情報・通信業

古民家をICTでシェアオフィスに再生 新しい働き方の発信が地域を変える  みのシェアリング(岐阜県)

From: 中小企業応援サイト

2022年07月19日 06:00

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岐阜県美濃市のベンチャー企業、みのシェアリングが運営する明治時代の古民家に最新のICTを導入したシェアオフィス、WASITA MINOが注目を集めている。ICTの進化によって、場所にとらわれない働き方が可能になった今、WASITA MINOから地方創生の新しい動きが生まれようとしている。

「うだつ」を備えた家屋が並ぶ歴史情緒あふれる景観

1300年の歴史を誇る美濃和紙の産地として知られている岐阜県美濃市。江戸時代以降栄えた商家町エリアは、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、屋根の両端を高くした「うだつ」と呼ばれる防火壁を備えた江戸時代後半から明治時代にかけての家屋が並ぶ。電線が地中化されているので昔ながらの風情ある町並みを楽しむことができる。

伝統的建造物群保存地区の町並み

伝統的建造物群保存地区の町並み

町を歩くと建物と建物の間に凝った壁がある家が多い(下の写真)。これは、「うだつ」とよばれる延焼を防ぐ防火壁。うだつを付けるための費用は高く、富裕層にしかできない。そのためこの町は「うだつのあがる町」と呼ばれている。

伝統的建造物群保存地区の町並み

伝統的地域で都会と同じ通信環境、セキュリティで働き、暮らす

同地区に2021年7月に開業したのが、明治時代の長屋を再生したシェアオフィス、WASITA MINO(木造2階建て、延床面積約500平方メートル)だ。WASITAの名称にはWork and Stay in Traditional Area(伝統的地域で働き暮らす)の意味を込めている。

古民家を単に改築しただけではなく、大都市のオフィスと匹敵する通信環境、セキュリティ機能、アメニティを完備しているところにWASITA MINOの特色がある。

「古民家をシェアオフィスとして再生するプロジェクトを実現できたのはICTの進化の賜物です。開業して1年が経過し、東京などに働きに出てしまった人たちが、プロジェクトを通じて美濃とのかかわりを持つ機会が増えるなど、前向きな変化が出てきました。特に若い人からの反応が大きい。若い人が集まってくることで、地域活性化にやる気を見せる年配の方も増えています」。WASITA MINOの運営主体、みのシェアリングの辻晃一社長は力強くそう語った。

みのシェアリングの辻晃一社長

みのシェアリングの辻晃一社長

WASITA MINOは、キッチンを配したコワーキングスペース、会議室、プライベートオフィス、チームルームのほか、パーティーもできる芝生の中庭、宿泊機能も備えている。建物と敷地内には高速Wi-Fi環境が整備され、会員の入退室にはカードキーシステムを採用。高性能複合機のほか、Web会議やプレゼンテーションに活用できる電子黒板も配備している。企業や大学に利用してもらうことを想定し、Wi-Fi環境でストレスなくオンラインでの会議や授業に対応できる高い通信機能を備えた。また、高いセキュリティニーズに応えたネットワークセキュリティや機器・設備を導入した。特に複合機については、出力した用紙を他の利用者に見られないようにするため、パソコンから印刷指示をした後、入退室で使用するカードを複合機にかざすことで初めて出力できるようにしている。

入退室カードで認証しないと出力されない高セキュリティの複合機

入退室カードで認証しないと出力されない高セキュリティの複合機

一歩外に出れば伝統の町並み 町との調和がとれたシェアオフィス

旧家屋の古材と国産杉、岐阜県産の陶器タイルに囲まれた落ち着きのあるオープンスペース

旧家屋の古材と国産杉、岐阜県産の陶器タイルに囲まれた落ち着きのあるオープンスペース

壁には風情ある美濃の手すき和紙を使用。中庭の向こうには江戸時代から続く造り酒屋が見える

壁には風情ある美濃の手すき和紙を使用。中庭の向こうには江戸時代から続く造り酒屋が見える

最新設備を導入する一方、明治時代の柱や梁を2割程度残すなど、できる限り旧家屋の原型を維持することに努めた。格子で囲われた通路など古民家の佇まいと木材の温かみが、鉄筋コンクリートの建物にはない心地良さを生み出している。

旧家屋の立派な古材がさまざまなところに利用されている

旧家屋の立派な古材がさまざまなところに利用されている

美濃の市街が住む人と仕事をする人で溢れる「まちごとシェアオフィス」への挑戦

辻社長は美濃市出身で実家は美濃和紙メーカー。大学から東京で過ごし、ベンチャー企業に勤めて上場のプロセスも経験した。20代後半になり、起業への思いが芽生え始めた頃、父親から美濃に戻ることを勧められたという。最初は迷ったが、課題が山積している故郷の活性化を事業として手掛けてみたいという思いが強くなり、美濃に戻ることを決めた。その後10年近く、家業の事業展開と地域の振興活動に取り組む中、地域に残る古い木造建築物の再活用を相談されるようになり、2019年から2020年にかけて2棟の古民家を地域分散型ホテルとして再生し、オープンした。今回のようなシェアオフィスとしての再生は、新しい挑戦だったという。

長良川などの恵まれた自然、歴史、和紙の伝統文化、名古屋市から車で1時間程度のアクセスの良さ。これらがバランス良くそろっているのがワーケーションの場所としての美濃市の利点だ。

「まちごとシェアオフィス」は活気あふれるコミュニティづくりがカギ

「ホテルとオフィスを整えたことで、美濃をワーケーションの場所として活用いただく新しい動きを生み出しやすくなりました。しかし、設備を整えても、それだけで都市部で仕事をしている人たちを呼び込めるとは思っていません。大事なのはWASITA MINOだからこそ提供できるプラスアルファ。このまちで働く意義をどのように会員の皆様に提供できるかを考えています」

現在、WASITA MINOには全国から約20の企業、大学、個人が会員として登録している。プラスアルファの取り組みとして力を入れているのが会員同士、さらに会員と地域社会に暮らす人たちとのコミュニティの形成だ。

施設の管理とともにさまざまな企画を考案しているのが、コミュニティマネージャーの橋元麻美さん。名古屋市出身で以前は東京で働き、美濃市との接点はなかったが、WASITA MINOの新しい可能性に魅かれてコミュニティマネージャーの仕事に応募したという。

みのシェアリングの橋元麻美さん

みのシェアリングの橋元麻美さん

「若い人を中心に、技術を活用した新しいプロジェクトを作っていこうという意欲をもった人が集まる場が形成されつつあります」と橋元さんは話す。コミュニティの形成を目指して、ヨガ教室、ランチ会、地元の老舗酒造会社と連携した体験イベントといったさまざまな企画を実行している。

「地域の祭りを中庭で開かせてほしいというオファーもきています。会員と地域の皆さんの交流の場として遠慮なく活用していただければ」と橋元さん。金曜日にオフィスでリモートワークをしてもらい、土、日曜日に美濃ならではの体験イベントに参加して楽しんでもらうといったワーケーション企画も考えているという。

「外から来る人が徐々になじんで、もう一つの拠点として活動」へのステップ

みのシェアリングは、WASITA MINOを中心に地域のさまざまな店舗を仕事場所として活用してもらう「まちごとシェアオフィス」事業を展開している。「まちごとシェアオフィス」の会員証になっているのがオリジナルのタンブラーだ。会員が提携店舗でタンブラーを提示すると、店舗内で仕事場所やドリンクを提供してもらえる。

まちごとシェアオフィスの会員証になっているタンブラー

まちごとシェアオフィスの会員証になっているタンブラー

「タンブラーは美濃に移住してきたデザイナーの方にデザインしてもらいました。タンブラーを通じてお店の人や地域の方との会話のきっかけになればと思っています。美濃で暮らすように滞在しながら仕事をして、地域の人とのふれあいを楽しんでもらえたらうれしいですね」と辻社長はにこやかに話した。

建築やまちづくりの研究に取り組む学生にとって、美濃市は絶好の生きた教材ということもあって、大学生がフィールドワークの場として滞在するケースも増えている。みのシェアリングは、今後、WASITA MINOを高校生に活用してもらうことで、まちづくりに関心を持つ次の世代の育成にも力を入れていく方針だ。

「目指したいのは、美濃とかかわりを持って頻繁に訪れてくれる方々が増えることです。最初は観光目的で来て、気に入っていただけたらWASITA MINOで働きながら過ごして、少しずつ美濃になじんでいってもらう。そういった流れを生み出して、多くの人に美濃をもう一つの拠点にしてもらえるよう取り組んでいきたい」と辻社長は今後のビジョンを語った。

ほかにも古民家の空き家は40軒ほどあり、これから先も「まちごとシェアオフィス」の規模を拡大していくことは十分可能だ。「美濃をテクノロジーと自然がバランス良く存在する地域にしていきたいですね。わくわくする仕事をしながら、人と人の触れ合いを楽しみ、歴史と自然に囲まれて快適に暮らすことができる。ICTを活用しながら新しい働き方、生き方を積極的に情報発信していくつもりです」と辻社長は話した。

日本の自然と文化に根差した世界へのビジネス拠点としての可能性

「温故知新」という言葉がある。「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」ということだが、美濃は、落ち着いた古くからの町並みと、すぐ近くに有名な長良川や周辺の渓谷といった自然が溢れている。

日本は高度成長期にアメリカの後を追うように近代化を進めていった。気がついたら、日本のアイデンティティがどこにあったか忘れられているかもしれない。都会はもちろん、地方でも駅前の旧市街からショッピングセンターという近代の象徴に人が流れた。自然と町と人がちょうど良い距離で存在し、その中で、日本の良さをもう一度丁寧に知り、日本らしい独自性で世界へ飛躍するのに美濃は非常に優れた場所という印象を持った。

事業概要

会社名

みのシェアリング株式会社

本社

岐阜県美濃市相生町2240番地2

電話

0575-36-4843

設立

2021年7月

従業員数

3人

事業内容

シェアオフィス運営、イベント企画

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