建設業(設備)

外壁修繕のための足場組立は、紙図面のデジタル化が決め手だった 恵仮設(長野県)

From: 中小企業応援サイト

2022年01月25日 06:00

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大型トラックが何台も停められそうなスペースが、社屋の前に広がっている(上記写真)。「ここに足場の資材を置く予定です」。そう話すのは、上田市や小諸市などが入る長野県の東信地区で、20年以上にわたって建設業を営んでいる恵仮設の高寺泰貴社長だ。「これまで使っていた置き場が狭くなって、引っ越しをしている最中なんです」。日本経済が全体的に伸び悩む中でも、同社の業容が拡大している現れと言える。

建設業といっても、同社が手がけている仕事はビルや家を建てたり、道路やダムを造ったりするものとは違う。それらの建設現場に出かけていって、作業用の足場を組む仕事、いわゆる「とび職」だ。そう聞くと、威勢の良い作業員たちと親方といった風情の社長が束ねる職場が浮かぶが、恵仮設の事務所にはパソコンや複合機が並び、高寺社長もITエンジニアのような雰囲気を漂わせる。

会社内の業務ICT化は進んでいた


実際に恵仮設は、ICT機器を使って建設業のDX化に取り組んで来た、全国でも先進的な会社のひとつだ。「10年ほど前から、業務用システムを使って顧客管理や業務管理、請求管理などを行って来ました」。毎日のように工事現場へ出かけていって足場を組み、工事が終われば撤収して次の現場へと資材を持っていく。こうした作業工程を把握し数多い取引先を管理するは、コンピューターの力が必要だった。

ただ、独自に開発したシステムだったため、OS(基本ソフト)のアップデートに対応が追いつかなかったり、複数の人間がアクセスできなかったりといった問題が出るようになった。そこで、東京のSI(システムインテグレーション)企業に依頼し、「恵くんWeb」という新しいシステムを構築してもらった。「現場管理の機能があって、使っている資材や図面などの管理が出来るようになりました」。他にも、得意先管理や請求書管理の機能があって、年間で600から700か所に及ぶ細かな現場と、それぞれの作業に関連した取引先を把握し、見積りや請求の処理をスピーディーに行えるようになった。

恵仮設の高寺泰貫社長

恵仮設の高寺泰貫社長


AWS(アマゾン ウェブ サービス)を活用したクラウド環境のシステムとなっているため、「現場からスマートフォンで図面を見て足場を組むのに役立てたり、現場の写真を共有化したりといったことができるようになりました」と高寺社長。こうした先進的な取り組みに最近、新たに加わったのが、複合機のスキャン機能とクラウドサービスを融合させた「図面変換の匠」だ。

既存の建築物の図面は紙で提供される


「竣工から年月が経った建物の外壁を修復するような現場では、建物の図面が印刷物でしか残っていない場合があります。足場を組むとなると、その図面から自分でCAD(コンピューター支援設計)データに打ち直した上で、足場の位置を書き込んでいく必要がありました」。どれくらいの面積で足場を組むかを把握して、見積りを出すために欠かせない作業だが、CADソフトの扱いに慣れた高寺社長でも1週間ほどかかることがあった。

紙の図面のデジタル化で顧客対応のスピード化実現

紙のデジタル変換は、複合機でスキャンしてCADデータ化する

紙のデジタル変換は、複合機でスキャンしてCADデータ化する


どうにかして効率化できないか。目を付けたのが、図面を複合機でスキャンし、CADデータ化して出力するサービス「図面変換の匠」だ。「紙でしか残っていない図面や、PDF化されている図面を複合機に読み込ませると、すぐにCADのデータになって戻って来るんです。その上に足場のデータを書き込んでいけば、どれくらの広さで足場を組むかが自動的に拾い出されて、見積りも簡単に出せます」

結果、作業にかかる時間が数日に短縮され、クライアントの要望にすばやく答えられるようになった。効率化が進めば受注する仕事も増やしていける。「コロナ禍でしたが建設業への影響はあまりなかったですね。むしろ工事は増えています」。そうした需要増の波をしっかりととらえ、さらなる業容の拡大を目指す上で「図面変換の匠」は大きな武器となっている。

元の図面(左上)をスキャンしCADデータ化(右上)、その後に足場を書き込んで(左下)最終的な施工計画(右下)を策定する

元の図面(左上)をスキャンしCADデータ化(右上)、その後に足場を書き込んで(左下)最終的な施工計画(右下)を策定する


要望があるとすれば、「広げて見られるサイズの図面を現場に持っていけるようになることでしょうか」。複合機でプリントできるサイズはA3までで現場で見るにはやや小さい。デジタルデータならタブレット上で拡大できるが、全体像を見渡すことはできない。「図面サイズの電子ペーパーが安価に手に入るようになればありがたいですね」と、今後の技術革新に期待をのぞかせる。

従業員の働き方改革に取り組む

積極的に、働き方改革、従業員教育に取り組む高寺社長

積極的に、働き方改革、従業員教育に取り組む高寺社長


順風満帆に見える同社にとって、目下の課題は、需要増やDX化に対応できる人材の確保と育成だ。稼ぎは悪くないが休みが少ない職場といった印象から、建設業界には若い人がなかなか入ってこない。来てもすぐに辞めてしまう。「大手のゼネコンでは働き方改革で休日をしっかり取れるようにしていますが、中小の工務店は、顧客の求めがあれば休日でも構わず働いてしまいます。業界全体がワークライフバランスを確立できるようにしなければ、魅力アップにはつながりません」

そこで恵仮設では、「第2と第4の土日は完全オフにしていますと元請けにあらかじめ伝えて、それ以外で工程を組んでくださいとお願いして、休日を確保しています」。ICTによる業務の効率化も、無理を重ねて休みを取れなくするような状況をなくし、日々の残業時間削減にも効果を発揮しているようだ。

作業員たちのキャリア構築にも意識を向けている。業務システムを構築して、普段から使い勝手の良さに触れてもらえば、18才くらいで現場に入った若者が、34才35才になって体力が落ちた時に、事務の仕事に回っても使えるICTスキルが身についている。

顧客から信頼されるための教育の徹底


とび職という言葉から浮かぶ古いイメージも変えたいと、身だしなみにも気を配ってきた。「太いニッカボッカを履いたり、髪を染めたりするようなことを止めさせました」。挨拶も励行させた。「おはようございます」や「ありがとうございます」「よろしくお願いします」といった言葉を、心を込めて言うことで顧客から信頼され、近隣の人から安心される職業だと思ってもらえるよう努力した。

工期の遅れは全体の工程を遅らせ、ミスにも繋がるといった意識から、時間厳守も徹底させた。こうした取り組みが口コミを誘って、仕事をお願いしたいという顧客を増やしていった。創業から20年と業界では後発ながら、大手ゼネコンに足場の仮設を任されるまでになれた理由と言えそうだ。

実は高寺社長は、まったくのゼロから会社を立ち上げ、年商2億円規模の会社へと育て上げた生粋の叩き上げだ。「長野オリンピックの時も、競技場の建築現場で小僧のようなことをしていました」。21歳の時に独立し、仮設資材を借りて建設現場の足場作りを請け負う仕事を始めるようになったが、「26才か27才の時に、自分で資材を買いそろえて、すべて自社でやろうと決めました。これがターニングポイントになりました」

古い体質が残る建設業界には、長い付き合いもあって新参者が入り込むのは難しい世界だった。そこに不退転の決意で乗り込み、サービスの質と評判の良さで仕事を増やしていった結果が、現在の業容につながった。大きな現場の仕事も入るようになり、この夏は「松本市にある信州大学医学部附属病院のリニューアル工事を受注できました」と喜ぶ。

人を育て、会社を広げていった先に来るのは、今はまだ余裕がある資材置き場が手狭になって、より広い場所へと引っ越す未来だろう。その時は意外に早いかもしれない。

会社概要

法人名

株式会社恵仮設

本社

長野県東御市加沢1422-28

電話

0268-71-6650

設立

2000年

従業員数

20人

事業内容

住宅・マンション・倉庫・看板などの各新築・改修工事足場、特殊足場・仮設資材(トイレ・落下防止・飛散防止ネット等)などの設置、レンタル

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