ICT導入で会社全体を「見える化」 社員が働きやすい職場に 三和電工社(福井県)
2022年06月21日 06:00
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地域の電力インフラを支える福井県の三和電工社が、十数年前から段階的なICT導入を進めている。その根底にあるのは、現場に役立つICTという「社員ファースト」の発想と若者にとって魅力的な企業となることで、地域を支える企業として成長し続けていきたいとの熱い思いだ。
電気設備のオールラウンドプレーヤー
2024年に予定されている北陸新幹線の延伸開業に向けて、関連インフラの整備が進む福井県。同県を事業エリアとする三和電工社は、地域を支える電気設備の整備、維持管理に創業以来、60年にわたって尽力してきた。鉄道の電気、信号、通信の各設備工事をはじめ、公共事業、民間の住宅、工場、店舗の電気工事、太陽光発電システム、ケーブルテレビ、オール電化関連工事など事業領域は幅広い。鉄道関係の電気工事は県内で約6割のシェアを持ち、北陸新幹線の関連工事も多数受注している。
社員数は40人。若手だけでなく、電気設備の専門知識を持ったシニアの採用にも力を入れ、18歳から70代まで社員の年齢構成は幅広い。若い世代に地元を支える電気設備の仕事に関心を持ってもらいたいとの思いから、小学校や高校からの見学を積極的に受け入れている。
「地域のインフラにかかわる電気設備のオールラウンドプレーヤーを自負しています。何よりも大事にしたいのが地域に貢献すること。熱中・夢中・情熱企業をモットーに事業に取り組んでいます。電気設備の仕事に携わることは楽な道ではありませんが、誰かがこの仕事をしなければ地域で暮らす人々の生活を守っていくことはできません。社員たちは地域のライフラインやインフラを維持するプライドを胸に日々、頑張ってくれています」。取材に訪れた5月中旬、落ち着いた田園風景が周辺に広がる同県鯖江市内の本社で、笹木吉右ヱ門社長は快活に語った。元気な中小企業として地元のテレビ局に取り上げられることもある。
信頼している取引先からICTの情報を積極的に集める
笹木社長は、長年、ICTの導入に力を入れてきた。十数年前、地元の業界に先駆けて当時最新の原価管理システムを導入し、その後も社内サーバーを通じた勤務体制や図面などの情報共有システム、電子黒板などを段階的に導入してきた。
地元ではDXに前向きな企業とみられることもあるが、笹木社長は「私自身、パソコンやスマートフォンは使いますが、実はそれほどデジタル技術に詳しいわけではないんです」と照れくさそうな表情で打ち明けた。
得意分野でないという意識を持っているからこそ、デジタルに詳しい社員や、専門知識を持った長年の取引先からの情報に熱心に耳を傾けるという。「システムの機能はもちろん、使うことでどのように業務が改善されて、現場の社員のためになるかを導入の基準にしています」と笹木社長。
勤怠管理+給与計算システムで社員の見える化+働き方改革
さらにDXを推進しようと最近導入し、これから本格活用するのが、ICカードを使って出勤時間と退勤時間を記録する勤怠管理システムだ。これまではタイムカードと紙文書による申請を併用し、紙ベースで作成した勤怠データを給与システムに入力し直す必要があった。
電力は電気設備が機能しているからこそ安定的に供給される。地震、台風といった自然災害や事故などのトラブルで設備が破損した際には、迅速な復旧が必要だ。北陸電力やJR西日本など取引先からの依頼があれば、休日や夜遅くであっても社員は会社に参集し、現場に出動して復旧にあたらなければならない。そのため勤務時間は不規則になりがちだ。それぞれの社員の残業や休日出勤などの時間をひとつひとつ確認しながら入力するため、毎月、作業に3日ほどかかり、総務担当者の大きな負担になっていた。
「これからは勤怠管理システムのデータを給与計算システムに取り込めば自動的に計算してくれるので、担当者はチェックに集中するだけで済むようになります」と笹木社長は話す。総務担当者の負担軽減だけでなく、ICTですべての社員の勤務状況を「見える化」することで、社員にとって働きやすい環境をこれまで以上に整えていきたいという。
ICT活用で若い世代に選ばれる企業に
ICTの導入に前向きなのは、これからの地域を担う若者にとって魅力的な会社にしていきたいとの思いがあるからだ。「先の見通しが効かないこれからの時代に存続していくには、社員、取引先、地域にとって存在意義が高い企業であり続けなければなりません。DXを進めることで若い人が将来性を感じる企業にしていきたいと思っています」と笹木社長は表情を引き締めた。
資格取得の奨励と若手からシニアへの活動支援で社員パワー発揮
地域を支える企業として永続していきたいとの思いは、人材の育成方針や社内の体制づくりにも反映されている。
三和電工社は、電気施工管理技士、電気工事士、土木施工管理技士など50種類の技術資格の取得を奨励し、必要な研修費や受験料は会社が負担するほか、社内講習も行っている。「プロとしての技術と、現場でワンチームの一員として動く協調性を兼ね備えた人材の育成を目指しています」と笹木社長。複数の技術資格を所有する社員も多く、全社員が所有する技術資格の総数は約600にのぼる。
社員の積極性は、部署の枠を超えた30代以下の社員で構成する「青年部」が設けられていることでもわかる。「青年部」は定期的に会合を開き、会社に対するさまざまな提言をまとめている。若いころから役職の上下に関係なく、自由に意見を交換しあったり、助け合ったりできる雰囲気を作る狙いがある。
県内で災害やトラブルが頻発した時は休日出勤や残業が増えることから、ゴールデンウィークや年末年始の時期には1週間以上の連休を設けるようにしている。緊急時に出動することを踏まえてもらったうえで、社員には休むことができるときに、しっかり休んでもらうようにしているという。
会社の収支状況はリアルタイムで社員も把握できる
グループ企業を含めた収支の状況をリアルタイムで把握できる原価管理システム、社内サーバーを通じた情報共有システム、電子黒板は社員がワンチームで行動する上で大きな効果を発揮している。
会社の収支状況は、社内サーバーを通じて社員も閲覧できるようにしている。担当する工事でどの程度費用がかかっているのか把握してもらうことで、予算管理の意識が高まることを狙っている。取引先と価格交渉をするときも根拠を持って対応することができる。
電子黒板で社員の行動や連絡事項を全員で見える化
電子黒板は、オフィスや社員の休憩スペースなど3カ所に設置し、朝礼の際にそれぞれの社員の行動予定や、周知徹底が必要な情報の表示に使っている。「導入前は毎日、紙に手書きで行動予定表を作成する必要があったのですが、今はパソコンで変更部分だけを修正して送信するだけで済むのでかなりの手間が省けるようになりました。迅速に情報を共有できるので重宝しています」(笹木社長)。
先を見据えて意識的にDXを推進
2024年に迫った北陸新幹線の延伸は、福井県の企業にとって大きなビジネスチャンスだ。「これからも、しっかり意識して三和電工社ならではのDXを進めていきます。ICTを活用してそのことを外部にアピールすることも検討していきたいですね」と笹木社長は話す。
ほかにもシニアから若手への技術、知識の伝承などICTを活用することで大きな変化が期待できる分野は数多くある。ICT導入の新たなステージに入ることで、三和電工社はさらなる成長に向けた社内体制を整えることができるに違いない。
事業概要
会社名
株式会社三和電工社
本社
福井県鯖江市二丁掛町14-20
電話
0778-62-1228
設立
1989年12月
従業員数
40人
事業内容
内外線電気設備、各種電気土木、無線通信設備、管・空調設備、機械器具設置、消防施設、鋼構造物、とび土木、解体、水道施設の各工事
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