中古ユニットハウス査定の課題を遠隔臨場システムで解決 株式会社アイデア(神奈川県)
2022年07月21日 06:00
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引っ越し業から中古ユニットハウス売買で年商2億円の物販会社へ
株式会社アイデアはユニットハウス(UH)の中古品をインターネットで売買して年商約2億円を稼ぐ。20人の従業員を率いるのは安田浩二代表取締役だ(TOPの写真:査定作業に使う社内の電子ボードを紹介する安田浩二代表取締役社長[左]と中野鉄平UH本部長[右])。
20代半ばで運送業を創業、書類や商品カタログなどを軽トラックやバイクなどで運ぶ軽貨物運送からスタートし、その後トラックを使う一般貨物運送の許可を得た。神奈川県の西湘エリアで「アイデア引越センター」の名で引っ越し事業を展開したが、2005年頃からインターネットの普及を背景に引っ越し単価の値下げ競争が始まり、利益が伸び悩む事態に陥った。
そこで、引っ越し時に出る不用品に着目、不用品をリサイクルしてネット販売する物販事業に転向した。インターネットの進展を逆手に取り、ホームページを立ち上げて中古商材で何が売れるのか探ってみた。「冷蔵庫に発電機、耕耘機(こううんき)や麻雀卓まで何でも扱ったが、面白かったのがユニットハウスだった」と話す。
ネットオークションでユニットハウス中古市場の潜在力に気づく
プレハブと混同されがちだが、運搬・組み立てが異なる。プレハブは工場で作ったパーツを現場に運んで組み立てるが、ユニットハウスは箱型の建物の形まで工場でくみ上げたもので、それを現場に運搬し設置する。プレハブに比べ、工期が短く費用が節約できることが特徴だ。一棟そのままトラックで運び、不要になったらトラックに乗せて撤去できるため、建設現場の事務所や休憩所などに広く利用されている。
ユニットハウスは棟ごとトラックで運べる
中古のユニットハウスを引き取り、洗浄、塗装、修理などを施し、3連棟ユニットハウスとしてネットオークションに出品したら、引き合いが相次ぎ、値段がつり上がって落札された。中古ユニットハウスをネット販売する業者がほかに見当たらなかったのも勝因だった。安田社長は「競合他社がほとんどいないニッチな業界」と、眠れるユニットハウス中古市場に気がついた。2010年のことである。
ユニットハウスの購入者は様々だ。工事現場の事務所、キャンプ場の宿泊施設、自宅の敷地内に置き趣味用の部屋にする個人もいる。コロナ禍で病院が発熱外来の検査場所として使うという、思わぬ需要増もあった。ユニットハウス売買事業を開始後13年目のいま、ユニットハウスは同社の売り上げのほとんどを占めている。
査定現場の課題解決のため「遠隔臨場システム」を導入
コストをかけずに集客し、成約に持っていける仕組みが確立した2015年頃、安田社長は同社のノウハウを加盟店に提供するフランチャイズ(FC)方式で全国展開をしたいと考えた。知り合いの運送会社に声を掛け、加盟店を複数得たものの、課題があった。
中古商品は状態がそれぞれ違う。傷み方や大きさで売値が違ってくる。道路や建物などユニットハウスがあった場所の環境も考慮しないといけない。現場で見て売値を決めた上で、対価を払って買うのか、無料で引き取るのか、客に引き取り代を請求するのか、査定金額を判断する。商品査定には経験が必要で、そうでないと利益は得られない。当初は同社のベテランがFC側の新人と現場に赴いて判断していたが、出張費がかさむ上に人手をとられる。FC側も新人研修などに時間を割くのが難しかった。
そのため2020年9月から導入したのが遠隔臨場システムだ。現地のウェアラブルカメラと事務所のテレビ会議システムとが連携していて、カメラを装着した現場の人が見ているものがリアルタイムで事務所のパソコンに映し出され、音声もやりとりできる。
ウェアラブルカメラを装着した同社従業員
現場で写真を撮ってもらう方法は従来やっていたが、動画の方がわかりやすい。現場に向かうのは査定経験のない1人で十分になった。本部の査定員がウェアラブルカメラで「上を見てくれ、下を見てくれ」と指示し、画像をパソコンで受けて判断していく。「リアルタイムでの情報共有」のほか録画もできるから、査定金額は現場ではなく録画を見て後日提示する。
本部のパソコンに映し出されたウェアラブルカメラの映像
時間や経費短縮、新人査定員教育も。FC展開の基礎を固める
遠隔臨場システムの導入で査定に対するトラブルやクレームの未然防止ができ、FC側も本部も不安が解消された。先方への訪問や同行の必要性がなくなり、時間や経費が短縮できた。査定できる件数が増えて生産性も上がった。録画機能を活かせば、撮りためた動画を残し、「こういうケースがある、ああいうケースがある」と、FCの新人研修に使うこともできる。文章によるマニュアルより、ビジュアルを見ながら説明するほうが聞く側の理解が早いから、査定員教育も実施できるだろう。
導入費用は機器代にWi-Fi料金などを加え300万円ほどかかったが、不安なくFC事業の基礎を構築できた。同社は2021年4月から中古ユニットハウス販売のFC展開を本格化させている。
一般貨物自動車運送事業のプレート前で、安田社長
今後は運送業界の働き方改革に対応したマッチングビジネスも
中古ユニットハウスを査定して運び、設置する作業は運送会社ならスムーズにできるため、同社FCの加盟対象は多くが運送業者だ。
運送業界では人手不足に物流量増加が重なり、多くの企業で長時間労働が蔓延(まんえん)している。そこへ政府の働き方改革で、2023年4月から時間外労働が月60時間以上発生するとこれまでより倍の賃金を支払わなくてはならなくなる。さらに2024年4月からは時間外労働も960時間に抑えられる。
「運送業界の利益はこれまで以上に圧迫され、このままでは運送会社が3割くらい潰れると言われている」と安田社長は懸念を隠さない。「いまは荷主より運送会社の数が多いが、これから運送会社を探すのが大変な世の中になる」とみる。
そこで安田社長が温めているのが、働き方改革に懸命に取り組んでいる良質の運送会社を荷主に紹介するマッチングビジネスだ。改革に取り組むと従来よりも運賃を値上げせざるを得なくなる。運送会社が個別に営業をかけると荷主から「高い」と言われかねないが、業界の働き方改革の啓蒙とともに第三者が紹介する形にすれば、うまく機能するのではないか。「我が社も、もともと運送業。自分たちだけ良ければではなく、横のつながりを大切にしたい」と話す。社名の通り、アイデアを活かした新しいマッチングビジネスでもICTが活躍しそうだ。
会社概要
会社名
株式会社アイデア
本社
神奈川県足柄上郡中井町藤沢10-11
電話
0465-81-8881
設立
1992年
従業員数
20人
事業内容
中古ユニットハウス売買事業/中古電子ピアノ売買事業/一般貨物運送事業/第一種利用運送事業
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