製造業(機械)

電子黒板で業務を効率化 ICT導入の成功が社員の挑戦を加速させる 魚岸精機工業(富山県)

From: 中小企業応援サイト

2022年09月02日 06:00

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魚岸精機工業の創業は1948年。板金プレス型の製作を手掛け、1960年にプラスチック部品を製造するための金型も作り始めたが、「富山県では昔からアルミ精錬事業が盛んでした。アルミ製の自動車部品を手掛ける企業が増えてきたのに合わせて、1968年からダイカスト金型の製造を始めました」と、魚岸成光社長は語る。

当時金型業界では関心なかった5軸加工機を、日本で初めて導入

転機は2002年、国内の金型メーカーで初めて5軸加工機を導入したことだった。それまでの金型業界は3軸加工機が主流で、5軸加工機は試作部品に使われている程度だった。1台2億円の5軸加工機の購入を決断したのは、当時社長だった魚岸力氏(現在は会長)。当時は周りから「社長の道楽」と言われた。しかし導入すると威力を発揮、作業効率が50%アップし売り上げも伸びた。まだ誰も手掛けていないことに率先してチャレンジする、その精神が社内に浸透するのは当然の流れだった。

金型の模型を前に話す魚岸精機工業の魚岸成光社長

金型の模型を前に話す魚岸精機工業の魚岸成光社長

高い金型製造技術で国内はもとより10ケ国以上の企業と取引

自動車部品の金型

自動車部品の金型

「自動車は1台に何万点もの部品が使われています。その半分くらいがエンジンに関係したものです」。軽自動車なら1万点、普通車なら1万5000点に及ぶエンジン部品の多くがアルミダイカストで作られている関係で、部品メーカーは製造のための金型を金型メーカーに発注している。

取引先も、名だたる自動車メーカーや系列の部品メーカー、その下請けまで多岐に及ぶ。こうした会社が、製造したい部品の図面を魚岸精機工業に渡して、金型作りを依頼することになるが、「金型は安定して部品を製造するためのもので、10万回から13万回は使用できる耐久性と、百分の1ミリといった高い精度が求められます」。魚岸精機工業は、取引先の要望に応える技術力のおかげで日本国内はもとより世界10ケ国以上の国の企業と取引するまでになった。

ホワイトボードで全員が生産性向上の意識を持ち、成果を上げた

魚岸精機工業では、工場内のホワイトボードにグラフが貼られている。機械の稼働状況だ。ノルマがあるのは、人間ではなく機械だ。機械については1日20時間稼働が基本となっている。機械の稼働情報を全員が共有し、稼働予定の中で空いている機械があれば営業が受注活動を行っている。そういった努力のおかげで2013年の内製比率69.13%が2020年には88.5%となった。当然、利益率も大きく伸びた。

打合せは電子黒板で!取引先も自社も負担激減

金型作りは、図面が届いたからといってすぐに金型を作って納めるのではなく、何度となく打ち合わせを行って、取引先が求める金型に近づけていく必要がある。
「取引先は富山県内が3、4割といったところですが、それ以外は県外にあって、出張して打ち合わせを行う必要がありました」。電子黒板導入までは、取引先に何度も足を運んで打ち合わせを行っていた。電子黒板を導入してからは、関東エリアの場合は、関東エリアを統括する営業所(埼玉県川越市)に来てもらって川越営業所の電子黒板と本社の電子黒板をつなげ、設計した金型の図面を映し出し、その場で問題点などを指摘してもらった。

「電子黒板の図面に直接書き込めるため、紙の図面を広げて言葉で言い合うよりもニュアンスが伝わりやすいんです」。ノートパソコンなどに容量の大きなデータを入れて持ち込む場合に比べても、「本社のハイスペックなパソコンでさくさくと図面を動かしながら電子黒板の上で見せられるからスピーディです」。何度も行き来して情報をやりとりしなくても、一度のミーティングで結構なところまで仕様を詰めることができた。

魚岸精機工業の会議室に設置された電子黒板

魚岸精機工業の会議室に設置された電子黒板

電子黒板の導入は、「社員のモチベーションアップにもつながりました」。新しい機材を試してみたいというエンジニア心をくすぐって、すぐに浸透していった。

自宅からリモートで工場を遠隔監視、出社のタイミングを計る

リモート技術を使ったコスト削減は、工場内にある金型を加工する機械をカメラで見張り、製造の過程を把握できるようにしたことでも実現した。金属をガリガリと削って製造する金型は、完成までに結構な時間がかかる。休日に入り込むこともあって、機械オペレーターが完成する頃合いを見計らって出社していたが、「予想より作業が進んでおらず出直すことがありました。これをカメラで遠隔地から見られるようにして、ちょうどいいタイミングで出社するようにしました」。機械のそばにも監視カメラを設置して、異常が起こったらすぐに把握できるようにもした。

取引先でも電子黒板導入が進み、コロナ禍で大きな威力を発揮した

「電子黒板を置いて取引先に見せていた埼玉の事務所は2020年1月に閉鎖しました」。理由は、北陸新幹線が開通して、交通事情が劇的に改善したから。営業だけなら午前中でも朝一番に出れば十分に間に合ってしまう。家賃を払って事務所を維持する必要がなくなった。しかも取引先も電子黒板やパソコンでリアルタイムに見ることが出来るので、お互いにそれぞれの会社にいながらやり取りができるようになった。

金型を製作する機械

金型を製作する機械

「コロナが始まって、人の行き来が制限されるようになりましたから、双方にメリットがありました」。仕様決定までのミーティング回数を減らすことができれば早く金型製造に移ることができ、部品メーカーも早く部品を製造できるようになる。電子黒板の導入には、出張費の削減効果だけではなく、金型メーカーと部品メーカーの生産計画全体を効率化する効果があった。

流体解析ソフトを使用して最適な金型を提案

魚岸精機工業ではもう一歩踏み込んで、高品質の部品が製造できるような金型を設計して取引先に提案するサービスにも乗り出した。溶けた金属を湯口から流し込んで固まるまで待ち、金型を開いて部品を取り出すダイカスト製法では、流し込んだ金属を金型の中に行き渡らせる必要がある。ここで流体解析ソフトを使い、最適な湯口の位置を持った金型を設計してあげることで、取引先が検討する手間を省くことができる。

「自分たちの領域ではないからと断っていては、結果として自分たちが金型を作る時間を削られます。業務として行うことで取引先にも喜んでもらえます」。北信越でナンバーワンのシェアを持つ魚岸精機工業だが、全国には大きな金型メーカーがたくさんあって、競争は激しい。さらに、「2050年にEV(電気自動車)100%を目指す政策も出て、自動車のエンジン部品生産はこれからどんどんと減っていきます」。狭まる市場で激しくなる競争を勝ち残るために、自ら提案できる体制を整えた。

EVだけになれば、エンジン部品に関しては競争そのものがなくなってしまう。そうなった時に向けて、「アルミダイカスト部品が必要なところはないかを、いつも考えています」。EV自体についても、「プラスチックやカーボンは、軽さはあってもリサイクルが難しい面があります。アルミはリサイクル率が高くて耐久性もあるため、利用が見直されていくのではないでしょうか」と期待を残す。だからこそ、すぐに動ける体制を作る必要があった。

新たな市場を切り拓くために、小ロット製造の金型製作に取り組む

金型業界の課題はEVの普及だけではない。3Dプリンターの普及が、コストのかかる金型を部品製造の現場から排除してしまうのではといった心配も出ている。「5000個くらいまでの小ロットの製品なら、3Dプリンターで作った方が安いといった計算もあります」。対抗するには金型のコストを下げれば良いと考え、魚岸精機工業では2019年から、小ロットの製造現場向けに耐久性を落とした廉価版の金型を提供するための研究・開発を進めてきた。

金型代はゼロにはならないが、従来のものより安く提供できる。その上、3Dプリンターで作ったものよりも品質の高い部品をまとまった数量作ることができる。ここでメーカーのニーズに応えておけば、将来的に本格的な金型が必要になった時、データがあるからと顧客にできる。今年に入って「500個までは製造可能な廉価版金型の開発に成功しました」。今後も研究・開発を進めて、変化の激しい市場に対応できるようにしていく。

ユニークな制度が社員の挑戦を促進している

次から次へと新たな取り組みにチャレンジする企業風土はどこから生まれたのだろう。「型破り先進企業」の旗印がベースにあることは間違いないが、それだけではない。一つはユニークな昇進制度。若手の管理職抜擢のために、「役職者任期制度」を採用。課長、係長の任期を1年とし、自薦他薦問わず、部署内で決定。一旦退いても再度チャレンジできる制度を作っている。この効果は、社員が役職者の立場から物事を考えるようになるため、全体を見て判断する能力を養うことができる。実際に会社に貢献できるかどうかを考え、分析できる社員が多くなっているそうだ。そのほかにも「半期年俸制度」や「改善提案制度」等、社員のやる気を引き出す制度が用意されている。

チャレンジを止めることなく、営業面でのICT活用にも手を打つ

将来に向けて次々と新しい戦略を打ち出し、ICTの活用も積極的な魚岸精機工業。「ICT関係のツールは、対外的なアピールにもつながるので、これからも導入を検討していきたいですね」。電子黒板の導入で、自分たちが思っていた以上の効果が発揮されたこともあり、現在は営業面でもそうした効果が得られるツールがないかを考えている。
「生産管理システムと勤怠管理のシステムが連動するようなイメージですね」。人員がどこにいるかをリアルタイムに把握できるようなシステムも一つの案。「営業が出先を回っている時に、近くだから別の場所にも回ってもらうとか、工場の中で働いている人の作業動線を把握して、最適な配置を行えるようにするといったことですね」。
既に他社と比較すると圧倒的な力を持っている魚岸精機工業、しかし見ているのは他社ではない。見ているのは、未来の市場でのナンバーワン企業。新しい市場を探り、追い風をつかむ努力を怠らない会社だけが、21世紀を生き残っていけると言えそうだ。

事業概要

会社名

魚岸精機工業株式会社

本社

富山県射水市北高木118-1

電話

0766-52-5222

設立

1969年6月

従業員数

66人

事業内容

ダイカスト金型設計・製造

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