電子黒板がリモート会議を変える 対面と変わらないデザインレビューを実現 東京島津(新潟県)
2022年03月24日 06:00
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「お客さまが何かの製作を検討する中で、『少し特殊で形にするのが難しい』『納期が短くてどこに発注したら良いかわからない』というものを引き受けさせもらっています。〈お困りごと解決部隊〉というのが父の代からのモットーです。『これをしないと本当に困ってしまう』という会社を助けて満足を得る。そういうスタイルでずっとやってきています」
新潟県長岡市でプラスチック製品の製造を手掛ける東京島津の島津一美社長はこう語った。自動車や医療機器、健康器具など幅広い分野のプラスチック製部品の製造を手掛ける一方、創業時から最も得意としているのは、「新しくて、面白くて、かっこいいもの」(島津社長)。巨大な看板や装飾品などの“特注品”だ。コンビニエンスストアが広がり始めたころには、路面に掲げる巨大な看板の製造も手掛けたそうだ。
「透明なマネキンをつくりたい」「生分解樹脂を使って製品をつくりたい」―。そんな要望に応じて、まだ、世の中に出始める前の段階から製作にチャレンジし、しっかりと形にしていく。「打たれ強くて、粘り強く、できないと思ってもあきらめない。そんな社員たちに支えてもらっています」と島津社長は笑顔を見せた。
スタートは社内業務の効率化 テレビ会議で東京と長岡を結ぶ
まだ世に出ないものを生み出すには開発段階から顧客との綿密な打ち合わせが欠かせない。そのコミュニケーションに大きな役割を果たしているのが、テレビ会議システムと電子黒板だ。東京島津では、新型コロナウイルスの感染拡大前の2013年には活用を始めた。
きっかけは社内業務の効率化だった。東京島津の取引先の多くは東京をはじめ関東圏に拠点を持つ会社が多い。このため、東京・上野に営業拠点のオフィスを設け、顧客対応をしている。
東京島津の島津一美社長(左)と山崎涼太総務部長(右)
「新たに受注がとれそうな案件や顧客とのトラブルなどは迅速な対応が必要です。本社の判断を仰がなくてはならないような場合、電話やメールでは詰めた議論がなかなかできません。営業部隊に本社に来てもらうにしても新幹線で片道2時間はかかってしまう。コミュニケーションを綿密に、スピーディーにできるようにすることが大きな狙いでした」と総務部の山崎涼太部長は語る。
導入したシステムは、カメラやマイク、スピーカーなどが一体となったコンパクトな機器。ディスプレイをネットワークに接続するだけでテレビ会議ができる。このシステムを東京と長岡のそれぞれの会議室に設置した。顧客と守秘義務を結んだ内容の議論もするため、ネットワーク回線も専用線サービスを利用し、外部からの侵入に万全を期したという。
当初は通常の会議用ディスプレイを利用していたが、それでは徐々に物足りなくなってきた。3Dの設計画面をディスプレイに映し出してデザイン修正の議論をすると、もとの設計画面にいろいろと書き込みをしたくなる。“言葉だけではイメージしにくい”という問題が生まれていた。
この問題を解決するため、ディスプレイ上に専用のペンで書き込みができる電子黒板(インタラクティブホワイトボード)を新たに長岡と東京に配置した。テレビ会議システムを導入して1年後のことだった。
顧客との打ち合わせに活用 濃密でスピーディーな議論を可能に
顧客から発注を受けたデザインや設計画像を電子黒板に映し出し、長岡にいる開発担当者が画面上に修正案を書き加える。電子黒板に書き込んだラインや文字は記録・保存ができる。すると、顧客に直接対応する東京の営業スタッフも書き込んだ画像をもとに顧客に修正提案を伝えやすくなる。
東京島津が導入した電子黒板とカメラやマイクなどが一体化したテレビ会議システム
そうこうするうち、顧客との交渉にもテレビ会議システムや電子黒板を活用するようになった。「今では、詰めの打ち合わせをするときなどにお客様に東京のオフィスに来ていただいて、長岡の技術・開発スタッフとテレビ会議で直接議論をしています」と山崎部長。
「ここを変えてほしい」「この素材では耐久性が保てない」「少しデザインを変えた方がいい」。詰め作業になればなるほど議論は白熱する。会社として曲げられない主張もある。電子黒板がないときは、製造・技術部隊が総動員で東京に飛んでいくこともしばしばだった。
電子黒板を使うことで、開発・製造スタッフが顧客と、画面越しに顔を突き合わせて直談判ができる。もとの3D設計図にお互い文字や線を書き込みながら口角泡を飛ばして意見を戦わせる。こうした機能を使うことにより、濃密でスピ―ディーな会議になる。
現在は無料でも使用可能なWeb会議システムが普及しつつある。しかし、こうしたシステムでは、共有した設計図への書き込みはできない。また、参加者が同時に発言すると、聞き取りにくくなる現象も起きてしまう。対面のようなスムーズなコミュニケーションが取りにくいところがある。
その一方、「みんなでわいわいおしゃべりしながら、人の話に割り込んで意見を言う。全員で一体感を持って話せるので、濃い議論ができる。お祭り騒ぎのような議論の中から新しいアイデアが生まれてくると思います」と島津社長は、テレビ会議システムのメリットを評価した。
当初は、なくても良いと思ったが、今では経営に与える効果は絶大
長岡の本社で毎週定期的に実施している部門長会議や営業会議には東京にいるスタッフが本社に出張して参加していたが、出張する必要がなくなった。顧客との打ち合わせに参加する技術・開発部隊の出張も大幅に縮減された。東京と長岡を移動する時間のロスもなくなり、打ち合わせで発生した課題への対応もその日のうちに取り掛かれるようになった。
電子黒板を通じた書き込みの内容も記録できるので情報の共有化もしやすい。出張となると人数を絞るが、テレビ会議だと関係者全員が出席し、責任者同士が顔を突き合わせて詰める。のちのち「言った」「言わない」のトラブルも回避できるし、本社に持ち帰って現場と相談する、という手間もなくなり、従来と比較し格段の速さで仕事が進んだ。
顧客側もメリットを感じているようで、「本来、長岡の本社まで来ていただく打ち合わせも東京で済ますことができるので『よかった』という声をいただいています」と山崎部長は話していた。
プラスチックを加工する真空成形機。東京島津の独自技術が盛り込まれている
東京島津でのテレビ会議システムや電子黒板を便利に活用する姿に感心し、導入を決めた取引先もあるという。電子黒板を導入した企業とは専用線も共有し、“ホットライン”での打ち合わせを行っている。
「導入前は電子黒板がなくても仕事が回っていたので、必要ないかなと思っていました」と島津社長。「でも、今ではもうこれがないことが考えらないくらい欠かせない存在になっています」と目を細めた。
ICTが創り出す「地方の時代」
東京島津の創業は1958年だが、島津家の言い伝えによると、先祖は安土桃山時代までさかのぼるそうだ。島津社長はなんと14代目にあたるという。何代目かは定かではないが、手先が器用だった先祖が仏師となった。曾祖父にあたる11代目になると、たくさんの弟子を抱え、寺社仏閣の欄間などの装飾や仏壇、仏像などを製作していたという。だが、時代が代わり、昭和になると、木彫の仕事は激減。細々と寺社の修繕や欄間の製作を続けていた祖父が新素材のプラスチックに着目したのが、現在に続く事業の始まりだ。
新潟県長岡市の東京島津本社
祖父の後を継いだ父は周りの仲間たちと協力し、自らプラスチックを加工する真空成形機を開発。さらに改良を重ねながら1993年には国内最大サイズの成形が可能な装置を開発するなどプラスチック加工の分野では先駆的な役割を果たしてきた。しかし、特許を取るなどしてその技術を囲い込むことはしなかったという。「困った人を助けて、満足を得る」という経営スタイルは、先代社長の奉仕の精神と先取果敢なチャレンジ精神を物語っている。
2020年に経営のかじ取りを担うことになった島津社長。地元の高校を卒業すると、実家を離れ、東京でOL生活を送っていた。「会社を継ぐ気は全くなかった」という。だが、後継者として期待されていた弟が若くして亡くなったことをきっかけに実家に戻り、家業を手伝うことになった。
家を守り、事業を守り、従業員を守る―。島津社長が家業を継いだのはそんな責任感からだったという。モノづくりを進めるうえでとことん議論し、顧客とともに納得のいく製品をつくろうとする意気込みは、先代社長の精神をみごとに引き継いている。
島津社長はこんな話をしてくれた。
「地元にとどまっている人たちの多くはなんらかの事情があるんです。地主の子供だったり、お墓を守らなくてはならなかったり。事情は私も同じです。でも、稼ぎたい人はほかの地域に出ていくし、大学を卒業しても地元にも戻らない」
若手人材の流出は多くの地方が抱える悩みだ。だが、東京島津のような元気な企業が地方に増えれば、地域の人材流出に歯止めがかかり、地域の活性化にもつながる。
地方に拠点を持っている企業は、巨大なマーケットがある首都圏との間にある「距離」という大きなハンディキャップを背負っている。だが、電子黒板のようなICTを活用することで、その距離はいくらでも縮めることができる。巨大なマーケットも手元に手繰り寄せることができる。マーケットや拠点との“距離”に悩みを持つ中小企業経営者は、ぜひ東京島津の取り組みを参考にしてほしい。
事業概要
会社名
株式会社東京島津
本社
新潟県長岡市南陽2-949-3
電話
0258-23-2100
設立
1958年2月
従業員数
104人
事業内容
受注生産による真空成形及び圧空成形を主体とした樹脂成形品の企画・設計開発・試作・量産
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