建設業(建築)

ドローン、電子小黒板を活用 ICTを若手人材確保のきっかけに 朝日建設(秋田県)

From: 中小企業応援サイト

2022年03月10日 06:00

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「土木建設業界にはきつい、危険といったイメージが根付いていますが、今は違います。ICTを活用していることを就職説明会などで高校生たちにアピールして、イメージアップにつとめています」

秋田県北秋田市で土木建設事業を手掛ける朝日建設は、ドローンや電子小黒板を相次いで導入し、現場の業務効率化に役立てている。会社の見学会に訪れた高校生たちに工事現場でドローンの操作を実演したり、実際に操作を体験してもらったりして、土木・建築の仕事の魅力を発信している。

「若い人材が建設業に興味を持ってくれるきっかけになってほしい」。小林祐嗣専務取締役は大きな期待を寄せている。

深刻な人手不足、ICTは欠かせないものに


朝日建設は1971年から北秋田市を拠点に土木・建設事業を展開し、地元のインフラ整備を支えてきた。一般的な土木・建設工事に加え、建築物の解体工事を得意としている。輸送車両や重機を豊富に備え、工事の内容に応じてスピーディーに作業に取り掛かれるところを強みとしている。

朝日建設の小林祐嗣専務取締役

朝日建設の小林祐嗣専務取締役


解体などで排出したコンクリートやアスファルトを再利用するリサイクル事業にも力を入れている。工事現場から回収したコンクリートから鉄筋などの異物を取り除いて細かく砕き、道路や建築物などの基礎などとして利用。アスファルトの再生材はプラント業者に販売している。小林専務の父である小林郷司社長は環境への意識が高く、SDGs(持続可能な開発目標)を意識した経営を心掛けている。

「SDGsには『つくる責任、つかう責任』があります。そこをしっかりと経営に取り込んでいきたい」小林専務は胸を張った。

小林専務は社内のICT活用の旗振り役だ。業界の集まりなどで活用の動向などの情報を収集。自らICT活用することで社長にICT導入のアドバイスをしている。大学卒業後、別の建設会社で7年間経験を積み、父が経営する会社に入社。専務として、父の経営を補佐してきた。現場監督として工事全体を仕切るだけでなく、他の社員とともに重機やダンプも操作する頼もしい後継者だ。

「人手不足の状況は今以上に悪化すると思います。これからの業界にとってICT活用は欠かせないもので、いずれ標準化されるのではないかとみています」と小林専務は話していた。

住民、発注者にわかりやすい画像を撮影


小林専務が導入したICT機器の中でもっとも重宝しているのが、2020年春から使い始めたドローンだ。工事現場の上空からの画像を撮影し、工事の発注者や住民への説明資料に活用しているという。

大活躍のドローン。

大活躍のドローン。


「土木・建設工事は相手がいる商売で、工事の発注者や住民の方への説明・理解が欠かせません。以前は設計図面などを使って説明していたのですが、ドローンで撮影した空撮画像を見せたら一目で理解してもらえました」

道路整備などでは工事の範囲が1キロ以上に及ぶこともある。工事期間中の通行止めの告知など住民への事前の説明は欠かせないが、図面や地上から撮影した画像を使っても今一つ理解されにくいところがあったそうだ。だが、ドローンで上空から俯瞰(ふかん)した画像を示すと、工事の全体像がみてとれる。今まで以上に住民への説明が楽になったという。

また、発注者に対する工事の進捗状況を報告する資料でもわかりやすくなった。地上から撮影した写真を添えていたが、どうしても場所の違いが見えにくく、似たような完成写真ばかりになってしまう。ドローンで同じアングルで定期的に上空から工事区間の撮影をすることで、「工事前・工事後」の現場の変化を対比させることができるようになった。

危険な場所の撮影にも活用、社員安全確保にも一役


「ドローンは社員の安全確保にも大きく貢献している」と小林専務は説明する。

山を削って道路を整備する工事は着工から完成まで数年に及び、途中から工事を引き継ぐことがある。新たに工事に入る前に現場両側に切り立ったのり面の状況を調査。その際、実際に崖を登ることもあるという。ドローンを使えば、登らずにのり面の上部の状況を詳細に調べることができる。もちろん、のり面を登る作業は安全を確認したうえで行われるが、リスクはつきまとう。そんなリスクの回避にも効果を上げている。

撮影する写真は数千枚に 作業の効率化に貢献


ドローンと同じ時期に導入した電子小黒板が、業務の省力化に貢献している。

土木・建設工事では、設計通り施工を適切に行っているか証明するため、施工状況や施工過程の写真を何枚も撮影する。規模が大きい工事になると、その数は何千枚にもなる。

電子小黒板アプリなどを活用したことで、手間がかかっていた工事写真の撮影や整理の作業が飛躍的に効率化された

電子小黒板アプリなどを活用したことで、手間がかかっていた工事写真の撮影や整理の作業が飛躍的に効率化された


写真を撮影するときには、何を撮影しているのかがわかるよう、工事名や撮影日、場所、工種や施工状況などを小黒板と呼ばれる工事用の黒板に書き記して一緒に撮影する。公共工事では、撮影が義務づけられており、完成時に役所にまとめて報告書として提出する。役所は、この報告書をもとに適切な工事が行われたかどうかをチェック。内容によっては、今後の入札にも影響を与える重要な作業だ。

アナログ式で工事写真を撮影するとなると、撮影者以外にサポートが必要な場合がある。被写体と一緒に小黒板が写るよう小黒板を持ってもらうためだ。看板が倒れるほどの風が吹いている時や人の背ほどの高所などを撮影するときにはサポート役が欠かせない。その分、労力がかかることになる。

「電子小黒板」は撮影したカメラの画像の片隅に小黒板を表示するアプリだ。スマートフォンやタブレットにアプリをインストールするだけで利用できる。アプリを起動し、工事名や撮影日などの必要な内容を入力して撮影すると、小黒板が添えられた工事写真となって画像が仕上がる。

当然ながら小黒板を持つための人手が必要なくなる。さらには、小黒板にチョークやマーカーで文字を書いて、被写体のそばに置いて少し離れて写真を撮るという繰り返しの作業もスマートフォンなどの画面上の操作で済む。

撮影が終わると、写真を整理する作業が待ち構える。何千枚の写真を必要な条件ごとに整理するのだが、小林専務によると、「丸一日以上はかかる作業」という。これもアプリを活用することで、クラウド上で管理された写真を目的や条件ごとに自動振り分けできるようになった。

「仕事が立て込んでいるときはついつい整理作業を後回しにしてしまうこともありました。時間がたってから整理を始めると、思い出しながらの整理になるので、撮影した画像の確認に手間取って時間がかかり、ミスも起きやすくなります」と小林専務は話す。そんな問題も回避できる。写真の整理作業は、現場での作業が終わった後の“夜なべ仕事”になりがちだが、その作業時間が大幅に短縮され、残業からも解放された。

業務の効率化と若手人材の確保…2つの切り札に

見学会の訪れた高校生がドローンの操作を体験

見学会の訪れた高校生がドローンの操作を体験


i-Construction(アイ・コンストラクション)と呼ばれる土木・建築分野のICTの進化は著しく、設計から測量、施工、電子納品まで幅広い業務に浸透している。朝日建設でもICT施工を行っているが、ICT施工の発注がそれほど多くないため今のところはリースで対応している。小林専務は「安定して継続的にICT重機を使える環境が整えば、導入を検討したい」と意欲をみせている。

また、ICT測量、現場で図面などの資料をタブレットで確認できるシステムの導入などICT化による省力化に積極的で「進化する技術を一度、整理して、優先順位をつけながら導入に取り組みたい」と話している。

ただし、小林専務は、こう指摘する。

「ICTが進んでもそれを管理できる人材がいないと成り立たない。人材ありきのICTだと思う」

秋田県北秋田市の朝日建設本社

秋田県北秋田市の朝日建設本社


朝日建設がICT活用を進めるのは、業務の効率化とともに若手人材を確保しやすい職場環境をつくる狙いがある。地元での就職を目指す高校生たちにドローンを体験させるなど魅力を発信するのも地域の将来を考えてのことだ。秋田県の人口減少率は全国でもトップクラスにあり、少子化率も高い。それだけに地元の若手人材の確保するのは他県以上に厳しくなっている。

ICT導入によって若手人材が集まれば、若手人材が生活の拠点を置くことになる。地域の人口流出に歯止めがかかり、地域の発展にもつながる。子供のころからパソコンやスマートフォンを使いこなしている若い人材は、これから普及が予想されるi-Constructionへの適応力も高い。ICTの活用が今まで以上に進み、事業が効率化され、働きやすい職場環境がさらに整備される。受注も増えてくる。ICT活用を一歩一歩着実に進める朝日建設のチャレンジから地域の明るい未来がみえてくる。

事業概要

法人名

朝日建設株式会社

所在地

秋田県北秋田市脇神字平崎川戸沼12-7

電話

0186-62-3830

設立

1971年11月

従業員数

34人

事業内容

土木建設業、建築工事業、総合解体業、一般貨物自動車運送事業、産業廃棄物中間処理業、除雪工事など



中小企業診断士監修の建築業の課題診断

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