迷ったミキサー車をGPSで現場に誘導 運転手の人手不足解消にも効果大 東新生コン(新潟県)
2022年02月18日 06:00
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「すみません、現場がみつかりません!」
新潟市東区の生コンクリート(生コン)の製造販売会社、東新生コンの事務所にある無線機からミキサー車の運転手のSOSの声が響いた。
「ちょっと待ってください。今調べます」
連絡を聞いた配車係は、無線のそばにあるパソコンに映し出された地図を確認した。地図上には運転手のミキサー車の位置情報がアイコンで示されている。配車係は地図上の現場の位置とミキサー車の位置情報を確認すると、運転手にこう指示した。
「ちょっと行き過ぎていますね。1本手前の交差点を右に曲がった左側が現場です」
「了解しました!」
運転手は配車係の指示通りにミキサー車を移動。無事、予定の時間通りに現場に到着することができた―。
東新生コンが2020年春に導入した配車運行支援システムを活用している場面だ。会社が保有する20台のミキサー車にGPS発信機を搭載。現場に向かうすべてのミキサー車の動向がクラウドで管理され、会社のパソコン上に表示される。運転手が道に迷っても指定の時間通りに生コンが届けられるようこのシステムを導入した。
「新しい造成地では、カーナビに住所が登録されていないところがあります。時に運転手が道に迷うケースも発生します。このシステムを導入したことで、配車係が的確に運転手を現場に誘導できるようになり、信頼性向上につなげています」と、桑原隆専務取締役工場長は目を細めた。
住宅・マンション建設向けに生コンを供給、小回りが利く配送体制
東新生コンは住宅やマンション建築を得意とする生コン製造会社で、新潟・新発田・阿賀野・五泉の4市を営業エリアに事業を展開している。20台保有するミキサー車のうち13台が8トンクラスの中型車。大量の生コンを必要としない住宅建設には適切な量を運搬できるうえ、小回りが利き、道幅が狭い現場にも行ける機動力が地元のハウスメーカーや建築会社に重宝されている。
東新生コンの桑原隆専務取締役工場長
「もともとは地元のハウスメーカーが樹木の伐採から完成までの一貫したシステムを構築しようと設立した会社です。住宅の場合、基礎部分や土間などに生コンが使われていますが、それを自社内で調達することが大きな狙いでした」と桑原専務は創業の経緯を話す。
だが、住宅ばかりでは生コンの生産量は多くはない。先行きの成長が見通せない中、2009年にセメント・生コン供給をてがける商社の傘下に入った。経営権が移り、生産設備を増強。大量のセメントを使うマンション建設にも対応できるようになり、事業の規模が拡大した。
「JR新潟駅改修に伴って駅周辺の建築需要が拡大し、ここ数年に創業来で一番忙しい状態です」と桑原専務は頬を緩めた。
住所や地番のない場所に配送、ベテランでも迷うことが…
25歳から生コン業界一筋で働いてきた桑原専務。品質管理部門が長く、1999年に請われて工場長として入社。経営を指揮してきた。生産規模が拡大し、従業員やミキサー車の数が増える中で、長年にわたって課題としてきたのが配車業務だった。
生コンはセメントに水や砂、砂利などを混ぜて生産される。その品質は日本産業規格(JIS)で細かく規定されており、配送時間も生コンが生産されてから90分以内と決められている。文字通り“生もの” だ。時間がたてば使い物にならなくなってしまう。
GPS発信機を搭載したミキサー車。8トンクラスで狭い道にも対応できる
「現場にスムーズにたどり着けるよう配車係は配送先を地図で事前にチェックし、その地図をもとに運転手は現場に向います。しかし、実際に現場についてみると、地図と全く違うことがあります。指定の時間に現場に到着できないと、お客様に迷惑をかけてしまいます」
造成したばかりで住所や地番もない―。システム導入前は道に迷ってしまうと、頼みの綱になるのはミキサー車に搭載された無線機だけだった。
運転手が迷った場所を特定するのが一苦労だ。まずは運転手に周辺にある目印を聞き出そうとする。周辺にわかりやすい目印がないと、配車係もミキサー車の位置を探し出せない。その間もどんどん時間が過ぎていく。現場で到着を待つお客様はイライラ、運転手のストレスも募る一方だ。
地図上に車両の位置情報 スピ―ディーに現場に誘導
新たに導入した配車運行支援システムは、車両から発信されたGPSの位置情報をクラウド上で管理。リアルタイムで事務所のパソコンに表示する。パソコンのシステムを開けば、すぐに車両がどこで迷っているのが確認できる。
現場までの走行コースを的確に指示することができ、導入後は「お客さんを待たせることもなくなり、運転手のストレスもなくなりました。今までの悩みは解消されました」と桑原専務は高く評価している。
ミキサー車に搭載されたGPS発信機
新潟市内で稼働中の車両の位置情報が青い矢印で示されている
未経験でも仕事がしやすく 働きやすい職場づくりにも一役
このシステムを活用することで、桑原専務は深刻なドライバー不足の解消効果も期待している。
運転手の高齢化が進む一方、なかなか新たな人材の確保が進まないのが悩みの種で、女性運転手も率先して採用している。人材確保のため、大型免許の取得費用を補助する制度を導入。この制度を利用して、免許を取得した女性運転手も活躍中だ。女性には重労働のようにも思えるが、レバーの操作で“荷下ろし”ができ、実は力仕事はあまりない。搬送後にミキサー車に残った生コンの洗浄が欠かせないのだが、女性の方が車両の洗浄が丁寧で車両も長持ちするという。
「運転手になって間もない人は、土地勘もないので道に迷うことも起きやすい。このシステムを利用することでサポートできれば、現場までの道のりに不案内の運転手も安心して運行することができます」と桑原専務。運転手が働きやすい職場づくりにも一役買っている。
配車運行支援システムの技術の進化は著しく、タクシーや宅配などの物流ビジネスでは、機能の高いシステムの導入が進んでいる。タクシーの配車を頼んだ顧客を待たせないため、顧客が待っているところから最短の距離にあるタクシーを自動配車できるシステムもあるそうだ。
東新生コンに限らず、ドライバー不足は運輸業界全体の大きな課題だ。ドライバーだけでなく、各車両の配車コースの設定などを決める配車係の人材確保も深刻だそうで、将来、経済の血流であるサプライチェーン全体に大きな影響が及ぶことも懸念される。
少ない人材を無駄なく、効率的に配置し、収益を確保する。一方で、経験がない人材でも働きやすい職場環境をつくり、新たな人材を集める。2つの課題克服に配車運行支援システムは寄与してくれる。
コストと効果を見極め、ICTを活用しよう
桑原専務によると、本格的な配車運行支援システムを導入すると初期費用や維持費が高額になり、なかなか導入に踏み切れなかったそうだ。そんな中、予算に合うような手ごろなものはないかと探していて、このシステムにたどり着いたという。
新潟市東区にある東新生コン
このシステムが活躍するのは月に1~2件ほど。月に数件しか起きないリスクを回避する目的を考えると、大きな投資のようにもみえてしまうが、指定の時間通りに商品を届けるという責任をまっとうし、顧客の信頼を一層強固にする重要なアイテムだ。
桑原専務は、システム上で配車係が各ミキサー車の行き先を入力し、入力したデータが各車のナビゲーションシステムに表示されるシステムや、QRコードで誤配を防止するシステムなどの導入にも関心を持っている。機能が高ければ高いほど導入コストもアップしてしまう。ICT導入するうえでは、東新生コンのように導入の効果・価値とコストをしっかりと見極めることも大切なことだ。
コストの壁は中小企業にとってICT導入の妨げの一つになっている。だが、システムの機能や費用をしっかりと調べてみると、費用面でちょうどよく、その費用以上に会社の課題を克服してくれるICTに出会うことがある。まずは最優先の課題克服のためにICTを導入し、予算やコストのめどがついたら、次の効率化に取り組む。柔軟に機能を強化できるところはICTのいいところでもある。「まずできるところからやってみる」。ICT活用にしり込みする中小企業経営者は一度、そんな気持ちでチャレンジをしてみると、ビジネスに新たな活路がみつかるかもしれない。
事業概要
会社名
株式会社東新生コン
本社
新潟県新潟市東区津島屋7-101-2
電話
025-274-9595
設立
1987年4月
従業員数
30人
事業内容
生コンクリート製造・販売、高強度コンクリート製造・販売、グラウト注入工事
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