電子黒板と業務システム一新で顧客フォロー進める地元密着型工務店 神明工務店(神奈川県)
2022年07月13日 06:00
この記事に書いてあること
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
藤沢で創業40年あまり 知名度抜群、地元の大工さん
取材のため、JR藤沢駅前からタクシーに乗った。運転手に行き先を告げると、「ああ、しんめいさんね。知っています」と言う。有限会社神明工務店は40年以上、地元で事業を展開する知名度抜群の「町の大工さん」だ。10人の従業員を抱え、地元住宅の新築や改修を手がけてきた。主力はリフォーム事業で、売り上げ全体の9割以上にのぼる。
代表は北島健晴さん、72歳。高校卒業後、幼少時から好きだった木工の道に進んだ。知人の大工さんに弟子入りし、住み込みで5年、お礼奉公を1年と丸6年修業。7年目に職人として独立し、30歳で創業した。当初から「地元密着で仕事をしたい」と思い、地域の祭りや学童の交通指導員、町内会など地元貢献にも熱心に取り組んできた。
同社作業場で、整然と並ぶ道具類と
活用されていない顧客情報を購入客との交流に活用
そんな北島代表がICTに触れるきっかけになったのは、2011年8月の小川真理取締役の入社だ。前職は体を動かす仕事だったが、同社では経理や業務全般を担当している。「それまでは身内中心で何年も代わり映えしなかったが、彼女が来てくれて会社の仕事が様変わりしました」と北島代表は証言する。
新設した応接スペースでICTの効用を語る北島代表
「入社後、あれっ?と感じたのは顧客管理です」と小川取締役。当時でも1500件ほどの顧客データがあった。地場密着型の同社が創業以来、おつきあいをした客の数だ。だが、1500件のリストは会社のパソコンには入っているものの、ただ入力されただけで全く活用されていない。「もったいない」と思った。これだけの顧客数を持っているのだから、リストを活かせば、顧客が以前リフォームしてから何年経過しているとか、お子さんが小学校に入学するから子供部屋が要るとか、個別情報が分かる。必要な情報を検索できる状態にしたいと考えた。
早速実施したのが、過去に取引のあった顧客向けのイベント。小川取締役が入社して5ヶ月たった頃のことだった。DMとホームページで告知して100人が来場した。当日は1階の工場を片付けて出迎え、来場者も満足の1日だった。
販売管理と原価管理・工事管理が別々だった
課題はまだあった。販売管理と原価管理・工事管理で、二つのソフトを使っていたのだ。「おそらくソフトの導入時期が異なっていたんでしょうね。原価計算はこっち、見積請求はあっちと、時間がかかりすぎた」と小川取締役。システム支援会社と相談しながら「一本化できれば仕事の効率が上がるはず。ただし、データの移管を一気にやらなければいけない。不便をがまんしてそのままにするのではなく、どこかでやらないと」と覚悟を決め、半徹夜で作業してソフトを一元化した。一元化することで会社の状況の見える化が出来、前述の北島代表の言葉のように見違えるようになった。
電子黒板を設置して 顧客の打ち合わせと社員との情報共有化
電子黒板で自身が改修した古民家を映し説明する
5年ほど前には、同社作業場の隣に来客用の打ち合わせスペースを新設した。工務店は一般の客が入りにくい。職人がいて機械の音がしているが、何をやっているのかわからない。店側も、機械や道具があるのでずかずか入り込まれては危険だが、顧客との打ち合わせ場所はどうしても要る。そこで、木造の大型テーブルを中心に据え、木をふんだんに使った明るい雰囲気の応接スペースを整えた。
応接スペースの壁には大型の電子黒板を取り付けた。パソコン内の設計図や工程表をボードに映し出して説明できるし、従業員の作業日程も一覧できる。それまで、顧客との打ち合わせ日程は電話を受けるスタッフが個別に調整していたが、日程表を映し出せば全員のスケジュールが一目瞭然で、誰が客先に出向けるかがすぐに分かる。
同社はその後も、送付されたFAX内容をいちいち印刷しなくても、複合機の液晶画面で確認してPDF保存ができる最新複合機を導入。さらにパソコンでしか見られなかったメールを携帯でも確認できるようにするなど、徐々にICT化を進めた。
「建築資材の業者さんからメールで送りましたと言われて、会社に帰らないと確認できないのはとても不便。その場で見積や納期がすぐ分かれば、お客さんの前で打ち合わせをしているときにすぐ確認できるし、その納期なら明日契約しましょうと言ってもらえることも少なくない」と小川取締役。
さらに「同じメーカーの機器で揃えたのも良かった」とも。仕様が統一されているから、新しい機器を導入しても互換性があるし、こうしたいという課題に営業担当がマンツーマンで相談に乗ってくれた」と話す。北島代表も「以前はパソコン1台だけ。FAXで来る文章も数字が1だか7だか読めないということがよくあったけど、ずいぶん効率的に動けるようになった」と笑顔を隠さない。
木材にかけては誰にも負けないという職人の矜持
同社前で小川取締役(右)と北島代表
この道40年の北島代表は「大手の住宅メーカーの設計図通りに住宅を建てるのはただの組み立て屋だ」と強調する。「住宅は誰のために作るのか。あらかじめ出来上がっているものを持ってきて、はい、あなたの家はこれですよというのは違うと思う。お客さんと話しながらニーズを探り、アイデアを掘り起こしながら、世界にひとつだけの一点モノを建てるのが大工の本懐」と思っている。
だから、「木材を見極めることにかけては誰にも負けない」と自負している。建材として優れているか、耐久性はあるのか、後になって木目に狂いが出ないか、経験値でほとんど分かる。「秋田なら秋田杉、青森なら青森ヒバ、建材は気候風土に合った地元産の木材を使うのが一番」と話し、「家を建てるとは、その土地の気候風土に合わせて工夫を重ねること。お客様の立場に立って丁寧に作るのが我が社の強み」と説く。
適材適所という言葉は、元々が建築業界の言葉だった。しかし建築業界では、北島代表のように木材を見極めて使用する人が少なくなっている。適材適所で使用された家は、経年劣化ではなく、「経年美化」と言われるように、木材が持つ風合いが年々増して住む人ともに年輪を刻むことができる可能性が高い。
これからやりたいこと「地震に強い家」、「古民家再生」
北島代表がこれからやりたいことはたくさんある。まずは地震に強い家を作ることだ。阪神淡路大震災や東日本大震災の被災地の映像を見て「家は人を守るためにあるのに地震で倒壊し、人を傷つけた」とショックを受けた。減震、免震構造の住宅を低価格で建てる方法を見つけたいと、2年ほど前から圧力センサー活用策を社外の専門家と協議するなど、ICTを活かした具体化を模索中だ。
その後は古民家の改修をしたい。北島代表は週末を使いひとりで静岡県に通い、文字通り日曜大工で古民家を1軒再生させている。日本各地には空き家として放置されている先達が作り上げた素晴らしい古民家がたくさんある。そういう古民家をよみがえらせたいと考えている。
築100年の古民家改修工事(静岡県島田市)
ICTは「道具」 導入してからどう使うかが勝負
大工職人の矜持を保ちつつ、ICT活用で業務効率化を達成している北島代表。最後に「いろんな新しい機器が出てくるが、それをどう使うかを考えることが大事」と話す。「システム支援会社の営業マンは、こういう使い方ができますと教えてくれるが、その通りの使い方だけでなく、付加価値を生み出すためにどう使うのか。自社ならではの使い方を考えること。それが他社との差別化につながる。道具(機器)を入れて安心するのではなく、勝負はそこからですよ」と締めくくった。
事業概要
会社名
有限会社神明工務店
本社
神奈川県藤沢市鵠沼神明3丁目5-16
電話
0466-26-8998
設立
1980年
従業員数
10人
事業内容
一般住宅新築、免震住宅新築、増改築、リフォーム、補修、店舗建設など
記事タイトルとURLをコピーしました!