福祉業(介護)

欲しい未来が現実に、搬送ロボット(AGV)を介護施設で活用、人とロボットの楽しい共同作業 晴幸福祉会(奈良県)

From: 中小企業応援サイト

2022年08月29日 06:00

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

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奈良県葛城市の社会福祉法人晴幸福祉会は、県西部の葛城山麓で運営する特別養護老人ホーム、ウォームヴィラ新庄園で、人に代わって搬送作業を行う箱型の車輪付きロボット、AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)を導入している。その結果、スタッフの負担は大幅に減少。単なるロボットとして活用するのではなく、黄色の緩衝材でカラフルにした上で、紙で作った目玉を取り付けるなどキャラクター化して施設の一員として受け入れている。

人に代わって笑顔で「行ってきまーす」と荷物を搬送してくれる楽しいロボット

7月中旬の昼下がり。ウォームヴィラ新庄園の1階廊下で、配膳用の台車をジョイントした愛くるしいロボットAGVが「行ってきまーす」と明るい声を出して、軽快な音楽を流しながら動き始めた。黒いビニールテープで設定されたルートに従って自動で移動し、指定された場所でピタリと停止した。

起動中の音楽やセリフは自由に設定することができるという。「移動距離はスタッフの中でナンバーワン。本当によく働いてくれています。AGVが来てくれてから施設の雰囲気はこれまで以上に明るくなりました。これからも音楽やセリフも追加してコミュニケーション能力を強化していきたいと思っています」と施設長代理で広報を担当する山本千夏さんは話した。

施設長代理の山本千夏さん

施設長代理の山本千夏さん

キャラクター化することで施設にすっかり溶け込んだ

導入して数ケ月が経過し、AGVはスタッフや施設の利用者にすっかり溶け込んだ。AGVが食事を運んでくるのを毎日、楽しみにしている利用者も多いという。

「万が一、接触した時のクッションにすることを考えてやわらかい素材で装飾しています。利用者のみなさんやスタッフに愛着を持ってもらえるように可愛らしいデザインにすることを心掛けました。AGVに付ける目玉は、笑ったものや泣いたものなどさまざまな種類を用意しています。利用者の皆さんと話し合いながら毎日、表情を変えています」と山本さんは説明した。

毎日表情を変える愛くるしいAGV

毎日表情を変える愛くるしいAGV

画像認識技術でコースを読み取る 接触を避ける自動停止機能も

今年3月にウォームヴィラ新庄園にやってきたAGVは、赤外線LEDカメラを備え、ビニールテープの黒い部分を画像認識技術で読み取って、設定コースに従って自動で移動する機能を持っている。重さ500キロまでの荷物を牽引することが可能だ。コースは番号を付けて複数設定できる。コース設定されていない場所や正面を人が通ったりするときは自動的に停止する機能を備えている。

AGVの中にはコースの読み取りに専用の磁気テープを使用するタイプもあるが、ウォームヴィラ新庄園で導入したAGVは市販のビニールテープでコースを設定できる。「費用と手間をかけずに、コースの変更も自分たちで必要に応じて柔軟に行える使い勝手のよさも、導入を決定する決め手になりました」と山本さんと共に施設長代理を務める森本潤哉さんは振り返った。

施設長代理の森本潤哉さん

施設長代理の森本潤哉さん

コースの設定は付属の操作盤で

コースの設定はAGVに付属しているタッチパネル式の操作盤で行う仕組みになっている。ウォームヴィラ新庄園では、入力するときはキーボードを無線でつないで、パソコンで作業をする時と同じような感覚で入力できるようにしている。

AGVを操作する端末に入力する様子

AGVを操作する端末に入力する様子

介護現場での活用事例がなかったため独自でノウハウを蓄積した

もともとAGVは、工場や倉庫での使用を想定して設計されており、介護現場での活用は異例といえる。活用するにあたり、参考にできるモデルがなかったので、ウォームヴィラ新庄園のスタッフはゼロから活用のノウハウを積み重ねた。台車などをつなぐジョイント部分も最適な長さや形状を考えて自作した。

自作した台車のジョイント部分

自作した台車のジョイント部分

移動速度は、人間の歩行速度よりも遅めに設定している。導入する前に複数のテストを行い、曲がり角でのコース設定の仕方などを研究し、物資の搬送を十分担えると判断した。それでも導入直後は、設定通りに移動、停止することができるのかを確かめるため、スタッフが交代で付き添っていたという。スタッフ全員にAGVの機能を繰り返し説明することで、任せることができる仕事と、エレベーターの乗降など人間のサポートが必要な場面を理解してもらったという。

「当初、飲み物や食事を運ぶ配膳車の牽引までは任せられないのではないかと思っていたのですが、実際にテストしてみると人間以上に配膳車を揺らすことなく運ぶことができたので、十分に使えると思いました。新人を見守るような感覚で使っていたのは1ケ月程度で済みました。今では、120人の利用者の皆さんの生活をサポートする立派な主力メンバーとして頑張ってくれています」と森本さんはうれしそうに話した。

立派な主力メンバーとして頑張るAGV

立派な主力メンバーとして頑張るAGV

スタッフの1日あたりの移動時間が1時間減少

利用者の食事やお茶などの飲み物、洗剤、ティッシュ、歯ブラシ、歯磨き粉など生活に必要な物品、洗い物はAGVが搬送してくれるようになったので、スタッフが2、3階の各フロアから1階に移動する回数が大幅に減った。

「各フロアの一番奥から1階まで往復すると百数十メートルはありますし、作業を含むと1回あたり10分程度はかかります。AGVを使うことで、スタッフ1人あたりの移動時間を1日1時間以上削減できました。1回あたりは短い時間でも、毎日積み重なることで大きな時間のロスになっていたと気付くことができました。これからもどのような使い方ができるのかスタッフ全員で探っていきたいと思っています」と森本さんはAGVがもたらした効果とこれからの抱負を語った。

時には涙を流すことも

時には涙を流すことも

積極的にICT、ロボット導入を行い、様々な場所で活躍

ウォームヴィラ新庄園ではAGV以外にも、自動で床を掃除してくれるロボット、窓拭きロボット、自動床面洗浄機、顔認証システムを備えた受付ロボットが活躍中だ。端末を活用したケア記録の総合システム、介護リフト、徘徊防止システムも導入している。また、テレビ会議システムを使って地元の保育園と定期的な交流活動も行っている。利用者の個室には、センサーや転倒などの事故が発生した際に状況を記録するカメラを備えた「見守りシステム」を2017年に完備して、利用者のプライバシーの確保とスタッフの負担軽減につなげている。

窓拭きロボット

窓拭きロボット

受付ロボット「晴るくん」

受付ロボット「晴るくん」

ロボットやICTによる業務効率化は、利用者との心のこもったコミュニケーション時間確保のため

ロボット、ICTの活用には、晴幸福祉会の上田麻子理事長の思いが反映されている。「介護の現場は慢性的な人材不足です。ロボットやICTの導入は、スタッフの負担を軽減することが大きな目的です。廊下の床掃除や窓拭き、ベッドの下の清掃など人間よりもロボットに任せた方が効率的な場所については、ロボットを使った方がいいと思っています。ロボットやICTの活用で生まれた時間を、食事、入浴といった日々の生活のサポートはもちろん、会話や散歩など利用者の皆さんとのふれあいに向けています。スタッフが忙しそうにしていると、気を使って頼みごとを控える方もおられるので、そういったことがないようにしたいと思っています」と上田理事長は話す。

「ロボットに息を吹き込んだのは現場のスタッフ」

「心をこめる、情熱を大切にする、人との縁を大切にすることを心掛けています。よりよいサービスを提供するためにこれからも、ロボットやICTを活用していきたい」と上田理事長は抱負を話す。介護の現場に限らずロボットやICTによってどんどん便利になっていく。その中で、働く人や利用する人が疎外感を抱かずに、逆にコミュニケーションを豊かにするための工夫は、ロボットにあるのではなく使う人の工夫にある。工夫によってこんなにも変わるということを非常に考えさせられる取材だった。

事業概要

法人名

社会福祉法人晴幸福祉会

本社

奈良県葛城市平岡528

電話

0745-63-1150

設立

1993年4月

従業員数

110人

事業内容

特別養護老人ホーム、老人デイサービスセンター、訪問入浴センター、ショートスティ、居宅介護支援事業、介護職員初任者研修事業

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