線形静解析のための3Dシミュレーションシステムを導入 機械設計の提案内容が変わる 村岡鉄工所(香川県)
2022年05月24日 06:00
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CADによる優れた機械の設計能力を持つ香川県高松市のものづくり企業、村岡鉄工所が、厚労省管轄の独立行政法人出身(後述)の社長の下、3Dシミュレーションシステムを導入し、さらなる設計能力の向上を図ろうとしている。
香川県のフィルム加工産業を支える村岡鉄工所
さまざまな工作機械がそろう村岡鉄工所の工場
食品の包装用からフラットパネルディスプレイに使われる光学用までさまざまな分野で使用されているフィルムは、日本が高い競争力を誇る石油化学製品だ。村岡鉄工所は、有力なフィルム製造企業が集積する香川県で、各企業の製造ラインを構成する加工機械や加工装置をオーダーメイドで生産している。光学フィルム加工装置、合成樹脂フィルム加工装置、フィルムの巻取機・巻替機、ラミネート装置、トリミング装置など手掛ける機械、装置のラインナップは幅広い。
地元のフィルム製造企業との間で構築した強固なネットワークと蓄積した技術、ノウハウが村岡鉄工所の大きな強みだ。フィルムの加工機械や装置を知り尽くした30代から70代までの15人の「職人」が、設計から製造、工場への据え付けまでのすべての工程をこなし、修理や改造にも迅速に対応する。フィルムをカットするための刃の研ぎ直しといった細かい注文にも応じている。
新社長は元ものづくり分野の技能・技術を教える職業訓練指導員
「納品した加工機械や装置は、地域経済を支えるフィルム製造の現場で長年に渡って使用されます。重要な役割を担っていることを意識して、長期的な視野で事業に取り組むことを心掛けています」。4月中旬、香川県高松市内の村岡鉄工所の本社で、兵藤守社長は事業への思いを語った。
兵藤社長は2020年9月に、創業家で現会長の村岡一則さんから社長職を引き継いだ。出身は神奈川県。2014年4月に30代半ばで村岡鉄工所に入社するまでは、厚生労働省所管の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)で、ものづくり分野の技能・技術を教える職業訓練指導員(テクノインストラクター)として活躍していた。
「最初の赴任地だった香川県で、結婚した妻の父親が村岡鉄工所の工場長を務めているというつながりから入社のお声がけをいただきました。JEEDでは香川県の後、熊本県、富山県の拠点で勤務して実績を重ね、仕事にやり甲斐を感じていたこともあって、どうすべきか悩みましたが、ものづくりの現場で自らの知識と経験を生かしてみたいという気持ちに突き動かされ、お世話になることを決めました」と兵藤社長は振り返った。大学卒業後、同機構の前身の雇用・能力開発機構に就職した時、将来、香川県で社長になるとは夢にも思わなかったという。
兵藤守社長
線形静解析に必須の3Dシミュレーションシステムを導入
兵藤社長の入社は、地域に根差したものづくり企業に新しい風を吹き込んだ。幹部として経験を積みながら、本格的なデジタル社会の到来を見据えて着々と準備を進めてきた。
「長年の取引で培った信頼と蓄積したノウハウは会社の大きな強みですが、その強みに安住してしまうと、デジタル化がもたらすこれからの社会の変化に対応できなくなってしまうかもしれません。そうならないようにしっかりとアンテナを張って新しい技術を導入していかなければならないと考えています」と兵藤社長は力強く語った。
新たな取り組みとして3年前に導入したのが、物体の線形静解析に活用する3Dシミュレーションシステムだ。3Dモデルを使って、試作品を作る前に物体が外から力を受けた時に内部で発生する応力や物体に生じるひずみの割合を数値や色で可視化することができる。
CAD設計に強みを持っているからこそ危機感を感じた
同社は取引先からの注文に応じて年間約500件の機械、装置、部品を設計している。設計は2D-CADで行い、取引先との情報共有も平面図で行っている。さまざまな平面図を見比べて完成した姿を想像しながらの設計になるため、3D-CADで最初から立体で設計するケースと比較すると手間はかかる。だが、同社ではベテランの設計者が、これまで蓄積してきた過去のデータやノウハウを活用して設計しているので、3Dを活用しなくても仕事は問題なく回っているという。
ものづくりのベテランが、蓄積した技術とノウハウで仕事に取り組む
課題がないにもかかわらず、あえて導入したその狙いは何だったのか。「3Dは、2Dに比べて機械、装置、部品の完成した形を把握しやすいので、設計の早い段階で耐久性や動作を検証しやすいといったメリットがあります。結果的に手戻りを少なくすることで開発のコストダウンにつなげることも可能ですし、一番重要なのはお客様との情報共有が3次元化され可視化できることで開発の大幅スピードアップにつながります。JEEDに勤務している時に3D-CADを扱い、3Dの有用性を十分に理解していましたので、会社として3Dに対応しないままでは、将来、大きな落とし穴になると思ったんです」と兵藤社長は説明した。
3Dシミュレーションによる可視化で顧客との情報共有と新たな提案
現在は導入段階で、部分的に部品の強度を解析したい場合や3Dでないと図面化が難しい形状の部品の設計に3Dシミュレーションシステムを使っている。「3Dを扱ったことがない社員が多いので、これまでの仕事のやり方を一気に変えてしまうと現場への大きなストレスになってしまいます。社員の負担にならないように、徐々に使用頻度を増やしていきたいと考えています」と兵藤社長。今後様々な可能性を想定しているが、例えば設計、製造してきた部品の強度をシミュレーションシステムで数値化することで、強度が過剰になっていた部分を検証して次の開発に役立てていきたいという。
社会全体で環境に配慮し、無駄を省く流れがより強くなっていく中で、フィルム加工機も重量の軽減などさまざまな対応を求められる可能性が高くなっている。「シミュレーションシステムを使えば、ひずみを抑える上で十分な厚みを具体的な数値で把握することが可能です。過剰になっている部分が検証できれば、安全性とコストダウンを両立した機械、装置、部品を開発することが可能になりますし、根拠を持って取引先に説明できます」と兵藤社長はシミュレーションシステムのこれからの活用方法について話した。
村岡鉄工所のオフィスの様子(写真左:村岡一則会長 右:兵藤社長)
FAX送受信業務支援システムで送信元の部署確認
兵藤社長はほかにもICTの導入を進めている。そのひとつが、FAX送受信業務支援システムの導入だ。20以上にのぼる取引先企業の担当部署を登録し、FAXを受信した時点で、送信元をパソコンやスマートフォンの画面で確認できるようにしている。「取引先のどの部署から送信されたFAXなのかすぐにわかるので導入前と比べてストレスなく仕事ができるようになりました。注文は1カ月で数十件くらい入ってくるので、1件あたりはわずかな時間でも蓄積することで大きな時間の節約につながっています」と兵藤社長は話す。
工場内の状況把握に360°カメラを活用
また、今年2月末には、ワンショットで全方向の写真や動画を撮影できる360°カメラを導入した。機械や装置の設置や改造を行う際の事前調査で取引先の工場を訪れた際、時間をかけずに現場の全容を記録できるので、作業を迅速に進めることができるという。「死角なしで撮影できるので、会社に戻った後、ライン全体の中での機械の位置関係や、搬出、搬入する際の導線をチェックする上で非常に役立っています」(兵藤社長)。
村岡鉄工所の本社の外観
「事業を通じて社員の安定した生活、取引先の利益、地域の活性化を実現したい」と話す兵藤社長。業務のさらなる効率化や情報発信など会社を盛り立てていくために必要な業務で、これからも費用対効果を考えながらICTを積極的に取り入れていきたいという。新しい視点と技術を生かすことで村岡鉄工所は持ち前の競争力をこれからも高めていくに違いない。
事業概要
会社名
株式会社村岡鉄工所
本社
香川県高松市元山町906-1
電話
087-867-5956
設立
1966年4月
従業員数
15人
事業内容
合成樹脂加工機械、光学フィルム加工機械製造
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