副社長がi-Constructionを陣頭指揮 ICT施工の内製化で飛躍を図る 建昇(福井県)
2022年08月26日 06:00
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飛躍への思いをこめて社名を「建昇」に 本社は越前海岸を臨む
建昇は県北部の嶺北地域を中心に、河川、砂防、道路といったインフラ工事に携わっている。土木事業一筋に半世紀の歴史を積み重ね、2019年2月に現在の社名に改めた。建設会社として大きく飛躍していきたいとの思いを込めたという。
越前海岸に面した幹線道路沿いに2階建ての本社を構える。オフィスの窓からは群青の日本海が目の前に広がる。「土木工事を通じて地域に貢献し、地域とともに持続可能な企業にしていきたいと思っています。最先端の技術を積極的に導入して、土木を若い人にとって魅力のある、あか抜けた業界にしたいと思っています」。笑顔を浮かべながら岩上元紀副社長は明るい表情で話した。
岩上元紀副社長
ICT施工に強いi-Construction企業として進化を図る
父親の岩上博二社長を支える岩上副社長の大きな役割は、建設現場にICTを導入して生産性アップを図るi-Construction(アイ・コンストラクション)の推進だ。設計担当者とともに自ら3Dデータの作成を担当するなど社内のデジタル化を牽引している。
「中小企業のICT導入の成否は、経営陣がいかに本気を出して取り組むかにかかっています。導入の目的が業務の効率化であるのは言うまでもありませんが、ただ単に導入を急ぐのではなく、情報を収集した上で、しっかりとしたバランス感覚を持って進めていかなければならないと思っています」と岩上副社長は話す。
建昇が所有する建設機械の3分の1はICT対応機だ。ICT使用を入札参加条件とする公共工事の件数が増えている流れを受けて、ICT建設機械の導入に力を入れている。2019年からブルドーザー1台、バックホウ3台を相次いで導入しており、今後も増やす方針だ。測量に使用するためのドローンも導入している。
ICT建設機械(ブルドーザー)
通常の建設機械よりも価格が高いICT建設機械をリースではなく、あえて購入するのは、ICT施工に強い企業として建昇を進化させていきたいという意欲の表れでもある。
ICT建設機械を使えば若手でもベテランのように仕事ができる
従業員は36人。平均年齢は40代前半で、採用に力を入れていることもあって、近年、若い人材の入社が増えている。仕事に早く慣れて会社に定着してもらう上でもICTは大きな効果が期待できるという。
「ICTをうまく活用すれば経験の浅い建設機械のオペレーターでも、数十年のベテランと遜色のない仕事をすることができます。ICTに関連した業務を外部に委託するという選択肢もありますが、それではスピード感を持って仕事を進めることができないだけでなく、ICTを活用するノウハウを社内に蓄積できません。導入時は確かにコストがかかりますが、長い目で見れば、外部委託より採算が見込めると判断しています。それだけではありません。新型の建設機械が入ってくれば若手を中心に現場の雰囲気は盛り上がり、モチベーションのアップにもつながります。福井県のICT施工といえば建昇と認めていただけるように頑張っていきたい」と岩上副社長は力強く語った。
ICT建設機械の運転席
業界の外にいたからこそ、建設とICTの親和性に気付いた
2018年から建設機械に組み込む3D施工データの作成や3D設計データによる出来形管理の機能を備えた複数のシステムを導入している。建設機械に組み込む3D施工データもこのシステムで作成している。「ICT施工の対象工事が増加することを見越して、私自身が、使いながら慣れていくことを考えて導入を決定しました。長年、建設業とは異なる業界に身を置いていたからこそ、客観的な視点で建設とICTの親和性に気付くことができたのだと思います」と岩上副社長。
3Dデータの作成システムを見ながら打ち合わせ
「ICT化を進めて業務を効率化することは、従業員の負担軽減につながるので、使えるものは積極的に導入していこうと思っています。しかし、新しい技術の導入時にはストレスを感じる人がいるのも事実です。従業員にこれまで通りのやり方で現場での仕事に集中してもらえるよう、ICTに関する業務は私が引き受ける覚悟で取り組んでいます」と岩上副社長は話した。
測量アプリで作業を効率化
1人で測量システムを使用して測量する様子
3D設計データの作成システムを導入したことで、従来は複数名で行っていた測量作業を1人で行える測量アプリの使用が可能になるなど様々な効果が生まれている。若手の測量技術者を育成するための指導や監督は現場の負担になっていたが、ICTを活用することで経験のない若手でも以前と比べると短期間で測量業務を担当することができるようになった。指導や監督の負担が減る分、ベテランも本来の業務に専念し、さらに作業効率が高まる好循環につながっている。
出来形管理の手間がシステム導入前の半分以下に
「3D化した設計データは、設計照査から出来形管理まで幅広く活用できるのでシステムの費用対効果は非常に高いと思っています。施工精度の向上はもちろん、導入前の半分以下の手間で出来形管理ができるようになりました。発注者側にすべて3Dで確認してもらってから着工するので、話の食い違いといったトラブルもなくなりました」(岩上副社長)。
SDGsの理念に沿って地域づくりに取り組む
公共事業に携わる企業の社会的責任として、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みにも力を入れている。
ホームページなどを通じて17の目標の中から、
目標4「質の高い教育をみんなに」
目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
目標8「働きがいも 経済成長も」
目標12「つくる責任 つかう責任」
目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」
を重点的な取り組みに掲げている。2021年1月からSDGsの理念に沿って持続可能な地域、社会づくりに取り組む福井県の「ふくいSDGsパートナー」に登録し、ICTを活用した効率的な作業現場の様子を中学校の社会見学で公開するなど様々な活動を進めている。
建昇のオフィスの様子
「SDGsは、これからの私たちの生活を豊かにする重要な要素と思っています。まちづくりに関わる土木業界では以前から取り組んでいたことも多く、自然体で取り組んでいます。現場見学会を通じて、子どもたちを含め多くの方に会社のことを知っていただけました。子どもたちがICT機能を備えた建設機械を通じて土木に興味を持ってくれたらうれしいですね」と岩上副社長は語った。
施工管理へのAR活用にも関心 更なるICT導入を図る
岩上副社長は更に先を見据えている。本社を経由しない現場との直行直帰や勤怠管理をはじめ、早急に対応しなければならない建設業界の働き方改革にもICTを活用していきたいという。2019年4月から運用が始まった建設業界で働く人の技能、資格、現場経験を業界全体で管理する建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用することも考えている。現実の風景にCG(コンピューターグラフィック)で完成図や設計図を重ねて表示できるAR(拡張現実)を施工管理に活用することにも関心を持っている。
建昇の本社の外観
「変化が激しく見通しが利かないこれからの時代、中小企業にとってICTをいかに活用するかが生き残りの分水嶺になるような気がします。この数年間で足がかりを作ることができたので、気を緩めることなく新しい技術の導入に努めていきたい」と岩上副社長は表情を引き締めて語った。
経営陣が率先してICT導入を進めている建昇。中小企業がICTを有効活用するには、経営陣が、真剣に情報を集めるとともに、明るく楽しみながら取り組むことが重要であることを実感した。地域を巻き込んで建昇が、どのような変化を生み出すのかこれからも楽しみだ。
事業概要
会社名
株式会社建昇
本社
福井県福井市南菅生町29-4
電話
0776-86-7070
設立
1974年4月
従業員数
36人
事業内容
一般土木工事業、とび・土工・コンクリート工事、管工事、鋼構造物工事、舗装工事、造園工事、産業廃棄物・一般廃棄物の収集運搬、解体工事の企画、設計、施工、管理
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