若手社員がクラウドストレージの活用を提案、水道設備の100年企業がICTで新たなステージへ 圓奈(兵庫県)
2022年09月12日 06:00
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兵庫県の神戸市に本社を置く株式会社圓奈は、創業以来100年を超える歴史の中で、本社を置く兵庫県、大阪府を中心に様々な水道と空調の設備工事に携わってきた。近年は、2025年に開催される大阪・関西万博の効果を見込んだ建設需要の高まりを受けて、大阪府内での工事の受注が増えているという。ライフラインの維持に欠かせない分野で実績を積み重ねることで取引先からの信頼を勝ち取ってきた老舗企業が、クラウドストレージの導入をきっかけに、ICT活用に目を向け始めている。
大手ホテルチェーンの高層ホテルの建設工事に参加
「会社を支えてくれている人たちに感謝して、無理をすることなく、堅実な取り組みを積み重ねてきたことが、結果として100年を超える長い歴史につながっているように思います。建設工事は、チームプレーで成り立っていますので、チームワークをなにより大切にしています」と圓奈弘規会長は圓奈の歴史を振り返りながら話した。
圓奈は、現在、大阪を代表するビジネス街、梅田と難波で大手ホテルチェーンが新設する高層ホテルの建設工事に参加している。圓奈は部屋の水回りと空調設備の工事を担当し、それぞれのホテルの部屋数は1700から2000にのぼる。梅田と難波の現場ごとに専任チームを編成し、チームのメンバーは現場近くに設けた事務所を拠点に現場に赴いて工事に取り組んでいる。
大阪・梅田の工事現場近くに事務所を設置
梅田の34階建てホテルの建設現場近くで、2020年1月に開設した事務所には30代から40代を中心に10人の社員が駐在している。高層建造物の工事ということもあって、元請け、下請けを含め現場で連携しながら作業をする人の数は数百人に上る。これまで圓奈が参加してきた工事と比較すると10倍以上の規模ということもあり、圓奈会長は参加が決まった当初、仕事をこなすためにはICTの活用が必要と感じていた。だが、これまで参加してきた工事では現場で顔を合わせることで十分なコミュニケーションが取れていたこともあって、ICTを活用する文化が会社ではあまり育っていなかったという。
ICTの導入に若手社員が動いた
規模の大きな現場での円滑なコミュニケーションや情報共有を実現するために選択したのが、インターネット上で業務ファイルの情報を共有できるクラウドストレージサービスだった。熱心に圓奈会長に導入を提案したのは、梅田の現場事務所の若手社員たちだった。
「事務所から徒歩数分の距離ですが、工事現場は高層の建物ですので、昇り降りするのに時間と手間がかかります。図面などの確認をするために事務所まで戻ったり、事務所から届けてもらったりする余裕は正直言ってありません。こういった無駄な作業を省くのにクラウドストレージの活用は避けて通れませんでした。実は以前から建設業界で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)の動向に関心を持って情報を集めていたので、抜群のタイミングで会社に提案することができました」と現場事務所を統括する工務部の中田充紀次長は話した。
大人数の情報共有にクラウドストレージが効果を発揮
クラウドストレージサービスの導入によって、現場にタブレット型の情報端末やスマートフォンを持っていけば、図面や日々変化する作業内容などの資料、工程ごとに撮影している写真をいつでも確認することができるようになった。「情報共有の手間が他の現場と比べて圧倒的に楽になりました。現場管理の仕事を効率化する上で、クラウドストレージサービスの使い勝手の良さは想定以上でした。それほど大きなコストをかけずに大きな効果を生むことができました」(中田次長)。
現場事務所では大型モニターでも情報を共有
他にも現場事務所では大型のモニターを設置し、現場と事務所のコミュニケーションを円滑にするために工程の状況などを映すようにしている。クラウドストレージサービスを利用し始めてから、他の工事現場と比較して紙の使用量が大幅に減っていることに気付いたという。「紙を使用することが当たり前になっている建設業界も今後はペーパーレス化に舵を切っていくと思いますので、今からしっかり対応できるように準備していかなければならないと思っています」と中田次長は先を見据える。「梅田のホテルの建設現場は今後、会社としてデジタル技術を活用していく上でのモデルケースになりました。社員たちも大きく成長し、会社として大きな糧になりました」と圓奈会長は満足そうに話した。
大阪・難波の事務所ではクラウドストレージの機能を強化
今年2月には難波でもホテルの建設工事に対応するための現場事務所を設けた。梅田の工事は今年12月に完了する予定。その後、難波での工事の本格化に合わせて現場事務所の体制を強化する方針だ。
難波の事務所では、梅田の事務所で使っているクラウドストレージよりもバージョンアップしたサービスを導入している。導入するサービスの選定にあたっては、容量が無制限であることやセキュリティ機能を重視したという。現在は、現場と事務所だけで情報を共有しているが、今後、効果を確認した上で、会社全体での情報共有を計画している。
圓奈では、60年以上前から施工を担当した工事の図面や写真などの資料を保存している。ハードディスクでは容量に限界があることから増設に次ぐ増設を重ねており、保管場所をどうするかも課題のひとつだった。「工事に携わった会社の責任として、補修などの際にいつでも役に立てるように記録はしっかりと残しています。無制限の容量は大量の図面や工事現場の記録写真を保存する上で、非常にありがたい機能です。保管場所の心配もなくなりました」と圓奈会長。
遠隔臨場システムにも関心 今後もICT活用を続ける
現場の映像を送信できるスマートグラスを活用した遠隔臨場システムにも関心を持っている。導入すれば、現場から送られてくる映像をどこからでも確認できるので、現場監督者が移動に時間を使うことなく、複数の現場を確認することができるようになる。また、スマートグラスをつけた現場の若手社員が送った映像を本社や事務所でベテランがチェックしながら効果的な指導を行うといった使い方もできる。
「中小企業にとってICTの導入は、ランニングコストも含めると大きな投資になるので、費用対効果を考えて、何を選択するか優先順位をつけなくてはなりませんが、必要な先行投資と認識しています。ICTについての提案を若手からどんどん出してほしいと思っています」と圓奈会長。「今後は、これまでよりも規模の大きな工事の受注にも挑戦していきたいと思っています。ICTを活用して建設業界をより一層働きやすい環境にすることで若い人たちからの魅力を高めていきたいので、情報を発信していくことの重要性も感じています。ICTを使いこなせる人材の育成にも力を入れていくつもりです」と圓奈会長は先を見据える。
ICTを活用すれば、受注が増えても対応が可能になることがわかったのは圓奈にとって大きな収穫だった。ICTをスプリングボードにした老舗企業の今後の成長に期待したい。
事業概要
会社名
株式会社圓奈
本社
兵庫県神戸市中央区脇浜町2-10-1
電話
078-232-0707
設立
1952年5月(創業1914年4月)
従業員数
20人
事業内容
給排水衛生設備、空気調和設備、給水管・雑排水管更新、直結増圧・給水工事、便器リモデル、給排水劣化調査、配管・水槽洗浄、水質調査、浄化槽保守点検、水回り修繕・修理
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