「自社の当たり前は、当たり前ではない?」 診断サービスを活用し、セキュリティ体制をチェック ニイガタマシンテクノ(新潟県)
2022年05月23日 06:00
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新潟市東区にあるニイカダマシンテクノは老舗の機械メーカーだ。明治期に設立された名門の総合重機メーカー、新潟鉄工所が1904年に金属を加工する旋盤の生産を始めたのが原点だ。激動する日本経済の荒波にさらされ、新潟鉄工所はその姿を消したが、歴史ある工作機械と射出成形機事業は新たなスポンサーに引き継がれ、ニイガタマシンテクノとして2003年に再出発した。
「われわれが得意としているは、鉄道車両や建設機械などの部品を製造する工作機械です。建機業界の業績が堅調で、その恩恵に預かっています。射出成形機はプラスチック製品を成形する機械で、自動車部品の製造に利用されています」と田村幸夫社長は語る。
100年以上にわたって培われた技術への信頼は高く、新潟鉄工所時代からの顧客がリピーターとして継続して取引を続けている。海外との取引が主流になっており、売り上げの約6割は中国とアメリカが占めているという。
2016年に世界最大の射出成形機メーカーである中国の海天国際ホールディングス(HD)の傘下に入り、現在、中国に新工場の建設を進めている。新型コロナウイルスの感染拡大で4月に行われた起工式には出席ができなかったが、「ソーラーパネルを設置するなど環境に配慮した最新設備の工場になる予定です」と田村社長は胸を張った。
テレワークきっかけに自社のセキュリティ対策を見つめ直す
世界に飛躍するニイガタマシンテクノ。2019年に普段から取引関係があるICT関連サービス会社のセキュリティ診断サービスを受けた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレワークによる在宅勤務を導入することになり、社内のセキュリティ状況を改めて洗い出すことにしたのだ。
ニイガタマシンテクノの田村幸夫社長(左)と笠原聡史・管理グループ長
「会社のセキュリティが甘いのではないかと常々感じていました。自分たちが当たり前にやっていることが実は当たり前ではないのかもしれない。まずはそこを診断してもらうことにしました」と管理部の笠原聡史・管理グループ長兼総務課長は診断サービスを受けた経緯を話してくれた。
ニイガタマシンテクノの本社があるのは、旧新潟鉄工所の製造拠点だった工場の敷地内にある。本社の建屋も比較的古く、セキュリティ対策は大きな課題だった。
セキュリティを強化した最新のオフィスビルであれば、フロアごとにオートロックのドアが設置され、カードキーでロックを解除しないと入室できないような設備が施されている。しかし、本社の建屋にはそんな設備もない。毎月1回、社員全員にメールで情報セキュリティのニュースを発信して、管理の徹底を呼び掛けてはいるが、果たして管理は十分なのか、笠原グループ長は大きな不安を感じていた。
外部の専門家にダメ出し、黒船作戦で社内の意識を改革
「管理部門が口を酸っぱく言ってもなかなか他の社員に響かない」と笠原グループ長。最も気にかけていたのは、社員一人ひとりの意識だった。外部の専門家にダメ出しをしてもらう“黒船作戦”で、社内の意識改革を図ることを考えたのだった。
セキュリティ診断は設計図などの機密性の高い書類を扱う設計部門が入る部屋と、管理部門が入る部屋を中心に実施。通常業務をする中で、診断の担当者が部屋に入室し、管理状況をチェックしてもらった。すると、改善が必要な指摘は約50項目に及んだという。その指摘には、企業に共通する「ありがちな」ことが数多く含まれていた。
では、どんな指摘があったのか。その代表例がパスワードの管理だ。
「パソコンのディスプレイやキーボードのようなすぐ目につくところにパスワードを張り付けている社員が少なくありませんでした」と笠原グループ長。それ以外にも、デスクの上に敷いたデスクカバーの間にパスワードの書いたメモをはさんでいるケースもみられた。部外者の侵入を防ぐためのパスワードだが、他人の目に簡単に触れるようでは、機密性が求められる業務システムにも部外者に容易に侵入を許してしまう。セキュリティの基本中の基本ともいえることが守られていなかった。
デスクカバーを使っている場合、パスワード以外にも電話番号などの個人情報や重要なメモを挟み込むことも避けるべき行為だという。たとえ社内の関係者しかいない場所であっても注意が必要だ。
機密性の高い文書はため込まず、すぐにシュレッダー
機密性の高い文書の廃棄についても指摘を受けた。
スタッフが機密性の高い書類をごみ箱に放り込んでいたところをチェックされた。書類がある程度たまった段階でシュレッダーにかけることにしていたそうだが、ため込まず不要になった段階ですぐにシュレッダーにかけることが適切な処理方法だという。メモのような簡易な書類もそのままごみ箱にポイするのも情報漏れを引き起こすリスクとして注意を喚起された。
100年以上の歴史に裏付けされた技術で製造される工作機械
また、机の上に高々と書類を積むこともNGだ。ファイルにクリップするなど整理されていないと、ありかが分からず紛失するリスクが高まるからだ。
デスクトップ画面に重要書類のフォルダやショートカットのアイコンを置くこともリスクの指摘を受けた。社員が席を外したすきにパソコンを操作すると、デスクトップ画面からすぐに機密のデータにたどり着いけてしまう。みんなが気にせずにやっていることなのだが、それすらも情報漏洩のリスクを高めることになるのだという。
「当たり前のことが当たり前ではない」。診断サービスを受けて、笠原グループ長はその現実を再認識させられることになった。今回の診断を受けて、管理職を対象にセキュリティ講習会を実施。全員参加で、報告書の内容を紹介し、セキュリティ管理の徹底を求めた。報告書の内容を社員にも回覧するなど情報を共有し、改善を進めている。
ペーパーレス化はセキュリティ対策にも効果
セキュリティ診断を進めたことで、もう一つの業務改革も進展した。それがペーパーレス化だ。
テレワークを実施するため、社内の業務パソコンをノートパソコンに切り替えた。社内での会議や打ち合わせでは、会議資料を紙で印刷することをやめ、データで配布するようにした。会議室にノートパソコンを持ち込み、データを開いて資料を見る。紙の削減だけでなく、管理部門の業務削減につながっている。
2016年に導入した複合機もペーパーレスの効果を上げている。オプションだった「私書箱」の機能を導入した。
ミスプリントを防ぐ機能を持った複合機。セキュリティ対策にも効果がある
この機能を搭載しておくと、パソコンでの操作後、複合機のパネルをもう一度操作しないと印刷ができないようになっている。パソコンごとに個人個人の“私書箱”が設定されており、パネルに表示されたデータを確認しておけば、間違ったデータを印刷も未然に防ぐこともできるし、部数を間違えても修正できる。
笠原グループ長によると、ペーパーレスに加え、セキュリティ上のメリットも多いという。「業務上、個人情報などを印刷するケースが多いのですが、複合機の前にスタンバイしているので、別の人に間違えて印刷物を持ち出されるようなリスクがなくなりました」と評価していた。
そもそもペーパーレス化とセキュリティ管理には深い関係性がある。重要書類を紙で持っていると、紛失や盗難のリスクが高くなる。資料が机の上を占拠することもなくなる。仕事の効率性も高くなる。ニイガタマシンテクノでは、決裁書類などのペーパーレス化も今後、進める考えだ。
「千丈(せんじょう)の堤も蟻の一穴」 徹底した警戒が必要
ニイガタマシンテクノのセキュリティ態勢が甘いのかというと、決してそういうわけではない。本社屋は周囲を塀に囲まれ、正門の警備施設で手続きをしないと部外が簡単に施設に入ることはできない。さまざまな企業が入居し、多くの人が行き交う都会のオフィスビルの方がむしろリスクが高いようにも感じる。
ニイガタマシンテクノの本社
セキュリティ診断で多くの指摘を受けたのは、社員の安心感が起因するところは多いのだろう。ただ、悪意のある人物は、そんな安心感に付け入ってくる。それは、社外の人物ではなく、身内かもしれない。一度、侵入を許せば、会社の信用に大きなダメージを与える。「千丈の堤も蟻の一穴より崩れる」ということわざがある通り、徹底した警戒が必要だ。
都会のオフィスビル並みのセキュリティ設備を備えるなどハード面での整備は確かに重要だが、ニイカダマシンテクノが指摘を受けたようなソフト面からできる対策は多い。課題を見つけ、その課題を一つ一つ解決していく。そして社員の意識を改革する。「当たり前でやっていることは、落とし穴がある」。セキュリティに不安を感じている中小企業経営者は、まずニイガタマシンテクノのようなアプローチをしてみるのも一つの手だ。
事業概要
会社名
株式会社ニイガタマシンテクノ
本社
新潟県新潟市東区岡山1300
電話
025-274-5121
設立
2003年4月
従業員数
325人
事業内容
工作機械・射出成形機の設計・製造・販売
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