICTの活用を進めるのか。今回は、大学という舞台で、学生や教員を支える職員のパワーの重要性を特に感じた。
これから社会人となる大学生にとって、ネットワークインフラはガスや水道のようなもの。「いつでも、だれでも、どこでも」が実現されると、若い人たちの柔軟な頭がどんどん活性化され、あらたなビジネスの種が生まれていく・・・その可能性を感じさせてくれた開志専門職大学の今後の飛躍が注目される。
事業概要
法人名
学校法人新潟総合学院 開志専門職大学
本部
新潟市中央区紫竹山6-3-5
電話
025-240-8118
設立
2020年4月
従業員数
98人
事業内容
専門職大学の運営
記事タイトルとURLをコピーしました!