通販の成長を支えたICT 常に時代の先を見た決断 サンセリテ札幌(北海道)
2022年01月28日 06:00
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「夫は夢を語る人でした。『会社を大きくするぞ。人の役に立つんだ』と。その後始末と世話に追われて、気が付いたらここまで来たというところでしょうか」
札幌市で健康食品や化粧品の通信販売を手掛けるサンセリテ札幌の山本陽子社長は、穏やかな表情でこう語った。2021年12月、会社の創業者で、最愛のパートナーだった夫に先立たれた。10年前に倒れた夫の介護を続けながら会社を指揮。そんな生活が一つの区切りを迎え、「夫のことを語るいい機会かな」と取材に応じてくれた。
サンセリテ札幌は、膝関節の痛みの予防や改善効果が期待されるプロテオグリカンを主力にグルコサミンや認知症の予防効果があるとされるDHA、イチョウ葉エキス、各種ビタミンなどの成分を含んださまざまなサプリメントを販売。北海道だけでなく、全国の販路を広げ、健康に関心の高い多くの固定客をつかんでいる。
そんなサンセリテ札幌の成長はICTの進展と切っても切れない関係にある。インターネットが普及し、電子商取引が一般化すると、広告媒体は新聞からネットにシフト。注文も電話からメールへと変っていく。時代の変化に呼応して、ICTの基盤を整備し、成長の大きな原動力となった。
書店員を辞め、夫をサポート サプリメントがヒットし急成長
事業をスタートしたのは1993年。サラリーマンをしていた夫が独立し、化粧品の通販会社を起業した。まだ、パソコンがようやく一般に普及し始めた時代。新聞に広告を打ち、電話で注文を受けて、商品を発送するというビジネススタイル。出たばかりのショルダータイプの携帯電話を肩にしょって、出かける時は電話を転送して注文を受けていたそうだ。当時、大手書店の書店員だった山本社長は書店に勤務する傍ら、事業に奔走する夫を支えてきた。
サンセリテ札幌の山本陽子社長
顧客から電話対応、試供品や注文品の発送も夫婦2人。宅配便の伝票や試供品のシール貼りなどもすべて手書き、手作りのビジネスだった。「夏冬のボーナスが出ると、夫がそれを広告に投資するんです。私のお金なのに…」と笑う。98年には山本社長の妹も加わり、3人で株式会社を設立。山本社長は天職だと思っていた書店員の仕事を辞め、本格的に夫の事業に参画した。「規模が小さくても、夫の仕事を手伝ううちに面白いと思うようになったんです」。当時から山本社長をトップに据え、夫が専務として全体の実務を担ったという。
事業拡大にトップスピードで突き進む夫に対して、ブレーキ役の山本社長。絶妙なコンビネーションで事業は軌道に乗る。2009年には、膝関節のサプリメント「グルコサミン」がヒット。月1万件の問い合わせがあるほどの人気で、売り上げが倍々ゲームのように伸びた。会社は急成長し、パートやアルバイトを含め、従業員は100人規模まで大きくなった。「さあ、これから」。夫が倒れたのは、そんな矢先の2011年春のことだったという。
以前からWeb会議を実践 新型コロナウイルス対策もスムーズに
サンセリテ札幌がICT化を推し進めるようになったのも急成長を遂げたこのころからだ。
「人が増えれば、パソコンを購入し、ネット回線を増やした」と山本社長。それまで札幌の倉庫街に借りていた本社屋を札幌のオフィス街にあるビルを購入し移転すると、OA化を一気に進めた。「以前の本社は配線もむき出して、天井や床を這っていました。もうどれがどの配線か分からないような状態でした」。デジタル環境を整備した今の社屋には、もうむき出しの配線はみあたらない。
電話応対の機器も進化している。ヘッドセットをつけてフリーハンドで受電し、入力作業をしながら応対できる。受電すると、手が空いている担当者に自動的に回るシステムにしたことで、電話対応の効率化につなげた。
通信販売の業務は主に電話対応と商品発送の2つの部門に分かれるが、本社の移転に伴い、電話対応などの部門を本社に置き、商品の発送部門を別の場所に置く2拠点での業務展開に切り替えた。現在は発送部門の拠点は同じ札幌市内にあるが、将来、市場の大きい東京や関東圏への進出する構想を踏まえてのことだったという。
タブレットパソコンを管理職に貸与。在宅勤務への対応も強化
離れた2拠点のコミュニケーションは、クライアントVPN(仮想専用線)で接続。そのころから、オンラインを使って、2拠点での管理職の打ち合わせや会議が当たり前のようになった。「すでにそのころからオンラインには慣れていたので、新型コロナウイルスの対応は意外とスムーズでした」と山本社長は振り返った。一時、札幌は首都圏以上に感染リスクが高まった時期もあったが、在宅勤務の対応も大きな混乱なく進めることができたという。
在宅勤務の環境を整えるため、これまで社長と部長クラスに導入していたタブレットパソコンをマネジャー職の社員にも貸与。管理職を集めた会議や打ち合わせを在宅でも可能にした。これまで2拠点に置いていた大型モニターの前に集合して開いていた会議も、自宅や職場のデスクにいる管理職たちの画像がマルチに並んだパソコン画面で話し合うこともしばしばだ。
取引先との会議が増加、最新の情報も身近に…思わぬ恩恵も
新型コロナウイルス感染拡大による行動制限は、デメリットばかりではなく、思わぬ恩恵ももたらしている。
顔を見ながらのやり取りで遠隔地の人とも会話が弾む。
「これまで3カ月に一度、出張で来た時しか打ち合わせができなかった取引先と毎週のように打ち合わせができようになりました。これは画期的。できれば毎日やってもいいくらい」と山本社長。
また、業界向け展示会やセミナーなどをネット上で開催する動きが広がったことも今までにはないメリットとなったそうだ。展示会やセミナーでは、業界の最新のトレンドを知ることができる。情報収集のため、東京にわざわざ出張して参加してきたが、ネット開催の広がりで現地に出向かなくても情報を集めることができるようになった。
「東京と同じレベルの高い情報を北海道にいてもリアルタイムで入手でき、セミナーなどで専門家の話を学ぶことができることに感動しました」。実際に参加するよりも交通費や宿泊費用はかからず、参加費も実際に参加するよりもお得だ。録音・録画も可能で、通常ではなかなか参加させることができない社内のメンバーにも情報に接する場を提供し、共有できるようになった。東京と地方との情報格差がなくなる環境も生まれつつある。
重要だったシステムパートナーとの信頼関係
ここまでの成長の中で、システムの果たす役割は大きかったが、社内にシステムの専門家がいたわけではない。山本社長は、システムパートナーの会社を全面的に信頼し、システムパートナーも山本社長の要望に応えるべく、社内や親会社やベンダーに問い合わせ、実際のシステムを確認して、山本社長に提案を行っていった。
これからの企業成長にICTは欠かせないが、発注者側のサンセリテ札幌と受注側のシステムベンダーは、ピッチャーとキャッチャーのようなものである。いい球が来ないとキャッチャーは球を落としてしまう。そういう意味で会社の現状を明確に伝え、将来の展望を語った山本社長とサンセリテ札幌の将来を見て提案したベンダーの関係が、結果としてサンセリテ札幌の順調な成長を生んだ。もちろん最も大きいのは、まだ世の中に普及する前の段階から、山本社長が新しいICTの導入を決断したことだ。
ウィズ・コロナで変わるビジネススタイル、求められるのは?
ウィズ・コロナの時代になり、消費者の健康意識の高まり、感染への自己防衛意識の高まりから、健康食品へのニーズも上昇傾向にあるそうだ。ここ数年で、ネット経由の顧客数が、紙メディアの広告から継続してきた顧客の数を大きく上回るようになってきた。それに伴い、業務の内容も変化。電話対応と発送という2つの業務に加え、ネット対応の業務が増える一方、受電のためのオペレーターの数は昔ほど必要としなくなった。
札幌大通公園の近くにある本社ビル
新型コロナウイルスの感染拡大はまだ収まるようすはなく、ウィズ・コロナ、アフター・コロナと呼ばれる時代にビジネスのあり方はどう変化するのかまだ見通せないのが実情だ。
その中で、山本社長は「ネットが主流の時代になって、会社の大きさは関係なくなると感じています。大きい社屋のような見せかけものはいらない。必要なのは人の成長やその人が持っている徳のようなものです。それがお客さまに伝わることでビジネスが成り立つ。そんな時代が来ているのではないでしょうか」と指摘した。リアルな店舗を持たない通信販売を長く手掛けてきた山本社長ならではの分析だ。
リアルに対面する機会は確かに減ったかもしれないが、コミュニケーションそのものが減っている訳でない。むしろ増やせる状況になっている。オンラインでのコミュニケーションは移動のための時間とコストがかからず、場所も問わない。お互いが会いたいときに会えてしまう。移動の時間が減った分をコミュニケーションの機会に充てることができる。実は、そこにビジネスチャンスが生まれる。山本社長の言葉から、アフター・コロナ時代の生き抜く、そんなヒントを教えられたような気がする。
事業概要
会社名
株式会社サンセリテ札幌
本社
札幌市中央区大通西14丁目3-17
電話
011-351-1111
設立
1998年4月
従業員数
40人
事業内容
健康食品、化粧品等の通信販売
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