ICTで業務効率化を達成 学生たちと触れ合う時間を大切にできるようになった 学侑社(石川県)

From: 中小企業応援サイト

2022年07月28日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

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コロナ禍の2022年5月、いつもの学生食堂で食事をする学生の表情が冴えない。レジのスタッフが「なんだか元気ないね。どうしたの?」と声をかける。まるで50年前の駄菓子屋のおばちゃんのようだ。

戦後の高度成長で、町の駄菓子屋や何でも屋、酒屋がなくなり、コンビニとスーパーが日本全国を席巻した。その便利さや品ぞろえは、町の小売店では太刀打ちできなかった。地域のコミュニティを衰退させる一因にもなった。

石川県にある金沢工業大学の福利厚生事業を手掛ける学侑社(がくゆうしゃ)は、学生と教職員がいる昼間の大学キャンパスを町と見立てて利用者目線の様々なサポートを実施、そのためのICT活用も積極的に進めている。

金沢工業大学のキャンパス。右側の建物で学生や教職員向けの福利厚生サービスを行う。1階は広々とした明るい食堂

金沢工業大学のキャンパス。右側の建物で学生や教職員向けの福利厚生サービスを行う。1階は広々とした明るい食堂

金沢工業大学の学生や教職員の生活に関わるワンストップサービス※を提供

※ワンストップサービス=複数の分散した手続きやサービスを、1カ所で提供すること

石川県金沢市に隣接する野々市市にメインキャンパスを擁する金沢工業大学(KIT)は、工学、情報フロンティア学、建築学、バイオ・化学の4学部14学科2研究科を持つ理系私立大学だ。そのキャンパスの一角に大学と力を合わせて学生の日常生活を支える総合サービス企業、学侑社が拠点を構えている。キャンパス内の学生食堂やコンビニエンスストア、書店の運営から、県外より入学した学生へのアパートの紹介、旅行、保険、人材派遣、警備、清掃まで幅広い事業を展開している。

700人座れる学生食堂は天井が高く、外の緑と採光で気持ちの良い空間

700人座れる学生食堂は天井が高く、外の緑と採光で気持ちの良い空間

困った時に気軽に相談してもらえる存在でありたい

約6,700人にのぼる学生の複数キャンパスでの生活を正社員からパート、派遣、嘱託などさまざまな雇用形態の約236人のスタッフ(従業員)が支えている。そのうち8割以上を女性が占め、食堂やコンビニエンスストア、書店などで生き生きと活躍している。

「学生たちが困りごとや悩みを抱えた時に、気軽に相談してもらえる存在でありたいと思っています。学生たちが、卒業後も温かい気持ちで第2の故郷と思い続けてくれるなら、何も言うことはありません」。取材に訪れた6月下旬、メインキャンパス内で学侑社が手掛けるさまざまな事業について説明しながら、泉屋吉伸社長は学生たちへの思いを話した。学生とコミュニケーションを取る時間をなにより大切にしているという。

学生への思いと学生を支える従業員への気配りが感じられる泉屋吉伸社長

学生への思いと学生を支える従業員への気配りが感じられる泉屋吉伸社長

700席を備えた食堂ではキャッシュレスにも対応

大学内の食堂は700席を備え、メニューも充実し、キャッシュレス対応も進めている。焼きたてのパンを提供するベーカリーを併設しているコンビニエンスストアでは、地元の酒造メーカーと共同開発した大学発の日本酒「扇鷲(せんしゅう)」を販売するといった試みも。学生や大学関係者が8%割引で書籍を購入できる書店では、雑誌やベストセラー、工学系、建築系などの専門書のほか、建築学部の学生向けに模型を制作するための材料もそろえている。商品、サービスを売るだけでなく、いかに学生や大学関係者に満足してもらえるかを意識しているという。

学生食堂ではさまざまなメニューを提供している

学生食堂ではさまざまなメニューを提供している

学生向けサービスの内容についての看板

学生向けサービスの内容についての看板

コンビニに併設しているベーカリーでは焼きたてパンを提供している

コンビニに併設しているベーカリーでは焼きたてパンを提供している

工業大学らしく建築関係の専門書や材料も購入できる

工業大学らしく建築関係の専門書や材料も購入できる

整理整頓が行き届き気持ちの良いデザインの廃棄スペース。これも学侑社の重要な仕事

整理整頓が行き届き気持ちの良いデザインの廃棄スペース。これも学侑社の重要な仕事

ICTの利用によってスタッフの時間と心の余裕を作りたかった

学侑社は近年、泉屋社長の指揮の下、ICTの導入を積極的に進めている。従来の業務を効率化することで、学生たちにより気さくに接するための時間と心の余裕をスタッフに与えたいと考えているからだ。

「6年前の社長就任以来、従来の仕事の進め方を当たり前と考える社内の雰囲気を変えていきたいと思ってきました。思いと現実の間で試行錯誤していたことが、ICTの進化によって、前に進めやすくなりました。仕事に追われるのではなく、仕事を楽しんでほしい。そのためにもICTを活用して働く環境を改善していきたいと思っています」と泉屋社長は穏やかな表情で話した。

クラウドを導入し、異なるメーカーの業務システムをひとつに統合した

その一環として昨年12月に実行したのが会計、給与、人事、固定資産など複数のシステムの統一とそれぞれのシステムの連携を可能にするクラウドサービスの導入だ。

以前は総務部内で経理担当部署がほかの部署とは異なるメーカーのシステムを使用していた。システムが連動していなかったため、経理担当部署は、給与担当部署が作成する手書きの仕訳伝票を基に給与に関するデータを会計システムに打ち込まなければならなかった。手作業である限り必ず細かいミスは生じる。数字が合わない時、原因を突き止めるための確認作業に追われることが多かったという。

難しいシステムの統合化を推進した西田康宏取締役

難しいシステムの統合化を推進した西田康宏取締役

以前からシステムを統一してデータの共有を実現したいと思っていたが、経理担当部署が長年使っている勘定コードをそのまま引き継げないことが足かせになっていた。幅広い事業内容を反映して勘定コードの種類は多岐に渡っているだけに、システム変更によるハレーションは大きかった。「新しく勘定コードを覚え直すことになると経理担当部署のスタッフに大きな負担がかかってしまいます。そういった事情もあってシステムの統一は着手しにくい長年の課題でした」と総務部長の西田康宏取締役は振り返った。

基幹統合システムへの移行のメリットをしっかりと説明したことで現場の理解が得られた

昨年、システム変更の意向を経理担当部署に伝えた時、現場からは当然、作業効率の低下を懸念する声が上がった。それでも最終的に同意を得られたのは、システム変更の理由とシステムを統一することで現場の負担が軽減するメリットを詳細に説明したからだ。システム会社も変更に伴う事前対応を入念にしてくれたという。

「変更した当初は、画面のレイアウトや勘定コードがすっかり変わってしまったため、入力のスピードが落ちるなどの影響が出ましたが、毎日使っているうちに自然に慣れることができました」と北村千秋財務部長は話した。慣れた後の作業内容の変化について聞いたところ、「今は、クラウドを通じて総務部のデータを共有することができるので、仕訳伝票から入力し直す必要もなくなり、作業は本当に楽になりました。最初は仕事が効率化できるのか半信半疑でしたが、今ではもっと早く変更してもらえればよかったと思っています」と感想を述べた。

システム移行を率先垂範した北村千秋財務部長

システム移行を率先垂範した北村千秋財務部長

クラウド化したことで複数のパソコンで入力作業ができるようになったことも大きい。「以前はデスクトップ型のパソコン1台でしか仕事ができなかったので、誰かが作業をしていると終わるまで待たなければなりませんでしたが、今はそれぞれのノートパソコンから同時に作業ができるようになったので、効率は数倍になりました」と西田取締役。

親元を離れて暮らす学生のケアも大事な仕事

県外出身者が7割を占める学生へのアパート紹介や各種保険の手続き、自動車学校の紹介などの業務はKITサービスセンターが担当している。同大学の約6,700人の学生のうち、学侑社から紹介されたアパートで生活している学生は3,172人を数える。アパートの大家は約112世帯。大学設立当初、学生のためにアパートを建ててくれた近隣の住民とその家族が多いという。

学生の様々な相談事の窓口KITサービスセンター

学生の様々な相談事の窓口KITサービスセンター

親元を離れて生活している学生のケアもKITサービスセンターの大事な仕事だ。コロナ禍前は毎年、アパートに入ったばかりの新入生を対象に友達づくりを目的に歓迎パーティーを主催していた。パーティーには大家も参加して盛り上げる。「4月から5月は、親元を離れた新入生が特にメンタル面でも不安になる時期です。大学生活になじむ上で友達を作るきっかけにしてほしいと思い、趣向を凝らしています。コロナ禍が落ち着いたら是非とも復活させたいと思っています」とKITサービスセンター室長の村井宜延執行役員は話した。

進化するアパート紹介業に対応しICTを推進する村井宜延執行役員

進化するアパート紹介業に対応しICTを推進する村井宜延執行役員

コロナ禍に効果を発揮したリモート内覧

コロナ禍、学生たちにアパートを紹介する際に活躍したのが360°カメラだ。村井執行役員が中心になって2020年7月から200件以上の物件を360°カメラで撮影して、リモート内覧用の画像を作成した。パソコンなどの端末を通じて、どれだけ遠方にいても現地にいるかのように部屋の内覧ができるので、学生と保護者は物件探しにかける時間とコストを大幅に削減することができた。

「不動産業界ではリモート内覧の導入が進んでいますので、その流れに遅れるわけにはいきません。リモートでどのような部屋なのか詳細にチェックしていただけるようになったので、保護者の方々だけでなく、長年、大学に協力してくれてきた大家のみなさんにも喜んでもらうことができました」(村井執行役員)。

YouTubeにチャンネルを開設して情報発信

泉屋社長は動画による情報発信にも力を入れている。3月下旬、YouTubeに「FUNチャンネル」を開設し、学生食堂やサービスセンター、アパート生活などの話題を15分程度のトークショー形式で発信している。「今のところ手探り状態ですが、動画配信のノウハウを蓄積して、新しい企画につなげられないかと考えています。スタッフも出演しますので、たくさんの学生に見てもらって顔を覚えてもらえるよう内容も工夫していきたい」と泉屋社長は笑顔で話した。

学侑社の中枢オフィスはICT化が進みコンパクト

学侑社の中枢オフィスはICT化が進みコンパクト

「仕事が問題なく回っているからこそ、ICTの導入によってどのように便利になるのかイメージできないままになっているケースが他にもあるかもしれません。ICTの活用についてスタッフが前向きな提案をしやすい体制を作っていきたい」と話す泉屋社長。妥協なくさまざまな取り組みを進める姿勢に、若い人材を育てることに対する強い責任感がうかがわれた。学生たちから意見を寄せてもらうことで、その活用の仕方はますます進化するに違いない。

かつて、コンピューターで情報武装した流通革命でスーパーやコンビニが地方の小売店を凌駕した。学侑社の挑戦は、ICTが身近で安価に使える時代になって、地域企業が、ICTを活用して地域の生活者に統合的なサービスを実現する時代がやってくる予感を感じさせた。

事業概要

会社名

株式会社学侑社

本社

石川県金沢市広坂1-2-23

営業所

石川県野々市市扇が丘7-1 金沢工業大学内

電話

076-248-4016

設立

1976年

従業員数

236人

事業内容

学生食堂運営、コンビニエンスストア運営、書店運営、旅行、保険、学生アパート斡旋、人材派遣、清掃、警備

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https://www.ricoh.co.jp/magazines/smb/casestudy/000974/

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