おいしいお米を全国に送るため、取引データ自動化で体制強化 吉兆楽(新潟県)
2022年06月02日 06:00
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シャッターを上げると、中から流れ出てきた冷気が顔をなでる。目に映るのは見上げるほどの白い雪山。「700トンほど積み上げました。今は少し融けて650トンくらいになっているでしょうか」と話すのは、雪の冷気で倉庫内を摂氏5℃まで冷やし、鮮度を保ったお米を国内外に販売している吉兆楽の北本健一郎社長だ。
豪雪地帯・新潟ならではの雪を利用した「雪蔵」を吉兆楽が導入したのは2008年のこと。氷点下2℃の倉庫に1週間ほど置いて糖度を高め、うま味と食感を増す「氷温熟成」の仕組みも合わせて作り、「雪蔵仕込み氷温熟成」と銘打って販売を始めた。
父子で日本一おいしいお米の産地でブランド米に挑戦
「販売先は通販会社や百貨店、高級スーパーなどです。日本各地の料理店やスイスのお寿司屋さんにも出しています」。吉兆楽という社名でありブランド名と共に、雪蔵仕込み氷温熟成米は他に類を見ない付加価値をもったお米として市場から引っ張りだこだ。
新潟県南魚沼市は、魚沼産コシヒカリが日本で一番おいしいお米として知られているように、全国でも屈指のお米の生産地だ。そこに拠点を置く吉兆楽も、古くから当地に根を張っていた事業者かというと、「1995年に大阪から父と移り住むまで、縁もゆかりもない場所でした」と北本社長は振り返る。
吉兆楽・北本健一郎社長
「父は15歳でお米を取り扱う業界に入り、やがて独立して卸事業を営むようになりました」。事業は堅調に推移したが、1990年代後半に入って旧食糧管理法が廃止、食糧法が制定され誰でもお米を取り扱えるようになることが分かった。自由化すればライバルも増える。53歳になっていた北本社長の父親は、事業を手仕舞いすることも考えた。
「そこで、自分が後を継ぐなら、少しくらい厳しくても挑戦してみても良いと言ってくれました。日本一おいしいお米の産地に拠点を構えた方が商売として面白いと考え、南魚沼に行ってその日に本社を置く場所を決め、すぐに移り住みました」。北本社長が23歳の時だった。
豪雪地帯だからこそできる雪蔵
「吉兆楽」をブランドに「雪蔵仕込み氷温熟成」を行った商品
最初のうちはJAを通して生産者がお米を販売する、従来の仕組みを使うところが多かった。北本社長は諦めず、米農家を回ってだんだんと取扱量を増やしていった。お米をブランド化することを考え「吉兆楽」という名をつけ、社名も合わせて消費者へと浸透させていった。そこに新たな壁が立ちふさがった。「ネット通販サイトが続々と立ち上がって、生産者が直接お米を販売できるようになったんです」
産地直送を売りにした吉兆楽への影響は必至。「対応策は二つありました。ひとつは価格競争をすることですが、百貨店やカタログ通販の会社などを通じて販売していた当社では、値段を下げて売ることはできません。そこでもうひとつの、高付加価値型の商品開発に乗り出しました」
もとより、日本一おいしいお米を提供しているという自負があった。そのおいしさを売りにできれば商機は開けると考えた。見渡せば、そこには日本でも有数の豪雪地帯として、除いても除いても降り積もる雪があった。「この雪を倉庫に溜め込んで、夏場に冷熱源として利用しているところがあるという話を知って、さっそく話を聞きに行きました」
向かったのは、上越市で雪を使った街おこしを推進している公益財団法人雪だるま財団の伊藤親臣氏のところ。「方法を聞き、監修を受けて雪蔵を作ることにしました」。地元の人たちにとって、生まれた時から冬場の生活を脅かす“敵”でしかなかった雪を利活用した策に、「生産者も吉兆楽の商売への本気度も感じてくれたようです」。お米を預けてくれる生産者が増え、今は各地からお米が集まるようになった。
冬の終わりに倉庫へと運び入れた雪でお米を冷蔵し鮮度を保つ
雪の冷気で摂氏5℃に保たれた倉庫
良い商品づくりに集中のため 徹底した業務の自動化
そんな吉兆楽では現在、創業以来の本拠地を来春に移転する大事業を控えて、ICT(情報通信技術)を利用した業務の効率化、働き方の改善などを進めている。その一つとして、20年来使っているお米の販売管理システムをリプレイス。仕入れた分と販売した分をしっかりと把握し、農政事務所から報告を求められれば即座に対応できるような機能を備えた。
「以前は月のうち1日2日かけて、自分で表計算ソフトに取引先や取引量を入力していました。今は従業員たちが日々の取引の中で、それぞれが入力したデータから、即座に帳票や伝票の形で出せるようになりました」。
業務の自動化にも取り組んだ。「百貨店などから何百件もの顧客データが送られてきた時や、ふるさと納税で返礼品になっているお米を出す時などに、どこにどれだけ出すかを表計算ソフトに入力していました。これを自動で行えるようにしました」。使ったのが、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)システム。これは、取引先からもらったデータを読み込んでAIが自動的にシステム内の項目に整理し、送り状や納品書まで作成できる仕組み。これによって担当者が3時間4時間と残業して入力する作業を一気になくすことができた。
販売や仕入れ、取引先の管理などをシステムで省力化
どこでも安心して働けるシステムづくりを推進
勤怠管理のシステムも入れ替えた。「出社時と退社時に紙のタイムカードに打刻していたものを、ICカードをタッチするだけで済むようにしました」。一人ひとりの勤務時間が瞬時に把握できるようになり、「残業が月40時間を超えそうになった社員に、所属長が注意するよう促せるようになりました」。社員は安心して働け、管理する側にも負担がかからなくなる一石二鳥だ。
ICカードの導入は、本社移転後の将来のセキュリティシステム強化も想定したもの。カードで担当によって入れる場所を制限して、誰が出入りしたかを把握できるようにする予定。「社員を信用していないのか、という声も出ましたが、逆なんです。社員を信用し続けるために必要なシステムだと話して、受け入れてもらいます」。問題が発生した時、しっかりと管理されていれば社員の行ったことではないとすぐに分かる。誰もが常に安心して働けるような環境を作れるという訳だ。
デスクトップ型しかなかったパソコンをノート型に入れ替え、フリーアドレスにして機動的なオフィス環境を作る準備も始めている。こうしておけば、来年春に予定している、冷蔵倉庫がある場所への創業以来の本社移転もスムーズに行える。そこではWMS(倉庫管理システム)の強化も進める予定だ。
精米から商品出荷までをトータルでシステム化
「注文データと在庫のデータを結びつけ、在庫があれば出荷し足りなければ玄米を精米するよう指示を出し、玄米タンクにお米がなければ何俵を張り込む(お米を投入すること)かを指示します」。こうしてお米の流れを一気通貫して管理・把握できるようにした上で、販売管理と連係させることで、商品とお金の管理から顧客の管理までをトータルで行えるようになる。
お米の将来に布石も
会社の構造改革は着々と進んでいる。問題は市場だ。日本人がお米を食べなくなってきていると言われ、農水省の調査でも、1人あたりの消費量は1960年代のピーク時から半減した。食生活の変化もあるが、北本社長は「忙しくて朝にお米を炊いて朝ご飯を作る余裕がなくなっているのではないでしょうか」と分析する。
「パンを焼いてゆで卵を作る洋食だったら10分から15分くらいで済みますが、和食はお米を炊いて魚を焼いてみそ汁を作ると1時間くらいかかってしまいます」。ただ、最近は「おいしいバックご飯が出てきて、おかずはレトルト、みそ汁もフリーズドライのものが出回って、洋食と変わらない時間で用意できます」。
実際、パックご飯の生産量は2021年まで6年連続で増加している。「これから少しずつ、お米に戻って来てくれると思います。稲作農家も南魚沼市でいえば、事業を受け継いだ若い人たちが大規模化を進めています」。だから心配はしていない。むしろ増える需要にしっかりと対応し、消費者が求めるお米を提供していくために、拠点を移しシステムを整え一丸となって進んでいく。
会社概要
会社名
株式会社吉兆楽
本社
新潟県南魚沼市君沢156番地1
電話
025-783-3070
設立
1996年11月15日
従業員数
30人
事業内容
米穀小売業
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