サービス業

「もっと楽に」がICT化の原動力 現場の声を聴く力が会社を変える 北海産業(北海道)

From: 中小企業応援サイト

2022年04月27日 06:00

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北海道で建設機械の総合レンタル事業を展開する北海産業。苫小牧市にある本社を訪れると、東京ドームがすっぽり収まるのではないかと思えるほどの圧倒的な広さの駐車スペースに目を奪われる。

パワーショベルやショベルカー、高所作業車や散水車。工事車両が同じ機種ごとに整然と並ぶ姿はまるでアート作品のようだ。雪の多い冬場は土木・建設作業が一時的にストップするため、待機車両が年間で最も多い時期。この季節ならではの風景だそうだ。

北海産業がレンタルする機材は実に幅が広い。工事用の重機だけでなく、発電機や足場材、仮設トイレ、ユニットハウス。電動工具などの小型機材もそろう。土木・建設工事に関連する、ありとあらゆる資材を調達することが可能だ。

「スタートは発電機などの電機機器関係だったのですが、お客さまから『あれがほしい』『こんなものはレンタルできないか』と相談を受けるうちに取り扱う品目が増えていったんですよ」と伊藤光雄社長は笑顔で語る。

営業拠点は道内23カ所。重機約2600台、ダンプや散水車などのレンタカー約2100台をはじめ1500品目・数万点の商品を取り扱い、取引先は2万4000件に上る。地元の建設業者にとって困ったときの助けになる、なくてはならない存在となっている。

活用のきっかけはマイナンバーの管理…「クセになりました」


北海産業がICTの活用に本格的に乗り出したのは2015年からだ。

「大きなきっかけとなったのは『マイナンバー(個人番号)の管理をどうする』という問題からでした」と、恵木寛治専務は振り返る。当時、恵木専務は総務管理部の次長で社員の勤怠や給与の管理を一手に引き受けていた。

北海産業の伊藤光雄社長(右)と恵木寛治専務(左)

北海産業の伊藤光雄社長(右)と恵木寛治専務(左)


給与計算のシステムは導入していたものの、多くの業務は紙ベース。各営業所からタイムカードや残業申請書が送られてくると、間違いがないかチェックし、給与計算ソフトに入力。社員一人ひとりの給与をはじき出す。給与明細の出力はB4サイズの用紙に2人分が印字され、それをペリペリと切り取る。それをたたんで封入する。

給与明細は個人情報で、機密性が求められる書類だ。「他の社員にみられないようにこそこそと大汗をかきながらやっていました」と恵木専務。タイムカードの集計に半日、給与明細の出力から封入まで一日半くらいかかけて、一人で作業をしていた。

マイナンバー制度のスタートは、ちょうど「何かいい方法はないか」と考えていたタイミング。既存の給与計算ソフトに連動して、安全にマイナンバーを管理するシステムを導入した。

同時期にはグループウエアを導入。スケジュール管理なども一元的にできる環境を整えた。給与明細は、紙にプリントせずにデータで一人ひとりの社員のアカウントに送られる形になった。

「それからICTの活用がクセになりました」と恵木専務は笑顔をみせた。

業務改革は、時間削減と本来やるべき業務の推進とセット


さらにその一年後には、社会保険や労働保険の手続きの業務改善に取り組んだ。入社や離職の手続きもそれまでは手書きで記入し、ハローワークや社会保険事務所で手続きをする。役所の業務が集中する新年度になると、何時間も待たされることがあった。

社会・労働保険の手続き業務をICT化すると、人事給与システムの情報をもとに証明書を自動作成してくれる。役所の申請書のフォームにも連動しており、電子申請が可能になった。事務処理にかかる時間の軽減だけでなく、健康保険証が届く日数も早くなった。

マイナンバー制度が業務改善のきっかけとなった

マイナンバー制度が業務改善のきっかけとなった


当時、恵木専務は、社員の年末調整も「間違いを直すのが大変」とすべて引き受けていたそうだ。2019年にこれもICT化。社員一人ひとりがシステム上に入力する形にした。このほかにも残業時間の自動計算、勤怠管理のクラウド化、タイムカードの非接触カードの導入…。2015年からの一連の業務改革で、会社の環境は劇的に変化。業務は、すでに恵木専務から後任に引き継がれたが、管理部門の残業時間は減り、これまで先延ばしにされていた業務に取り掛かる余裕も生まれた。

もともと営業畑だった恵木専務。自身で実際に業務をやって、課題をみつけて、楽をするにはどうしたらいいかを洗い出した。そして、「このシステムを導入すると、これだけの費用が掛かりますが、それによって別の仕事に取り掛かれます」と伊藤社長に直訴。恵木専務の説明に、伊藤社長は投資効率を確認しただけで導入を認めたそうだ。

「もともと私も経理畑ですから。話は見えていました」と伊藤社長は目を細めた。

実は、伊藤社長は北海産業に入る前、道内の信用金庫に勤務していた。兄の伊藤武史会長が営業エリアの拡大を進める中で、兄から「手伝ってほしい」と請われ、転身することになった。2003年に経営のトップを兄から引き継いだが、大幅な投資が不可欠なレンタル事業を無借金で切り盛りしているのは、金融機関で経験を積んだ伊藤社長の手腕があったにほかならない。

次のステップは業務部門の効率化と見える化でトラブル解消


北海産業のICT改革は次のステップに入っている。業務部門の効率化と見える化だ。

23の営業所で個別に導入していたネッワーク回線を一本化し、プロバイダ費用などのコストの削減につなげた。また、広い駐車スペースや整備施設でもネットが使えるよう屋外Wi-Fi環境を整備している。レンタル車両や機器をタブレットで管理。ペーパーレスでスピーディーな業務環境を整えた。

構内Wi-Fiを設置し、タブレットでレンタル機器の現状をチェック

構内Wi-Fiを設置し、タブレットでレンタル機器の現状をチェック


現場作業で使われる機器が多く、使われ方もハード。大きな故障になると、貸し出し先に修理費を負担してもらう契約なのだが、うやむやになってしまうケースが少なくなかった。

現状の傷などをチェックして紙ベースで管理しているのだが、チェック漏れを指摘されると、なかなか顧客に納得してもらえないことが多かったからだ。そうなると、修理費は自社で負担しなくてはならない。こうした事態を避けるため、貸し出す前にレンタル品の現状をタブレットのカメラで撮影することで、返却後、大きな損傷があった場合にも顧客への説明がしやすくなる。そんな活用も考えている。

「ペーパーレス化に加え、効率的で、しかも確認の正確性も増しています」と恵木専務は評価していた。

ウエアラブルカメラの導入も検討している


伊藤社長が自負するのは、同業他社に比べ、熟練した整備要員を多く抱えている点だ。「新品とはいきませんが、新品同様の機器をお客さまに貸し出すのがわれわれの使命」と力説する。約100人いるサービス部門社員の7割は特級か一級の整備資格を持っている。修理が必要な機器は、営業所から整備拠点に移動させて点検するのだが、その移動にはコストもかかる。

重機が整然と並ぶ様子はまるでアート

重機が整然と並ぶ様子はまるでアート


営業拠点と整備拠点をウエアラブルカメラでつなぎ、営業拠点にある機器を整備スタッフにチェックしてもらうことで、修理の可否などを判断できれば、整備スタッフが、場合によっては半日かかる営業拠点まで出向く必要がなくなり作業の大幅な効率化になる。しかも、修理箇所によっては経験豊富なベテラン整備士がチェックしたほうが良いケースも、ウエアラブルカメラであればどこからでもサポートできる。

レンタル機器のICT化にも対応…新たなビジネスモデル摸索


一方、土木・建築業界では機器そのもののICT化が急速に進む。それだけにレンタル機器のICT化も大きな経営テーマだ。

北海道苫小牧市にある北海産業の本社

北海道苫小牧市にある北海産業の本社


3D設計、ドローンやGPS機能のついた測量機器、ICT建機など人手をかけず効率的に作業ができる機器が登場し、日進月歩の勢いで進化している。北海産業ではICT機器のレンタルについては、「まだ、見極めが必要」(伊藤社長)と、しばらく様子をみていたが、2022年から本格的に乗り出すことを決めた。

ボトムアップ型経営が北海産業の強み


「営業部門だけでなく、サービス部門からも『必要性があるのでは』という意見が出てきたので、いいタイミングだと判断できました。おそらくそれがなければ、たとえいい機械があっても、やらなかったでしょう」と伊藤社長は語った。目指すのは、単に機器をレンタルするだけではなく、機器の操作もセットにしたサービスだ。現場からのボトムアップが図られたことで、会社全体のプロジェクトとして昇華させることができた。

現場からのボトムアップの例は他にも。北海産業ではSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みにも積極的だ。恵木専務は以前から個人的にSDGsに取り組みたいと考えていたが、表に出すのを控えていた。やがて、社員から「あのバッジをつけたい」という声が上がり、「待っていました」と、活動がスタートしたそうだ。

恵木専務の声に耳を傾け、マイナンバーなどの管理システムを導入した伊藤社長の判断にも同じボトムアップの経営スタイルがみえてくる。ICTの導入には、それなりの費用もかかる。「失敗はできない」と、導入に踏み切れない経営者は少なくないだろう。だが、自分だけで悩まず、実際にICTを利用する現場の声を聴き、その声を生かして導入を進めると、社内への浸透が早く、活路も開けてくる。

北海産業では、恐らく日頃からレンタル業が循環経済を支えSDGsにつながることやICT建機の情報等を社長、専務、社員と共有していて、社員も顧客との会話の中でその可能性の是非をヒアリングした過程から、上記のようなボトムアップのサイクルになったと思われる。北海産業の取り組みから、社員が「腹落ち」したときのパワーは、トップダウンで実行するときの何倍も効果的であり、成功への近道であることを改めて感じた。

事業概要

会社名

北海産業株式会社

本社

苫小牧市あけぼの町2丁目2番1号

電話

0144-55-5500

設立

1963年4月

従業員数

258人

事業内容

建設機械総合リース・レンタル・修理・販売、建設資材・仮設資材のレンタル・販売、車両のリース・レンタル・修理・販売、什器・備品・事務器のリース・レンタル・販売など

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