産休・育休中の事務引き継ぎ クラウドストレージの活用でスムーズに シビル旭(新潟県)
2022年08月23日 06:00
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線路の保守・修繕の工事は人が頼りの仕事だ。列車の運行が止まる深夜から未明の時間帯に軌道工と呼ばれる専門の職人たちが老朽化したレールや枕木、バラストを交換する。誤差の範囲はミリ単位。日ごろ鍛えた腕と技術で重いレールの位置を細かく調節する。次の列車が通過するまでの限られた時間に迅速で効率的かつ精密な作業が求められる。
「鉄道工事は、建設業の中でも特殊な分野で、ほかの業種の中でも圧倒的に機械化が遅れているかもしれません。軌道工は、先人たちから引き継いだ技術を大切に守りながら、安全な運行ができるよう作業しています」。こう語るのは、新潟県内の鉄道の保守・修繕などの軌道工事を専門に手掛けるシビル旭の志村泰昇社長だ。
シビル旭の志村泰昇社長
鉄道軌道の保線・修繕を担う「人が頼り」の業務
鉄道工事を主力とする地元大手建設会社、第一建設工業株式会社の100%子会社として1989年に設立された。約100人の社員を率い、親会社からの発注を受けて、新潟県内の鉄道6路線のメンテナンスを担っている。除雪の業務も引き受けているが、積雪が多かった2022年は、除雪の依頼も例年よりも増え、社員のやりくりに苦労をしたそうだ。
夜間の作業が多く、力仕事。若い人材が敬遠しがちな業務内容で、人材の確保は大きな課題だ。「最近は働き方改革で、鉄道会社も昼間の運行を間引いたり、配線を変更したりして昼間に作業ができるような配慮をしていただいている。軌道工の人材確保の観点からもありがたい」と志村社長は話していた。
そんなシビル旭は2019年春にクラウド上で高いセキュリティのもとデータを管理・共有するストレージサービスを新たに導入した。事務を担当していた女性社員が産休と育児休業に入ることが決まったことが導入の大きなきっかけとなった。
パソコンに納められた事務データをどう引き継ぐか
約100人の社員を擁するシビル旭。そのほとんどが軌道工など現場担当の社員で、事務社員はわずか5人(内2名は軌道工と兼務)。3人は本社から離れた出張所に勤務していて、本社の担当は2人だけだった。そのうちの1人が長期休業に入ってしまう。業務に影響が出るのは目に見えていた。
「もともと2人の体制では事務社員の負担が大きいと思っていたので、このタイミングで新規に社員をもう一人採用することに決めました」と志村社長。幸い休業に入るまでにはまだ時間がある。そこで産休に入るまでに新たに採用した社員に業務を引き継いでもらうことにしたのだ。
課題となったのは、産休に入る社員が自身のパソコンに蓄積していたデータだった。
このまま社員が産休に入ってしまうと、データのありかが誰にも分からず、簡単にはデータを引き出せなくなる。そこで、ストレージサービスを利用してパソコンのデータをクラウド上に移管して整理した。ストレージサービスは、クラウドにデータなどを格納するサービス。いわばデータのレンタル倉庫だ。
事務データでは社員の個人情報を多く扱っていることから、情報漏えいの心配がないように万全のセキュリティ態勢を整えているサービスを選んだ。
ストレージサービスの活用は、業務の引き継ぎがきっかけだった
「このサービスを利用したことで、新規に採用された社員への引き継ぎ作業もスムーズに進めることができました」と志村社長は説明してくれた。
大量の画像や動画のやりとりも手軽にできるようになった
引き継ぎが終了した後、ストレージサービスはデータのバックアップに利用した。また外出中の社員の撮影データの保存にも利用された。業務パソコンに不具合が起きても情報が取り出せるようにしている。
志村社長によると、線路の保守・修繕業務では、作業の前後などに写真を撮影したり、線路の安全を確認するパトロールの際には動画撮影をしたりすることがあるという。こうした写真や動画データは容量が大きく、メールでのやりとりが難しかった。ストレージでは、大容量のデータのやりとりも簡単だ。出張所のパソコンでアップロードしたものを本社のパソコンでダウンロードすれば済む。
「以前は、急ぎでデータが必要なときは、USBメモリに保存して、本社に持ってきてもらうこともありました。出張所の中には片道1時間~1時間半ほどかかるところもあります。そんな移動の手間を省くことができました」と志村社長。移動中のデータ紛失のリスクも避けられるようになった。
倉庫の中は鉄道工事用のさまざまな工具が保管されている
このストレージサービスは、アクセス権限を設定することで、セキュリティを守りながら外部との情報のやりとりに利用することも可能だ。「今後、いろいろな使い道が出てくるだろう。どんな活用ができるか、少しずつチャレンジをしていきたい」と志村社長は新たな使い道を模索している。
データの情報漏えいやウイルス対策も万全に
最近は、多くの企業がデータのやりとりに神経を尖らせている。データを介してコンピューターウイルスに感染する懸念があることから、圧縮ファイルやUSBメモリでのデータのやりとりを制限しているところが増えている。一方で、扱うデータは大容量化しており、ストレージサービスの活用価値は高まっている。
SDGsにも積極的に取り組むシビル旭。階段には取り組み目標が並ぶ
ネット上には無料でさまざまなストレージのサービスが提供されているが、果たしてセキュリティがどこまで担保されているのか不安が残る。シビル旭は、普段からICT活用のサポートを受けている企業からアドバイスを受けながら今回のサービスの導入を決めた。社内のデータをいかに守り、いかに安全にインターネットを活用して業務の効率化を進めるか。専門的な知見を持った専門家のアドバイスを受けることも大切なことだ。
「10の意識改革」がもたらすものは
「100あるものをすべて捨てる必要はないが、そのうちの10くらいを捨ててみて、新しい仕組みを採り入れてみたらどうか」
志村社長は、社員にそんな言葉を投げかけているそうだ。
「今の技術は先人たちから受け継いだ知恵や技能の結集なのですが、軌道工の社員たちは『今のやり方が一番いい』という固定観念を強く持ちすぎている面があります。技術を守ることは大変重要なことですが、新しい技術を導入しにくくしていると感じています」
新潟市江南区にあるシビル旭の本社
親会社からシビル旭に出向している志村社長は若いころ、長野新幹線や東北新幹線の青森延伸の建設工事に携わった経験を持つ。保守の経験も豊富だ。軌道工の社員たちの気質をよく理解しているからこその言葉だろう。
ICT化が進みにくい現場の業務に対して、事務の業務は最も進めやすい分野といえる。シビル旭では、データの共有化とともに勤怠管理のシステムやワークフローのシステムもデジタル化した。さらに今後の大きな課題として挙げたのが、電子帳簿保存法への対応だ。納品書や発注書、領収書などをデジタル管理できるよう対応を急いでいる。
会社の業務を「100」とすれば、ICT化を進める業務は志村社長の言う「10」の部分といえるかもしれない。だが、その10の改革が会社全体の業務にさまざまな波及効果を与える。志村社長が提案する「10の意識改革」が広がれば、これまで進化しなかった業務に大きな改革をもたらすかもしれない。できることからやってみよう。志村社長が提案する意識改革は、これからのシビル旭にきっと大きな可能性をもたらしてくれるだろう。
会社情報
会社名
株式会社シビル旭
本社
新潟県新潟市江南区亀田大月1-4-27
電話
025-381-7708
設立
1989年7月
従業員数
98人
事業内容
鉄道工事・一般建設・土木工事
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