製造業(印刷)

取引先との世間話がICT活用の活路に 勤怠管理の課題を解消 フォーワテック・ジャパン(新潟県)

From: 中小企業応援サイト

2022年02月28日 06:00

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「システム導入を進めたかったのですが、なかなか踏み込めませんでした。補助金を活用するにもハードルが高い感じで、何から始めたらいいのかが分からなくて…」

こう語るのは、新潟県三条市でラベルやシールなどを製造するフォーワテック・ジャパンの早川正茂・上席執行役員管理本部長。政府の推進する「働き方改革」で、社員の労働時間を企業が正確に把握することが義務化され、社員の勤怠管理のシステム整備に頭を悩ませていた。

働き方改革に伴う制度の見直しでは、タイムレコーダーやICカード、パソコンの利用履歴など客観的な記録を取ることが求められている。社員自ら作成した自己申告の出勤簿での管理は原則禁止となった。本社工場こそタイムレコーダーで管理していたものの、それ以外の工場や営業所は紙ベースで社員が申告する形のまま。対応が急務となっていた。

「対応をどうしようか困っていて…」

「それなら、うちでできますよ」

ふだんから取引のあるシステムパートナー企業の担当者に世間話でそんな愚痴をこぼしたところ、営業所を含む全社員の労働時間を一括管理できる環境の整備がとんとん拍子で進んだという。

フォーワテック・ジャパンの早川正茂・上席執行役員管理本部長

フォーワテック・ジャパンの早川正茂・上席執行役員管理本部長

消費者に身近なラベルやシールを製造 技術力に定評


フォーワテック・ジャパンはシールに特化した印刷事業を展開している。商品の顔ともいえるパッケージのラベルや取り扱い上の注意点などを表示する注意書きシールなどを製造。農産品や海産珍味などの加工食品、化粧品やファンヒーター、医療品などフォーワテック・ジャパンが製造したラベルが貼られた商品は実に幅が広い。年間で製造するラベルなどのシールの枚数は8億枚にものぼるという。

さまざまな形にシールを打ち抜く刃型の製造も自社で手掛ける数少ないシールメーカーで、デザイン制作から印刷・加工、出荷まで一貫生産できる態勢を整えている。きめ細かい型抜き加工を得意としており、最小で直径3ミリの細かい抜き加工をほどこしたおしゃれできれいなレースラベルを製造する高い技術も備えている。

新型コロナウイルスの感染拡大によるインバウンド需要の落ち込みなどで一部商品の受注に影響が出ているが、2013年に創業者である父から経営を引き継いだ田中義晶社長は「感染拡大が収まらず、不安が広がる社会情勢ですが、社員には『目の前の仕事に集中し、全力を挙げよう』といつも声をかけています」と笑顔をみせた。

「働き方改革」への対応急務…身近なところにアドバイザーが


高い技術力を持つフォーワテック・ジャパンの取引先は県外にも広がる。県外の取引先との重要な接点となる営業所を東京や大阪、長野、栃木の4カ所に設けているが、「働き方改革」への対応で特に課題となったのは、こうした営業所に常駐している営業社員の管理だった。

「工場を含め本社内はすぐそばにあり、管理部門の目の届きやすいところにあります。でも、営業所は離れていてなかなかそうはいきません。社員の数も少なく、勤務時間の管理は所属長に任せていましたが、労働時間の管理はあいまいなところも多くありました」と早川管理本部長は話す。

本社工場には非接触式のタイムレコーダーを導入した

本社工場には非接触式のタイムレコーダーを導入した


営業所に常駐する社員は主に営業を担当している。営業社員は外回りが多く、もともと労働時間の把握が難しい職種。社員が一人しかいない営業所もあり、タイムカードは設置せず、社員一人ひとりが紙の出勤簿に勤務時間を記入し、月末にまとめて本社に送付する方法で勤怠を管理していた。

「ところが、送られた勤務表を確認すると、出退勤の時間が毎日同じだったり、1日でまとめて書いたのがすぐにわかるような書き方だったり。厳しく注意はするのですが、なかなか改善せず、ずっと課題になっていました」と早川管理本部長は打ち明ける。どこの会社でもおこりがちな「職場のあるある」だ。

高い技術力に裏付けされたラベルシールはさまざまな企業が活用している

高い技術力に裏付けされたラベルシールはさまざまな企業が活用している


そんな中、2019年に働き方改革関連法案が整備され、対応は待ったなしの状況に。ICTの導入には前向きだったものの、社内に専門的な知識を持ったスタッフもおらず、対応に苦慮していた。
それだけにシステムパートナー企業の担当者の一言は「まさに渡りに船」(早川管理本部長)だったという。

この会社のサポートを受けながら、システムの導入を進めることにした。大きな悩みの種だったIT活用補助金申請の書類の作成もアドバイスを受けながら仕上げ、無事に採択された。

導入したシステムは、管理部門のスタッフが操作しやすいように、これまで利用していた勤怠管理システムと同じメーカーで更新。2020年11月、営業所を含む全社員の労働時間を一括管理するシステムの導入を完了した。

遠方の営業社員はスマートフォンで出退勤を報告できる環境に


新たなシステムを導入したことで営業所の社員は出退勤の記録をパソコンやスマートフォンで入力できるようになった。記録はクラウド上を通じて本社の管理部門に届く。出退勤を打刻した際の位置情報も取得できることから、不正な打刻を防止し、客観的な社員の労働時間管理が可能になった。ICTによって、職員全員の勤務状況を「見える化」することができた。

一方、本社工場のタイムレコーダーもリニューアル。これまで読み取り装置にカードを差し込んで記録する方法からカードをかざすだけで読み取れる非接触の装置を本社工場と、近くにある第二工場に配備した。差し込み式は、毎日、多くの人がカードを抜き差しするため、装置やカードの故障が起きやすいデメリットがあったが、非接触式にしたことで、機器が故障する心配も軽減された。

早川管理本部長によると、タイムレコーダーでの管理外にあった社員の数は13人いるという。従来は、月末に社員が記入した出勤簿が集まると、管理部門が手入力でパソコンに入力。毎月5時間以上かかっていたが、システムの導入によって、データはシステムにそのまま取り込まれるため、手入力の作業は一切なくなり、管理部門の職員の業務の軽減につなげた。

「手元にあるスマートフォンで手間もなく入力できるので、営業所の社員も忘れず、後回しせずに出退勤の記録をするようになりました」と早川管理本部長は話す。入力のミスや残業・休みなどの申告漏れなどの確認作業もなくなるなどシステム導入による業務改善の効果を評価していた。

客観的な労働時間の「見える化」は働きやすい職場づくりの第一歩


社員の労働時間を客観的に把握(=見える化)したいが、営業社員の労働時間が正確につかめない。いくら注意をしてもちゃんと出勤簿をつけてくれない。各営業所に本社と同じ管理体制を敷けない…。フォーワテック・ジャパンが抱えていたこうした悩みは、多くの中小企業が抱えている共通の悩みでもある。

新潟県三条市にあるフォーワテック・ジャパンの本社。「しあわせを印刷する会社」がキャッチフレーズ

新潟県三条市にあるフォーワテック・ジャパンの本社。「しあわせを印刷する会社」がキャッチフレーズ


「働き方改革」の中で設けられた労働時間の客観的把握については、適切に管理できていなくても罰則を受けることはない。だが、適切に把握していなかったことで、法律で定められた上限を超える長時間労働が行われていれば、その責任を問われることになる。

与えられた仕事が予定通りに進捗しなければ、社員はついつい残業して穴埋めしようとする。社員一人ひとりが自身で残業をしないよう管理するのは難しい。経営者がしっかりと把握できる環境を整え、残業が増えている社員の仕事を別の社員に振り分けるなどして適正化している。労働時間の客観的把握は、長時間労働を生まない労働環境を社内に構築する第一歩でもある。

少子高齢化を背景にした労働力人口の減少によって、人手不足は日本全体に広がっている。仕事を求める若手人材は就労環境に敏感で、優秀な人材を確保するうえでも勤怠管理システムを活用して、社員の労働時間を適切に管理することは重要な取り組みだ。

フォーワテック・ジャパンはちょっとした一言がきっかけで、懸案だった課題を最小限の費用で解決できた。今回の取り組みをきっかけにワークフローシステムやグループウエアの導入にも関心を示している。

フォーワテック・ジャパンの場合、企業の業態が個別・多品種対応型だ。数多くの提案や企画の蓄積が社内にある。グループウエアを導入することで、情報の共有化が進み、知恵(提案や企画)の共有や、時間の使い方の見える化が進む。

グループウエアの導入による見える化は、チャレンジ精神旺盛な企業風土が効果を発揮し、新たなビジネスの原動力となる。ICT活用への今後の取り組み次第で、ビジネスがさらに大きく変わる可能性を秘めている。

ラベルシールの様々な加工技術を持ち、繊細な抜き加工も出来るため、高額商品のラベルに使用されている

ラベルシールの様々な加工技術を持ち、繊細な抜き加工も出来るため、高額商品のラベルに使用されている


専門知識や関心がないとなかなか踏み込むことができないICT導入だが、意外に身近な取引先や顧客の中に優秀なアドバイザーが隠れていることもある。システムを導入した経営者仲間などから使い勝手を聞いてみれば、自社に最適なICT導入につながることもある。幅広くアンテナを張り、さまざまな情報を得ておくことも大切であると、フォーワテック・ジャパンの取り組みから感じた。

事業概要

会社名

株式会社 フォーワテック・ジャパン

本社

新潟県三条市直江町4丁目1-54

電話

0256-35-3344

設立

1974年

従業員数

103人

事業内容

オフセットシール印刷、ホログラムシール印刷、アイキャッチシール印刷、シルクスクリーン印刷、凸版シール印刷、特殊ラベル印刷、各種転写ラベル、グラビア印刷など

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