製造業(機械)

どのような価値を提供するかにこだわった台車開発と社内ICT推進によって成長曲線 花岡車輌 (東京都)

From: 中小企業応援サイト

2022年08月30日 06:00

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

ファッションから雑貨まで、高いデザイン性と機能性を持ったアイテムを集めて販売しているセレクトショップのBEAMSが、百名品として並べるアイテムの中に1台の台車が入っている。見ればスタイリッシュなデザインに惹かれ、使ってみれば2輪のキャリーカートにも4輪の台車にもなる便利さに驚く。百名品に選ばれるのも納得だ。

この台車「フラットカート2×4」を販売 したのが、1933年創業というから来年で90年になる老舗カート製造会社、花岡車輌だ。「リブランディングに取り組んだ成果として生まれた製品のひとつです」と、常務取締役総務本部本部長兼販売企画室室長の花岡雅氏は自信たっぷりに紹介する。「アパレルの方たちが荷物を運ぶのに使っているようです」。高いデザイン性を持っているから、ファッショナブルな施設にもすっと溶けこむ 。

日本で初めて台車を作り、荷物を航空機に運ぶ台車も手掛ける

「日本で初めて台車を作って売り出した会社が花岡車輌なんです」。農業トラクター用のトレーラーを製造・販売したり、大手タイヤメーカーの代理店としてタイヤ販売を行ったりしていたが、1965年に今も続く「ダンディ」ブランドの台車を売り出し、事業転換を図った。すごいのはその2年後に、コンテナドーリーやパレットドーリーと呼ばれる、空港で荷物を航空機へと運ぶ時に使われる台車の製造販売に乗り出したことだ。

「パン・アメリカン航空がそうした牽引式の台車を必要としているというので、当時 アメリカまで行ってプレゼンテーションしたそうです」。積極的に需要を開拓し、顧客が求めるものを作り出していく姿勢がこの頃は旺盛だったが、「事業が安定してくると、販売先も決まってきて停滞が見えてきました」。花岡常務が美大を出てデザイン会社に勤めた後、花岡車輌に入った時は「カタログひとつとってもセンスが古くて見ていられませんでした」。

「モノを動かす、人をつなぐ。新たな感動を届ける」をミッションとし、ビジョン、バリューを定めることで、会社が変わり始めた

そこで取り入れたのが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)という考え方だ。「花岡車輌がどのような価値を提供する会社なのかを、改めてはっきりとさせました。そして、ミッションを『モノを動かす、人をつなぐ。新たな感動を届ける』として、経営から商品からあらゆる分野に行きわたらせました」。大方針としてのミッションの下、各部がビジョン(目標)を定めそこから何をバリュー(価値)とするかを考えていくことで、芯の通った会社という印象が出てきた。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と社内ICTを推進する花岡 雅氏

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と社内ICTを推進する花岡 雅氏

「フラットカート2×4」や、グッドデザイン賞を受賞した「ダンディ X シリーズ」といった、デザイン性と機能性を合わせ持った製品も、「お客様にファンになってもらえるようにすべての企業活動に感動レベルの価値を創造・表現することに挑戦し、広くわかりやすくお届けします」という販売企画室のバリューをベースに、デザイナーの花岡雅氏と弟で営業部長の花岡尚氏が二人で指揮をとって生み出したものだ。

グッドデザイン賞受賞のカート「ダンディ X シリーズ」(右)や空港用荷物カート

グッドデザイン賞受賞のカート「ダンディ X シリーズ」(右)や空港用荷物カート

ホテルでポーターが荷物を運ぶ時に使うカートも開発した。「ホテルが多様化しているにもかかわらず、ホテルカートはあまり種類がありませんでした」。そこで投入した「ダンディ ポーター」は、シンプルな外観でマットの色も自由に変えられ、どんなホテルにもマッチする。デザイン性を評価され、木村拓哉が主演した映画『マスカレード・ナイト』でも使われた。

ホテル用のカートは映画『マスカレード・ナイト』でも使われた

ホテル用のカートは映画『マスカレード・ナイト』でも使われた

今までの情報の共有とこれからの提案のために 情報システムでも変革を進める

製品やサービスで迅速かつ果敢に最先端を攻めている花岡車輌では、情報システムでも改革を進めている。例えば顧客に対する見積の部分。「以前は見積書の管理が個人ごとにExcelで行われていたため、引き継ぎの際に情報が共有されていないケースが多くありました。定期的に行っていた営業地域変更の際に、以前にご提案した商品が分からず、ご迷惑をおかけしていました」

歴史が長い会社で、決まった顧客を相手に商売をし続けていたため、「売れ筋などの提案が固定化されてしまって、見積を出してまで提案するより、在庫があって価格も決まった商材を推していくというスタンスになっていました」。そこで、見積情報を管理するクラウドシステムを導入。「過去の見積をタイムリーに閲覧・確認することで、お客様にスピード感と確実さをもって対応することができるようになりました」。新しい商品の提案にも積極的になり、その中からデザイン性の高い新商品も生まれてきた。

情報の共有化にも取り組んだ。ほとんどの業務をSaaS(Software as a Service)に切り替え、クラウド上にあるさまざまな機能を活用している。「全社スケジュールや設備の予約、ワークフローをデジタルに移行して業務効率化を実現しました。社内SNSも導入して、日報や改善活動などをコメントしやすくして、スピーディーに情報を共有化できるようにしました」

名刺管理もクラウドで行うようにした。「打ち合わせ内容を名刺ごと登録して、履歴や見積クラウドのリンクを入れることで、いつの打ち合わせにどの見積を出したかを明確にしました」。すべては「お客様のために」という方針に沿い、「何をどうしたいか」という企業としての目標を明確に持っているからこそ推進できたこと。そうした原点を見つめ直したMVVの成果でもある。

コロナ禍や、働き方改革への対応も含むリモート環境の構築にも取り組んだ。Web会議システムを導入してどこでも打ち合わせができるようにしたり、社内向けの説明会の様子を録画し、社内用YouTubeにアップすることで、動画化されたマニュアルをいつでも見られるようにしたりした。「ファイルサーバーを導入し、自宅やホテルなどからオフィスのシステムへ接続できる環境を実現しました。」

自社製品の使い方を紹介する映像をYouTubeで配信している

自社製品の使い方を紹介する映像をYouTubeで配信している

一方で、オフィス環境の改善も推進。長く昭和時代の雰囲気が漂っていた社内を改装し、ショールームを明るくして会社の歴史も提示した。階段を上がった事務室も手前にデザイン性の高いテーブルや椅子を置き、音楽を流してモダンな雰囲気を出した。歴史を感じさせる外観からは想像もつかない先進的なオフィス環境の実現には相当な費用がかかったが、そこは「中小企業庁が実施している事業再構築補助金の一部を使用したり、前職のインテリアデザインの知識、人脈を生かして什器の一部を譲り受けるなどして費用を抑えたりする工夫をしました」。アイデアを打ち出すだけでなく、実行に必要なことを資金も含め考える大切さが分かる事例だ。

歴史を感じさせる外観とは打って変わってモダンなオフィス

歴史を感じさせる外観とは打って変わってモダンなオフィス

きれいにしたショールームに第1号製品を置いて常に原点を意識し続ける

きれいにしたショールームに第1号製品を置いて常に原点を意識し続ける

コロナ禍は、最大の顧客となっている空港向けのビジネスに打撃をもたらしたが、「それを完全に挽回するまでにはいかないものの、こうした新製品で10%程度の落ち込みまで巻き返すことができました」。今も、天板付きの台車にスツールを乗せて運び、好きな場所でスツールを降ろして台車をテーブル代わりに使う"移動オフィス"とも言えそうな製品を開発・発売し、新しい需要を開拓しようとしている。

移動させてスツールを降ろせばテーブルとして使える台車|ダンディポーター KAKU

移動させてスツールを降ろせばテーブルとして使える台車|ダンディポーター KAKU

超アナログ企業からの変革 IoT化も積極的に推進

さらに、エンドユーザー向けの製品に留まらず、IoT(モノのインターネット)を取り込んだサービスの提供にも乗り出そうとしている。例えば空港で利用者が手荷物を運ぶカートの位置を把握して、どこかに溜まってしまう前に移動させられるようにする仕組みを考えている。このアイデアを発展させて、従業員が会社のどこにいるか、備品はどこにあるかを管理して、効率的な運用を行えるような仕組みの提供も考えている。

それは、人の動きから業務の内容、備品や在庫の情報まで、ありとあらゆるデータを記録してもうひとつの世界をネットワーク上に構築するようなシステム。これが世の中に送り出されれば、台車の老舗メーカーでありながら、情報システム会社としての顔も持つようになる。

「私たちは5年前まで超アナログ企業でした。無駄な時間を従業員にたくさん過ごさせてしまう仕組みになっていました。変革が必要な中でICTを使わないで解決するケースもありますが、多くはICTで複合的に解決できるケースが多いと思っています」。顧客のため、従業員とその家族のために必要なことは何かを考えた先にICTがあるのなら、導入していくという方針が何よりも大切なようだ。

事業概要

会社名

花岡車輌株式会社

本社

東京都江東区白河2丁目17番10号

電話

03-3643-5271

設立

1942年7月7日

従業員数

100人

事業内容

空港用物流機器/産業用物流機器/福祉介護機器

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